学位論文要旨



No 217721
著者(漢字) 雨宮,光陽
著者(英字)
著者(カナ) アメミヤ,ミツアキ
標題(和) 微小異物の高精度計数評価法とEUVマスクハンドリングへの応用
標題(洋)
報告番号 217721
報告番号 乙17721
学位授与日 2012.09.13
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17721号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 石原,直
 東京大学 教授 鈴木,雄二
 東京大学 准教授 杉田,直彦
 東京大学 教授 高増,潔
 東京大学 准教授 三田,吉郎
 東京大学 准教授 割澤,伸一
内容要旨 要旨を表示する

1.序論

半導体の微細化が進み、露光線幅が32nmと微細化するにつれて、光露光に代わる次世代の露光技術として、極端紫外線露光(EUVL)が期待されてきた。しかしEUVLの実現までには解決しなければならない問題も多い。たとえば光露光で使用していきたペリクルというマスク保護膜の使用が困難となり、ペリクルに代わる技術として無塵化マスクハンドリング開発が重要課題の一つになった。そして、β機(評価機)用のマスクハンドリング仕様として、250搬送で1個以下という異物の付着(45nmPSL粒子相当)が発表された。しかし、発表当時の異物検査装置の精度は仕様の評価には十分とは言えず、基盤技術となる高精度な異物評価技術の開発が必須であった。本研究の目的は、EUVマスクの防塵性能評価技術開発と、それを応用したマスクハンドリングの防塵性能評価であり、その成果は以下の様にまとめられる。

2.付着異物の高精度計数技術の開発と精度評価

無塵化マスク搬送の評価として、まず取り組まなければならないのが異物検査精度の向上である。検査精度の向上には、検査装置と検査技術の両方を改善する必要があり、本研究では、検査技術の向上に取り組んだ。付着異物の検査では、プロセス前後の異物の位置を測定して付着と離脱を区別しており、筆者は位置情報をメッシュによってマスクを分割してモデル化した。メッシュで現実に起きている事象は、Pre及びPost測定で異物有り、異物付着、異物離脱、Pre及びPost測定で異物なしの4つである。ノイズの種類(数え落としと疑似信号)と、その発生時期によって、検出上の4つの事象が変わるため、付着離脱検査の精度の改良には、検出誤差の発生過程の検討が必須である。

本研究では、実際の異物の有無を示す存在フラッグと計測による検出フラッグを各メッシュに与えて計数過程を16の事象に分割して、メッシュで起きる計数誤差を計算する手法を開発した。その結果、プロセス中で付着した異物数の検出誤差(系統誤差Esysと標準偏差σ(mes))として次式が得られた。

ここで、NuとNa、Nmは、初期異物数と付着異物数、全メッシュ数である。第1項は初期異物をPre測定で数え落としてPost測定で検出する項、第2項は付着異物を数え落とす項、第3項は疑似信号に関する項である。Ppは特定のメッシュで2回以上ノイズが発生する確率である。更に、Prは式3で示されるM回検査して同一位置にN回以上検出される信号を実異物とみなす複数回検査法の検出確率あるいは1回検出確率Pr1(=検出回数/検査回数)である。複数回検査法では、疑似異物の検出確率は通常10(-10)以下なので式1と式2の第3項は無視できる。

初期異物が誤差の主原因となる場合が多くNa≪Nuとして計算した結果を図1aとbに示す。但し、N=2とした。図1aは横軸に検査回数を、縦軸に初期異物数で規格化した系統誤差をとった。図1bは標準偏差を示す。シンボルと実線はそれぞれ実験結果と計算を示す。計算と実験は極めて良く一致しモデルの妥当性が確認された。図中のA'とB'は従来の1回検査、AとBは本研究による結果である。筆者が行ってきた検査条件(1回検出確率93%、検査回数4回、初期異物数50個)では、系統誤差を0.065個以下、標準偏差を0.25個にできることがわかった。同条件では従来の1回検査では、系統誤差3.3個以上、標準偏差1.7個と、本研究の検査方法が、誤差が数倍小さかった。更に、同じ基板を異物検査装置内で連続して搬送・検査した実験では、実際の付着異物数は<0.02/搬送であるのに対して、1回検査では0.45/搬送で、本検査方法では0.02/搬送以下で、その有効性が確認された。

