学位論文要旨



No 217694
著者(漢字) 鈴木,慎也
著者(英字)
著者(カナ) スズキ,シンヤ
標題(和) 従量制指定袋の導入下における家庭系可燃ごみの搬出行動特性に関する研究
標題(洋)
報告番号 217694
報告番号 乙17694
学位授与日 2012.06.14
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17694号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 山本,和夫
 東京大学 教授 花木,啓祐
 東京大学 教授 森口,祐一
 東京大学 准教授 福士,謙介
 東洋大学 教授 荒巻,俊也
内容要旨 要旨を表示する

1.研究背景および目的

環境省による循環型社会形成推進基本計画において,環境の保全を前提とした循環型社会の形成,各主体が連携・協働した3Rの取組などの一層の推進が掲げられた.この中で各主体間のコーディネーターとしての地方公共団体は,廃棄物の分別収集はもとより,一般廃棄物処理の有料化等の経済的手法などを,必要に応じ適切に活用した3Rの推進が求められている.

そのためには,住民一人一人の生活事情に対する配慮が必要である.特に高齢化の進展が顕著であることを踏まえ,"環境にもお年寄りにも優しい"廃棄物管理施策が求められている.実際,自治体によってはふれあい収集と呼ばれる戸別訪問によるごみ収集が開始され,全世帯向けの「戸別収集方式」の導入も散見されるが,道路事情により収集車両の進入が困難な道路も多く存在するなど課題も多い.また,従量制有料化により搬出率の低下が予想されるが,既存研究を踏まえれば効率的な配車計画を立てられるようになり,よりきめ細かい住民対応が期待される一方で,ごみ袋1袋あたりの重量は増加し,その行動負荷の増大が懸念される.

本論文は,従量制指定袋による有料制を導入し,「戸別収集方式」を原則採用している福岡市において,住民のごみ袋の使用方法に基づく搬出行動特性,とりわけ搬出行動の決定要因,変動要因を明らかにすることを目的として,実態調査を行った結果をまとめ,その分析結果を報告するものである.

2.論文の構成と概要

本論文は,序論と総括を含めた全7章からなる.第1章においては,諸論として本研究の背景と論文構成を述べ,第2章においては,既存の知見の整理を行い,当該研究分野における課題をまとめ,本研究の目的を述べた.第3章においては,本研究の対象とした福岡市南区A町の概況について述べた.調査対象地区のごみ収集地点の利用実態調査を踏まえ,「戸別収集地点」,「ステーション収集地点」の利用世帯を対象に,家庭系可燃ごみの搬出実態を調査した.季節変動を考慮し,2006年春季,2008年夏季の連続した4回にわたる収集日にそれぞれごみ袋の容量,搬出袋数を調査し,ばねばかりにより搬出重量を計測した.

第4章においては,戸別収集地点を対象に,ごみ搬出実態調査の結果を踏まえ,ごみ袋密度の分布をまとめた.

春季については,4回とも搬出を行った世帯は調査対象世帯全体の6割弱に過ぎないことが確認された.ただし,袋の容量別にみると,あくまでも45L入りごみ袋が最も多く使用されており,30L入りごみ袋もしくは15L入りごみ袋のみを使用しているのは,調査対象世帯全体の1割程度に過ぎなかった.ただし,夏季においては30L入りごみ袋または15L入りごみ袋のみを使用し,搬出日によっては2袋以上搬出を行う世帯が確認された.

そこで,ごみ袋の搬出重量をその袋の表示容積で割った「ごみ袋密度」を導入し,ごみ袋の搬出方法を検討した.45L入りごみ袋,30L入りごみ袋については,0.08~0.10(kg/L)を中心に広く分布しており,福岡市の家庭系可燃ごみに対しては多くの世帯がごみ袋密度0.08~0.10(kg/L)の状態を「満杯」ととらえ,搬出行動の目安にしていることが示唆された.従量制指定袋の導入下においては,搬出日にごみ排出量が少ない時には,多くの世帯は袋が満杯になるまで搬出を控えることが示された.

