学位論文要旨



No 217793
著者(漢字) 藤井,優成
著者(英字)
著者(カナ) フジイ,マサアキ
標題(和) 金融危機後の価格評価
標題(洋) Pricing in the Post Financial Crisis
報告番号 217793
報告番号 乙17793
学位授与日 2013.03.06
学位種別 論文博士
学位種類 博士(経済学)
学位記番号 第17793号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 高橋,明彦
 東京大学 教授 新井,富雄
 東京大学 教授 大日方,隆
 早稲田大学 教授 中里,大輔
 統計数理研究所 准教授 佐藤,整尚
内容要旨 要旨を表示する

2008年の金融危機以降、金融商品の価格評価の枠組みは大きく変化した。大手金融機関の破綻により、カウンターパーティーの信用リスク評価は避けらないものとなった。今後導入される金融規制とも絡み、CVA(クレジット・バリュエーション・アジャストメント)は実務家のみならず研究者からも多くの注目を集めている。金融危機は一方で、所謂クリーン価格(CVA等の価格補正を除いた、市場ベンチマーク価格に相当)の評価方法にも大きな変化をもたらした。ここでは、『担保差し入れ』や危機以前は多くの場合無視できる程度に小さかった種々の『ベーシススプレッド』が大きく関わっている。この論文では、これら、金融危機後の変化に対応した金融商品の価格評価の方法の枠組みを与える。

導入部において担保契約とベーシススプレッドに関する背景と、それらが価格評価に及ぼす影響に関する定性的な説明を与えたのち、第2章から本論を展開している。第2章では、完全担保下の金利・為替モデルの枠組みを提示する。最初に、完全担保の場合の一般的な価格評価式とその証明を与える。担保契約が付随する取引の価格評価には、対象取引から生じるキャッシュフローの他に、担保取引から生じるキャッシュフローとその損益の計算が必要となる。完全担保状態では、担保と対象取引価値が同一であるので、担保に付随するキャッシュフローは配当と同様に扱うことができ、現在価値を計算する際の割引率を変化させることが示せる。特に、外貨担保(対象取引の支払い通貨と担保通貨が異なる)の場合には、外貨を担保として差し入れる(あるいは受取る)ことの損益を計算しなければならない。さて、導入部で説明しているように、通貨スワップは異なる通貨間でのローンの交換として解釈できる。このことは、外貨担保の場合の割引率と市場で観察される通貨スワップベーシスの間に直接的な関係があることを示唆しており、論文中で実際に示している。第2章ではさらに、この結果を利用して、市場で取引されている種々のスワップ契約の価格評価を行っている。この際、担保付きフォーワード契約の市場金利が、適当な担保付きゼロクーポン債を基準財にとったときにマルチンゲールで表現可能なことを利用して、HJM (Heath-Jarrow-Morton) の枠組みを担保やベーシススプレッドが存在する場合に拡張した。

さて、契約の種類によるが、担保差し入れ側は、担保の種類を『適格担保』の中でその都度自由に変更できる場合がある(特に、金融危機以前に結ばれた担保契約に多い)。このような契約にはオプションが内在していることがわかるが、以前は、このオプション性はほとんど無視されていた(実際に、ベーシススプレッドが十分小さければ正当化できる)。2008年の金融危機以降、その影響の程度について多くの実務家から懸念する声が上がっていたが、第2章でこれについて具体的な評価式を与えた(第3章にも関連結果が含まれる)。特に適格担保が複数の通貨を含むような場合には、市場の通貨スワップのボラティリティーを考慮すると、このオプション性の影響は無視できない大きさになることを具体的な数値例で示している。

第2章の元になっているこれら一連の研究は、担保契約に付随するコスト及び、種々のベーシススプレッドと整合的な複数通貨モデルの枠組みを最初に与えたものである。担保契約の標準化が進み、毎営業日の担保請求及びセトルメントが市場慣行となるなかで、この完全担保状態での枠組みは、清算機関を含めた実務家の間で新たな標準的手法となっている。

