学位論文要旨



No 217820
著者(漢字) 李,城坤
著者(英字)
著者(カナ) イ,ソンゴン
標題(和) エネルギー技術開発計画策定のための系統的手順に関する研究
標題(洋) Systematic procedure to generate a strategic energy technology development plan
報告番号 217820
報告番号 乙17820
学位授与日 2013.03.15
学位種別 論文博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 第17820号
研究科
専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 准教授 茂木,源人
 東京大学 教授 元橋,一之
 東京大学 准教授 松島,潤
 東京大学 教授 六川,修一
 東京大学 教授 坂田,一郎
 東京大学 教授 中野,義昭
内容要旨 要旨を表示する

世界のエネルギー需要が伸び続ける中,人類は資源の減耗に直面している.世界経済が拡大し,特に中国,インドなどの新興国の石油需要が増大する中での石油資源の減耗による需給の不均衡はエネルギーミックスのシフトをもたらす.一方で,IEAのWEO2011によると,2009年のエネルギー消費の81%は化石燃料で,これが温室効果ガス増大の最大の要因となっている.そこで,増大するエネルギー需要を満たしつつ温室効果ガスの排出を抑える持続可能なエネルギーシステムへの転換が急務である.

エネルギーの状況は直接的ないしは間接的に,経済成長と持続可能な成長を達成するための経済活動に影響される.IT,バイオ,ナノテクノロジーなどのハイテク産業が成熟した現在,米国,日本,ドイツなどの先進国及び近年工業化が進んだ韓国においても,新たな成長の原動力としてグリーンエネルギーが注目されるようになっている.例えば韓国は,国家目標である「低炭素,グリーン成長」と国家のエネルギー安全保障を実現するため,戦略的長期エネルギー技術開発計画の策定を目指している.

この戦略的エネルギー技術開発計画策定のための最も大きな問題は,将来の不確実性を考慮したシステマティックな策定手順が存在しないことである.戦略的エネルギー技術開発計画の策定は研究開発予算の配分を決める作業でもある.これは多基準意思決定問題であるが,複数の多基準意思決定手法を取り入れた戦略的エネルギー技術開発計画の策定は現在までのところ行われたことがない.韓国においても,世界7番目のCO2排出国として気候変動枠組条約(UNFCCC: United Nations Framework Convention on Climate Change)のフレームワークに従い,かつ原油価格が120~150$/bblになるというたった一つのシナリオの元でエネルギー技術戦略とエネルギー技術開発ロードマップが作成されている.将来の不確実性が増している現状を鑑みると,複数のシナリオを考慮した戦略的エネルギー技術開発計画の策定が急務である.

本研究においては,シナリオプランニングと複数の多基準意思決定手法を組み合わせた,戦略的エネルギー技術開発計画策定のためのシステマティックな手順を提示している.第一ステップではエネルギーセキュリティを考慮し,エネルギー及び環境制約の不確実性を反映させた4つのシナリオをシナリオプランニングにより求める.シナリオプランニングは,不確実な将来に対してほぼ同じ程度の確率で起こると考えられる将来環境を想定し,それぞれの環境に応じた最適な戦略を考え総合的な意思決定を行うための参考とする,政府及び民間で広く用いられる手法である.本研究では戦略的エネルギー技術開発計画に影響する以下の10の要因を考慮した.つまり,原油価格,UNFCCC,資源ナショナリズム,世界経済の動向,原子力政策,エネルギー多消費産業の動向,エネルギー関連技術の現状と展開,エネルギー需要,低炭素社会に対する志向,エネルギーセキュリティ,である.国家のエネルギーセキュリティと不確実性の度合いを考慮し,10の要因からシナリオプランニングのための二つの最重要独立変数を特定するため5段階評価によるTOPSIS (Technique for Order of Preference by Similarity to Ideal Solution) を実施した.この結果原油価格と原子力政策が最も重要な独立変数とされたため,これらを変数とするシナリオを策定した.

