No | 217733 | |
著者(漢字) | 家田,成 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イエダ,シゲル | |
標題(和) | (-)-FR901483の全合成 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 217733 | |
報告番号 | 乙17733 | |
学位授与日 | 2012.10.10 | |
学位種別 | 論文博士 | |
学位種類 | 博士(薬学) | |
学位記番号 | 第17733号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 【背景・目的】 (-)-FR901483(1)は、福島県いわき市の土壌より採取されたカビの一種、Cladobotryum属No.11231の醗酵プロスより、藤沢薬品工業株式会社(現アステラス製薬株式会社)のグループにより単離、構造決定された免疫抑制作用を持つ化合物である1。その注目すべき生理活性と特異な三環性骨格、およびコンパクトな構造の中に多彩な官能基を併せ持つことから、近年、多くのグループによって全合成の標的化合物とされてきた2。しかしながら、いずれ全合成も、立体制御や類縁体合成へ向けた柔軟性において満足のいくものではなかった。そこで筆者は、(-)-FR901483(1)の高立体選択的なラセミ体としての全合成を完了した後(2g)、得られた知見を光学活性体の全合成に適用すべく、合成研究に着手した。 【(-)-FR901483の逆合成解析】 Scheme1に逆合成解析を示す。本研究を行うにあたり、種々の合成経路を検討した結果、ラセミ体全合成の際に経由した中間体2を光学活性体として合成することとし、このものを合成するための鍵反応として、Ugi4cc反応3、およびジアステレオ選択的な分子内アルドール反応を用いることとした。この戦略の採用により、(-)-FR901483(1)の持つ総ての炭素原子を一段階で揃えることができ、かつまた、フラグメントに適切に置換基を配することで、本化合物が持つ特異な置換基導入の足がかりとすることができる。以上の戦略に従い(-)-FR901483(1)の新規合成経路を確立した。以下にその詳細を述べる。 【合成研究】 容易に入手可能なケトン4、上述の光学活性アミン5とイソシアニド6を、酢酸7存在下、Ugi4cc反応を行うことで、Ugi縮合体8を得た。Ugi縮合体8のアリールアミドの変換に関しては、当初困難が予想されたが、メタノール中、酸性条件に付すことで、分子内のアセトアミド基の隣接基関与により加メタノール分解が容易に進行し、メチルエステル9が得られることを見出した。続いてLHMDSによるアセトアミド、エステル問の分子内縮合により、β-ケトラクタム10とした(Scheme2)。 得られたβ-ケトラクタム10をメタノール中、水素化ホウ素ナトリウムによりβ-ヒドロキシラクタム11へと還元し、更にピリジン中、オキシ塩化リンにより水酸基を脱水した。末端二重結合の存在下におけるα,β-不飽和ラクタム12の1,4一還元は、金属マグネシウムによる一電子還元により、末端オレフィンの存在下、官能基選択的に進行した。本反応の酸性条件下での後処理により、ジメチルアセタールをケトンへと脱保護しラクタム13を得た(Scheme3)。 続いて、オゾン酸化によるオレフィンの開裂によって生成するアルデヒド3に対し、触媒量の酢酸とピロリジンを作用させることにより、分子内のケトンとアルドール縮合を行うことで、所望の三環性ケトン15をジアステレオ選択的に得ることができた。得られた三環性ケトン15の6位水酸基は、目的とする(-)-FR901483(1)とは逆の立体化学を有している。これらの選択性はラセミ体全合成における知見、及び反応遷移状態14の考察から予想された結果であった(Scheme4)。 続いて、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムにより、15のケトンを立体選択的に還元し、ジオール16を得た。生じた2つの2級水酸基の識別に関しては、低温下、TBSトリフラート、トリエチルアミンで処理することにより1段階で8位水酸基のみを選択的に保護することが可能であることを見出した。この手法によりアルコール17を得た。得られたフリーの6位水酸基をSwern酸化し、ラセミ体全合成と共通の鍵中間体2を96%eeで得た(Scheme5)。 以降は、ラセミ体の全合成のルートに改良を加えて合成を進めた。鍵中間体2のケトンに対し、サマリウムを用いた一電子還元4を行うことで、所望の立体化学の水酸基を選択的に得た後、TBSトリフラートにてTBs化してbis-TBs体18とした。化合物18よりLDAで発生させたラクタムのエノラートを二酸化炭素(ドライアイス)でトラップ、得られたカルボン酸19に対し、塩酸酸1生下、亜硝酸ナトリウムによるニトロソ化を行うことで、脱炭酸を経てオキシム20を得た。