学位論文要旨



No 217641
著者(漢字) 髙島,忠之
著者(英字)
著者(カナ) タカシマ,タダユキ
標題(和) ヒト肝胆系輸送に関わる薬物トランスポーターのin vivo機能評価PETプローブ15R-[11C]TIC-Meの開発
標題(洋)
報告番号 217641
報告番号 乙17641
学位授与日 2012.03.07
学位種別 論文博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 第17641号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 杉山,雄一
 東京大学 教授 関水,和久
 東京大学 教授 入村,達郎
 東京大学 准教授 楠原,洋之
 東京大学 特任准教授 樋坂,章博
内容要旨 要旨を表示する

薬物トランスポーターは薬物の消化管吸収、組織分布および排泄に働くことから、その機能変動は、薬物の体内動態の変動、薬効・副作用発現の個人差の一因となりうる。生体内の主要な異物解毒臓器の1つである肝臓には、肝実質細胞の血管側膜、胆管側膜に取り込み・排泄トランスポーター群が適切に配置されており、血液から胆汁方向への効率的な方向性輸送が達成されている。肝胆系輸送の変動要因を解明するためには、血管側・胆管側それぞれの膜上での輸送能力を定量的に分離評価することが求められる。そのためには、組織中濃度の時間推移の測定が不可欠であるが、ヒトin vivoにおいては、従来型の非標識体薬物を用いた解析では実現できない。―方、近年、Positron Emission Tomography(PET)などの分子イメージング技術により、ヒトにおける組織中の薬物濃度の時間推移の測定が可能になりつつあり、血液脳関門におけるP糖タンパクの機能評価など、薬物動態研究では、薬物の中枢移行に関わる研究を中心に、ヒトでの応用が進んできている。しかしながら、肝胆系輸送などの薬物の排泄に関わる過程については、方法論の確立、各トランスポーターに選択的基質で機能評価を可能とするPETプローブの探索が必要である。

本研究では、in vivoで肝胆系輸送における素過程(取り込みおよび排出)を定量的に評価する手法の開発を目的とし、スタチンやサルタン類など臨床医療上汎用される医薬品を広範に基質とする肝胆系輸送に関わるトランスポーターとして、肝取り込みトランスポーターOArPs(organic anion transporting polypeptides(OATPIB1,1B3))および胆汁排泄トランスポーターMRP2(multidrug resistance-associated protein2)に着目し、候補PETプローブを用いて、これらの機能解析を行うための評価法の開発を試みた。本研究に用いた候補PETプローブは、理化学研究所等で開発されたプロスタサイクリン受容体(IP2)に強い親和性を持つ、(15R)-16-m[11C]tolyl-17,18,19,20-tetranorisocarbacyclin methyl ester(15R-[11C]TIC-Me)を用いた。本プローブは、すでに中枢神経機能イメージングを目的としたヒト試験の実績があり、本研究目的のためのヒト臨床PET試験もすぐに実行可能な状態にあった。

15R-[11C]TIC-Meは、血中などに存在するエステラーゼにより速やかに加水分解をうけ、アニオン性を示すカルボン酸基を持つ15R-[11C]TICへと変換される。その後、放射能は主に胆汁排泄、尿排泄される。東京大学大学院薬学系研究科分子薬物動態学教室北村らの解析により、15R-TICは、肝血管側膜上に存在する取り込みトランスポーターOATP1B1とOATP1B3の基質であること、胆管側膜上の排出トランスポーターMRP2,MDR1(multidrug resistance1)の基質となることが確認され、これらトランスポーターが、15R-[11C]TICの肝胆系輸送に関与していることが示唆されている。

