No | 217642 | |
著者(漢字) | 小平,浩史 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | コダイラ,ヒロシ | |
標題(和) | 創薬スクリーニングを指向した脳中遊離型薬物濃度予測法の開発 | |
標題(洋) | Development of predictive method of unbound brain concentration of central nervous system drugs for drug discovery screening | |
報告番号 | 217642 | |
報告番号 | 乙17642 | |
学位授与日 | 2012.03.07 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(薬学) | |
学位記番号 | 第17642号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 中枢薬の開発において、作用発現部位での薬物濃度と薬効との定量的な関係を明らかにすることは、有効性の高い化合物選択、適切な投与用量や安全域の予測を行うために重要な課題である。中枢神経系内に存在する標的蛋白の阻害や活性化に対して、脳中遊離型薬物濃度は重要な指標となる。一般に脳中遊離型薬物濃度を直接測定する手法は技術的な困難を伴い、かつスループットが高くないことから、創薬段階では、それに代替する推定方法が必要となる。血液から中枢神経系への物質移行は、血液脳関門により制限されているため、血液中遊離型薬物濃度は脳中遊離型薬物濃度の指標にならないことが知られている。その一方で、脳実質と脳脊髄液との間には関門が存在しないことから、一般的に、脳脊髄液中の薬物濃度が脳中の遊離型薬物濃度の指標として利用されている。しかし、脳脊髄液中濃度を脳中遊離型濃度の指標と見なすことができる化合物側の動態特性については、これまで体系的に検討されてこなかった。申請者は中枢薬の開発において、創薬初期段階から適用可能かつ簡便に脳中遊離型濃度を予測するための方法論を開発することを目的として、以下の研究に取り組んだ。 第一章 血液脳関門におけるP-gpとBcrpの薬物排出機構の定量的なin vivo解析 P-gp 及びBcrpは血液脳関門の実体である脳毛細血管内皮細胞の管腔側細胞膜上に発現する。医薬品を能動的に血液中へとくみ出すことで、その中枢移行を制限する。P-gp強制発現系におけるin vitro輸送活性と血液脳関門における排出輸送能が相関するP-gpと異なり、Bcrpについてはin vitroからの予測性が低いことが報告されていた。これは一部薬物がBcrpだけでなく、P-gpによるくみ出しを受けるためと考えられていた。その後、P-gpとBcrpのダブルノックアウトマウス(Mdr1a/1b(-/-)/Bcrp(-/-)マウス)では、両トランスポーターの共通基質の脳内濃度がMdr1a/1b(-/-)もしくはBcrp(-/-)マウスと比べても、著しく増大することが明らかにされた。これまでに、P-gpもしくはBcrp欠損における他方のトランスポーターの代償的な発現誘導、もしくは血液脳関門でのP-gpとBcrp間の薬物排出の相乗作用など生化学的機構が提唱されているが、本研究では、血液脳関門におけるP-gp及びBcrpによる排出輸送の寄与率を考慮することで、薬物速度論的に説明できると考えた。 P-gp及びBcrpの薬物排出機構を速度論的に説明するため、血液脳関門透過に関わる4つの膜透過性を考慮して、野生型マウスに対するMdr1a/1b(-/-)、Bcrp(-/-)、Mdr1a/1b(-/-)/Bcrp(-/-)マウスの脳-血漿濃度比をP-gp、Bcrpによる輸送活性と血液脳関門での単純拡散により表した(図1)。実際に、各ノックアウトマウスを用いて、定常状態下での脳-血漿濃度比を測定した。P-gp及びBcrpの選択的基質であるquinidine及びdantroleneの脳-血漿濃度比は、野生型マウスに比べてそれぞれBcrp(-/-)及びMdr1a/1b(-/-)マウスで有意な変化はなかった。