学位論文要旨



No 217769
著者(漢字) 山田,岳峰
著者(英字)
著者(カナ) ヤマダ,タケミネ
標題(和) 大規模数値解析手法の大型トンネル耐震設計への適用に関する基礎的研究
標題(洋)
報告番号 217769
報告番号 乙17769
学位授与日 2013.01.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17769号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 堀,宗朗
 東京大学 教授 壁谷澤,寿海
 東京大学 教授 前川,宏一
 東京大学 教授 古関,潤一
 東京大学 准教授 市村,強
内容要旨 要旨を表示する

高速道路や鉄道を大深度地下に構築する計画が具体化されつつある.長年にわたって各地で建設された地下鉄に比べ,大深度に置かれた大断面を持つ大型トンネルは,建設の実績が乏しく,十分な耐震性の検討が必要とされる.大深度の場合,地震による荷重は土圧に比べ相対的に小さく,耐震性の確保が設計の支配要因となることはないが,地中の本線トンネルから地上へ向かうランプトンネルは,多層の地盤を通過して地表に至るため,浅部の軟弱地盤では相応の地震動を受ける.このため,ランプトンネルの耐震性の照査は不可欠である.断面を変えながら地上に向かうというランプトンネルは,現在の耐震設計の基本であるトンネル断面方向と軸方向の二次元応答の重ね合わせの適用には限界がある.この点を背景とし,大型構造となるランプトンネルの耐震設計を対象に,大規模三次元数値解析手法の適用に関する基礎研究を行った.

最初に,現在の耐震設計における二次元応答の重ね合わせの限界を議論する.特に,横断面の耐震検討の主流となっている応答震度法の課題を明らかにした.同時に,地盤-構造物の動的相互作用の三次元数値解析の課題である解析規模の大きさも議論した.その他に,設計と照査ではモデルと手法は同一とし入力地震動のみを変えることが合理的であること,未経験の地震被害に対処するために多様な地震応答の評価が必要であること,より合理的な耐震設計のためには,詳細なモデルを使った応力と強度を使った判定が望まれることを指摘した.

次に,大規模数値解析手法の概要を紹介し,耐震設計の観点から性能・機能について考察を加えた.高速計算を実現するための高速ソルバーの採用,並列計算の導入,要素分割数と要素品質の検討の重要性について言及した.この点を踏まえ,三次元解析の有益性を指摘し,より現実的な入力地震動の設定について考察した.具体的には,三成分入力の必要性,位相差入力の必要性,シナリオ地震の考慮等,多様な入力地震動が選択できる機能の重要性を議論した.

以上の準備の下,首都高速中央環状新宿線の実際のランプトンネルを対象に3つの地震応答解析を行った.レベル1地震動の地震応答解析では,ランプトンネルの特徴的な地震時挙動と二次元解析では表現できない三次元応答を指摘するとともに,応答を変位,応力,断面力といった設計量で評価し,大規模数値解析で設計照査できることを示した.さらに,トンネル軸方向並びに軸直角方向のそれぞれの応答を重ね合わせることで,平面波の入射方向の影響を検討できることを確認した.

同一ランプトンネルを対象に,レベル2地震動の地震応答解析を実施した.その結果,2層地盤の地盤どうし並びに地盤と構造物間のインピーダンスの変化が大きくなることから,トンネルの三次元挙動がより顕著になることを確認した.入力地震動によってはトンネルの変形モードが変化する場合があることを示した.複数の変形モードが重なり合うトンネルの応答の評価は,断面力評価のみではなく応力評価も重要であり,三次元数値解析を行うことで正しく評価できることを確認した.さらに,平面波の入力方向の影響について検討した結果,より精度の高い非線形解析の導入が必要であることを示唆された.

最後に,レベル2地震動の地震応答解析において,ランプトンネルに構造目地を設定した地震応答解析を実施した.目地部の伸張方向,圧縮方向,せん断方向ごとに,応答を評価し,目地を入れない場合の解析結果と比較した結果,目地を設置することで目地に隣接するトンネル部分の応力や断面力を低減する効果を確認した.より定量的に目地の効果を評価するためには,弾塑性解析などの非線形解析の導入が必要であることを議論した.なお,耐震効果を期待した目地の導入には,設置する目地の個数や位置の決定が最重要課題であり,この決定には高精度の非線形解析は必要とされない.基本設計段階において目地の設置数や位置の概略検討を行う際には,本研究で実施した地震応答解析手法は十分活用することができると考えられる.

大深度地下を利用した大型トンネルの新設の他,既設の大型トンネルの耐震診断や長寿命化を目指した耐震補強も今後重要な技術課題である.大規模数値解析手法を実際の大型ランプトンネルに適用して得られた本研究の知見は,大規模数値解析の実設計への適用や大規模数値解析手法の性能・機能の向上に係わる開発に,今後,貢献するものである.

