No | 217714 | |
著者(漢字) | 榎本,忠夫 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | エノモト,タダオ | |
標題(和) | 不撹乱礫質土の強度変形特性と粘性特性 | |
標題(洋) | Strength and deformation characteristic and viscous property of undisturbed gravelly soil | |
報告番号 | 217714 | |
報告番号 | 乙17714 | |
学位授与日 | 2012.09.13 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 第17714号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文は、不撹乱礫質土の強度変形特性、微小ひずみ領域における変形特性、粘性特性と、不撹乱礫質土と比較する目的で再構成砂質土を対象にしたこれらの特性をとりまとめたものである。 近年、低土被りの条件下でトンネル建設工事を行う事例が増えている。低土被り条件では拘束圧が低いため掘削に伴い地山が即時的に大きく変位するとともに、掘削後、時間の経過とともに周辺地山がトンネル内空側に押し出され徐々に内空変位が累積していく。その結果、累積変位がある大きさ以上に達するとクリープ破壊が生じることになる。したがって、低土被り条件下では、内空変位の進行を抑制し必要な内空断面を確保することが最も重要になり、設計段階において、掘削時の地山の変形量とその後のクリープ変形量を精度良く予測し、必要に応じて対策工を選定することが必要になる。 そのような地山の長期的安定性を予測するにあたっては、通常はFEM等の解析方法が用いられており、解析においては地山の強度定数をはじめとした種々のパラメータが必要になる。しかし、地山が礫質土である場合、不撹乱試料を採取し室内試験を実施して強度変形特性等を把握した事例はこれまで極めて限られていた。これは、礫質地盤に対して通常の採取方法を用いると粒子転動が生じ原位置から不撹乱試料を採取することが困難であったためである。また、土試料採取時における試料の乱れや室内試験における測定機器の精度が、地山本来の強度や剛性を過小評価する原因の一つとなっており、地山の長期的安定性の予測精度にも影響を及ぼしていた。 本研究では、近年開発された高粘性ポリマーを用いた特殊な採取方法により、低土被り区間が多く存在する北陸新幹線のトンネル建設現場から不撹乱礫質土を採取した。その上で、近年開発された高精度な大型せん断試験機、測定機器を用いて一軸・三軸圧縮試験を行うことで、設計段階で実際に実施された弾塑性FEM解析において必要とされた強度変形特性、微小ひずみ領域における変形特性等を把握した。 しかし、弾塑性FEM解析では粘性項が考慮されていないため、地山の変形量を過小に評価するおそれがあり、粘性効果が無視できない場合は粘性特性を反映した解析方法を用いることが望ましい。本研究では、採取された不撹乱礫質土の粘性特性についても実験的に検討し考察を加えた。また、近年提案された粘性効果を組み込んだ非線形三要素モデルを用いて実験結果を解析することで、当該モデルの適用性を評価した。 なお、上記のようなトンネル建設時における地山の長期的安定性の問題は、トンネルに限らず、盛土や大型土木構造物等の残留沈下も同様である。したがって、本研究ではトンネルのみならず礫質地盤の長期的安定性の問題を扱う上で重要な強度変形特性、微小ひずみ領域における変形特性、粘性特性の評価やそれらを工学的に利用する際の留意点等をまとめることに主眼を置いた。 次に、本論文の構成と研究内容を示す。 第2章では、不撹乱礫質土の採取方法、原位置ボーリング調査結果、PS検層結果、試験装置の概要、静的手法およびアクチュエーターと加速度計を用いた動的手法による微小ひずみ領域における剛性の測定方法等について示した。 第3章では、地盤工学分野や他分野における粘性特性、地盤材料の微小ひずみ領域における変形特性や強度変形特性に関する既往の研究をまとめた。 第4章では、別途実施された事前・事後変形解析における地盤定数決定のために、低土被りである枕野、第二魚津トンネルから不撹乱礫質土を採取し系統的な室内試験を行い、得られた強度変形特性、微小ひずみ領域における変形特性について考察した。 第5章では、第一・第二魚津トンネルから採取された不撹乱礫質土および豊浦砂の微小ひずみ領域における変形特性に対する種々の影響について実験結果を示した。鉛直および水平方向の剛性を動的に測定し剛性に対する異方性の影響を検討した。また、剛性に及ぼすメンブレン厚、過圧密、供試体サイズ、入力周波数の影響も検討した。最後に、強度と剛性の関係をまとめた。 第6章では、第一・第二魚津、枕野トンネルから採取された不撹乱礫質土、および、豊浦砂、美浦砂、アルバニー珪砂の粘性特性について、実験結果と解析結果を示した。まず、不撹乱礫質土、美浦砂のひずみ速度依存性について検討するとともに、これらの結果に対して非線形三要素モデルによる解析を行った。