3.マスクキャリアの防塵性能評価

新規開発したマスクキャリア評価装置(MPEツール)の概念図を図2示す。大気中のポートから真空中の静電チャック(ESC)チャンバーの搬送経路で、EUVL用マスクキャリアである二重ポッド(図3)と従来のReticle SMIF Pod (RSP) の防塵性能を評価した。但し、本経路にはESC吸着は含まない。二重ポッドとは、図3aに示すアウターとインナーの二重構造のポッドで、インナーポッドが大気及び真空搬送でマスクを異物から保護する。インナーポッドには、図3bに示すように、フィルターによる効果(吸排時にインナーポッド内に異物の進入を防止する機能)とギャップによる効果(ベースプレートとマスク間のギャップを狭くし、真空中でマスクのパターン領域まで異物が進入するのを防止する効果)がある。これに対して、シングルキャリアであるRSPでは、大気中でマスクをRSPから取り出した後は、装置内では裸マスクの搬送となる。また、二重ポッドとRSPでは、マスクパターン面(表面)を下向きに保持・搬送する。評価には高い精度が要求されるため、本研究の複数回検査法によって、数え落としや疑似異物を減少させた。

裸マスクの搬送(大気ポートでRSP使用)では0.032/cycleであったが、二重ポッドでは0.0038/cycleでβ機(評価機)用の仕様(250搬送で45nmPSL粒子相当が1個以下)を満たした。更に、2年間の連続使用の結果、裸マスクの真空搬送では、マスク基板の受け渡し時にマスク基板がロボットハンド上で滑って多数の異物が付着する事故が複数回起きた。これに対して、二重ポッドは2000回の搬送で事故が1回も無く、高い信頼性をもつことがわかった。また、実験により二重ポッドの防塵効果であるフィルターによる効果が確認できた。更に、ギャップによる効果も実験とシミュレーションにより実際に機能していることが確認できた。しかしながら、ギャップによる効果は吸排時に機能しておらず、パターン領域まで異物が進入してくることもわかった。これは、吸排時には、空気の流入に伴って異物がマスクのパターン領域に入り込んでいる可能性が高いと考えられる。今後、計算機シミュレーション等による吸排気スピードやギャップの最適化が重要な課題となってくる。

4.ESC吸着による異物付着評価

EUVLにおいて、露光時のマスクの平面度を維持しながら真空中で保持するのにESCは不可欠である。ところが、ESCにマスクを吸着させるとマスクが帯電し異物をひきつける可能性があり、マスク基板の搬送・吸着中の電位と、ESC吸着を含む総合搬送試験で付着する異物数を調べた。結果を表1に示す。双曲型ESCは、マスク裏面の電極層をアースに落とす必要が無いためEUVLで広く使用されているが、マスクの電極層とESCの正電極間の抵抗と、マスクの電極層とESCの負電極間の抵抗が、完全に等しくならないために、ESC吸着中のマスクの電位がGNDにならないことがわかった(実験#1と#2)。更に、ESCからマスクが離脱するときに剥離帯電が生じ、マスクの電位が数KVに達することがわかった(実験#1)。また、この剥離帯電はマスクに異物をひきつける原因となることが、実験 (実験#1)から確認できた。更に、搬送中および吸着中のマスクを常時接地すればマスクをGND電位に保つことができ、異物からマスクを保護できることがわかった(実験#4)。二重ポッドの使用でもインナーベースプレートの異物をマスクがひきつける事はなく、ESC吸着に対しても、マスクの防塵対策として有効な手段であることがわかった(実験#5及び#6)。

5.結論

本研究では、EUVLマスクのハンドリングの評価技術に関して、その基盤技術となる微小異物の高精度異物付着評価法とその応用としてマスク搬送プロセスの防塵技術の評価を行った。まず、マスク基板に付着や離脱する異物を計測する際に発生する誤差の解析手法を開発し、1個の異物の付着が判断可能な評価法を確立した。そして、その評価法によって、EUVL用二重ポッドがβ機(評価機)の異物仕様(<0.004/cycle)を満たすこと、ESC使用時のマスクの帯電による異物付着の可能性とその対策を提供した。