本反応の収率、再現性向上には、相間移動触媒の添加が効果的であった(Scheme6)。 続いて、得られたオキシム20を、金属亜鉛によって一電子還元することにより、立体選択的に所望の1級アミン21を得ることができた。得られた一級アミン21を、ギ酸一無水酢酸にてホルムアミドとした後、LAHによるラクタムとホルムアミドの同時還元により、22を得た。この際、6位の水酸基のTBS基も脱保護された。メチルアミノ基をCbzで保護し、23とした(Scheme7)。 続いて、リン酸基の導入をScheme8に示した。すなわち、フッ化水素にてTBSを脱保護してジオールとし、ホスホルアミダイト法5によって、選択的にジベンジルエステル24を得た。最後に加水素分解により、一挙に脱保護を行い(一)-FR901483(1)の全合成を達成した。各種スペクトルデータは天然物と完全に一致し、旋光度も天然物の文献値と良い一致を示した。 (-)-FR901483(1) Scheme 1 Scheme 2 Scheme 3 Scheme 4 Scheme 5 Scheme 6 Scheme 7 Scheme 8 | |
審査要旨 | (-)-FR901483(1)は、福島県いわき市の土壌より採取されたカビの一種、Cladobotryum属No.11231の醗酵プロスより、藤沢薬品工業株式会社(現アステラス製薬株式会社)のグループにより単離、構造決定された免疫抑制作用を持つ化合物である。その注目すべき生理活性と特異な三環性骨格、およびコンパクトな構造の中に多彩な官能基を併せ持つことから、近年、多くのグループによって全合成の標的化合物とされてきた。しかしながら、いずれの全合成も、立体制御や類縁体合成へ向けた柔軟性において満足のいくものではなかった。そこで家田は、(-)-FR901483(1)の高立体選択的なラセミ体全合成を完了した後、得られた知見を光学活性体の全合成に適用すべく合成研究に着手した。家田は、本研究を行うにあたり、種々の合成経路を検討した結果、ラセミ体全合成の際に経由した中間体15を光学活性体として合成することとし、鍵反応として、Ugi4CC反応、およびジアステレオ選択的な分子内アルドール反応を採用することとした。これにより、(-)-FR901483(1)の持つ総ての炭素原子を一段階で揃えることができ、また、フラグメントに適切に置換基を配することで、特異な置換基導入の足がかりとすることができるというものである。 すなわち、容易に入手可能なケトン2、1上述の光学活性アミン3とイソシアニド4を、酢酸5存在下、ugi4cc反応を行うことで、ugi縮合体6を得た。6のアリールアミドの変換に関しては、メタノール中、酸性条件に付すことで、メチルエステル7が容易に得られることを見出した。続いてLHMDSによる分子内縮合により、β-ケトラクタム8とした。8より導いた9を、オゾン酸化に付して生成するアルデヒド10に対し、触媒量の酢酸とピロリジンを作用させ、分子内アルドール縮合を行うことで、所望の三環性ケトン12をジアステレオ選択的に得ることができた。12の6位水酸基は、目的とする(-)-FR901483(1)とは逆の立体配置を有している。この選択性は、反応遷移状態11の考察等から予想された結果であった。続いて、トリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウムにより、12のケトンを、この6位水酸基の立体配置を活用して選択的に還元し、ジオール13を得た。生じた2つの2級水酸基は、低温下TBSトリフラート、トリエチルアミンで処理することにより1段階で8位水酸基のみを選択的に保護できることを見出した。得られた14のフリーの6位水酸基をSwern酸化し、ラセミ体全合成と共通の鍵中間体15を96%eeで得た。 以降は、ラセミ体の全合成のルートに改良を加えて合成を進めた。鍵中間体15のケトンに対し、サマリウムを用いた一電子還元を行うことで、所望の立体化学の水酸基を選択的に得た後、TBS化して16とした。16よりLDAで発生させたラクタムのエノラートを二酸化炭素でトラップし、得られたカルボン酸17に対しニトロソ化を行うことで、脱炭酸を経てオキシム18を得た。本反応の収率、再現性向上には、相間移動触媒の添加が効果的であった。続いて得られた18を、金属亜鉛によって一電子還元することにより、立体選択的に所望の1級アミン19を得ることができた。得られた19より導いた20を加水素分解に付すことにより、一挙に脱保護を行い、(-)-FR901483(1)の全合成を達成した。 家田は、(-)-FR901483(1)の高度に立体選択的な新規合成ルートの開発に成功した。また本合成法は、(-)-FR901483(1)の誘導体の合成にも応用可能な堅牢性、柔軟性を併せ持つものであり、薬学研究に寄与するところ大である。よって、博士(薬学)の学位を授与するに値すると認めた。 | |
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