次に、不撹乱礫質土、豊浦砂、美浦砂、アルバニー珪砂におけるクリープ破壊挙動について実験的、解析的に検討した結果を示した。最後に、不撹乱礫質土および豊浦砂におけるクリープ破壊が生じない応力レベルでの排水クリープ、クリープ破壊中の動的測定による剛性の変化を示した。 第7章では、第4 ~ 6章で述べた強度変形特性、微小ひずみ領域における変形特性、粘性特性を総括するとともに、実地盤のクリープ変形量を予測する際の地盤定数の決定方法や留意点、原地盤の変形解析で用いるべき剛性等について考察を加えた。また、非線形三要素モデルを実務問題に適用しクリープ変形量を予測する場合の手順、パラメータの推定法、問題点についてまとめた。 第8章に本研究における結論と今後の課題を示した。 以下に、本研究により得られた主な結論の概略を示す。 ■微小ひずみ領域における変形特性 (1)静的測定による鉛直ヤング率E(vs) は動的測定による値E(vd) よりも小さく、E(vs) から換算した静的測定によるせん断弾性率G(vhs)は動的測定による値G(vhd) よりも小さい。 (2)静的な測定では供試体全体の平均的な剛性が得られるのに対し、動的な測定では供試体中の最も硬い部分の特性を反映した剛性が得られる。不撹乱礫質土では、計測されるP, S波速度が相対的に硬い大礫を通過したP, S波を反映していた可能性が高い。一方で、豊浦砂は不撹乱礫質土に比較して均質性が高いため、静的と動的測定による剛性の差は小さかった。 (3)特に圧密中において、豊浦砂では応力レベルが増加してもG(vhd) /G(vhs) はほとんど変化しないのに対して、非一様性の高い不撹乱礫質土では応力レベルの増加に伴ってG(vhd) /G(vhs)が減少する傾向にあった。また、不撹乱礫質土の一軸圧縮試験で測定されたG(vhd) /G(vhs)は三軸圧縮試験による当該比よりも非常に大きかった。これらの事実は、不撹乱礫質土では圧密により柔らかい部分がつぶされ供試体全体としての剛性が一様になっていくことを意味している。 (4)有効鉛直・水平応力が σ'v=σ'h =50 kPaの時におけるG(vhd) /G(vhs)と均等係数Ucには良い相関があり、概ねUc > 10の非一様な地盤であるほど G(vhd)は G(vhs)に比べ大きくなる傾向にあった。 (5)上記(3), (4)より、概ねUc > 10の非一様な礫質地盤の場合、深度が浅いほど動的測定による剛性を地盤の変形解析に用いることは地盤全体の剛性を過大に評価する可能性がある。したがって、本研究で対象にしたような良配合な礫質地盤等の非一様な原地盤の変形解析を精緻に行う場合には、室内静的測定により得られる剛性を用いることが妥当であると考えられる。ただし、原位置の応力履歴や応力状態を正確に再現するとともに、要素試験であるから原地盤全体を評価している訳ではないことに留意が必要である。 (6)動的測定による水平方向の剛性は鉛直方向よりも大きい傾向にあった。また、動的測定における入力波の周波数が大きくなるほど、剛性が大きくなる傾向にあった。 ■粘性特性 (1)第一・第二魚津トンネルから採取された飽和不撹乱礫質土、湿潤締固め法にて作製された最適含水比状態の美浦砂では、Isotach粘性が観察された。 (2)枕野トンネルから採取された飽和不撹乱礫質土では、ひずみの増加に伴ってIsotach粘性、Combined 粘性、TESRA粘性、P&N粘性に移行した。ひずみの増加に伴って現在発見されている全4種類の粘性を示す地盤材料は今まで報告されていない。 (3)P&N粘性、TESRA粘性、Isotach粘性の順にクリープ破壊に対する安定性が高いことを示した。Isotach粘性を有する第一・第二魚津トンネルから採取された飽和不撹乱礫質土、上記(1)の条件下における美浦砂では、ピーク応力よりも低い応力レベルでクリープ破壊が生じた。TESRA粘性を有する空気乾燥密詰め豊浦砂でもクリープ破壊が観察されたが、ピーク応力に近い応力レベルでなければクリープ破壊は生じなかった。P&N粘性を有する空気乾燥密詰めアルバニー珪砂では、ピーク応力にかなり近い応力レベルであってもクリープ破壊は生じなかった。 (4)地盤材料のクリープ破壊を含んだ長期的安定性を解析する上で、非線形三要素モデルが有効であることを示した。 ■強度変形特性と微小ひずみ領域における変形特性の関係 既往の研究による様々な自然地盤材料と同様に、不撹乱礫質土でもせん断直前の鉛直ヤング率と最大強度の比はE(max) /q (max)= 500 ~ 1000という関係にあった。この関係を利用し、室内単調載荷試験によるq (max) からE(max) を簡易に推定することができる。 ■微小ひずみ領域における変形特性と粘性特性の関係 (1)クリープ破壊が生じない応力レベルでの排水クリープでは、飽和不撹乱礫質土の は経過時間とともに徐々に増加した。これは、排水クリープによって供試体が収縮するとともに土骨格構造が変化し、土粒子間の接触面積が増加した結果であると考えられる。一方で、空気乾燥密詰め豊浦砂のG(vhd) は経過時間とともにわずかに上昇しているかほとんど一定であった。豊浦砂は不撹乱礫質土と比較して均質性が高いため、排水クリープを実施しても土粒子間の接触面積がさほど増加しないためであると考えられる。 (2)クリープ破壊を伴う場合、Primary creepにおいてはG(vhd) はほとんど一定であるが、Secondary creepに突入するとG(vhd) は明らかに減少し始め、Tertiary creepではさらに急速に が減少するような傾向にあった。本研究のようにクリープ破壊時の剛性の変化を測定した研究事例はほとんどない。 | |
