学位論文要旨



No 217727
著者(漢字) 髙澤,健
著者(英字)
著者(カナ) タカザワ,タケシ
標題(和) Peroxisome Proliferator-activated Receptor γアゴニスト ロシグリタゾンは、脂肪細胞においてVery Low Density Lipoprotein受容体の発現を亢進する
標題(洋) Peroxisome Proliferator-activated Receptor γ Agonist Rosiglitazone Increases Expression of Very Low Density Lipoprotein Receptor Gene in Adipocytes
報告番号 217727
報告番号 乙17727
学位授与日 2012.09.19
学位種別 論文博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 第17727号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 矢冨,裕
 東京大学 准教授 宮田,哲郎
 東京大学 准教授 中村,元直
 東京大学 講師 大石,展也
 東京大学 講師 山下,尋史
内容要旨 要旨を表示する

脂肪組織は脂質蓄積の主要な臓器であり、脂質のホメオスタシス維持にきわめて重要な役割を果たしている。また、脂肪組織は、生理状況に応じ、アディポネクチン、レプチン、TNFα、レジスチンなど種々のシグナル分子(アディポサイトカイン)を分泌する内分泌器官としての機能も担っていることが明らかとなっている。一方、脂肪組織への過剰なエネルギーの蓄積は肥満を引き起こすとともに、糖尿病、脂質異常症等の生活習慣病の発症の基盤となっていることも知られている。近年の研究により、脂肪細胞への脂質蓄積に関連する因子として、アポリポプロテインE (apoE) が注目されている。apoEは、肝臓をはじめ様々な抹消組織において合成される多機能タンパク質であり、LDLを除くリポプロテイン画分に含まれ、様々な受容体を介したリポプロテインの取り込みに関与していることが知られている。apoEを含むvery low density lipoprotein (VLDL) は、培養脂肪細胞のadipogenesisを誘導するのに対し、apoEの欠損したVLDLはadipogenesisを誘導しないこと、また、肥満モデル動物のapoEを欠損させることにより、高脂肪食によって誘導される肥満が抑制されることが報告され、apoEが脂肪細胞への脂質の取り込みに重要な役割を果たしていることが示唆されている。apoEを認識するリポプロテイン受容体として、これまでVLDL受容体(VLDLR)やlipoprotein receptor related protein-1を含むいくつかの受容体が同定され、その機能が明らかにされつつある。そのなかでも、VLDLRは脂肪組織をはじめ、脂肪酸代謝の活発な組織に多く発現しており、組織への脂肪酸の供給に重要と考えられている。VLDLR欠損マウスを用いた検討から、VLDLRの欠損が、apoEの欠損と同様に、脂肪組織への脂質取り込みを減少させ、高脂肪食によって誘導される肥満を抑制することが報告され、apoEとVLDLRの相互作用が肥満の発症に重要な役割を果たすことが示唆されている。

Peroxisome proliferator-activated receptor (PPAR) は核内受容体のひとつであり,3種類のサブタイプ(α、γ、δ)が存在する。これらサブタイプの発現には組織特異性が存在し、PPARαは肝臓、骨格筋に、PPARγは白色脂肪組織に主に発現し、PPARδは骨格筋をはじめとする広範囲の組織に普遍的に発現している。いずれのPPARも、レチノイドXレセプターとヘテロ2量体を形成し、標的遺伝子のプロモーター領域に存在するダイレクトリピート1 (AGGTCA-N-AGGTCA)というPPAR応答配列(PPRE)に結合することにより、転写を制御する。特に、PPARγは脂質蓄積に関連する様々な遺伝子の発現を制御していることが知られており、脂肪細胞の分化および脂質の蓄積において中心的役割を果たしている。さらに、PPARγ作動薬であるチアゾリジ誘導体 (TZD) は、PPARγを活性化することにより、脂肪細胞の小型化をもたらし、インスリン抵抗性惹起分子の減少とアディポネクチンに代表されるインスリン感受性ホルモンを増加させ、インスリン抵抗性の改善および抗糖尿病作用を発揮する。一方、TZDは脂質代謝及び脂質蓄積に関連する遺伝子の発現を増加させることにより、脂肪重量増加及び体重増加を引き起こすことも報告されている。しかしながら、TZDによるPPARγの活性化が、VLDLRの発現量の制御を介した脂質の取り込みや体重増加に関与しているかどうかは明らかではなかった。

