学位論文要旨



No 217771
著者(漢字) 一川,尚広
著者(英字)
著者(カナ) イチカワ,タカヒロ
標題(和) イオン性双連続キュービック液晶の機能化
標題(洋) Functionalization of Ionic Bicontinuous Cubic Liquid Crystals
報告番号 217771
報告番号 乙17771
学位授与日 2013.01.17
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17771号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 加藤,隆史
 東京大学 教授 荒木,孝二
 東京大学 教授 伊藤,耕三
 東京大学 准教授 吉尾,正史
 東京農工大学 教授 大野,弘幸
内容要旨 要旨を表示する

人類が持続可能な社会を構築する上で、材料科学の発展は必要不可欠と言える。特に、有機物をベースとしたソフトマテリアルは、環境低負荷かつ高機能な材料を開発する上で重要な材料である。近年、ソフトマテリアルの開発において、分子の自己組織化を利用したボトムアップ型のアプローチが注目を集めている。自己組織性の材料として、液晶・ゲル・超分子・高分子などが代表的な例である。中でも、液晶は、結晶の秩序性と液体の流動性を併せ持つ物質であり、ナノメートルレベルで秩序だった集合構造を自己組織的に形成する魅力的な材料である。本論文では、液晶の自己組織化を利用した新規ナノチャンネル材料の開発について報告しており、六章から構成されている。

第一章は序論であり、本論文における研究の背景を概説し、目的を述べている。

第二章では、扇型アンモニウム塩分子をベースとした双連続キュービック液晶の開発について述べている。種々のアンモニウム塩構造を有する扇型分子を合成し、その液晶性を調べている。分子構造と液晶性の関係を調べることにより、双連続キュービック液晶相を示すイオン性分子の設計指針の探索を行っている。カチオン骨格・対アニオンの設計が非常に重要であり、イオン性部位と非イオン性部位の体積バランスやカチオンとアニオンの静電相互作用の強さなどが、発現する液晶相を決める重要な因子であることを明らかにしている。液晶相状態においてシンクロトロンX線回折測定を行うことにより、三次元的なイオン性のチャンネル構造を有する双連続キュービック液晶構造を形成していることを示している。また、分子集合構造とイオン伝導度の関係の検討結果を述べ、双連続キュービック液晶構造の三次元的なイオン性チャンネルは効率的にイオンを輸送する伝導パスとして機能すると結論している。

第三章では、ホスホニウム塩構造を有するイオン性双連続キュービック液晶の開発について述べている。扇型ホスホニウム塩はアルキル鎖長に依存して双連続キュービック相およびカラムナー相を発現することを示している。類似のアンモニウム塩と液晶性を比較し、分子構造と分子集合構造の関係を議論している。扇型頂点のイオン性部位のデザインがイオン性双連続キュービック液晶のデザインに重要であると考察している。扇型アンモニウム塩と扇型ホスホニウム塩について熱安定性やイオン伝導度などの観点から比較している。ホスホニウム塩の方が高い熱安定性を示すこと、および、ホスホニウム塩の方が高い伝導度を示すことを明らかにしている。これらの結果から、ホスホニウムカチオンはイオン性液晶のデザインにおいて、非常に有用なビルディングブロックであると結論している。

第四章では、重合基を有するイオン性双連続キュービック液晶を設計・合成し、液晶状態で重合することによる三次元的なイオン性ナノチャンネルを有するイオン伝導性ポリマーフィルムの開発を報告している。重合性のアンモニウム塩の設計は第二章で得られた知見を基に行っている。重合基として1,3-ジエン基を有するモノマー分子を合成し、このモノマーに光重合開始剤を添加し、液晶状態でUV照射を行うことで自立性のポリマーフィルムを作製したことを報告している。偏光顕微鏡観察・示差走査熱量測定・X線回折測定などを用いた解析により、得られたポリマーフィルムは三次元チャンネル構造を維持していることを示している。また、イオン伝導度の測定を行ったところ、双連続キュービック液晶状態で重合したサンプルが高い伝導度を示したのに対して、等方相状態やカラムナー液晶状態で重合したサンプルは低い伝導度を示すことを明らかにしている。双連続キュービック液晶のチャンネル構造は三次元的に連続するため、液晶のドメインの配向制御などの処理を行わなくてもマクロなスケールで連続的なチャンネルを形成できるためであると考察している。双連続キュービック液晶構造を重合により固定化するという手法は、ナノチャンネルを有する新規ポリマー材料の開発手法として非常に有用なアプローチであると結論している。