審査要旨 | 本論文は「不撹乱礫質土の強度変形特性と粘性特性」と題した論文である。 トンネル工事等では、地盤工学分野で研究対象とされることが多い粘性土や砂質土だけでなく、これらよりも粒径が著しく大きい礫質土で構成される地盤を掘削する場合がある。しかしながら、礫質土の力学特性を室内土質試験で計測するためには、大型の試験装置が必要となり、その実施は容易ではない。さらに、自然状態で堆積した礫質土地盤から乱れの少ない試料を採取することは技術的に極めて困難であったため、これまでに実施されてきた礫質土の室内土質試験は、室内で締め固める等により再構成した試料を対象としたものが殆どであった。 一方で、近年になってトンネル工事は低土被り条件下でも実施される例が増えてきた。そのため、このような厳しい応力条件下での対象地盤材料の力学的挙動とその時間依存性を適切に評価して、クリープ変形やクリープ破壊等を精度良く予測し、必要に応じて効果的な対策工を実施することが重要になってきた。 また、最近の試料採取技術の進展により、大粒径の礫質土であっても乱れの少ない状態で試料を採取することが可能になってきた。 このような背景のもとで、本研究では、計3箇所のトンネル建設現場から採取した不撹乱礫質土を主な検討対象として、強度変形特性、微小ひずみ領域における変形特性、および粘性特性と、これらの特性間の相互関係を実験的に明らかにすることを目的としている。そのために、高精度な大型・中型三軸試験を系統的に実施し、既往の関連検討成果との比較も含めて試験結果を分析するとともに、粘性特性については非線形三要素モデルを用いた試験結果のシミュレーション解析も行なっている。 第1章では、本研究の背景および概要と、論文の構成について記述している。 第2章では、本研究で検討対象とした不撹乱礫質土の採取方法とその物理的性質、試料採取現場の状況と近傍での原位置試験結果、および本研究に用いた試験装置と試験方法を記述している。 第3章では、地盤材料の微小変形特性と、地盤以外も含む各種材料の粘性特性に関する既往の研究結果等をとりまとめることにより、本研究で実施した検討内容の新規性を明らかにしている。 第4章では、不撹乱礫質土の強度変形特性の計測結果を示している。特に、低土被りで施工した枕野トンネルでは薬液注入による地盤改良を補助工法として併用したため、改良前後に採取した試料の試験結果を比較することで、地盤改良が強度変形特性に及ぼす影響を明らかにしている。 第5章では、不撹乱礫質土と豊浦砂の微小変形特性の計測結果を示している。豊浦砂の試験では、動的計測結果に及ぼす異方性の影響と、供試体側面で加速度波形を計測する際のメンブレン厚と供試体寸法の影響を明らかにしている。また、いずれの試験においても動的計測によるせん断剛性率は静的計測結果よりも大きな値となるが、非一様性の高い不撹乱礫質土のほうがこれらの差が大きく、特に、応力レベルが低くなるほど差がより顕著になることを明らかにしている。 第6章では、不撹乱礫質土と豊浦砂、美浦砂の粘性特性の計測結果を示している。単調載荷の途中でひずみ速度を最大で300倍程度急変させることで、材料やひずみレベルの違いに応じて異なるひずみ速度依存性を示すことを明らかにしている。また、応力を一定に保つクリープ載荷も行なって、クリープ過程における微小変形特性の変化状況と、クリープ破壊が生じる場合のひずみの経時変化挙動等を明らかにしている。さらに、非線形三要素モデルを用いたシミュレーション解析も行なって、試験結果を適切に再現できることを検証している。 第7章では、本研究で計測した各種特性を、既往の関連検討成果とあわせて総合的に整理するとともに、実務においてクリープ変形やクリープ破壊等を予測する際の地盤定数の決定方法と留意点について考察している。 第8章では、以上の研究成果を結論としてとりまとめ、今後の課題を整理している。 以上をまとめると、本研究では、非一様性の高い不撹乱礫質土の粘性特性を含む強度変形特性を、高精度で系統的な試験を実施することで詳細に明らかにしている。得られた特性を他の地盤材料とも比較することにより、実務においてクリープ変形やクリープ破壊等を予測する際にも有用な知見を得ている。これらの成果により、地盤工学の分野において重要な貢献を果たしている。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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