図1 付着離脱検査の系統誤差と標準偏差

図2 MPEツール

図3 二重ポッドの構造

表1 電位と付着異物数

審査要旨 要旨を表示する

依然として微細化を続ける半導体LSIの次世代、次々世代のパターン形成技術として、EUV(極端紫外、Extreme Ultraviolet)リソグラフィの導入向けた技術開発が活発に行われている。このような情勢のもと,本論文は,「微小異物の高精度計数評価技術とEUVマスクハンドリングへの応用」と題して,EUV用マスクの無塵化ハンドリングの実現に向けて、マスクに付着する微小異物の計数評価法を新たに提案し,実際のEUVマスクキャリア、マスクハンドリングシステム開発のためのマスク搬送実験の評価に適用して、提案した計数評価法の有効性を実証したものである。

第1章では、LSI製造において必須とされるリソグラフィ工程の無塵化として、EUVリソグラフィ工程における無塵化技術の特徴を明らかにしている。第一の特徴は、EUV波長の領域では通常の光リソグラフィ用のフォトマスクで用いられるペリクルが使えないので、EUVマスクは保護膜なしに周囲環境にさらされていることである。第二の特徴は、EUVリソグラフィ技術はパターン幅20nmから10nmという極微細パターン領域に適用されるため、検査対象とする異物も極微小サイズの領域となることである。これらの条件からEUVマスクハンドリングにおいては、単面積当たり1/100個レベルの極めて小さい空間密度の微小異物付着を高精度に計数評価することが重要課題となってくることが明らかである。

第2章では、EUVリソグラフィ用マスクハンドリングを対象として、空間的に極めて少数の付着異物の高精度な計数評価法を新たに提案している。まず,異物検査におけるEUVマスク上の微小異物の計数過程を、マスク面上の位置情報と異物の付着・離脱プロセスをパラメータにしてモデル化し、確率論と誤差論をベースとして付着パーティクルの検出誤差(計数精度)の定量的な評価手法を導出している。加えて、検査回数と計数精度の関係に着目し、十分な計数精度の確保のためには4回程度の複数検査が適切であることを示すことにより、複数回検査法が高精度検査に有効であることを提言している。

第3章では、提案する微小異物計数法をEUVマスクキャリアの開発における防塵性能評価に適用し、その計数評価法の有効性を検証している。具体的には、新たに考案した二重ポッド型マスクキャリア(アウターとインナーから構成するEUVマスクキャリア)を用いるマスク搬送プロセスにおける異物付着を、光リソグラフィ用レチクル搬送ポッドの場合と比較しながら付着異物検出実験を行っている。搬送実験におけるマスクへのパーティクルカウントについて新考案の微小異物計数評価法を適用することにより、二重ポッド型によりサイクル当たり千分の数個レベルの防塵性能を実現できることを実証している。

第4章では、提案する微小異物計数法をEUVリソグラフィで使われる静電チャック吸着における異物付着評価に適用している。EUVリソグラフィはEUV光の低い物質透過性能から真空中露光が必要なため、EUVマスクの保持には静電チャックが用いられるが、防塵の面では異物の静電吸着という難点がある。本研究では、マスクの搬送・吸着中のマスク基板電位と異物付着の関係を実験的に調べ、新提案の異物計数法を用いて異物付着状態を評価した。その結果、二重ポッドの利用とマスク基板を接地電位に保つシステムにより、高い防塵性能を実現できることを検証している。

第5章では,本論文全体の成果を総括している。本研究では、EUVマスクハンドリングにおける異物の付着とその検出・計数過程をモデル化し、マスク基板への付着数≪1というパーティクル検査を評価できる高精度な異物付着計数評価法を確立した。そして、この計数評価法をマスクキャリアの防塵技術の開発における防塵性能評価に適用して、二重ポッド型マスクキャリアがEUVマスクハンドリングに適用可能な性能を有することを明らかにした。

以上のとおり本論文は,半導体リソグラフィ工程におけるマスクへの付着異物の高精度計数評価法を提案し、次々世代EUVリソグラフィ用ペリクルレスEUVマスクの無塵化ハンドリング技術の開発に大きく貢献したことから、博士論文として合格と判定される。

よって本論文は,博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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