よってP-gpもしくはBcrpを欠損させたことによる、他方のトランスポーターの発現変動は、in vivoでの薬物輸送に影響を与えるほど大きいものではないと考えられた。P-gp及びBcrpの共通基質であるerlotinib、flavopiridol、mitoxantrone の脳-血漿濃度比は、野生型及びMdr1a/1b(-/-)、Bcrp(-/-)に比べて、Mdr1a/1b(-/-)/Bcrp(-/-)マウスにおいて顕著に増加した。この野生型マウスに対する各ノックアウトマウスでの脳-血漿濃度比を図中の式に当てはめ、血液脳関門における総排出輸送に占めるP-gp及びBcrpの寄与率を算出した。いずれの薬物についても、P-gp、Bcrpの輸送活性が単純拡散に比べて大きいことを見いだした。各トランスポーターの寄与率に基づいて実測値を再現できること、ならびに文献報告されている他の薬物においても、同様の手法を適用することで、ダブルノックアウトマウスにおける脳内濃度の増大を定量的に説明できることから、本解析手法は汎用性が高いものと考えている。 第二章 脳脊髄液中薬物濃度が脳中遊離型薬物濃度の指標となるための条件解析と両濃度の乖離の定量的な予測 一般的に、脳脊髄液中薬物濃度は脳中遊離型薬物濃度の指標として使用されている。しかし、どのような体内動態特性を有する薬物の脳脊髄液中濃度が指標になるのか、これまでに体系的な解析は行われていない。また、脳脊髄液中濃度が脳中遊離型濃度の指標となる薬物かどうか創薬初期の段階から判断できるin vitro評価系の構築が望まれている。そこで脳脊髄液と脳の遊離型濃度に乖離を示す薬物の動態特性を明らかにし、中枢薬の開発において創薬初期からin vitroのデータを用いて両薬物濃度の乖離を定量的に予測できる方法論について検討した。 P-gp及びBcrp基質を含む25薬物についてラットに定速静脈内投与後の脳脊髄液-脳中の遊離型濃度比(Cu,CSF/Cu,ISF)を算出した(図2)。両濃度に乖離が認められる薬物(Cu,CSF/Cu,ISF > 2)のほとんどは、P-gp及びBcrpの基質であった。そこで、P-gp及びBcrpによる血液脳関門からの能動的排出が、両濃度の乖離に与える影響を検討するため、ノックアウトマウスを用いたin vivo試験を行った。Bcrp基質であるdaidzein及びgenistein、P-gp基質であるquinidine及びverapamilにおける両濃度の乖離は、Bcrp(-/-)あるいはMdr1a/1b(-/-)マウスで消失した。また、共通基質であるerlotinib及びflavopiridolは、P-gp及びBcrpの両方を欠損させてはじめて両濃度の乖離が消失した。よって血液脳関門でのP-gp及びBcrpの能動的排出により、その基質の脳脊髄液と脳中の遊離型濃度に乖離が生じることが明らかとなった。さらに、両濃度の乖離を定量的に予測するため、血液、脳、脳脊髄液コンパートメントから成る数理モデルを構築し、各コンパートメントでの物質収支式から、定常状態時での脳-血漿遊離型濃度比(Cu,ISF/Cu,p)、脳脊髄液-血漿遊離型濃度比(Cu,CSF/Cu,p)を算出した。その際に、(1)血液脳関門と血液脳脊髄液関門での単純拡散が比例関係であること、(2)脳と脳脊髄液の間は拡散で移行すること、(3)単純拡散に対する各トランスポーターの輸送活性がin vitro試験とin vivo試験で比例関係であることを仮定した。血液脳関門透過性は、薬物の物性値から2つの方法で予測した。各薬物の血液脳関門透過性、P-gp及びBcrp輸送活性を用いて定常状態時のCu,ISF/Cu,p及びCu,CSF/Cu,pの式と実測値を非線形最小二乗法により同時に当てはめ計算し、未知パラメータを決定した。