学位論文要旨



No 217805
著者(漢字) 磯部,洋輔
著者(英字)
著者(カナ) イソベ,ヨウスケ
標題(和) エイコサペンタエン酸由来の新規抗炎症性代謝物レゾルビンE3の同定
標題(洋) Identification of resolvin E3 as a novel EPA-derived anti-inflammatory lipid mediator
報告番号 217805
報告番号 乙17805
学位授与日 2013.03.08
学位種別 論文博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 第17805号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 新井,洋由
 東京大学 教授 井上,将行
 東京大学 教授 関水,和久
 東京大学 准教授 有田,誠
 東京大学 准教授 東,伸昭
内容要旨 要旨を表示する

【序】

エイコサペンタエン酸(EPA)などのω3系脂肪酸には、古くから抗炎症作用が知られており、その作用機構としてω3系脂肪酸が抗炎症性代謝物に変換されて機能する可能性が示されている。これまでにEPA由来の抗炎症性代謝物として、レゾルビンE1(RvE1)やRvE2が同定されているが、これらは共に、EPAの18位(ω3位)に水酸基が付加した代謝物である18-hydroxyeicosapentaenoic acid(18-HEPE)を共通の前駆体とし、好中球の5-リポキシゲナ一ゼ(5-LOX)活性により生成することが知られている(図1)。このようにレゾルビン生合成系は18-HEPEを起点とするω3系脂肪酸に特徴的な代謝経路であり、ω3系脂肪酸に固有の抗炎症機能に関わっている可能性が考えられている。そこで私は、18-HEPEから生成する代謝物について、特にRvE1,E2以外の活性代謝物の網羅的探索を目指し、高速液体クロマトグラフ/タンデム質量分析装置(LC/MS/MS)を用いた包括的メタボローム解析を行った。

1.18-HEPE由来の新規代謝物の同定

一般的に脂肪酸由来のメディエーターは非常に微量かつ不安定であり、それらを検出するためには出来る限り夾雑物を除き、バックグラウンドを下げる工夫が必要である。そこでまず、C18カラムを用いた固相抽出によって、生体サンプルから脂肪酸代謝物を選択的に精製した。また、脂肪酸代謝物は多くの構造異性体を含んでいるため、高解像度の逆相HPLCの系を組むことでそれらを分離した。さらに、分離した代謝物は三連四重極型LC/MS/MSを用いたmultiplereaction monitoring(MRM)によって検出した。MRMは、特定の分子量イオン及びフラグメントイオンの組み合わせを指定して構造特異的に検出を行う手法である。本研究では特に、EPAの様々なジヒドロキシ体を想定し、それらの構造から予測されるフラグメントイオンのMS値を用いて仮想MRMとして分析を行うことで、未知代謝物の網羅的な検出を試みた。これまでに、カルシウムイオノフォアによって活性化された好中球が18-HEPEからRvE1やRvE2を産生することが報告されており、私はその他の白血球を用いることで、それ以外の活性代謝物が生成するのではないかと考えた。特に最近の私達の研究から、炎症の収束を促進する細胞として好酸球を見出しており、本研究では好酸球に特に着目して解析を行った。ヒト末梢血から調整した好酸球を、18-HEPE存在下カルシウムイオノフォアA23187で刺激し、生成した代謝物をMRMにより分析した。その結果、既知の18-HEPE代謝物であるRvE1やRvE2に加え、8,18-dihydroxyeicosapentaenoicacid(8,18-diHEPE)、11,18-diHEPE、12,18-diHEPE、17,18-diHEPEといった新規の代謝物が生成することを見出した(図2)。一方、ヒト好中球を18-HEPEと培養した際には、これまでの報告通りRvE1やRvE2の生成が認められたものの、新規代謝物の生成はほとんど認められなかった。好酸球は好中球とは異なり、脂肪酸代謝酵素として12/15-LOXを発現していることが知られている。そこで、好酸球から見出された新規代謝物が18-HEPEから12/15-LOXにより生成している可能性を考え、12/15-LOX欠損マウスから好酸球を調整し、検討を行った。

