No | 217675 | |
著者(漢字) | 犬塚,亮 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イヌヅカ,リョウ | |
標題(和) | 単心室循環を有する患者の血行動態評価 | |
標題(洋) | Hemodynamic assessment of patients with univentricular circulation | |
報告番号 | 217675 | |
報告番号 | 乙17675 | |
学位授与日 | 2012.04.25 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 第17675号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | (背景) 単心室循環を有する患者では、ノルウッド手術などの第一段階の姑息手術に引き続き、グレン手術、フォンタン手術といった段階的な外科的アプローチが必要である。治療を最適化し、適切な時期に内科的・外科的インターベンンションを行うために、正確な血行動態の把握が必要であるが、単心室循環の患者では、外科的手術ステージによって血行動態が大きく変化するため、その変化に応じた評価が必要となる。グレン手術前の患者では、過度の心室容量負荷があり、これを長期間放置すると心室機能の低下や弁逆流の増悪といった予後に直接関わる因子に影響を及ぼし得る。一方で、心室容量負荷に対する反応は患者により異なるため、心室容量負荷に十分に適応できていない患者を早期に発見することが、課題となっている。我々は、近年心不全の液性因子として注目されているB型利尿ペプチド (BNP)を用いることで、血行動態的負荷に対して十分に順応できていない患者を同定できるかについて検討した。また、グレン手術後の患者では、大動脈から肺動脈への体肺側副血行路が発達し、心室の容量負荷となるだけでなく、正確な肺血管抵抗の評価に支障を生じることがある。心臓の解剖的な構造異常のため、正常二心室心で行われるような肺血流量の評価(Fick法)がそのまま適用できないため、我々は、肺血流シンチをカテーテル検査と組み合わせることで、体肺側副血行路を含めた肺血流量を正確に評価する方法を考案した。当研究では、これら二つの方法の臨床的有用性について検討した。 (方法)臨床的適応によりカテーテル検査を施行された61名の単心室循環を有する小児を対象とし研究を行った。その内患者51名において、両方向性グレンを受ける前のカテーテル検査の際、血漿BNPを測定し、BNPと心室壁応力などの血行動態的指標との関係を調べた。また、10名の両方向性グレン術後患者(年齢中央値 2.3歳)において、心臓カテーテル検査入院の際、肺血流シンチを施行し、考案された理論式に基づき肺血流量・及び体肺側副血行路の血流量を計算した。 (結果)両方向性グレン手術前の患者の年齢の中央値は1.1歳で34%が女性であった。BNPの中央値は90.4 pg/ml (四分位範囲 35.3-175.4)。BNP値は拡張末期壁応力(EDWS)と強く相関した(Figure 1. r=0.75, p<0.0001)。またBNP 100pg/ml以上の群において、心筋重量(心室拡張末期容積で補正)の低下を認めた(p=0.006)。 中央値3.2年の経過観察中に51名中15名が死亡し、1名が重度心不全に対し心移植を施行された。高BNP値(100pg/ml以上)、は死亡又は心移植の有意な独立予測因子であった(Figure 2, 危険率 3.05, 信頼区間: 1.06-8.83, p=0.04)。 また、両方向性グレン手術後の患者10名の年齢中央値は2.33歳であった。体肺側副血行路の流量は1.75 ± 0.46 litres/min/m2であり、これらの影響を考慮せずに計算した肺血管抵抗は57 ± 23%の過大評価をしていた(Figure 3)。 (結論)この研究において、単心室循環の血行動態評価のための2つの新しい方法を導入した。両方向性グレン術前にBNPが高値の患者は、心室容量負荷に対し十分に心筋重量を増加できておらず、予後不良であった。両方向性グレン手術前の患者において、血行動態的負荷に対して順応できていない高リスクの患者を同定するのにBNPが有用な可能性がある。また、両方向性グレン手術後の患者において、心臓カテーテル検査と組み合わせた肺血流シンチを施行することにより、フォンタン手術の際の潜在的な危険因子である体肺側副血行路の程度を計算することができ、肺血管抵抗の過大評価を避けることができた。 Figure 1 Figure 2 Figure 3. | |
審査要旨 | 本研究は、単心室循環を有する患者において、治療を最適化し、適切な時期に内科的・外科的インターベンンションを行うため、2つの新しい血行動態評価の方法を考案し、その有用性について検討を行ったものであり、下記の結果を得ている。 1. 両方向性グレン術前の患者51名において、血漿BNPと心室壁応力などの血行動態指標との関係を調べた結果、BNPは心室拡張末期容量と比例し、心筋重量に反比例していた。また、BNPは心筋の負荷を反映する収縮・拡張末期壁応力と特に強い相関を認めた。また、BNP高値(>100pg/ml)の患者では、心筋重量・拡張末期容積比の低値を認め、心筋容量負荷に対して、十分な心筋肥大が起こっていないことが示唆された。 2. 上記患者群において、BNP高値(>100pg/ml)と低値の患者で死亡又は心移植の発生率を比較したところ、BNP高値の群は予後不良であった。両方向性グレン手術前の患者において、血行動態的負荷に対して順応できていない高リスクの患者を同定するのにBNPが有用な可能性があることが示唆された。 3. 両方向性グレン手術後の患者10名において、心臓カテーテル検査と肺血流シンチを施行し、新しく考案した計算方法を用いることによって、フォンタン手術の際の潜在的な危険因子である体肺側副血行路の血流量の定量化を行った。この結果は大動脈造影に基づいた従来の半定量的方法による結果と矛盾せず、妥当な方法と考えられた。 4. また、上記の方法を用いることにより、心拍出量及び肺血流量を同時に計算することができた。今回考案した方法を用いて計算した心拍出量は、心室造影から求めた心拍出量と良い相関を認めた。体肺側副血行路を考慮しない従来の方法を用いると、肺血流は過小評価、肺血管抵抗は過大評価(57±23%)していた。体肺側副血行路の血流量の定量化を行うことで、フォンタン手術の術前評価項目として重要な肺血管抵抗をより正確に評価することにつながることが示唆された。 以上、本論文は単心室循環を有する患者において、血行動態を評価する2つの新しい方法を考案し、それらの臨床的有用性を明らかにした。単心室という先天性心疾患のなかでも最も予後不良の疾患の管理・治療の改善に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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