第五章では、イオン液体と両親媒性分子の共同的な組織化による双連続キュービック液晶構造の形成およびそのイオン伝導挙動について述べている。親イオン性骨格としてジエタノールアミン骨格に着目し、両親媒性分子を設計・合成している。合成したジエタノールアミン誘導体は単体でカラムナー液晶相を発現するが、イオン液体との複合化により双連続キュービック相を含む様々な液晶相を発現することを報告している。ジエタノールアミン部位とイオン液体の水素結合が共同的な組織化に重要であると考察している。この複合体についてイオン伝導度測定を行ったところ、双連続キュービック相状態において効率的な伝導挙動を示すことを明らかにしている。三次元チャンネル状に組織化されたイオン液体はイオン輸送パスとして効率的に機能すると結論づけている。

第六章は本論文の結論であり、第五章までの研究成果を総括するとともに、将来の展望をまとめている。

以上のように本論では双連続キュービック液晶が自己組織的に形成する三次元ナノチャンネル構造に注目し、新規ナノチャンネル材料への応用を検討している。特に、イオン性の分子骨格またはイオン液体をチャンネル状に組織化することにより、三次元的なイオン性ナノチャンネルの開発を行っている。これらの材料についてイオン伝導度の測定を行うことにより、輸送パスとしての有用性を議論している。一般的に、液晶が自己組織的に形成するナノ構造は非常に精緻でありナノレベルでオーダーの揃った構造を有している。本研究の成果は、機能性材料の分野に新しい知見を与えるものであり、材料化学および高分子化学の発展に大きく寄与することが期待される。

審査要旨 要旨を表示する

有機物を基本とするソフトマテリアルは、環境低負荷かつ高機能な材料を開発する上で重要な材料である。近年、ソフトマテリアルの開発において、分子の自己組織化を利用したボトムアップ型のアプローチが注目を集めている。自己組織性の材料として、液晶・ゲル・超分子・高分子などが代表的な例である。中でも、液晶は、結晶の秩序性と液体の流動性を併せ持つ物質であり、ナノメートルレベルで秩序ある集合構造を自己組織的に形成する材料として様々な応用が期待されている。本論文では、三次元的なチャンネル構造を有する双連続キュービック液晶を用いた新規イオン伝導性材料の開発について述べている。本論文は以下の六章から構成されている。

第一章は序論であり、本論文における研究の背景を概説し、目的を述べている。

第二章では、扇型アンモニウム塩分子をベースとした双連続キュービック液晶の開発について述べている。種々のアンモニウム塩構造を有する扇型分子を合成し、その液晶性を調べた結果を報告している。分子構造と液晶性の関係を調べることにより、双連続キュービック液晶相を示すイオン性分子の設計指針の探索を行っている。カチオン骨格・対アニオンの設計が非常に重要であり、イオン性部位と非イオン性部位の体積バランスやカチオンとアニオンの静電相互作用の強さなどが、発現する液晶相を決める重要な因子であることを明らかにしている。液晶状態においてシンクロトロンX線回折測定を行うことにより、三次元的なイオン性のチャンネル構造を有する双連続キュービック液晶構造を形成していることを示している。また、分子集合構造とイオン伝導度の関係の検討結果を述べ、双連続キュービック液晶構造の三次元的なイオン性チャンネルは効率的にイオンを輸送する伝導パスとして機能すると結論づけている。