まず野生型マウスの好酸球を18-HEPE存在下A23187で刺激した結果、ヒト好酸球と同様にRvE1、RvE2に加え、同定した新規代謝物を生成することが明らかになった。一方、12/15-LOX欠損マウスの好酸球では、RvE1、RvE2の産生量は野生型とほぼ同程度であったのに対し、新規代謝物の産生量はいずれも1/10以下に減少しており、見出した新規代謝物はいずれも、18-HEPEから12/15-LOX依存的に生成することが明らかになった。さらに、HEK293細胞にマウス12/15-LOXやヒト相同分子である15-LOXを一過性に発現させ、18-HEPE存在下A23187で刺激した際も新規代謝物の生成が10~500倍程度上昇し、これらの代謝物が18-HEPEから12/15-LOX(マウス)や15-LOX(ヒト)により生成する可能性が示唆された。

2.新規代謝物の合成と活性評価

次に、これら新規代謝物の活性を評価するために、酵素反応による代謝物の合成を行った。15-LOX活性を有するsoybean LOX(sLOX)を用い、18-HEPEと反応させた。生成した代謝物をHPLCにより精製し、MS/MSスペクトル及び吸光スペクトルにて構造を解析した結果、見出した新規代謝物のうち11,18-diHEPEと17,18-diHEPEを10~30μg程度合成することに成功した。11,18-diHEPEは4種類(Compound I~IV)、17,18-diHEPEは2種類(Compound V,VI)の異性体が生成した。

そこでそれらを用いて、ザイモサン誘導マウス腹膜炎モデルによる抗炎症活性の評価を行った。その結果、特に17,18-diHEPEであるCompoundVとVIに、わずか10ngの尾静脈投与という低用量で炎症初期の好中球の浸潤を約40%抑制する活性が認められた(図3)。また、この活性は1ngから100ngにかけて用量依存的であり、RvE2やステロイド系抗炎症薬であるデキサメタゾンと比べてもかなりの低用量での抗炎症作用が認められた(図3)。

さらに、17,18-diHEPEの好中球に対する直接作用について検討を行った。化合物の存在下、好中球の遊走因子であるロイコトリエンB4(LTB4)に対する細胞遊走を評価した。その結果、17,18-diHEPEは10nMで好中球のLTB4に対する遊走速度を有意に低下させる作用を示した。

3.RvE3の構造決定及び構造活性相関

次に、17,18-diHEPEの立体構造の決定を試みた。酵素により合成した17,18-diHEPEについてIH NMRの測定を行ったところ、17,18-diHEPEに存在するオレフィンのgeometryについて、CompoundV、VI共に5Z,8Z,11Z,13E,15Eであることが明らかになった。また、CompoundV及びVIはラセミ体である18R/S-HEPEとsLOXにより生成したので、有機合成によって得られた18S-HEPE及び18R-HEPEを基質としてsLOXとの反応を行った。その結果、18S-HEPEからはCompound Vが、18R-HEPEからはCompound VIが選択的に生成した。以上より、Compound Vは17,18S-diHEPE、CompoundVIは17,18R-diHEPEであることが明らかになり、それぞれ18S一レゾルビン E3(18S-RvE3)、18R-RvE3と命名した。さらに、有機合成により17位と18位の不斉炭素の立体配置について全ての組み合わせ(17s,18s-、17R,18s-、17s,18R-、17R,18R-diHEPE)のRvE3異性体を合成し、酵素的に生成するRvE3とLCの保持時間を比較することで、RvE3の構造を17R,18S-diHEPE(18s-RvE3)及び17R,18R-diHEPE(18R-RvE3)として決定した。また、酵素的に生成した18S-,及び18R-RvE3は共に、マウスの炎症浸出液をMRMにより分析することで見出されたピークと保持時間が完全に一致した。そこで次に、有機合成により得られた天然型(17R,18S-diHEPEと17R,18R-diHEPE)及び非天然型(17s,18R-diHEPEと17s,18s-diHEPE)のRvE3異性体を用いて、好中球の遊走抑制作用を指標に構造活性相関の解析を行った。その結果、天然型のRvE3にのみ好中球の遊走速度を有意に抑制する作用が認められた(図4)。