そこで、まず始めに本研究では、げっ歯類を用いた薬物トランスポーターのin vio機能解析のためのPET基礎評価を行い、15R-[11C]TIC-Meを用いて、肝胆系輸送の素過程にあたるOatpトランスポーターを介した肝取り込み、並びに主にMtp2を介した胆汁排泄過程の速度論パラメータを定量的にin vivoで評価するための方法論の確立を行った。15R-[11C]TIC-Meをラットに静脈内bolus投与後、正常ラットでは、投与後初期では放射能が主に肝臓、腎臓に分布し、その後、排泄(投与後90分では投与量の50%が胆汁排泄)され、腎排泄の寄与は小さかった。加えて、Mrp2変異欠損ラットでは、放射能の肝胆系輸送による排泄は顕著に低下した一方、尿排泄が著しく増加し、投与後90分までの放射能の血液中濃度・時間曲線下面積(AUC)が正常ラットの約3倍に増加していた。ラット組織中の放射性代謝物と親化合物の分離定量の結果、15R-[11C]TIC-Meは、ラットに静脈内bolus投与後、速やかに15R-[11C]TICへと変換され、その後も更に代謝が進み、少なくとも3種類の放射性代謝物(M1,M2,M3)が存在し、これらの代謝物は、脱エチル体、グルクロン酸を含む構造と推定された。投与後初期の血中、組織中放射能量を用いたintegration plot法により、肝取り込みクリアランスを算出したところ、正常ラットでは肝血流速度の7割程度であり、腎取り込みクリアランスの6-7倍大きいことが明らかとなった。一方、肝臓中放射能量および胆汁排泄された放射能量を用いたintegration plot法により求めた胆汁排泄固有クリアランスは、総放射能量を用いた値(CLint,bil,RA)では、正常ラットとMtp2変異欠損ラットで約7倍の差が見られ、代謝物M3に対して算出した値(CLint,bil,M3)は、CLint,bil,RAよりも大きく、正常ラットとMrp2変異欠損ラットでは約8倍の差を示しており、代謝物M3の胆管側への排出輸送は、主にMrp2を介した胆汁排泄能の有用な指標になると考えられた。更に、北村らの解析により、ラット遊離肝細胞を用いた15R-[3H]TICの取り込み輸送評価を行ったところ、15R-[3H]TICのラット肝細胞への取り込みは飽和性を示し、OATPs阻害剤であるリファンピシンによる阻害が見られた。加えて、ラットMrp2発現膜ベシクルを用いた15R-TICと主代謝物のin vitro輸送試験を行ったところ、15R-TIC代謝物M2、M3については、ラットMrp2発現膜ベシクルへのATP依存的な取り込みが見られ、Mrp2基質となることが確認された。

以上から、15R-[11C]TICは、Oatps,Mtp2の基質であり、PET画像解析により、同一ラット個体において、肝胆系輸送を中心としたin vivoにおける膜透過輸送の速度論パラメータの定量的評価法を確立することができ、更に、Mrp2の欠損に伴う胆管側の排出輸送の機能低下も検出することができた。

次に、ヒトでの肝胆系輸送評価のPET試験を行い、肝臓、腎臓への分布、胆汁排泄における放射能の時間推移データを求め、最終的には、非侵襲的に肝取り込みクリアランス、胆汁排泄固有クリアランスを測定した。健常人男性被験者に対してbaseline条件(リファンピシン非併用時)と、リファンピシン併用条件の2条件でPET試験を行うクロスオーバー試験として実施した。15R-[11C]TIC-Meをヒトに静脈内bolus投与後、baseline条件では、投与後初期は放射能が肝臓、腎臓に分布し、その後、胆管・胆嚢への集積が認められた。一方、600mgリファンピシン併用条件においては、放射能の肝臓への分布、胆汁中への排泄量が低下したが、腎臓への分布は変化しないことが明らかとなった。この時、血中放射能濃度は、投与後30分までのAUCにおいて、リファンピシン併用により約1.5倍に上・昇した。15R-[11C]TIC-Meの投与一定時間後に採血したヒト血液、ヒト肝細胞と15R-[11C]TIC-Meをインキュベーションした後のmediumについて、放射性代謝物と親化合物の分離定量を行ったところ、15R-[11C]TIC-Meは投与後2分以内に15R-[11C]TICへと変換され、投与後10分は主として15R-[11C]TICとして存在した。その後も更に代謝が進み、少なくとも4種類の放射性代謝物が生成する可能性が示された。これらの代謝物は、ラット組織中でも検出された代謝物である、脱エチル体、グルクロン酸抱合体等を含むことが推定された。CLuptake,livetの算出には、主に血中放射能が15R-[11C]TICとして存在している時間帯(投与後2分から10分の間)のデータを用いたところ、ヒトにおいてCLuptake,liverは、血流速度の5-8割程度であったが、リファンピシン併用により有意な低下がみられた。総放射能量を用いた胆汁排泄固有クリアランス(CLintbile)は、リファンピシン併用により有意に低下した。更にOATPIB1、OATP1B3を介した15R-TICの取り込みに対するリファンピシンの阻害定数(Ki値)は、それぞれ0.62μM,0.39μMであり、600mg経口投与後のヒト門脈血中蛋白非結合型濃度の推定値(0.87-6.4μM)より小さかった。加えて、MRP2を介した15R-TIC代謝物輸送に対するリファンピシンの阻害効果については、脱エチル体のOATP1B1/MRP2共発現細胞におけるapical側膜の透過クリアランスに対する、リファンピシンのIC50値(5μM、細胞濃縮率を1と仮定した場合)は、600mg経口投与1時間後の肝臓中蛋白非結合型濃度の推定値(33.243μM)より小さく、トランスポーターを介した胆管膜側の薬物相互作用が起こっていることが期待された。

