学位論文要旨



No 217819
著者(漢字) 池尻,智史
著者(英字)
著者(カナ) イケジリ,サトシ
標題(和) スーパー高速炉の安全性
標題(洋)
報告番号 217819
報告番号 乙17819
学位授与日 2013.03.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17819号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 上坂,充
 東京大学 教授 笠原,直人
 東京大学 教授 越塚,誠一
 東京大学 准教授 出町,和之
 東京大学 講師 石渡,祐樹
 早稲田大学 特任教授 岡,芳明
内容要旨 要旨を表示する

世界の経済の発展に伴い、世界の一次エネルギー使用量は増加を続けている。一次エネルギーは石油・天然ガス・石炭と様々な種類があるが、CO2 削減やエネルギーの国産化等の観点から原子力エネルギーの重要性が見直されている。ただし、原子力エネルギーは非常に大きな初期投資が原子力エネルギーの普及を妨げているという問題があり、初期投資の少ない原子力発電所の開発が求められている。

超臨界圧軽水冷却炉(SCWR)は冷却材に超臨界圧水を使うことで原子炉の小型化を達成できる原子炉の概念であり、その中でも高速炉型の超臨界圧軽水炉(スーパー高速炉)は非常にコンパクトな原子炉となる可能性を秘めている。スーパー高速炉は東京大学で様々な概念研究がおこなわれており、特に上昇流も下降流も使って燃料冷却をおこなう炉心が最も炉心を小型化できる可能性があり、経済性にも期待できることが分かっている。ただし、下降流を使った原子炉冷却は非常時に浮力が冷却材流れを妨げて、原子炉の安全性を妨げる可能性がある。そのため、下降流冷却燃料集合体を有するスーパー高速炉の安全性について検討した。

スーパー高速炉の安全の原則は既設の原子力発電所と同様に「止める」、「冷やす」、「閉じ込める」であり、「止める」と「閉じ込める」機能についてはスクラムや格納容器機能等によって達成される。また従来の研究により、SCWR の「冷やす」機能は炉内流量の確保によって達成できることが知られており、スーパー高速炉も同様である。そのため、スーパー高速炉の安全の基本方針は入口からの冷却材流量の確保と冷却材の出口の確保である。そこでスーパー高速炉は「冷やす」機能として、高圧注水用のタービン駆動補助給水系(AFS),低圧注水用の残留熱除去系(RHR)の低圧注水モード(LPCI),原子炉の減圧用の逃し安全弁(SRV)を使った自動減圧系(ADS)機能、さらにLOCA 時の上部ドーム減圧用に低圧炉心スプレー系を備えることとした。

スーパー高速炉に想定される異常事象を軽水炉等の例を参考に抽出し、流量や圧力等の異常タイプごとに代表的な事象を安全解析対象として選定した。貫流型システムで最も重要な全流量喪失を伴う事象については、主給水系の異常によるものを頻度の低い「事故」、復水系又は主蒸気系の異常によるものを比較的頻度の高い「異常過渡」に分類し、それに対応した解析シナリオを設定した。また、原子炉の安全上もっとも重要な冷却材喪失事象(LOCA)も「事故」と取り扱うこととした。

スーパー高速炉の過渡事象と事故事象の解析は、スーパー軽水炉の安全性研究で用いられた一次元ノードジャンクション法のプラント動特性解析コードSPRAT-DOWN に運動量保存則モデルを追加し、下降流冷却燃料集合体への流量配分を考慮しながら超臨界圧から大気圧まで解析できる動特性解析コードSPRAT-F-DP を作成し行った。また、冷却材喪失事象の再冠水フェイズの解析についても、先行研究で開発されたSCRELA-rf に運動量保存モデルと炉心スプレーモデルを追加した再冠水解析コードSCLERA-M を作成して行った。

BWR と同様のプラント制御の作動を考慮するために、プラント制御系の設計を行った。制御方法として圧力は主蒸気加減弁で、主蒸気温度は主冷却流量で、出力は制御棒で行うこととした。制御系は全て比例制御で設計され、設定圧力・主蒸気温度・出力のステップ応答に対する制御系の設定を行った。設定した制御系を使用して5 種類の外乱に対する安定性解析を行ない、安定に整定することを確認した。