【まとめ】

以上、EPA由来の抗炎症性代謝物としてRvE3を新規に同定した(図3)。RvE3はinvivo急性炎症モデルにおいてngレベルの低用量で好中球の浸潤を抑制し、invitroにおいてもnMレベルで好中球の遊走を抑制した。好中球の過剰な集積は、炎症を基盤とする多くの病態の形成と関連すると考えられており、RvE3はそうした好中球性の組織障害や病態に対し有効である可能性が考えられる。

18-HEPEから5-LOX活性によって生成するRvE1やRvE2と異なり、RvE3は12/15-LOX(マウス)や15-LOX(ヒト)という新たな代謝経路により生成する可能性が考えられた。また、RvE3における17位の炭素の立体配置はRであることが明らかになった。12/15-LOXや15-LOXが18-HEPEの13位の炭素から位置選択的かつ立体選択的に水素の引き抜き、及び酸素分子の付加を行うことで、17R型のRvE3が選択的に生成するものと考えられた。さらに、好中球の遊走抑制作用は天然型(17R型)のRvE3にのみ認められ、好中球には天然型RvE3の構造を特異的に認識する機構が存在する可能性が示唆された。本研究において見出したRvE3を含め、レゾルビンはEPAの18位(ω3位)に水酸基が付加した18-HEPEを前駆体としており、ω3位の酸化を起点とした代謝がω3系脂肪酸の抗炎症作用の発揮に重要である可能性が考えられた。

【図1】EPAの代謝経路

EPAはシクロオキシゲナーゼ(COX)やリポキシゲナーゼ(LOX)によって代謝される他、ω3位に水酸基が付加した18・HEPEへと代謝される。さらに、18-HEPEは活性化好中球の5-LOX活性により、抗炎症性代謝物であるRvE1やRvE2へと変換される。

【図2】好酸球から生成する18-HEPE代謝物

代謝物のピークを*で示す。ヒト好酸球は18-HEPEからRvE1やRvE2以外に、複数の新規代謝物を生成した。

【図3】17,18-dlHEPEの好中球浸潤抑制作用

(ザイモサン腹膜炎)

17,18-dlHEPEであるCompoundVとVIは、10-100ngの投与量で用量依存的に好中球の浸潤抑制作用を示す。mean±S.E.n=3-12,*P<0.05,.**P<0.01

【図4】RvE3異性体の構造活性相関

ロイコトリエンB4(LTB4)のグラジエントに対する好中球の遊走30分後の写真(A)、及び、この時の好中球の遊走速度(B)。mean±SEn=15,*P<005

【図5】本研究のまとめ

RvE3は炎症部位において、18-HEPEから好酸球やマクロファージなどに発現する12fl5-LOXにより生成し、好中球の浸潤を抑制することで積極的に抗炎症作用を発揮している可能性が考えられる。

審査要旨 要旨を表示する

エイコサペンタエン酸(EPA)などのω3系脂肪酸には、古くから抗炎症作用が知られており、その作用機構としてω3系脂肪酸が抗炎症性代謝物に変換されて機能する可能性が示されている。これまでにEPA由来の抗炎症性代謝物として、レゾルビンE1(RvE1)やRvE2が同定されているが、これらは共に、EPAの18位(ω3位)に水酸基が付加した代謝物である18-hydroxyeicosapentaenoic acid(18-HEPE)を共通の前駆体とし、好中球の5-リポキシゲナーゼ(5-LOX)活性により生成することが知られている。このようにレゾルビン生合成系は18-HEPEを起点とするω3系脂肪酸に特徴的な代謝経路であり、ω3系脂肪酸に固有の抗炎症機能に関わっている可能性が考えられている。本研究において磯部は、18-HEPEから生成する代謝物について、特にRvE1,E2以外の活性代謝物の網羅的探索を目指し、高速液体クロマトグラフ/タンデム質量分析装置(LC/MS/MS)を用いた包括的メタボローム解析を行った。