分子量と脂溶性から推定した透過性を用いた場合、Cu,CSF/Cu,pのgenistein及びloperamideを除いた薬物において、脂溶性と2種類の極性表面積から推定した透過性を用いた場合、前述の2つの薬物に加えてCu,ISF/Cu,pのdantroleneを除いて、3つの遊離型濃度比の予測値は実測値の3倍以内であり、脳脊髄液と脳中の遊離型濃度の乖離を良好に予測できた。一部のP-gp基質(CP-141938、NFPS、metoclopramide)では、血液脳関門で能動的なくみ出しを受けるにも関わらず、脳脊髄液と脳中の遊離型濃度の乖離が小さいことが報告されている。今回構築したモデルにより、これらのP-gp基質のCu,CSF/Cu,ISFを予測したところ、実測値と同様に乖離が小さいと予想された。その要因をとして、血液脳脊髄液関門での単純拡散が小さく、脳脊髄液のbulk flowが無視できないことが挙げられる。 以上の結果から、血液脳関門でのP-gp及びBcrpの能動的な排出が脳脊髄液と脳中の遊離型薬物濃度の乖離を決定する要因であることを明らかにした。また、脳脊髄液と脳中の遊離型薬物濃度の乖離を各薬物のin vitroデータをもとに定量的に予測するモデルを構築した。 総括 本研究により、P-gp及びBcrpの共通基質の脳-血漿濃度比は、BBBでの単純拡散に対して、P-gp及びBcrp両トランスポーターの輸送活性が大きいことで説明可能であった。単純拡散、それぞれのトランスポーター輸送活性をin vitroで測定することにより、その脳中濃度は予測可能であると考えられた。また、血液脳関門における能動的な排出輸送が大きい薬物では、脳脊髄液と脳中の遊離型薬物濃度の乖離が大きいことを明らかにした。血液中遊離型濃度と血液脳関門における単純拡散、in vitro P-gp及びBcrp輸送活性に基づいて、定常状態における脳と脳脊髄液の遊離型濃度を予測する方法論を構築した。本研究で構築したモデルならびにin vitro試験を利用することで、創薬初期において中枢薬の脳脊髄液中濃度が脳中遊離型濃度の指標になるかどうか、前臨床の段階で判断できるものと期待される。 図1 P-gp及びBcrpの薬物排出機構の速度論解析からの説明 図225薬剤のラットでの脳脊髄液一脳中遊離型濃度比 薬物を定速静注し、血漿中濃度、脳中濃度(C(brain))、脳脊髄液中濃度を測定した。血漿中遊離型分率(fp)は平衡透析法により、脳中遊離型分率(f(u,brain))は脳スライス法により検討した。脳中遊離型濃度はC(brain)とf(u,brain)の積から算出した。C(u,csF):脳脊髄液中遊離型濃度、C(u,ISF):脳中遊離型濃度 | |
審査要旨 | 医薬品開発において、作用発現部位での薬物濃度と薬効との定量的な関係を明らかにすることは、有効性の高い化合物選択、適切な投与用量や安全域の予測を行うために重要な課題である。一般的に、遊離型薬物が標的部位と相互作用すると考えられており、その濃度が薬理作用の良い指標になることが広く受け入れられている。中枢薬では、その標的分子が中枢神経系内に存在することから、脳中の遊離型薬物濃度が重要な指標となる。脳中の薬物濃度を直接測定する方法として、マイクロダイアリシス法やイメージング技術を利用した方法が知られている。特にマイクロダイアリシス法は組織中の遊離型濃度を測定できる標準的手法として、内因性物質の定量等に20年以上も前から利用されてきた。しかし、この方法は、高度な技術レベルが要求されることに加えて、スループットが高くないことから、医薬品開発の初期段階での適用は難しく、倫理的な観点から臨床試験段階においても、その適用は制限されている。従って、創薬の初期段階から簡便に脳中遊離型薬物濃度を予測するための方法論やその濃度を代替する指標が必要とされている。 脳では2つの関門(血液脳関門、血液脳脊髄液関門)が存在しており、細胞間の発達した密着結合と薬物排出トランスポーターによる血液中への能動的な排出により、血液から中枢神経系への薬物の移行が制限されている。そのため血漿中の遊離型濃度は脳中の遊離型濃度の指標にならないことが知られている。脳実質と脳脊髄液との間には関門が存在しないことから、脳脊髄液中の薬物濃度は脳中の遊離型薬物濃度の指標として利用されている。