学位論文要旨



No 217707
著者(漢字) 清水,弘樹
著者(英字)
著者(カナ) シミズ,ヒロキ
標題(和) イミダゾ[1,2-b]ピリダジン母核を有する自己免疫疾患治療薬の創製研究
標題(洋)
報告番号 217707
報告番号 乙17707
学位授与日 2012.09.07
学位種別 論文博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 第17707号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 渡邉,秀典
 東京大学 教授 浅見,忠男
 東京大学 准教授 作田,庄平
 東京大学 准教授 葛山,智久
 東京大学 准教授 石神,健
内容要旨 要旨を表示する

論文内容の要旨:

自己免疫疾患治療薬の創製を目指し、研究を実施した。標的として、炎症性サイトカインTNFαの産生に関わる細胞内シグナル伝達で重要な役割を果たしているIKKβを選定し、IKKβ阻害活性を有する、経口投与可能な合成低分子化合物の探索を行った。

第一章

IKKβ阻害活性を指標として実施したハイスループットスクリーニング(HTS)よりイミダゾ[1,2-b]ピリダジン構造を母核として有する化合物1が見出された。この化合物に対し、IKKβ阻害活性の向上を目的として誘導体展開を実施した。

イミダゾ[1,2-b]ピリダジン3位置換基末端、6位置換基について、多様な部分構造の導入による構造変換を進め、構造活性相関を明らかにするとともに、IKKβ阻害活性が約20倍向上した化合物2を獲得した。これらの化合物はTHP-1細胞でのTNFα産生阻害活性を示し、かつ他のキナーゼに対する選択性も良好であった。

第二章

In vivo試験でTNFα産生阻害活性を確認することを目指し、イミダゾ[1,2-b]ピリダジン誘導体の化合物展開を進めた。化合物デザインの方針策定にあたり、IKKβホモロジーモデルとイミダゾ[1,2-b]ピリダジン誘導体との相互作用モデルを作成し、そこから活性向上、物性改善に向けた二つの作業仮説を立案した。一つ目は、分子の極性を調整することで細胞膜透過性を向上させ、細胞系試験での活性を向上させるというもので、経口吸収性改善によるin vivo薬効向上へと繋げることを目指した。二つ目は、相互作用モデルに基づき、標的タンパクとの新たな相互作用部位を化合物に付与するというもので、IKKβ阻害活性自体の更なる向上を目指した。

これらの作業仮説を元に化合物デザイン・合成を実施し、in vitro/in vivo活性を評価したところ、マウスin vivo TNFα産生阻害試験にて経口単回投与で阻害活性を示す化合物3、4等が見出された。

第三章

In vivo関節炎モデルで抗炎症薬効を示す化合物の獲得を目指し、イミダゾ[1,2-b]ピリダジン誘導体の化合物展開を進めた。強力なIKKβ阻害活性、in vivoでのTNFα産生阻害活性、高い血中濃度を指標とし、これらを兼ね備えた化合物の探索を実施した。イミダゾ[1,2-b]ピリダジン3位ベンズアミド構造の変換と、6位置換基の変換による分子全体の最適化の結果見出された化合物5は、強力なin vitro/in vivo活性と、改善された物性に基づく良好な体内動態を兼備し、マウス、ラットでのコラーゲン関節炎モデルを用いた経口連投試験で有意に関節炎の進展を抑制した。

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審査要旨 要旨を表示する

本論文は自己免疫疾患治療薬の創製を目指したもので三章より構成される。標的として、炎症性サイトカインTNFαの産生に関わる細胞内シグナル伝達で重要な役割を果たしているIKKβを選定し、IKKβ阻害活性を有する、経口投与可能な合成低分子化合物の探索を行った。

第一章ではIKKβ阻害活性を指標としてハイスループットスクリーニング(HTS)を実施し、イミダゾ[1,2-b]ピリダジン構造を母核として有する化合物1を見出した。本化合物に対し、IKKβ阻害活性の向上を目的として誘導体展開を行った。イミダゾ[1,2-b]ピリダジン3位置換基末端、6位置換基について、多様な部分構造の導入による構造変換を進め、構造活性相関を明らかにするとともに、IKKβ阻害活性が約20倍向上した化合物2の獲得に成功した。これらの化合物はTHP-1細胞でのTNFα産生阻害活性を示し、かつ他のキナーゼに対する選択性も良好であった。

第二章ではin vivo試験でTNFα産生阻害活性を確認することを目指し、イミダゾ[1,2-b]ピリダジン誘導体の化合物展開を進めた。化合物デザインの方針策定にあたり、IKKβホモロジーモデルとイミダゾ[1,2-b]ピリダジン誘導体との相互作用モデルを作成し、そこから活性向上、物性改善に向けた二つの作業仮説を立案した。一つ目は、分子の極性を調整することで細胞膜透過性を向上させ、細胞系試験での活性を向上させるというもので、経口吸収性改善によるin vivo薬効向上へと繋げることを目指した。二つ目は、相互作用モデルに基づき、標的タンパクとの新たな相互作用部位を化合物に付与するというもので、IKKβ阻害活性自体の更なる向上を目指した。これらの作業仮説をもとに化合物デザインと合成を実施し、in vitroおよびin vivoでの活性を評価したところ、マウスin vivo TNFα産生阻害試験にて経口単回投与で阻害活性を示す化合物3、4などが見出された。

第三章ではin vivo関節炎モデルで抗炎症薬効を示す化合物の獲得を目指し、イミダゾ[1,2-b]ピリダジン誘導体の化合物展開を進めた。強力なIKKβ阻害活性、in vivoでのTNFα産生阻害活性、高い血中濃度を指標とし、これらを兼ね備えた化合物の探索を実施した。イミダゾ[1,2-b]ピリダジン3位ベンズアミド構造の変換と、6位置換基の変換による分子全体の最適化の結果見出された化合物5は、強力なin vitro/in vivo活性と、改善された物性に基づく優れた体内動態を兼備し、マウス、ラットでのコラーゲン関節炎モデルを用いた経口連投試験で有意に関節炎の進展を抑制することが明らかになった。

以上本論文は、自己免疫疾患治療薬として新規な構造を有するイミダゾ[1,2-b]ピリダジン誘導体を起点とし、活性・物性の評価や構造活性相関を解明しつつ誘導体展開を行い、強力な活性と良好な体内動態を有する化合物を開発したもので、学術上、応用上貢献するところが少なくない。よって審査委員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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