第5章においては,各世帯のごみ搬出原単位とごみ袋の搬出方法との関係を明らかにし,戸別収集地点の利用世帯におけるごみ搬出行動特性を明らかにした結果を述べた.

ごみ搬出原単位の分布をもとにごみ袋の搬出方法を確認した結果,多くの世帯では,日常経験をもとに,まず使用するごみ袋の容量を決めている.「搬出控え」という行動をとるため,ごみ排出量に対して若干大きめの容量のごみ袋を選ぶ傾向が強い.ごみ搬出原単位が1.4(kg/世帯・日)程度の世帯では,45L入りごみ袋を使用し,搬出日には1袋のみ搬出することが確認されたが,これよりもごみ搬出原単位が高い世帯では,常時2種類以上のごみ袋を確保しておき,搬出日のたびにごみ排出量に応じて適切な容量のごみ袋を2袋目に選定することが示唆された. 30L入りごみ袋を主体的に使用する場合は詰め込めるごみ量に限りがあるので,ごみ排出量の日間変動が少ない世帯に限って使用されている.これらの中間程度のごみ排出量を示す世帯では,45L入りごみ袋を使用し,搬出日に1袋のみ搬出することになるが,夏季のみ30L2袋に分けて搬出する場合もある.

第6章においては,原則戸別収集方式が採用されている福岡市において,道路事情により部分的にステーション収集とならざるを得ない状況を鑑み,ごみ搬出に伴う行動負荷の実態を明らかにした結果を述べた.

道路事情によりステーション収集とならざるを得ない世帯では,ごみ収集地点までの道路移動距離が50(m)程度を超えると,30L入りごみ袋,15L入りごみ袋の搬出袋数の割合が増加する傾向が見られ,統計的にも有意差が確認された.これは,主に「45L入りごみ袋を使用し,常に1袋搬出する」方法をとる世帯が,50(m)の道路移動距離を超えると,1回あたり5(kg/世帯・回)程度の重量では重いと感じ,その負担感を軽減させるために容量の小さなごみ袋に切り替え,往復して搬出するなどの行動変化を示すことが要因であると推察される.

ごみ搬出重量と道路移動距離との積によって示される「ごみ搬出行動負荷量」(単位: [kg・m/(世帯・回)])を新たに導入し,ステーション収集地点の利用世帯に対する現状評価を行った.その結果,ステーション収集地点の利用世帯の最大値は,538.0[kg・m/(世帯・回)]と,戸別収集地点の最大値122.3[kg・m/(世帯・回)]の4倍強を示した.ごみ搬出袋数・容量の調査結果とあわせると,250[kg・m/(世帯・回)]がごみ搬出行動負荷の許容値であると考えられ,本調査対象地区におけるステーション収集地点の利用世帯の2割程度,さらに高齢世帯についてはそれ以外の世帯よりも6割程度の行動負荷であると考えると,ステーション収集地点を利用する高齢世帯の半数が許容値を超えていることが確認された.

3.総括

第7章においては,本研究の総括について述べ,以下の提言を行った.

(1)季節変動に対する注意が必要

生ごみの腐敗による悪臭が気になる夏季に,通常よりも小さめの容量のごみ袋を使用し,こまめに搬出を行う世帯がわずかながら見られた.これは,45L入りごみ袋という容量の大きなごみ袋がごみ排出量の変動に十分に堪えられる融通性を持つため,満杯になるまで搬出を控えるという行動を起こしやすいためである.そのため,季節によっては小さめの容量に切り替えるなど,結果的に住民のごみ搬出行動に対し,不快感,不公平感をもたらすものとなり兼ねないので,注意が必要である.

