学位論文要旨



No 217655
著者(漢字) 廣田,和生
著者(英字)
著者(カナ) ヒロタ,カズオ
標題(和) 蒸気発生器伝熱管U字管部の流力弾性振動評価手法
標題(洋)
報告番号 217655
報告番号 乙17655
学位授与日 2012.03.12
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17655号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 金子,成彦
 東京大学 教授 須田,義大
 東京大学 教授 高木,周
 東京大学 教授 岡本,孝司
 徳島大学 教授 石原,国彦
内容要旨 要旨を表示する

1.研究の必要性と問題点

加圧水型軽水炉プラントの蒸気発生器の伝熱管U字管部は、ボイド率の高い蒸気―水二相流が管群を横切る流れとなっている。このような流れによる流力弾性振動を回避するために、U字管部にはAVB(振止め金具)と呼ばれる部材を挿入して伝熱管を支持するが、伝熱管が適切に支持されていなければ流力弾性振動が発生することがある。この振動により伝熱管の摩耗や破断が引き起こされる可能性があり、設計段階で流力弾性振動を防止することは重要である。しかし、本研究を開始するまでは、わが国には蒸気発生器の伝熱管U字管部の流力弾性振動を防止するための評価指針がなく、世界的に見ても流力弾性振動の安定性評価に使用するための設計パラメータ及びそのばらつきを考慮した安全率について体系的に整理された例はなかった。このため、本研究では国内の蒸気発生器で採用されている正方配列管群を対象にして、実寸大のU字型伝熱管群モデルを用いた流動実験を行い、流力弾性振動に対する安定比を精度よく評価できる手法を開発した。

2.蒸気―水二相流による正方配列管群の二相減衰比及び流力弾性振動

流力弾性振動の安定比評価に必要な設計パラメータとして流体付加質量、二相減衰比、流力弾性振動の限界係数、及び管の振動に起因する流力弾性力を調査するため、上下方向に30段、流れ直角方向に5コラム、長さ161mmの管群で構成された実験装置を用いて実温・実圧の蒸気―水二相流による流動実験を行った。

入口から2、26、29段目の中央に両端を支持棒で弾性支持した計測管(減衰計測管)を設置して流動中の振動応答を計測した。流体付加質量や二相減衰比を精度よく取得するため、電磁石で計測管を揚力方向、抗力方向に加振できる機構を設けた。二相流中において計測管をスイープ加振して求めた加振力と計測管変位の伝達関数、及び正弦波加振した後に計測した自由減衰波形より固有振動数や減衰比を求めた。その結果、抗力方向の減衰比は揚力方向の減衰比よりも大きいことがわかった。この実験で取得した流体付加質量と二相減衰比は、安定比を評価する手法の設計パラメータとして使用する。

また、入口から2、26、29段目に位置する両端単純支持の減衰計測管を外し、外部から加振できる機構を有する剛支持された計測管(流力弾性力計測管)を設置した。この計測管を正弦波加振することにより、管の振動によって作用する加振管自身及び隣接管の流体力(流力弾性力)を求めた。この計測により、加振管の振動変位と隣接する計測管に作用する流体力の相関は小さいことがわかった。この結果によると、実寸大U字管群モデルで1本だけ振動管にし、隣接管を固定にして限界係数を取得し、これを蒸気発生器伝熱管群の安定比評価に使用することは妥当と考えられる。

また、流速を上げていったときの減衰計測管の振動応答を計測することにより蒸気―水二相流による流力弾性振動の限界流速を求め、限界係数に換算した。

3.二次元U字型管群を用いたHCFC-123二相流による流力弾性振動実験の妥当性確認

2章で示した蒸気―水二相流による流力弾性振動限界流速を取得したのと同一の短い管群モデルを用い、HCFC-123二相流を流して流動実験を行い、限界係数を確認した。その結果、HCFC-123二相流に対する限界係数は、蒸気―水二相流に対する限界係数とよく一致した。したがって、蒸気―水二相流の代わりに模擬流体としてHCFC-123二相流を流して限界係数を取得し、これを蒸気発生器伝熱管群の安定比評価に使用することは妥当であると考えられる。

本研究の実寸大のU字型管群モデルを用いた流動実験では、周囲の管をAVBにより支持したまま、計測管自身のみAVBによる支持点を故意に外して流力弾性振動を発生させ、限界流速を計測する。つまり、計測管自身のみ隣接管に比べて固有振動数が低い条件で限界係数を取得する。一方、実機ではAVBの支持が設計通りであれば、隣接する管はほぼ同じ固有振動数を有する。このような管群に対しても、本研究の実寸大のU字型管群モデルを用いて計測した限界係数が適用できることを確認することが重要である。