第3章では、第2章の結果を不完全で非対称な担保契約にも適用できるよう、デフォルトリスクを含んだ一般的な形に拡張している。これは、担保の日々の調整が不可能、もしくは、そもそも十分な適格担保を保有していない事業法人との取引において特に重要となる。この章の結果は、Duffie - Huang (1996)に与えられているカウンターパーティーリスク存在下でのスワップ契約の価格評価方法を、担保契約が付随する場合に拡張したものであり、第2章の完全担保下での結果はその特殊ケースとして再導出している。一般に、価格評価式は非線形FBSDE(Forward-Backward Stochastic Differential Equation)になり厳密解は得られないが、Gateaux微分を用いた一次近似により、価格を完全担保下でのクリーン価格とそれに対する補正項として分解出来ることを示した。この補正項は、取引参加者のデフォルトリスク及び、担保コストの変化分を含んでいる。デフォルトリスクに関する補正項は、通常のBilateral CVAの表現とよく似ているが、通常は取引参加者にデフォルトリスクが存在しないという仮想的な無リスク価格に対する補正として CVA が定義されているのに対し、この論文では、市場で観察できる完全担保下のベンチマーク価格に対する補正として与えており、実務的なメリットは大きいと思われる。

CCA (collateral cost adjustment)と名付けた担保コストの補正項は、我々が最初に与えたものである。この項は、基準となる完全担保状態に比べて、担保取引から発生する損益のずれを与える。これは、取引参加者間で適格担保が異なる場合や、一方だけが担保の差し入れを要求されるような(民間金融機関と中央銀行間の取引など)非対称担保契約の場合に特に重要となる。後者の例では、中央銀行が担保を差し出さない為に民間金融機関のファンディングコストが大きくなることが示せるが、最近、欧州のいくつかの中央銀行が、民間の主張に沿う形で双方向の担保契約を受け入れる決定を下した事実は、この影響の大きさを物語っている。一方、担保契約自体は対称的でも、担保管理能力の不足から、適宜、最適担保(ファンディングコストが最も低い担保)を差し出すことが出来ない金融機関は、気付かぬ内に大きな損失を被る危険性があることも示した。

第4章では、CDS取引における担保の影響を考察する。中央清算機関や市場での取引慣行の変化を受けて、ここでも連続的に担保がやりとりされる仮定をおき、特に完全担保の状態を詳しく解析した。リカバリーの定義に関しては、生存企業は倒産企業に対し、倒産直前の価格をもとに請求額を計算するものとする仮定をおいている。

完全担保の場合、倒産直前のCDSの評価額に対して担保が100%積まれているため、取引参加者のデフォルトからの直接的な損失は起こらない。従って、直感的にはCDSの価格評価はあたかも取引参加者が倒産することがないという単純な仮定のもとでの教科書的な計算に帰着するように思える。しかし、論文では、そのような直感は一般には正しくないことを示した。この事実は、定性的にはある種の機会損失の存在として理解できる。たとえば、参照企業と保険の売り手企業が大きな正のデフォルト相関をもっている場合を考えると、保険の売り手がデフォルトした場合、その後の参照企業のデフォルトリスクは大きく上昇する。これは、デフォルトに対する保険価値を高めるはずだが、この売り手企業から保険を買う以上、この上昇部分は手に入れることが出来ない。担保で補償されるのは、あくまで、売り手の倒産直前の保険価値だからである。実際の市場慣行では、倒産企業に対し取引の再構築コストを請求できるため、この価値上昇部分の一部を手に入れられる可能性がある。しかし、請求額の正当性を巡る訴訟コストや時間、多くの資産がその他の取引の為の担保となっている可能性を考えるとリカバリー率はかなり低いと予想できる。我々の仮定は、この部分のリカバリー率をゼロと置くことに対応している。