(2)搬出時の行動負荷に対する注意が必要

住民のごみ搬出行動は,ある種の"負担感"をもたらすものであり,より一般性を有する指標とするには今後の検討が必要であるものの,1世帯1回あたり250(kg・m)までという許容値を基準にごみ収集・運搬計画を策定する必要がある.収集方式の選定にあたっては,収集車両の進入が困難である狭小幅員道路に対しては,ごみ搬出行動負荷量が極端に高くなる傾向にある.ただし,道路の追加整備等によらなくても,現在のごみ収集地点の利用状況を改善できれば,住民の許容範囲内に収まるごみ搬出行動負荷となる可能性がある.該当区画においては,定期的にごみ収集・運搬計画の見直しを行うよう,自治体の担当部局から働きかけをすることが,1つの有効策であると考えられる.それでも改善が期待できない場合,別途軽車両を確保することになるが,該当世帯数によっては収集作業員が歩いて運搬するなどの対応も可能と思われる.行き止まりとなっている道路に対しては,該当世帯のごみ搬出行動負荷量が許容値を超えることはまれである.収集効率の低下を考慮すれば,この区画に収集車両を進入させるなどの対応は必要ないと考えられる.

(3)こまめに搬出可能なごみ袋の容量の設定が必要

従量制指定袋の導入下では,1袋を貯留する期間が従来よりも長くなるので,家庭内における貯留保管の問題については考慮する必要がある.その際,本研究における「ごみ袋密度」が,焼却施設搬入時点における従来の平均見かけ密度0.2(kg/L)よりもはるかに低い値を示していたことには注意を要する.ごみ袋密度は,各世帯が目一杯に詰め込んだと判断した「実感的密度」に過ぎないものの,各世帯からは,この"実感"に基づいてごみが搬出されることになるためである.

本調査結果を踏まえると,住民の搬出行動に対する負担感を公平化する観点からは,福岡市の家庭系可燃ごみに対して,45L入りごみ袋は大きすぎる容量設定であると判断される.各世帯のごみ発生量やその日間変動からすれば,45L入りごみ袋は非常に融通の利きやすい容量で,幅広い世帯に使用されているが,その分,満杯となるごみ量となるまでに貯留日数が長くなる傾向があり,また1袋あたりの重量も,搬出のための移動距離によっては重すぎる重量となる傾向を有している.むしろ,45L入りごみ袋を廃止して,例えば,30L,20L,10Lを主体とする容量設定などを行った方が,住民の搬出行動負荷の観点からすれば,適切な容量設定であると言える.その方が,こまめに搬出できるようになり,また搬出時の行動負荷も軽減されることになる.

審査要旨 要旨を表示する

本論文は「従量制指定袋の導入下における家庭系可燃ごみの排出行動特性に関する研究」と題し、従量制指定袋による有料制を導入しかつ戸別収集方式を原則採用している福岡市のケースについて詳細に調査し、その実態を分析することにより、住民のごみ袋の使用方法に基づく搬出行動特性を明らかにすることを目的とした、極めて有用な研究である。

第1章は「緒論」である。研究の背景、必要性及び論文構成等を述べている。

第2章は「既往の知見の整理と研究の目的」である。ごみ従量制有料化等に関する既往の知見を整理し、それを踏まえて、研究目的を述べている。

第3章は「研究対象および方法」である。福岡市におけるごみの分類と有料制の概要をまとめた後、本論文で対象とする地区、利用世帯等について述べている。さらに、季節変動を考慮し、2006年春季,2008年夏季の連続し4回にわたる収集日にそれぞれごみ袋の容量,搬出袋数を調査し、ばねばかりにより搬出重量を計測したこと等、研究方法をまとめている。