しかし、脳脊髄液中濃度を脳中遊離型濃度の指標と見なすことができる化合物側の動態特性については、これまで体系的に検討されてこなかった。申請者は中枢薬の開発において創薬初期段階から適用可能かつ簡便に脳中遊離型濃度を予測するための方法論を開発することを目的として、以下の研究に取り組んだ。 第1章では、血液脳関門における2つの能動的排出トランスポーターであるP-gpおよびBcrpについて、そのくみ出し能力と薬物の脳内濃度との関係について、定量的に解析した。血液脳関門の実体である脳毛細血管内皮細胞の管腔側細胞膜上に発現するP-gpは能動的関門機構として、医薬品の中枢移行を制限している。当研究室では、P-gp強制発現系におけるin vitroでの輸送能力と、野生型マウスとP-gpノックアウトマウスを利用して求めた血液脳関門における輸送活性との間に良好な相関関係が成立することを報告している。しかし、一方で、Bcrpについては、同様の手法で求められたin vitroとin vivo輸送活性との間に乖離が存在し、これは一部薬物がBcrpだけでなく、P-gpによる能動的くみ出しを受けるためであると考えてきた。最近、P-gpとBcrpの両トランスポーターを欠損させたダブルノックアウトマウスにおいて、その共通基質の脳内濃度がP-gpもしくはBcrpノックアウトマウスと比較しても、著しく増大することが報告された。この結果を説明するメカニズムとして、P-gpもしくはBcrp欠損における他方のトランスポーターの代償的な発現誘導、あるいは血液脳関門でのP-gpとBcrp間の薬物排出における相乗作用が提唱されてきた。 申請者は、そうした生化学的説明ではなく、管腔側における全排出輸送能に占める各トランスポーターの排出輸送能を考慮することで、上記現象を薬物速度論的に説明可能できると考えた。定常状態における野生型マウスに対するP-gpとBcrpの単独もしくは両方欠損させた各マウスの脳-血漿濃度比を血液脳関門透過に関わる3つの膜透過性(脳から血液方向への単純拡散、各トランスポーターによる能動輸送)により表し、単純拡散に対する各トランスポーターの輸送活性を実験的に測定した。まず、P-gpおよびBcrpの特異的基質としてそれぞれキニジンおよびダントロレンを選択し、野生型マウスとそれぞれBcrpおよびP-gpノックアウトの脳-血漿濃度比に有意な変化がないことを明らかにしている。この結果から、P-gpもしくはBcrpを欠損させたことによる他方のトランスポーターの発現変動がin vivoでの薬物輸送に影響を与えるほど大きくないと考察している。P-gpおよびBcrpの共通基質として、エルロチニブ、フラボピリドール、ミトキサントロンをテスト化合物として選択した。ダブルノックアウトマウスでは、これらの共通基質の脳内濃度は野生型およびP-gp、Bcrpノックアウトに比べて、顕著に増大した。申請者はこの結果を誘導した数式に当てはめ、血液脳関門における総排出輸送に占めるP-gpおよびBcrpの寄与率を計算した。いずれの薬物についても、P-gp、Bcrpの輸送活性が単純拡散に比べて大きいことを見いだした。得られたパラメータで実測値を再現できること、ならびに文献報告されている他の薬物においても、同様の手法を適用することで、ダブルノックアウトマウスにおける脳内濃度の増大を定量的に説明することにも成功し、本解析手法の汎用性が高いことを実証している。 第2章では、脳脊髄液中薬物濃度が脳中の遊離型薬物濃度の指標にならず、両薬物濃度に乖離を示す薬物の動態特性について検討し、in vitro実験に基づき、その乖離を定量的に予測できる方法論の構築を試みた。一般的に脳脊髄液中薬物濃度は脳中遊離型薬物濃度の指標として使用されている。これは、脳脊髄液のアルブミン濃度が血漿に比べて顕著に低いため、脳脊髄液中薬物濃度はほぼ遊離型濃度と見なせると同時に、脳実質と脳脊髄液との間にある上衣細胞層での薬物の移動が拡散であるため、脳脊髄液が脳間質液と平衡関係にあると考えられているからである。