論文では、ある企業のデフォルト強度がその他の企業のデフォルト情報に依存するコンテージョンが存在下でのCDSの価格式を与えた。また、コンテージョンの効果を含む簡単なコピュラモデルを使って具体的な数値計算を行った。その結果と、金融システム全体に影響を及ぼしうる大手金融機関が主要な取引参加者である事実や、Lehman Brothersが倒産した当時のCDS市場の振る舞いを踏まえれば、この影響がかなり大きくなることが判った。さて、完全担保下においても、CDSの価値が参照企業のみならず取引参加者とその相関に大きく影響されることが示されたが、これは実務上、非常に困難な問題を引き起こす。CDSは中央清算機関を通した取引に移行中だが、中央清算機関は、元の取引参加者それぞれとBack-to-Backと呼ばれる『反対取引』を結ぶ。しかし、上記の議論から明らかな通り、CDSの価格が本質的に取り相手に依存する為に、反対取引を行ってもリスクを消し去ることは出来ない。従って、清算機関の取引ポートフォリオの価値は、コンテージョンの強度変化に伴い大きく変動し得る。これは、計算上の時価評価のみならず、実際にクリアリングメンバーの倒産が起こった場合には、残ったBack-to-Back取引の一方を清算する為に必要なコストとして実現しうる。コンテージョンを信頼できる形でモデリングすることや、清算機関における取引参加者間の最適な損失分担制度も含めて、今後も研究が必要である。

最後に、第5章では、導入が検討されている規制上の変化も踏まえ、今後の研究の方向性について簡単に言及し、論文を結んだ。

審査要旨 要旨を表示する

2008年の金融危機以降、金融商品の価値評価の枠組みは大きな変革を迫られた。特に、相次ぐ大手金融機関の破綻により、取引相手方(カウンターパーティー)の信用・倒産リスクを可能な限り正確に評価することが不可避となった。さらに、今後導入される金融規制と密接に関連する、CVA(クレジット・バリュエーション・アジャストメント)に対しては実務家のみならず研究者からも多くの注目を集めている。一方で、金融危機は、市場の指標となる価格に相当する、CVA等の価格補正を除いた所謂クリーン価格の評価方法にも大きな変化をもたらした。特に、「担保の差し入れ」の普及とその影響、金融危機以前においては多くの場合無視できる程度に小さかった各種「ベーシス・スプレッド」の拡大、それらの変動性の上昇が非常に重要な役割を演じるようになった。藤井君の博士論文に示されている研究は、これら金融危機後の変化に対応した金融商品の価格評価法に関し、新しい理論的枠組みを国際的に初めて提唱した。さらに、彼の視点は実用的な観点からも極めて的確であったため、当該研究は実務界における国際標準と言える一つの枠組みを与えている。

なお、博士論文の中の第1, 2章に関連する査読付き国際英文専門誌・プロシーディングへの掲載済み4、査読付き専門誌への掲載済み1、査読付き英文専門書の1章に掲載決定済み1、第3章に関連する査読付き国際英文専門誌への掲載決定済み1、第4章に関連する査読付き国際英文専門誌への掲載済み1の総数8本の専門誌への掲載・掲載予定となっている。その他、第5章に示唆されている内容に関連して査読付き国際英文専門誌へ既に2本の論文が掲載済みである。また、学会発表も国際学会4回,国内学会1回の報告と2013年1月末迄に計5回実施している。さらに、博士論文に関連する論文のSocial Science Research Network (SSRN)におけるダウンロード総数が、2013年2月初旬現在で8,700以上に達していることは、藤井君の研究が産学双方から大きな注目を集めていることを示している。