第4章は「個別収集地点におけるごみ搬出実態とごみ袋密度の分布」である。春季の実態調査から、4回とも搬出を行った世帯は調査対象世帯全体の6割弱に過ぎないことが確認され、また袋の容量別では、45L入りごみ袋が最も多く使用されており、30L入りごみ袋もしくは15L入りごみ袋のみを使用しているのは、調査対象世帯全体の1割程度に過ぎなかったなどの実態を明らかにしている。また、ごみ袋の搬出重量をその袋の表示容積で割った「ごみ袋密度」の計量調査結果から、その値は45L入りごみ袋,30L入りごみ袋については,0.08~0.10(kg/L)を中心に広く分布しており、福岡市の家庭系可燃ごみに対しては多くの世帯がごみ袋密度0.08~0.10(kg/L)の状態を「満杯」ととらえ、搬出行動の目安にしていることが示唆された。また、従量制指定袋の導入下においては、搬出日にごみ排出量が少ない時には、多くの世帯は袋が満杯になるまで搬出を控える実態が明らかにされている。

第5章は「戸別収集地点におけるごみ搬出原単位の分布とごみ袋の搬出方法」である。まず、実態調査結果から、ごみ搬出原単位の分布を明らかにしている。さらに、具体的なごみ袋の搬出方法についても詳細に検討しており、1.4(kg/世帯・日)程度の世帯では,45L入りごみ袋を使用し、搬出日には1袋のみ搬出すること、これよりもごみ搬出原単位が高い世帯では,常時2種類以上のごみ袋を確保しておき、搬出日のたびにごみ排出量に応じて適切な容量のごみ袋を2袋目に選定すること、またこの中間程度のごみ排出量を示す世帯では,45L入りごみ袋を使用し,搬出日に1袋のみ搬出することになるが,夏季のみ30L2袋に分けて搬出する場合もあることなど、搬出実態を明らかにしている。

第6章は「ごみ排出行動負荷量の分布」である。道路移動距離に注目した実態調査結果から、道路事情によりステーション収集とならざるを得ない世帯では、ごみ収集地点までの道路移動距離が要因となり、50(m)程度を超えると,30L入りごみ袋,15L入りごみ袋の搬出袋数の割合が増加する傾向が認められた。これは,主に「45L入りごみ袋を使用し,常に1袋搬出する」方法をとる世帯が,50(m)の道路移動距離を超えると、1回あたり5(kg/世帯・回)程度の重量では重いと感じ、その負担感を軽減させるために容量の小さなごみ袋に切り替え、往復して搬出するなどの行動変化を示すためであると推察され、調査結果をまとめることにより、排出行動決定要因として、ごみ搬出重量と道路移動距離との積によって示される「ごみ搬出行動負荷量」を新たに提案した。この指標を基に、ステーション収集地点の利用世帯に対する現状評価を行った結果、ステーション収集地点の利用世帯の最大値は,538.0[kg・m/(世帯・回)]と、戸別収集地点の最大値122.3[kg・m/(世帯・回)]の4倍強となることが明らかとなった。ごみ搬出袋数・容量の調査結果とあわせると、250[kg・m/(世帯・回)]がごみ搬出行動負荷の許容値であると推定され、本調査対象地区におけるステーション収集地点の利用世帯の2割程度,さらに高齢世帯についてはそれ以外の世帯よりも6割程度の行動負荷であると考えると、ステーション収集地点を利用する高齢世帯の半数が許容値を超えていることが示された。この結果を受け、今後高齢化がさらに進むことを考慮して、個別収集方式においてごみ排出行動負荷量を低減させる方策が必要であることを論じ、考えられる留意点を考察している。

第7章は「総括」である。本研究を総括し結論を述べるとともに、そこから得られる提言をまとめている。

以上要するに、本論文は、従量制指定袋による有料制を導入しかつ戸別収集方式のこれまでにない詳細な実態調査をもとに住民のごみ袋の使用方法に基づく搬出行動特性を分析し、とりわけ搬出行動の決定要因、変動要因を明らかにしたもので、一般廃棄物管理実務の改善に大きく寄与する重要な知見を与えており、調査内容の独創性とともに有用性の高い研究であると評価できる。よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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