学位論文要旨



No 217637
著者(漢字) 唐,先南
著者(英字) Tang,Xiannan
著者(カナ) トウ,センナン
標題(和) NADPH Oxidaseは動物実験的脳卒中の病態悪化に重要な役割を果たす : ストローク治療における新たな標的
標題(洋) NADPH Oxidase Plays a Pivotal Role in Worsening Experimental Stroke : A Possible Target for Stroke Therapy
報告番号 217637
報告番号 乙17637
学位授与日 2012.03.07
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第17637号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 矢作,直樹
 東京大学 教授 斉藤,延人
 東京大学 教授 芳賀,信彦
 東京大学 准教授 阿部,裕輔
 東京大学 講師 張,京浩
内容要旨 要旨を表示する

脳虚血後の再還流により、脳虚血部分へ炎症細胞の浸潤が起こることは広く知られており、NADPH oxidase (Nox2) はそれらの炎症細胞によるsuperoxideの産生を行う主要な酵素の一つである。今回の研究では、炎症細胞とNOX2が脳虚血後の増悪に重要な働きを果たしているかを確認するため、二つの実験を行った。

実験1:先ずは、in vivoモデルにおいて脳虚血時にNOX2がどのような役割を担っているか確認するための実験を行った。Nox2's gp91 subunit 欠損マウス(X-CGD) とその wildtype litermates (WT)に対して、intraluminal filamentを用いた一過性中大脳動脈閉塞(tMCAO)を行い、WTには治療として、Nox2 inhibitorであるapocynin、または vehicleを経静脈投与し、3群において脳虚血後の損傷を比較検討した。WTマウスに対してApocynin投与した群と、X-CGDマウスでは有意に脳梗塞体積が小さかった。またこれらの群では、エバンスブルー染色により推定されるBBBの破綻の減少、細胞外基質の破綻を示唆するMMP-9の発現の減少、及びtight junction proteins喪失の減少が確認された。

実験2:次に、脳内免疫細胞におけるNox2の存在、もしくは体内循環免疫細胞におけるNox2の存在のどちらがより脳虚血後再還流障害に対して大きな影響を及ぼしているか検討した。WTマウスに対してX-CGDマウスの骨髄移植を行った群、X-CGDマウスへWTマウスの骨髄移植を行った群、WTマウスに対してWTマウスの骨髄移植を行った群、の3群の骨髄キメラマウスを作成し、これらのマウスに対して、tMCAOを行った。WTマウスの骨髄を移植されたX-CGDマウスのほうが、WTマウスの骨髄を移植されたWTマウスより、脳梗塞の体積、脳出血の程度、炎症細胞の浸潤が軽減されていた。興味深いことに、X-CGDマウスの骨髄を移植されたWTマウスのほうが、WTマウスの骨髄を移植されたX-CGDマウスよりも、さらにそれらが軽減されていた。

今回の実験により、Nox2が脳虚血再環流障害に寄与していることが確認され、しかも、循環細胞からのNox2のほうが、脳内細胞からのNox2よりも、はるかに脳虚血再還流障害に対して悪影響があることが示唆された。これらの結果から、循環免疫細胞を脳虚血再還流障害の治療標的にすることが重要であると考えられた。

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、脳虚血後の再還流による脳虚血部分への炎症細胞の浸潤において、NADPH oxidase (Nox2) がsuperoxideの産生を促すことから、炎症細胞とNOX2が脳虚血後の増悪に果たす役割を明らかにすることを試みたものであり、下記の結果を得ている。

1.in vivoモデルにおいて脳虚血時にNOX2がどのような役割を担っているかを確認するため、次に挙げる実験を行った。Nox2's gp91 subunit 欠損マウス(X-CGD) とその wildtype litermates (WT)に対して、intraluminal filamentを用いた一過性中大脳動脈閉塞(tMCAO)を行い、WTには治療として、Nox2 inhibitorであるapocynin、または vehicleを経静脈投与し、3群において脳虚血後の損傷を比較検討した。これにより、Apocyninを投与したWTマウスとX-CGDマウスでは、明らかに脳梗塞体積が小さいとの結果が得られた。またこれらの群では、エバンスブルー染色により推定されるBBBの破綻の減少、細胞外基質の破綻を示唆するMMP-9の発現の減少、及びtight junction proteins喪失の減少が示された。

2.脳内免疫細胞におけるNox2の存在、もしくは体内循環免疫細胞におけるNox2の存在のどちらがより脳虚血後再還流障害に対して大きな影響を及ぼすかについて検討した。WTマウスに対してX-CGDマウスの骨髄移植を行った群、X-CGDマウスへWTマウスの骨髄移植を行った群、WTマウスに対してWTマウスの骨髄移植を行った群の3群の骨髄キメラマウスを作成し、これらのマウスに対して、tMCAOを行った。この結果、WTマウスの骨髄を移植されたX-CGDマウスのほうが、WTマウスの骨髄を移植されたWTマウスより、脳梗塞の体積、脳出血の程度、炎症細胞の浸潤が軽減されることが示された。興味深いことに、X-CGDマウスの骨髄を移植されたWTマウスのほうが、WTマウスの骨髄を移植されたX-CGDマウスよりも、さらにそれらが軽減されることが認められた。

以上、本論文はNox2が脳虚血再環流障害に寄与していることを確認し、さらに循環細胞からのNox2のほうが、脳内細胞からのNox2よりも、はるかに脳虚血再還流障害に対して悪影響があることを明らかにした。本研究は、循環免疫細胞と脳虚血再還流障害のメカニズムの解明に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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