上記の解析コードや制御系設計条件・起因事象を使って、スーパー高速炉の異常な過渡変化事象、事故事象の安全解析を行うこととした。また、海外で設計に考慮されているATWS 事象(異常過渡事象時にスクラム不作動を仮定する事象)の解析を行うこととした。ATWS 解析はスクラムが入らないことから、原子炉の挙動把握の観点からも重要である。異常過渡事象の安全基準は既設軽水炉と同様に「炉心の損傷なく運転に復帰できること」であり、具体的には「被覆管最高温度<850℃」と「原子炉圧力<28.9MPa」とした。事故事象の安全基準も既設軽水炉と同様に「炉心の溶融あるいは著しい損傷の恐れがないこと」とし、具体的には、は「被覆管最高温度<850℃」、「原子炉圧力<28.9MPa」、「燃料エンタルピー<230cal/g」とした。ATWS 解析については保守的に事故事象と同じとした。

異常な過渡事象の解析を基本炉心に対して行い、全ての事象において最高被覆管温度と最高圧力の安全基準を満たすことを確認した。異常な過渡事象のうち「外部電源喪失」や「負荷喪失」などの給水ポンプが全台トリップしてしまう事象が、他の事象と比較して高い最高被覆管温度となり、スーパー高速炉では炉心流量の維持が重要であることが再確認された。

LOCA を含む事故事象を基本炉心から出力密度を上昇させた改良炉心(2)に対して行った結果、原子炉冷却材流量の全喪失とコールドレグ破断LOCA(大LOCA ブローダウンフェイズ)事象において安全基準を満たせなかった。そのため、通常運転時の流量配分を変更し、下降流冷却SEED燃料集合体と上昇流冷却SEED 燃料集合体の最高線出力を低減させることで安全基準を満たせることを示した。またコールドレグ破断LOCA(小LOCA ブローダウンフェイズ)事象も最高被覆管温度が非常に厳しくなるため、積極的にADS を開くように安全系の作動基準を変更することで、冷却材流量を確保し最高被覆管温度を低減した。LOCA の再冠水フェイズにおいてはコールドレグ破断LOCA では炉心の水位上昇が早く安全基準を満たすことができるが、ホットレグ破断LOCAは再冠水中に上部ドームの圧力が上がってしまい下降流冷却燃料集合体の水位が上昇しなくなることがわかったため、上部ドームに低圧炉心スプレー系を設置し上部ドームの圧力を低減させて安全基準を満たせるようにする提案を行なった。

ATWS 事象は事故解析からの要求により改良炉心(2)から出力密度を少し低下させた改良炉心(3)に対して解析を行った。その結果、主給水ポンプが全台トリップする事象で安全基準を満たすためには、代替操作により原子炉を減圧する必要があることがわかった。そのため、代替操作の作動条件を(1).スクラム条件かつ出力20%以上が5 秒継続かつ主冷却ポンプがトリップする信号が出ていること、(2). 圧力が23.5MPa を下回った場合とした。さらに代替操作として使用するADS の容量も定格流量の160%では安全基準を満たせなかったため、240%にすることで安全基準を満たせるようになることを示した。

全ての事象分類について安全解析を行なった結果、どの事象分類においても主給水ポンプの停止を伴う冷却材流量喪失型の事象において最高被覆管温度が高くなることがわかった。そのため、冷却材流量喪失型の事象についての最高被覆管温度の低減対策として4 つの提案をした。提案した対策は1.冷却材喪失事象の事故事象に対して積極的にADS を開放、2.ダウンカマー流路のオリフィス位置の調整、3.SRV の容量の再調整、4.亜臨界圧の熱伝達率相関式の合理化である。これらの対策を施した後に再度冷却材流量喪失型の事象の解析を行なったところ、最高被覆管温度が大幅に低減することができた。

以上のように、スーパー高速炉の安全性を体系的に検討し、このシステムが持つ安全上の特徴を明らかにした。

審査要旨 要旨を表示する

本論文はスーパー高速炉の安全性に関する研究をまとめたもので、その研究成果は9章により構成されている。

第1章は序論で、貫流型・超臨界圧水冷却を採用した超臨界圧軽水冷却炉(SCWR)の概念の説明を行っている。さらに、SCWRの中でも高速炉型のであるスーパー高速炉が経済性の高い原子炉概念であることを説明している。そして、スーパー高速炉は、下降流によって燃料を冷やすという特徴をもっており、安全上の特性を解明することが必要であるとしている。そのため、本研究の目的は体系的な安全解析を行いスーパー高速炉の安全上の特徴を把握する事としている。