以上の結果より、15R-[11C]TIC-Meを用いたPET画像解析により、肝胆系輸送を中心とした放射能の組織移行、胆汁排泄量の時間推移の解析、肝取り込みクリアランス、胆汁排泄固有クリアランスの分離評価が、ヒトにおいても可能であることが示された。更に、リファンピシン併用により、放射能の肝取り込みクリアランス、胆汁排泄固有クリアランスの低下が見られ、PET評価にて、薬物間相互作用における各素過程の寄与の定量的な評価が可能であることを、ヒト試験で実証することができた。

本研究により、PET分子イメージング法を用いて、in vivoにおいて、PETプローブの肝取り込み過程、胆汁排泄過程それぞれの輸送能力の定量的な分離評価が可能であることを明らかにした。PETプローブ15R-[11C]TIC-Meは、OATPs(OATP1B1,OATPIB3)を介した肝取り込み、MRP2を介した胆汁排泄機能の定量的な評価に有用であり、リファンピシンによる薬物相互作用のメカニズムとして、OATPsを介した肝取り込み過程に加えて、胆汁排泄過程ではMRP2を含む排出トランスポーターの阻害が原因であることをヒトで実証することができた。今後、創薬研究に本評価を応用することで、OATPsやMRP2を介した輸送のヒトin vivoフェノタイピングにより、薬物相互作用や遺伝子多型に起因する輸送機能の変動や個人差の評価が可能となり、個別化薬物療法に向けた新たな情報提供ができる可能性が考えうる。更に、これらの情報を、in vitro実験データからの予測のバリデーションに用い、より良い予測法の確立に貢献できること、また、本研究で確立した評価法を、他のトランスポーターの機能評価にも応用することで、各トランスポーターのin vivoにおける機能の定量的な役割がより明確となり、体内動態的に優れた医薬品開発のための創薬研究が進むことを期待している。

審査要旨 要旨を表示する

近年、新薬開発において、費用および期間は増大している一方で、その成功確率は年々低下する傾向にある。過去に新薬のドロップアウトの主原因の1つであったバイオアベイラビリティー、血中薬物動態の悪さは、薬物動態スクリーニング系の導入により改善されつつあるが、薬物の組織移行の関与が考えられる安全性、薬効の問題が、現在ではドロップアウトの主原因の1つとなってきている。このため、メカニズムに基づき薬物動態、薬効、毒性を精度高く予測することで、医薬品臨床開発の成功確率を向上できることが期待されている。