一方、血液脳脊髄液関門では、P-gpとBcrpの膜局在が異なることが報告されており、脳脊髄液中薬物濃度が脳中遊離型薬物濃度の指標にならないような薬物が存在する可能性が考えられる。これまでに、脳脊髄液中濃度と脳中遊離型薬物濃度との関係について、体系的な解析は行われていない。 申請者は、ラットおよびマウスを用いて定速静脈内投与後の脳脊髄液と脳中の遊離型濃度を比較した。検討した25薬物の中でラットでの脳脊髄液と脳中の遊離型薬物濃度に乖離が認められた薬物のほとんどがP-gpおよびBcrpの基質であることを見いだした。Bcrp基質であるダイゼインおよびゲ二ステイン、P-gp基質であるキニジンおよびベラパミルを用いて、野生型マウスで認められた両濃度の乖離がBcrpあるいはP-gpノックアウトで消失すること、共通基質であるエルロチニブおよびフラボピリドールではP-gp及びBcrpの両方を欠損させてはじめて両濃度の乖離が消失することを示した。これらの結果は、血液脳関門でのP-gpおよびBcrpの能動的排出により、その基質の脳脊髄液と脳中の遊離型濃度に乖離が生じることを支持するものである。さらに申請者は、数理モデルを用いて両濃度の乖離の定量的予測を行っている。血液、脳、脳脊髄液コンパートメントから成る数理モデルを構築し、各コンパートメントの物質収支式に基づいて、定常状態時での脳-血漿遊離型濃度比(Cu,ISF/Cu,p)、脳脊髄液-血漿遊離型濃度比(Cu,CSF/Cu,p)を誘導した。このとき、以下の3つの仮定をおいた;(1)血液脳関門と血液脳脊髄液関門での単純拡散が比例関係であること、(2)脳と脳脊髄液との間の物質交換は拡散で行われること、(3)単純拡散に対する各トランスポーターの輸送活性がin vitro試験とin vivo試験で比例関係である。血液脳関門透過性は、薬物の物性値から2つの方法で予測した。各薬物の単純拡散、P-gpおよびBcrp輸送活性を用いて定常状態時のCu,ISF/Cu,pおよびCu,CSF/Cu,pの式と実測値を非線形最小二乗法により同時に当てはめ計算し、未知パラメータを決定した。分子量と脂溶性から推定した透過性を用いた場合、Cu,CSF/Cu,pのゲ二ステインおよびロペラミドを除いた薬物において、脂溶性と2種類の極性表面積から推定した透過性を用いた場合、前述の2つの薬物に加えてCu,ISF/Cu,pのダントロレンを除いて、遊離型薬物濃度比の予測値は実測値の3倍以内であり、脳脊髄液と脳中の遊離型濃度を良好に予測することに成功している。さらに、P-gpにより血液脳関門で能動的なくみ出しを受けながら、脳脊髄液と脳中の遊離型濃度の乖離が小さいと報告されている化合物(CP-141938、NFPS、metoclopramide)についても、今回構築したモデルを用いて予測したCu,CSF/Cu,ISFは、実測値と同様に乖離が小さい。その要因をとして、血液脳脊髄液関門での単純拡散が小さく、脳脊髄液のbulk flowが無視できないためと考察している。 申請者は本研究において、P-gpおよびBcrpの共通基質の脳-血漿濃度比は、血液脳関門での単純拡散に対する両トランスポーターの輸送活性比に基づいて説明することが可能であり、in vitro実験により単純拡散、それぞれのトランスポーター輸送活性を測定することにより、その脳中濃度は予測可能であることを示した。さらに、血液脳関門における能動的な排出輸送は、脳脊髄液と脳中の遊離型薬物濃度の乖離を生じさせる要因になることを明らかにし、定常状態における両濃度の乖離を、創薬初期段階からでも取得できるin silicoおよびin vitroのデータに基づいて、定量的に予測する方法論を構築した。本方法を適用することで、創薬初期段階で中枢薬の脳中遊離型濃度を簡便に予測できるものと期待され、中枢薬の作用発現部位での濃度と薬効との定量的な関係に基づいて、有効性の高い化合物選択ひいては適切な投与用量設定や安全域の予測に貢献するものである。以上を考慮し、申請者に博士(薬学)の学位を授与するに値するものと認めた。 | |
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