一般的に脂肪酸由来のメディエーターは非常に微量かつ不安定であり、それらを検出するためには出来る限り夾雑物を除き、バックグラウンドを下げる工夫が必要である。そこでまず、C18カラムを用いた固相抽出によって、生体サンプルから脂肪酸代謝物を選択的に精製した。また、脂肪酸代謝物は多くの構造異性体を含んでいるため、高解像度の逆相HPLCの系を組むことでそれらを分離した。さらに、分離した代謝物は三連四重極型LC/MS/MSを用いたmultiple reaction monitoring(MRM)によって検出した。MRMは、特定の分子量イオン及びフラグメントイオンの組み合わせを指定して構造特異的に検出を行う手法である。本研究では特に、EPAの様々なジヒドロキシ体を想定し、それらの構造から予測されるフラグメントイオンのMS値を用いて仮想MRMとして分析を行うことで、未知代謝物の網羅的な検出を試みた。これまでに、カルシウムイオノフォアによって活性化された好中球が18-HEPEからRvE1やRvE2を産生することが報告されており、磯部はその他の白血球を用いることで、それ以外の活性代謝物が生成するのではないかと考えた。特に最近の研究から、炎症の収束を促進する細胞として好酸球が見いだされており、本研究では好酸球に特に着目して解析を行った。ヒト末梢血から調整した好酸球を、18-HEPE存在下カルシウムイオノフォアA23187で刺激し、生成した代謝物をMRMにより分析した。その結果、既知の18-HEPE代謝物であるRvE1やRvE2に加え、8,18-dihydroxyeicosapentaenoic acid(8,18-diHEPE)、11,18-diHEPE、12,18-diHEPE、17,18-diHEPEといった新規の代謝物が生成することを見出した。一方、ヒト好中球を18-HEPEと培養した際には、これまでの報告適りRvE1やRvE2の生成が認められたものの、新規代謝物の生成はほとんど認められなかった。好酸球は好中球とは異なり、脂肪酸代謝酵素として12/15-LOXを発現していることが知られている。そこで、好酸球から見出された新規代謝物が18-HEPEから12/15-LOXにより生成している可能性を考え、12/15-LOX欠損マウスから好酸球を調整し、検討を行った。

まず野生型マウスの好酸球を18-HEPE存在下A23187で刺激した結果、ヒト好酸球と同様にRVE1、RvE2に加え、同定した新規代謝物を生成することを明らかにした。一方、12/15-LOX欠損マウスの好酸球では、RvE1、RvE2の産生量は野生型とほぼ同程度であったのに対し、新規代謝物の産生量はいずれも1/10以下に減少しており、見出した新規代謝物はいずれも、18-HEPEから12/15-LOX依存的に生成することを明らかにした。さらに、HEK293細胞にマウス12/15-LOXやヒト相同分子である15-LOXを一過性に発現させ、18-HEPE存在下A23187で刺激した際も新規代謝物の生成が10~500倍程度上昇し、これらの代謝物が18-HEPEから12/15-LOX(マウス)や15-LOX(ヒト)により生成する可能性が示唆された。

次に、これら新規代謝物の活性を評価するために、酵素反応による代謝物の合成を行った。15-LOX活性を有するsoybean LOX、(sLOX)を用い、18-HEPEと反応させた。生成した代謝物をHPLCにより精製し、MS/MSスペクトル及び吸光スペクトルにて構造を解析した結果、見出した新規代謝物のうち11,18-diHEPEと17,18-diHEPEを10~30μg程度合成することに成功した。11,18-diHEPEは4種類(Compound I~IV)、17,18-diHEPEは2種類(CompoundV,VI)の異性体が生成した。そこでそれらを用いて、ザイモサン誘導マウス腹膜炎モデルによる抗炎症活性の評価を行った。その結果、特に17,18-diHEPEであるCompoundVとVIに、わずか10ngの尾静脈投与という低用量で炎症初期の好中球の浸潤を約40%抑制する活性が認められた。また、この活性は1ngから100ngにかけて用量依存的であり、RvE2やステロイド系抗炎症薬であるデキサメタゾンと比べてもかなりの低用量での抗炎症作用が認められた。