本研究では生体内の主要な異物解毒臓器である肝臓に着目した。肝臓では肝実質細胞の血管側膜、胆管側膜に取り込み・排泄トランスポーター群がそれぞれ適切に配置されており、血液から胆汁方向への効率的な方向性輸送が達成されている。トランスポーターの機能変動は、薬物の体内動態の変動、薬効・副作用発現の個人差の一因となりうると考えられており、肝胆系輸送におけるトランスポーターを中心とした変動要因の解明には、血管側・胆管側それぞれの膜上での輸送能力を分離評価することが求められる。そのためには、組織中濃度の時間推移の測定が不可欠であり、申請者は、Positron Emission Tomography (PET)を用いた分子イメージング技術に着目した。これまで、分子イメージング技術により、血液脳関門におけるP糖タンパクの機能評価など、薬物の中枢移行に関わる研究を中心にヒトでの応用が進んできていたが、肝胆系輸送などの薬物の排泄に関わる過程については、方法論の確立、各トランスポーターの機能評価を可能とするPETプローブの探索が必要であった。そこで、in vivoで肝胆系輸送における素過程を定量的に評価する手法の開発を目的とし、臨床医療上重要な医薬品を基質とする肝胆系輸送に関わるトランスポーターとして、肝取り込みトランスポーター organic anion transporting polypeptides (OATPs; OATP1B1, 1B3) および胆汁排泄トランスポーターmultidrug resistance- associated protein 2 (MRP2) に着目し、既に中枢神経機能イメージングを目的としたヒト試験の実績があるPETプローブ(15R)-16-m-[(11)C]tolyl-17,18,19,20-tetranorisocarbacyclin methyl ester (15R-[(11)C]TIC-Me) を用いて、これらの機能解析を行うための評価法の開発を試みた。

15R-[(11)C]TIC-Meは、血中などに存在するエステラーゼにより加水分解をうけ、アニオン性を示す15R-[(11)C]TICへと変換され、その後、放射能は主に胆汁排泄、尿排泄されること、また15R-TICはOATP1B1とOATP1B3に加えMRP2やMDR1の基質となることが確認されており、申請者はこれらの利点をもつ本PETプローブを活用し、各トランスポーターのin vivo機能評価に応用することを試みた。

第1章では、15R-[(11)C]TIC-Meを用いたPET画像解析により、肝胆系輸送を中心としたトランスポーターの機能解析がヒトにおいても実現できる可能性について、実験動物を用いて基礎検討を行った。PET画像解析により、15R-[(11)C]TIC-Meをラットに静脈内bolus 投与後、正常ラットでは、放射能が主に肝胆系輸送により排泄されていたが、Mrp2変異欠損ラットでは、放射能の肝胆系輸送による排泄は顕著に低下し、尿排泄が著しく増加していたことが示された。PETでは放射能を検出しているため、投与した化合物と代謝物、分解物の存在比を分離して評価することができない。そこで申請者は、PET試験と並行して組織中の放射性代謝物と未変化体の分離定量を別途行い、15R-[(11)C]TIC-Meは、ラットに投与後、速やかに15R-[(11)C]TICへと変換され、その後も更に代謝が進み、少なくとも3種類の代謝物(M1, M2, M3)が存在することを示した。更にLC-MS/MSを用いた解析により、これらの主代謝物の構造推定も行った。次に、integration plot 法により、肝取り込みクリアランス、胆汁排泄固有クリアランス(C(Lint),bile,RA)を求めており、上記に行った代謝物解析の結果をもとに、主代謝物M3に対する胆汁排泄固有クリアランス(C(Lint),bile,M3)を算出したところ、正常ラットとMrp2変異欠損ラットでは有意な差を示し、代謝物M3の胆管側への排出輸送は、主にMrp2を介した胆汁排泄能の有用な指標になるうることを考察した。当教室北村らの解析によると、15R-[3H]TICのラット肝細胞への取り込みは飽和性を示し、OATPs阻害剤であるリファンピシンによる阻害が見られた。本研究でのラットMrp2発現膜ベシクルを用いた15R-TICと主代謝物のin vitro輸送試験により、15R-TIC代謝物M2、M3 はMrp2の基質となることを in vitro輸送試験からも確認し、PET試験の裏付けも行った。以上から第1章では、申請者は15R-[(11)C]TICはOatps, Mrp2の基質であり、PET画像解析により同一個体において肝胆系輸送を中心としたin vivo における膜透過輸送の速度論パラメータの定量的評価法を確立し、更に本法の適用によりMrp2の欠損に伴う胆管側の排出輸送の機能低下の検出も可能であることを示した。