第三章では、ホスホニウム塩構造を有するイオン性双連続キュービック液晶の開発について述べている。扇型ホスホニウム塩はアルキル鎖長に依存して双連続キュービック相およびカラムナー相を発現することを示している。類似のアンモニウム塩と液晶性を比較し、分子構造と分子集合構造の関係を議論している。扇型頂点のイオン部位のデザインがイオン性双連続キュービック液晶のデザインに重要であると考察している。扇型アンモニウム塩と扇型ホスホニウム塩について熱安定性やイオン伝導度などの観点から比較している。ホスホニウム塩の方が高い熱安定性を示すこと、および、ホスホニウム塩の方が高い伝導度を示すことを明らかにしている。これらの結果から、ホスホニウムカチオンはイオン性液晶のデザインにおいて、非常に有用なビルディングブロックであると結論づけている。

第四章では、重合基を有するイオン性双連続キュービック液晶を設計・合成し、液晶状態で重合することによる三次元的なイオン性ナノチャンネルを有するイオン伝導性ポリマーフィルムの開発を報告している。重合性のアンモニウム塩の設計は第二章で得られた知見を基に行ったことを述べている。重合基として1,3-ジエン基を有するモノマー分子を合成し、このモノマーに光重合開始剤を添加し、液晶状態でUV照射を行うことで自立性のポリマーフィルムを作製したことを報告している。偏光顕微鏡観察・示差走査熱量測定・X線回折測定などを用いた解析により、得られたポリマーフィルムは三次元チャンネル構造を維持していることを示している。また、イオン伝導度の測定を行ったところ、双連続キュービック液晶状態で重合したサンプルが高い伝導度を示したのに対して、等方相状態やカラムナー液晶状態で重合したサンプルは低い伝導度を示すことを明らかにしている。双連続キュービック液晶のチャンネル構造は三次元的に連続するため、液晶のドメインの配向制御などの処理を行わなくてもマクロなスケールで連続的なチャンネルを形成できるためであると考察している。双連続キュービック液晶構造を重合により固定化するという手法は、ナノチャンネルを有する新規ポリマー材料の開発手法として非常に有用なアプローチであると結論づけている。

第五章では、イオン液体と両親媒性分子の協同的な組織化による双連続キュービック液晶構造の形成およびそのイオン伝導挙動について述べている。親イオン性骨格としてジエタノールアミン骨格に着目し、両親媒性分子を設計・合成している。合成したジエタノールアミン誘導体は単体でカラムナー液晶相を発現するが、イオン液体との複合化により双連続キュービック相を含む様々な液晶相を発現することを報告している。ジエタノールアミン部位とイオン液体の水素結合が協同的な組織化に重要であると考察している。この複合体についてイオン伝導度測定を行ったところ、双連続キュービック液晶状態において効率的な伝導挙動を示すことを明らかにしている。三次元チャンネル状に組織化されたイオン液体はイオン輸送パスとして効率的に機能すると結論づけている。

第六章は本論文の結論であり、第五章までの研究成果を総括するとともに、将来の展望をまとめている。

以上のように本論では双連続キュービック液晶が自己組織的に形成する三次元ナノチャンネル構造に注目し、それらの合成・機能化を行い、新規ナノチャンネル材料への応用を検討した内容について述べている。特に、イオン性の分子骨格またはイオン液体をチャンネル状に組織化することにより、三次元的なイオン性ナノチャンネルの開発を行っている。これらの材料についてイオン伝導度の測定を行うことにより、輸送チャンネルとしての有用性を議論している。一般的に、液晶が自己組織的に形成するナノ構造は非常に精緻でありナノメートルスケールで分子の配列が秩序だった構造を有している。本研究の成果は、機能性材料の分野に新しい知見を与えるものであり、材料化学、有機デバイスの化学および高分子化学の発展に大きく寄与することが期待される。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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