さらに、17,18-diHEPEの好中球に対する直接作用について検討を行った。化合物の存在下、好中球の荘走因子であるロイコトリエンB、(LTB4)に対する細胞遊走を評価した。そり結果、17,18-diHEPEは10nMで好中球のLTB4に対する遊走速度を有意に低下させる作用を示した。

次に、17,18-diHEPEの立体構造の決定を試みた。酵素により合成した17,18-diHEPEについて1HNMRの測定を行ったところ、17,18-diHEPEに存在するオレフィンのgeometryについて、CompoundV、VI共に5Z,8Z,11Z,13E,15Eであることを明らかにした。また、CompoundV及びVI』はラセミ体である18R/S--HEPEとsLOXにより生成したので、有機合成によって得られた18S-HEPE及び18R-HEPEを基質としてsLOXとの反応を行った。その結果、18S-HEPEからはCompoundVが、18R-HEPEからはCompoundVIが選択的に生成した。以上より、CompoundVはr7,18S-diHEPE、CompoundVIは17,18R-diHEPEであることを明らかにし、それぞれ18S一レゾルビンE3(18S-RvE3)、18R-RvE3と命名した。さ、らに、有機合成により17位と18位の不斉炭素の立体配置について全ての組み合わせ(17S,18S-、17R,18S-、17S,18R-、171こ18R-diHEPE)のRvE3異性体を合成し、酵素的に生成するRvE3とLcの保持時問を比較することで、RvE3の構造を17R,18s-diHEPE(18s-RvE3)及び17R,18R-diHEPE(18R-RvE3)として決定した。また、酵素的に生成した18S-,及び18R=RvE3は共に、マウスの炎症浸出液をMRMにより分析することで見出されたピークと保持時間が完全に一致した。そこで次に、有機合成により得られた天然型(17R,18s-diHEPEと17R,18R-diHEPE)及び非天然型(17s,18R-diHEPEと17s,18s-diHEPE)のRvE3異性体を用いて、好中球の遊走抑制作用を指標に構造活性相関の解析を行った。その結果、天然型のRvE3にのみ好中球の遊走速度を有意に抑制する作用が認められた。

以上、EPA由来の抗炎症性代謝物としてRvE3を新規に同定した。RvE3はinvivo急性炎症モデルにおいてngレベルの低用量で好中球の浸潤を抑制し、invitroにおいてもnMレベルで好中球の遊走を抑制した。好中球の過剰な集積は、炎症を基盤とする多くの病態の形成と関連すると考えられており、RvE3はそうした好中球性の組織障害や病態に対し有効である可能性が考えられた。

18-HEPEから5-LOX活性によって生成するRvE1やRvE2と異なり、RvE3は12/15-LO文(マウス)や15-LOX(ヒト)という新たな代謝経路により生成する可能性が考えられた。また、RvE3における17位の炭素の立体配置は1~であることを明らかにした。12/15-LOXや15-LOXが18-HEPEの13位の炭素から位置選択的かつ立体選択的に水素の引き抜き、及び酸素分子の付加を行うことで、17R型のRvE3が選択的に生成するものと考えられた。さらに、好中球の遊走抑制作用は天然型(17R型)のRvE3にのみ認められ、好中球には天然型RvE3の構造を特異的に認識する機構が存在する可能性が示唆された。本研究において見出したRvE3を含め、レゾルビンはEPAの18位(ω3位)に水酸基が付加した18-HEPEを前駆体としており、ω3位の酸化を起点とした代謝がω3系脂肪酸の抗炎症作用の発揮に重要である可能性が考えられた。

本研究は、独自の方法でω3系脂肪酸から生成する新規代謝物を複数同定したものであり、さらにその中に抗炎症作用を有する代謝物を見出したものである。本研究は、古くから疫学・栄養学的に抗炎症作用を有することが知られていたω3系脂肪酸の作用機序の解明につながる可能性を見出したものとして意義深く、博士(薬学)に充分値するものと判断した。

UTokyo Repositoryリンク