第2章においては、PETを用いた解析をヒト試験へと応用し、ヒトにおける肝胆系輸送の速度論的評価を行った。試験デザインには、健常人男性被験者に対してbaseline条件(リファンピシン非併用時)と、リファンピシン併用条件の2条件でPET試験を行うクロスオ-バ-試験を採用し、リファンピシン併用による影響を解析した。15R-[(11)C]TIC-Me をヒトに静脈内瞬時bolus 投与後、PET画像解析により、baseline条件では放射能は肝胆系輸送により主に排泄されていることを明らかにしており、600 mgリファンピシン併用により、放射能の肝臓への分布、胆汁中への排泄量が低下したが、腎臓への分布は変化しないことを示した。加えて、申請者はヒトにおいても放射性代謝物と未変化体の分離定量を行っており、15R-[(11)C]TIC-Meは投与後2分以内に15R-[(11)C]TICへと変換され、投与後10分は主として15R-[(11)C]TICとして存在していること、またヒト凍結肝細胞を用いた試験により、その後も更に代謝が進み、少なくとも4種類の放射性代謝物が生成することも明らかにした。LC-MS/MSを用いた主代謝物の構造推定も行い、ラット組織中でも検出された15R-TICの主代謝物がヒトにおいても検出されることも示した。得られた代謝物解析の情報をもとに、15R-[(11)C]TIC の肝取り込みクリアランス(CL(uptake),liver)の算出、総放射能量を用いた胆汁排泄固有クリアランス(C(Lint),bile)の算出を行い、リファンピシン併用によりこれらの値の有意な低下がみられた。更に肝取り込み過程の相互作用の考察のためOATP1B1、OATP1B3を介した15R-TICの取り込みに対するリファンピシンの阻害定数(Ki値)と、PET試験で行った600 mg 経口投与後のヒト門脈血中蛋白非結合型濃度の推定値との比較を行った。加えてMRP2 を介した15R-TIC代謝物輸送に対するリファンピシンの阻害効果についても、主代謝物のOATP1B1/MRP2 共発現細胞におけるapical側膜の15R-TIC代謝物の透過クリアランスに対するリファンピシンのIC50値と、600 mg 経口投与後のリファンピシン肝臓中蛋白非結合型濃度の推定値とを比較した。その結果トランスポ-タ-を介した血管膜側と胆管膜側のそれぞれの過程において、リファンピシンとの薬物相互作用が起こっている可能性が高いことを考察した。特に胆管膜側における薬物トランスポ-タ-を介した薬物間相互作用を、ヒトin vivoにおいて捉えることができたことは初めての事例であり、極めてインパクトのある結果と考えられた。

以上から、申請者は本研究により、PET分子イメ-ジング法を用いて、in vivoにおいて、PETプロ-ブの肝取り込み過程、胆汁排泄過程それぞれの輸送能力の定量的な分離評価が可能であることを明らかにした。PETプロ-ブ15R-[(11)C]TIC-Meは、OATPs (OATP1B1, OATP1B3) を介した肝取り込み、MRP2を介した胆汁排泄機能の定量的な評価に有用であり、リファンピシンによる薬物相互作用のメカニズムとして、OATPsを介した肝取り込み過程に加えて、胆汁排泄過程ではMRP2を含む排出トランスポ-タ-の阻害が原因であることをヒトにおいて実証した。今後、創薬研究に本評価を応用することで、OATPsやMRP2を介した輸送のヒトin vivoフェノタイピングにより、薬物相互作用や遺伝子多型に起因する輸送機能の変動や個人差の評価が可能となり、個別化薬物療法に向けた新たな情報提供ができる可能性、更にこれらの情報を、in vitro実験デ-タからの予測のバリデ-ションに用い、より良い予測法の確立に貢献できること、また、本研究で確立した評価法を、他のトランスポ-タ-の機能評価にも応用することで、各トランスポ-タ-のin vivoにおける機能の定量的な役割がより明確となり、体内動態的に優れた医薬品開発のための創薬研究が進むことが期待できる。このため、本研究成果は創薬段階におけるヒト薬物動態予測の精度向上、ひいては個人差の小さく、安全性の高い医薬品の創製に関わる研究に貢献するものであり、申請者に博士(薬学)の学位を授与するに値するものと認めた。

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