審査要旨 要旨を表示する

本論文の題目は「大規模数値解析手法の大型トンネル耐震設計への適用に関する基礎的研究」であり,並列計算機を使う大規模数値計算の利用を前提に,動的3次元有限要素法に基づく大規模数値解析手法を大型トンネルの耐震設計に適用することの可能性を検討したものである.なお,地震動を等価な荷重や変位のように置き換える準静的解析や2次元モデルを使った解析が主流という現状を鑑み,動的3次元有限要素法の可能性を詳細に検討し,具体的な耐震設計の問題に対して数値計算を行い,動的3次元有限要素法の解析の有効性を吟味する,という基礎的な研究を行っている.

本論文では,最初に大型トンネルの耐震設計と大規模数値解析手法の現状整理を行っている.整理の内容は,第2章「大型トンネルの耐震設計の現状と課題」と第3章「大規模数値解析手法」の2つの章において集約されている.ついで第4章「レベル1地震時のトンネル挙動」,第5章「レベル2地震時のトンネル挙動」,第6章「レベル2地震時のトンネル挙動(構造目地の影響を考慮)」の3つの章において,3つの具体的な耐震設計の問題を選び,数値計算手法とその数値計算結果を吟味しつつ,動的3次元有限要素法の大規模数値解析手法を利用するための技術開発の方向性を議論している.この3つの章の内容が主な論文審査の対象である.

質疑と議論の対象となった具体的な項目は,1)3次元解析が可能とした軸方向・軸直角方向の入力地震動に対する大型トンネルの地震応答の解釈,2)沈埋トンネルや共同溝の耐震設計の入力に使われる表面波と本論文で扱った入力地震動の違い,3)大型トンネルの耐震設計の技術的課題とそれに対する大規模解析の適用の意義,そして4)大規模数値解析で得られた断面保持仮定の破れの解釈の4点である.以下,質疑と議論の内容を整理する.

従来の2次元解析では軸直角方向の地震動入力のみが検討されてきたが,3次元解析では軸方向入力が可能となった.軸方向の入力地震動は,地盤に比べ固い構造物にとってさほど支障とはならないが,地上へのランプトンネルを持つ大型トンネルでは検討の必要がある.ランプトンネルが固い地盤と柔らかい地盤の地層境界を抜ける場合,特にこの部分での軸方向の入力に対する応答が複雑になり,設計の際の考慮の対象となるからである.大規模な数値計算が必要となるものの,動的3次元有限要素法はこの応答を正確に解析することが可能である.入力地震動が相対的に小さいレベル1地震動では,地層境界付近でのランプトンネルの軸方向入力に対する地震応答は十分許容範囲であったが,相対的に大きいレベル2地震動では地震応答が設計強度を超える可能性があることが示された.従来の2次元解析では不可能であった軸方向入力に対する応答を解析できる点は,まさに,動的3次元有限要素法の強みである.さらに,地層境界付近に目地を導入することでランプトンネルの剛性を低下させると,断面力の応答を抑えることが可能となる.目地の効果の検討ができることも重要である.

特定の構造物の耐震設計には入力として表面波が用いられるが,高速道路の大型トンネルは深度が大きいため,通常の設計では表面波が用いられることはない.しかし,表面波が表面付近のランプトンネルに特殊な応答を引き起こす可能性はある.本研究で用いた大規模数値解析手法を使った解析により,表面波の応答の評価は可能である.

大型トンネルの耐震設計に関しては,トンネル躯体の安定性が最大の課題となっている.安定性とはトンネル内部の空間ないし断面形状を,地震荷重作用下でも,維持することである.断面が大きいほど安定性の維持は難しく,正確な解析が必要であり,本研究で試みた大規模数値解析手法は有力な候補である.なお,大型トンネルの場合,地震荷重とは別に,常時の土圧に関しても不明な点がある.地震時の応答も計測できるような,大型トンネルの変形挙動の連続計測が必要とされている.

通常の2次元解析では,垂直断面が曲げモーメントを受けて斜めに傾くという断面保持が仮定されている.3次元解析ではこの断面保持の仮定が破られている結果となった.しかし,破れ方の度合いは決して顕著ではなく,断面保持は概ね成立するという近似ができないという度合いでは決してない.一方,断面端部を見る限り,断面保持の仮定に基づいて計算される応力・歪は,3次元解析で計算される応力・歪を10%過大評価するという結果となっている.現状の2次元解析では断面端部の応力・歪が過大評価されていることが示唆されるため,断面保持の破れが大型トンネルの設計合理化につながる可能性があると考えられる.

本論文は,基礎的研究であるものの,動的3次元有限要素法という大規模数値解析手法を大型トンネル耐震設計に適用することの可能性を検証した点は十分高く評価できる.本研究の計算例も信頼性が高く,今後の研究の基盤となることも期待できる.以上の理由をもって,本論文を合格と判定した.また,学位申請者が学位に値する専門的な学識を有していることも了解された.この結果,学位にふさわしい論文であると判断された.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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