以上により、本論文が博士学位授与に値するものであると審査委員は全員一致で判断した。

以下では本論文の内容を各省毎に概説する。

第1章は全体の導入部に相当し、そこでは担保契約とベーシス・スプレッドの概要と、それらが価値評価に及ぼす影響の定性的な解説を与えている。第2章では、完全担保下の金利・為替モデルの枠組みを提示する。最初に、完全担保の場合の一般的な価格評価式とその証明を与える。担保契約が付随する取引の価格評価には、対象取引から生じるキャッシュフローの他に、担保取引から生じるキャッシュフローとその損益の計算が必要となる。完全担保状態では、担保と対象取引価値が同一であるので、担保に付随するキャッシュフローは配当と同様に扱うことができ、現在価値を計算する際の割引率を変化させることが示せる。特に、外貨担保の場合、即ち対象取引の支払い通貨と担保通貨が異なる場合には、外貨を担保として差し入れる(あるいは受取る)ことの損益を計算しなければならない。第1章で説明しているように、通貨スワップは異なる通貨間でのローンの交換として解釈できる。このことは、外貨担保の場合の割引率と市場で観察される通貨スワップベーシスの間に直接的な関係があることを示唆しており、その関係を第2章において具体的に示している。さらに、この結果を利用し市場で取引されている種々のスワップ契約の価格評価を行っている。そこでは、担保付きフォーワード契約の市場金利が、適当な担保付きゼロクーポン債を基準財にとったときにマルチンゲールとして表現可能なことを利用して、HJM (Heath-Jarrow-Morton)モデルの枠組みを担保やベーシス・スプレッドが存在する場合に拡張している。

さて、担保差し入れ側は、担保の種類を「適格担保」の中でその都度自由に変更できる場合があり、この条項は、特に金融危機以前に結ばれた担保契約に多い。このような契約にはオプションが内在していることがわかるが、以前は、このオプション性はほとんど無視されていた。(実際、ベーシス・スプレッドが十分小さければオプション性はほとんど無視できる。)しかし、2008年の金融危機以降、その影響の程度について多くの実務家から懸念する声が上がっていたため、これに関する具体的な評価式を第2章で与えている。(第3章にも関連する結果が含まれている。)特に、適格担保が複数の通貨を含むような場合には、市場の通貨スワップのボラティリティーを考慮すると、このオプション性の影響は無視できない大きさになることを具体的な数値例で示している。

第2章の基礎となっているこれら一連の研究は、担保契約に付随するコスト及び、種々のベーシス・スプレッドと整合的な複数通貨モデルの枠組みを国際的に最初に与えたものである。担保契約の標準化が進み、毎営業日の担保請求及び決済(セトルメント)が市場慣行となるなかで、この完全担保状態での枠組みは、清算機関を含めた実務家の間で新たな標準的手法となっている。

第3章では、第2章の結果を不完全で非対称な担保契約にも適用できるよう、デフォルトリスクを含んだ一般的な形に拡張している。これは、担保の日々の調整が不可能、もしくは、そもそも十分な適格担保を保有していない事業法人との取引において特に重要となる。この章の結果は、Duffie - Huang (1996)に与えられているカウンターパーティー・リスクが存在する状況下でのスワップ契約の価値評価法を、担保契約が付随する場合に拡張したものであり、第2章の完全担保下での結果をその特殊ケースとして再導出している。このとき、その価格評価式は、一般には非線形FBSDE(Forward-Backward Stochastic Differential Equation)になり厳密解は得られないが、Gateaux微分を用いた一次近似により、価格を完全担保下でのクリーン価格とそれに対する補正項として分解出来ることを示している。この補正項は、取引参加者のデフォルトリスク及び、担保コストの変化分を含んでいる。デフォルトリスクに関する補正項は、通常のBilateral CVAの表現とよく似ているが、通常は取引参加者にデフォルトリスクが存在しないという仮想的な状況における無リスク価格に対する補正として CVA が定義されているのに対し、この研究では、市場で観察可能な完全担保下のベンチマーク価格に対する補正として与えており、実務的なメリットは大きいと思われる。

さらに、CCA (collateral cost adjustment)と名付けられた担保コストの補正項は、藤井君が国際的に初めて与えたものである。この項は、基準となる完全担保状態に比べて、担保取引から発生する損益分のずれを示している。これは、取引参加者間で適格担保が異なる場合や、一方だけが担保の差し入れを要求されるような(民間金融機関と中央銀行間の取引など)非対称な担保契約の場合に特に重要となる。後者の例では、中央銀行が担保を差し出さない為に民間金融機関のファンディングコストが大きくなることが示せるが、最近、欧州のいくつかの中央銀行が、民間の主張に沿う形で双方向の担保契約を受け入れる決定を下した事実は、この影響の大きさを物語っている。一方、担保契約自体は対称的でも、担保管理能力の不足から、適宜、最適担保(ファンディングコストが最も低い担保)を差し出すことが出来ない金融機関は、気付かない中で大きな損失を被る危険性があることも示している。