これについては、柔支持管(固有振動数を低く設定した管)の本数を変えることのできる短い管群モデルを用いて流動実験を行い、流力弾性振動の限界流速を取得した。その結果、限界流速の柔支持管本数に対する依存性は見られないことを確認した。この結果と2章で確認した振動管の変位と隣接する計測管に作用する流体力の相関は小さいことから、管群列中における柔支持管の本数が流力弾性振動の限界係数に与える影響は小さいと推定した。したがって、実寸大U字管群モデルでAVBの支持を一部だけ外して限界係数を取得し、これを蒸気発生器伝熱管群の安定比評価に使用することは妥当であると考えられる。

4.実寸大二次元U字型管群を用いた二相流による流力弾性振動評価

U字管の面外方向に5コラム、実機と同じ最大曲げ半径を持つ実寸大のU字型管群モデルを用い、模擬流体としてHCFC-123二相流を流して流動実験を行った。本実験では、計測管自身のみAVBによる支持を故意に外して流力弾性振動を発生させて限界流速を取得し、限界係数に換算した。その結果、U字型管の支持点間隔(支持スパン長さ)や曲げ半径のような構造パラメータが限界係数に与える影響は見られなかった。

また、気体体積率や流速のような熱流動パラメータの影響を調べたところ、気体体積率が大きいほど、限界流速が大きいほど限界係数は大きくなる傾向が得られた。このため、実機の熱流動条件に近い条件にのみ評価手法の適用範囲を限定し、この条件で得られた限界係数データのみを使用した。これにより、蒸気発生器のU字型伝熱管群の安定比評価に使用する限界係数Kを7.4と設定した。

この限界係数は、短い管群を用いて取得した限界係数約3~4に比べると大きい。これは、気液二相流においては管軸方向の流力弾性力の相関は小さいことから、実機のような長い支持点間隔のU字管では伝熱管が振動したときの流力弾性力の位相が管軸方向に揃わず、振動を励起するトータルの力が小さいことが主な原因と考えられる。

従来の研究では、流速分布として見かけの平均流速、ボイド率として気体体積率を用いて安定比を評価していた。本研究では、流速やボイド率として見かけの値ではなく、二相流の実質の流速やボイド率を表し、かつ、直接的に計測できる気液界面速度やボイド率を安定比評価に使用することで評価精度を高めた。

5.蒸気発生器U字型伝熱管群の流力弾性振動に対する設計手法

本研究では、蒸気発生器の伝熱管U字管部の流力弾性振動の安定比を評価する手法を開発した。本手法では、Connorsの安定判別式に基づく最確安定比SRtの算定とそれに対する安全裕度χの考慮の2段階で設計安定比SRdesignを評価するようにした。流力弾性振動の安定比評価に必要な設計パラメータである、有効流速、固有振動数の補正係数、構造減衰比、限界流速については実寸大のU字型管群モデルの実験結果を使用し、二相減衰比、流体付加質量については短い管群を用いた蒸気―水二相流実験結果を使用した。蒸気発生器伝熱管U字管部の流力弾性振動の安定比を保守側に評価するには、安全裕度χが少なくとも設計パラメータの変動率以上の値であればよいことを示し、安全裕度(補正係数)として1.4を採用した。

限界係数、二相減衰比、構造減衰比などの設計パラメータを取得した実験装置、実験条件を参考にして、評価手法の適用範囲を正方配列のU字型管群構造(ピッチ比1.46~1.48)、圧力2.9~5.5MPa、気体体積率β=0.8以上の蒸気―水二相流による流力弾性振動とした。

6.結論

蒸気発生器の伝熱管U字管部の蒸気―水二相流による流力弾性振動を対象として、実寸大のU字型伝熱管群モデルを用い、模擬流体としてHCFC-123二相流を流して流動実験を行い、AVBによる支持点を外した計測管の振動応答から限界係数を取得して安定比の評価手法を開発した。本研究により、気液二相流の場合は管軸方向の流力弾性力の相関が小さいことから、従来のような短い管群に比べると限界係数が大きいことを確認した。また、実寸大管群の実験とは別に短い管群を用いた流動実験を行い、HCFC-123二相流の限界係数に関する模擬性、計測管のみAVBの支持を外した柔支持管で取得した限界係数の実機伝熱管群への適用性、及び流体付加質量や二相減衰比を確認した。さらに、従来考慮されていなかった設計パラメータのばらつきを考慮した安全率を設定することにより、流力弾性振動の安定比を精度よく評価できる手法を開発した。

本研究で開発した流力弾性振動の安定比評価手法を用いて設計することにより、蒸気発生器伝熱管U字管部の蒸気―水二相流による流力弾性振動を防止することができ、信頼性向上に寄与することができると考える。

審査要旨 要旨を表示する

学位請求論文は,「蒸気発生器伝熱管U字管部の流力弾性振動評価手法」と題し,全6章から構成されている.