本研究では、VLDLRを介した脂肪細胞への脂質蓄積におけるPPARγの役割を明らかにする目的で、肥満糖尿病モデルマウスの脂肪組織及びマウス培養脂肪細胞におけるVLDLRの発現量に対するPPARγ作動薬であるRosiglitazoneの効果を検討した。ob/obマウスに4日間Rosiglitazoneを投与することにより脂肪組織中のVLDLRのmRNA量は有意に増加し、また3T3-L1脂肪細胞にRosiglitazoneを添加することによりVLDLRのmRNA量及びタンパク量が有意に増加した。これらの結果から、Rosiglitazoneが直接VLDLR遺伝子の転写を制御していることが考えられたため、次に、VLDLRのプロモーター領域を用いてレポータージーンアッセイを行った。その結果、RosiglitazoneはVLDLRのプロモーターの転写活性を濃度依存的に増加させ、さらにプロモーター領域中のPPREと推定される配列に変異をいれることにより、Rosiglitazoneによる転写活性の亢進が消失した。続いて、この配列にPPARγが直接結合していることを明らかにするため、ゲルシフトアッセイ及び3T3-L1脂肪細胞におけるクロマチン免疫沈降を行った。その結果、VLDLRのプロモーター領域のPPREと推定される配列に直接PPARγが結合していることが明らかとなり、VLDLRがPPARγのターゲット遺伝子であることが明らかとなった。次に、apoE-VLDLR 経路を介したVLDLの脂肪細胞への取り込みが、Rosiglitazoneによる体重増加に関与するかを確かめるため、apoE欠損ob/obマウスにおける体重及び脂肪組織重量へのRosiglitazoneの効果を検討した。Rosiglitazoneの投与によりob/obマウスの体重及び脂肪組織重量は有意に増加したが、apoE欠損ob/obマウスでは、Vehicle投与群とRosiglitazone投与群間において体重及び脂肪組織重量の有意な変化は認められなかった。したがって、脂肪細胞へのapoE依存的な脂質の取り込みがRosiglitazoneによる体重増加に少なくとも一部寄与している可能性が示唆された。更に、Rosiglitazoneによる体重増加作用におけるVLDLRの役割を明らかにする目的で、VLDLR欠損マウスにおける体重および脂肪重量に対するRosiglitazoneの効果を検討した。その結果、野生型マウスにおいて認められたRosiglitazoneによる体重及び脂肪重量増加が、VLDLR欠損マウスでは認められなかった。これらの結果から、VLDLRを介した脂肪細胞への脂質の取り込みがRosiglitazoneによって誘導される脂質蓄積に重要な役割を果たしていることが示唆された。

結論として、本研究により、PPARγがVLDLRのプロモーター上の機能的なPPREに直接結合し、VLDLRの発現量を制御していること、さらにapoE-VLDLR経路を介した脂質の取り込みが、Rosiglitazoneにより引き起こされる体重増加に少なくとも一部寄与することが示唆された。

審査要旨 要旨を表示する

本研究では、very low density lipoprotein 受容体(VLDLR)を介した脂肪細胞への脂質蓄積におけるPeroxisome Proliferator-activated Receptor γ (PPARγ)の役割を明らかにするため、肥満糖尿病モデルマウスの脂肪組織及びマウス培養脂肪細胞におけるVLDLRの発現量に対するPPARγ作動薬であるRosiglitazoneの効果を検討したものであり、下記の結果を得ている。

1.肥満糖尿病モデルマウスであるob/obマウスに4日間Rosiglitazoneを投与することにより脂肪組織中のVLDLRのmRNA量は有意に増加した。RosiglitazoneによるVLDLRのmRNA量の増加作用が脂肪細胞における直接作用であるかを検討するため、in vitroにおいて3T3-L1脂肪細胞にRosiglitazoneを添加した。その結果、3T3-L1脂肪細胞においてVLDLRのmRNA量及びタンパク量がRosiglitazone の添加により有意に増加し、直接作用であることが示唆された。

2.Rosiglitazoneが直接VLDLR遺伝子の転写を制御していることが考えられたため、次に、VLDLRのプロモーター領域を用いてレポータージーンアッセイを行った。その結果、RosiglitazoneはVLDLRのプロモーターの転写活性を濃度依存的に増加させ、さらにプロモーター領域中のPPAR response element (PPRE)と推定される配列に変異をいれることにより、Rosiglitazoneによる転写活性の亢進が消失した。

3.上記の配列にPPARγが直接結合していることを明らかにするため、ゲルシフトアッセイ及び3T3-L1脂肪細胞におけるクロマチン免疫沈降を行った。その結果、VLDLRのプロモーター領域のPPREと推定される配列に直接PPARγが結合していることが明らかとなり、VLDLRがPPARγのターゲット遺伝子であることが明らかとなった。

4.apoE-VLDLR 経路を介したVLDLの脂肪細胞への取り込みが、Rosiglitazoneによる体重増加に関与するかを確認するため、apoE欠損ob/obマウスにおける体重及び脂肪組織重量へのRosiglitazoneの効果を検討した。Rosiglitazoneの投与によりob/obマウスの体重及び脂肪組織重量は有意に増加したが、apoE欠損ob/obマウスでは、Vehicle投与群とRosiglitazone投与群間において体重及び脂肪組織重量の有意な変化は認められなかった。したがって、脂肪細胞へのapoE依存的な脂質の取り込みがRosiglitazoneによる体重増加に少なくとも一部寄与している可能性が示唆された。

5.Rosiglitazoneによる体重増加作用におけるVLDLRの役割を明らかにする目的で、VLDLR欠損マウスにおける体重および脂肪重量に対するRosiglitazoneの効果を検討した。その結果、野生型マウスにおいて認められたRosiglitazoneによる体重及び脂肪重量増加が、VLDLR欠損マウスでは認められなかった。これらの結果から、VLDLRを介した脂肪細胞への脂質の取り込みがRosiglitazoneによって誘導される脂質蓄積に重要な役割を果たしていることが示唆された。

以上、本論文は、PPARγがVLDLRのプロモーター上の機能的なPPREに直接結合し、VLDLRの発現量を制御していること、さらにapoE-VLDLR経路を介した脂質の取り込みが、Rosiglitazoneによって引き起こされる体重増加に重要な役割を果たすことを明らかにした。本研究は、臨床においてRosiglitazoneの副作用の1つとして懸念されている体重増加に関するメカニズムの解明に重要な貢献を果たすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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