第4章では、CDS(credit default swap)取引における担保の影響を考察する。中央清算機関や市場での取引慣行の変化を受けて、連続的に担保がやりとりされる仮定の下で主に完全担保の状態を詳しく解析している。リカバリー(回収)の定義に関しては、生存企業は倒産企業に対し、倒産直前の価格を基に請求額を計算するという仮定をおいている。

完全担保の場合、倒産直前のCDSの評価額に対して担保が100%積まれているため、取引参加者の倒産からの直接的な損失は起こらない。従って、直感的にはCDSの価格評価はあたかも取引参加者が倒産することがないという単純な仮定のもとでの教科書的な計算に帰着するように思える。しかし、この章では、そのような直感は一般には正しくないことを示している。この事実は、定性的にはある種の機会損失の存在として理解できる。たとえば、参照企業(reference entity)と保険の売り手企業が倒産に関する大きな正の相関をもっている場合、保険の売り手が倒産したときその後の参照企業の倒産リスクは大きく上昇する。これは倒産に対する保険価値を高めるはずだが、この売り手企業から保険を買う以上、この上昇部分は手に入れることが出来ない。何故なら、担保で補償されるのはあくまで売り手の倒産直前の保険価値だからである。実際の市場慣行では、倒産企業に対し取引の再構築コストを請求できるため、この価値上昇部分の一部を手に入れられる可能性がある。しかし、請求額の正当性を巡る訴訟コストや時間、多くの資産がその他の取引の為の担保となっている可能性を考えるとリカバリー率(回収率)はかなり低いと予想できるので、この部分のリカバリー率をゼロと置くことに相当する本章の仮定は妥当であろう。

さらに彼は、ある企業の倒産強度(default intensity)がその他の企業の倒産情報に依存するコンテージョンが(contagion)存在する下でのCDSの価格式を与えている。また、コンテージョンの効果を含む簡単なコピュラモデル(Copula model)を使って具体的な数値計算を行っている。その結果に加え、金融システム全体に影響を及ぼしうる大手金融機関が主要な取引参加者である事実や、Lehman Brothersが倒産した当時のCDS市場の振る舞いを勘案すれば、コンテージョンの影響がかなり大きくなることが判明した。さて、完全担保下においても、CDSの価値が参照企業のみならず取引参加者とその相関に大きく影響されることが示されているが、これは実務上非常に困難な問題を引き起こす。CDSは中央清算機関を通した取引に移行中だが、中央清算機関は、元の取引参加者それぞれとBack-to-Backと呼ばれる「反対取引」を結ぶ。しかし、上記の議論から明らかなように、CDSの価格が本質的に取引相手に依存する為に、反対取引を行ってもリスクを消し去ることは出来ない。従って、清算機関の取引ポートフォリオの価値は、コンテージョンの強度変化に伴い大きく変動し得る。その変動は、計算上の時価評価の変化のみならず、実際にクリアリングメンバーの倒産が起こった場合には、残ったBack-to-Back取引の一方を清算する為に必要なコストとして顕現化し得る。彼は本章において以上のことも明らかにし、コンテージョンを信頼できる形でモデリングすることや、清算機関における取引参加者間の最適な損失分担制度の解明等の今後の重要な研究課題を示した。

最後に、第5章においては、導入が検討されている規制上の変化も踏まえ、今後の研究の方向性について簡単に言及し、結語を与えている。

以上により、藤井君の論文は、博士学位を授与するに十分な水準に達していると審査委員全員一致で判断した。

審査委員:高橋明彦(主査)、新井富雄、大日方隆、中里大輔、佐藤整尚

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