本論文は,加圧水型軽水炉プラントの大型熱交換器である蒸気発生器の伝熱管U字管部で発生した水-蒸気二相流による流力弾性振動を対象として,流力弾性振動が発生する限界流速を評価する手法を開発したものである.実寸大のU字型伝熱管群モデルを用い,模擬流体としてHCFC-123二相流を流して流動実験を行い,AVBによる支持点を外した計測管の振動応答から限界係数を取得して安定比の評価手法を開発した.本研究により,気液二相流の場合は管軸方向の流力弾性力の相関が小さいことから,従来のような短い管群に比べると限界係数が大きいことを確認した.また,実寸大管群の実験とは別に短い管群を用いた流動実験を行い,HCFC-123二相流の限界係数に関する模擬性,計測管のみAVBの支持を外した柔支持管で取得した限界係数の実機伝熱管群への適用性,及び流体付加質量や二相減衰比を確認した.さらに,従来考慮されていなかった設計パラメータのばらつきを考慮した安全率を設定することにより,流力弾性振動の安定比を精度よく評価できる手法を開発した.

第1章は,「研究の必要性と問題点」と題し,関連する研究についての概観と本論文中で展開されている研究の位置付けについて述べている.

第2章は,「蒸気-水二相流による正方配列管群の二相減衰比及び流力弾性振動」と題し,流力弾性振動の安定比評価に必要な設計パラメータとして流体付加質量,二相減衰比,流力弾性振動の限界係数,及び管の振動に起因する流力弾性力を調査するための実験について記述している.実験によって後の安定性評価に使用されるパラメータを取得しただけでなく,実寸大U字管群モデルで1本だけ振動管にし,隣接管を固定にして限界係数を取得し,これを蒸気発生器伝熱管群の安定比評価に使用することは妥当との結果を得ている.

第3章は,「二次元U字管群を用いたHCFC-123二相流による流力弾性振動実験の妥当性確認」と題し,第2章の蒸気―水二相流による流力弾性振動限界流速を取得したものと同一の短い管群モデルを用い,HCFC-123二相流を流して流動実験を行い,限界係数を確認している.その結果,HCFC-123二相流に対する限界係数は,蒸気―水二相流に対する限界係数と良好な一致を示し,蒸気―水二相流の代わりに模擬流体としてHCFC-123二相流を流して限界係数を取得し,これを蒸気発生器伝熱管群の安定比評価に使用することは妥当であるとの見解を得ている.

第4章は,「実寸大二次元U字型管群モデルを用いた流力弾性振動評価」と題し,U字管の面外方向に5コラム,実機と同じ最大曲げ半径を持つ実寸大のU字型管群モデルを用い,模擬流体としてHCFC-123二相流を流して流動実験を行った.本実験では,計測管自身のみAVBによる支持を故意に外して流力弾性振動を発生させて限界流速を取得し,限界係数に換算している.この実験により,流速やボイド率として見かけの値ではなく,二相流の実質の流速やボイド率を表し,かつ,直接的に計測できる気液界面速度やボイド率を安定比評価に使用することで従来のものと比べて評価精度を高めることが可能となった.

第5章は,「蒸気発生器U字型伝熱管群の流力弾性振動に対する設計手法」と題し,蒸気発生器の伝熱管U字管部の流力弾性振動の安定比の評価に関して,Connorsの安定判別式に基づく最確安定比SRtの算定とそれに対する安全裕度χの考慮の2段階で設計安定比SRdesignを評価することを提案した.

第6章は,結論と題し,本研究で得られた知見について纏めて述べている.

以上を要約すると,本論文は,蒸気発生器の伝熱管U字管部で発生した水-蒸気二相流による流力弾性振動を対象として,流力弾性振動が発生する限界流速を評価する手法を開発したもので,これらの研究成果により,蒸気発生器の伝熱管の振動低減技術の確立に貢献した.本研究は,機械工学,特に振動学の発展に貢献するところが大きい.

よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

UTokyo Repositoryリンク