第2章はスーパー高速炉の安全性確保の基本方針と安全系の設計方法について述べている。スーパー高速炉は過去のSCWRの研究結果や超臨界圧水の性質を踏まえ、炉心流量の監視と確保を安全確保の基本としている。そして、原子力の安全の基本である「止める」、「冷やす」、「閉じ込める」の概念に従い、安全系の構成や作動条件を定めている。特に本研究では新たな安全系として低圧炉心スプレー系を採用しており、その概念や効果について説明している。

第3章は安全解析手法のまとめで、下降流冷却燃料集合体チャンネルを体系に含む超臨界圧から亜臨界圧まで解析する安全解析コードや、再冠水時の挙動を解析するコードについて述べている。本研究の計算コードが従来のものと違う点は、並行チャンネル間の流量配分を計算するための運動量保存則モデルや低圧炉心スプレーのモデルが追加されている点であり、それらについての説明も行われている。

第4章はプラント制御系設計について述べている。ステップ状の外乱を与えた時のプラント動特性を解析し、パラメータの感度を検討することにより、出力を制御棒で、圧力を主蒸気加減弁で、主蒸気温度を主給水流量で制御する制御系を設計している。また、それらの制御系に対して制御パラメータのチューニングを行い、その制御系を使った原子力プラントに5種類の外乱を与えた場合のプラント挙動を解析し、全ての外乱でプラントが安定に収束することを示している。

第5章ではスーパー高速炉の超臨界圧時の安全解析について述べている。まず、安全解析の起因事象や判断基準を決めている。そして、異常な過渡事象の解析を基本炉心に対して行い、全ての事象において安全基準を満たすことを示している。そして、流量喪失型の事象が他の事象と比較して高い最高被覆管温度のピーク値をとることから、スーパー高速炉では炉心流量の維持が重要であることを示している。

さらに、事故事象の解析を基本炉心から出力密度を向上させた改良炉心(2)に対して行っている。そして、原子炉冷却材流量の全喪失以外の事象は、安全基準を満たせる事を確認し、原子炉冷却材流量の全喪失事象も通常運転時の流量配分の調整と上昇流冷却SEED燃料集合体の最高線出力の低減により安全基準を満たせることを示している。

第6章では冷却材喪失事故(LOCA)解析について述べている。LOCA解析は改良炉心(2)に対して行われている。そして、主給水管破断LOCAのブローダウンフェイズ時に被覆管温度が上昇しやすいため、下降流冷却SEED燃料集合体の最高線出力の低減や小破断時に積極的に減圧操作を行うことが必要である事を示している。再冠水フェイズ時には主蒸気管破断LOCAの場合に、上部ドームの圧力が上がり下降流冷却燃料集合体チャンネルのクエンチレベルが上昇しなくなることが明らかになったため、低圧炉心スプレー系による上部ドームの圧力の低減が必要であることを示している。

第7章では異常過渡時スクラム失敗(ATWS)解析について述べている。ATWS解析は改良炉心(2)から最高線出力を少し低下させた改良炉心(3)に対して行っている。そして、主給水ポンプが全台トリップする事象ではスクラムの代替操作として減圧操作が必要であることや、減圧の効果が従来のSCWRより弱く大容量の減圧系が必要であることを示している。

第8章では安全性の向上のための提案を行っている。これまでの安全解析において、どの事象分類においても冷却材流量喪失型の事象において最高被覆管温度が高くなるため、それらに対し最高被覆管温度の低減対策として4つの提案をしている。そして、それらの対策を施した結果、最高被覆管温度が大幅に低減することを示している

第9章は結論であり、本研究のまとめが述べられている。

以上を要するに本研究は、スーパー高速炉の安全性を体系的に検討し、このシステムが持つ安全上の特徴を明らかにしている。この成果は原子力工学の進捗に貢献するところが少なくない。

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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