第二ステップでは専門家による協議と公表された参考文献により基準と構造化された階層が構築された.技術的派生,経済的派生,UNFCCCの政策,研究開発予算,エネルギーセキュリティ上の技術開発の緊急性を重要基準として選出した.一対比較のピアレビュー調査を行い,デルファイ法により再調査することにより専門家の意見を確認した.ケーススタディとして,4つの各シナリオにおける15のグリーンエネルギー技術の相対的な重要度をAHP (Analytic hierarchy process),ファジーAHP,及びTOPSISにより評価し,シナリオ毎の比較検討を行った.また,原子力に対し肯定的なグループと否定的なグループ,キャリアの有無などのグループ別にクラスタリングし,個人の選好や経験と重要度のランキングの関係を分析した.さらに,上位基準中の経済的派生の重要度を変数とし感度分析を行った.この結果,提案された二段階法による戦略的エネルギー技術開発計画策定のためのシステマティックな手順に対する様々な洞察が得られた.

以上に示すように本研究は,将来の不確実性を考慮した戦略的エネルギー技術開発計画を策定するための,シナリオプランニングと多基準意思決定手法を組み合わせた,システマティックな手順を提案するものである.本研究はエネルギー政策立案者及び意思決定者に対し,エネルギー政策策定及びエネルギー技術開発部門に見られるシステマティックなプロセスを用いて戦略的エネルギー技術開発計画を策定するための,科学的かつ有効なガイドラインを示すものである.

審査要旨 要旨を表示する

本博士論文「Systematic procedure to generate a strategic energy technology development plan」は,世界経済の拡大に伴うエネルギー需要の増大,特に中国,インドなどの新興国のエネルギー需要の増大に伴い,世界の一次エネルギー供給のほぼ40%をまかなう在来型石油資源の減耗によるエネルギー需給の不均衡が予想される中で,各国の将来のエネルギー戦略を決定づける各種エネルギー技術へ研究開発予算の配分を合理的に求める一連のシステマティックな手法を提案するものである.

IEAのWEO2011によると,2009年のエネルギー消費の81%は化石燃料で,これは温室効果ガス増大の最大の要因ともなっている.そこで,増大するエネルギー需要を満たしつつ温室効果ガスの排出を抑える持続可能なエネルギーシステムへの転換が急務である.エネルギーの状況は直接的ないしは間接的に,経済成長と,持続可能な成長を達成するための経済活動に影響される.IT,バイオ,ナノテクノロジーなどのハイテク産業が成熟した現在,米国,日本,ドイツなどの先進国及び近年工業化が進んだ韓国においても,新たな成長の原動力としてグリーンエネルギーが注目されるようになっている.例えば韓国は,国家目標である「低炭素,グリーン成長」と国家のエネルギー安全保障を実現するため,戦略的長期エネルギー技術開発計画の策定を目指している.

この戦略的エネルギー技術開発計画策定のための最も大きな問題は,将来の不確実性を考慮したシステマティックな計画策定手順が存在しないことである.戦略的エネルギー技術開発計画の策定は研究開発予算の配分を決める作業でもある.これは多基準意思決定問題であるが,複数の多基準意思決定手法を取り入れた戦略的エネルギー技術開発計画の策定は現在までのところ行われたことがない.韓国においても,世界7番目のCO2排出国として気候変動枠組条約(UNFCCC: United Nations Framework Convention on Climate Change)のフレームワークに従い,かつ原油価格が120~150$/bblになるというたった一つのシナリオの元でエネルギー技術戦略とエネルギー技術開発ロードマップが作成されている.将来の不確実性が増している現状を鑑みると,複数のシナリオを考慮した戦略的エネルギー技術開発計画の策定が急務である.

本研究においては,シナリオプランニングと複数の多基準意思決定手法を組み合わせた,戦略的エネルギー技術開発計画策定のためのシステマティックな手順を提示している.第一ステップではエネルギーセキュリティを考慮し,エネルギー及び環境制約の不確実性を反映させた4つのシナリオをシナリオプランニングにより求める.シナリオプランニングは,不確実な将来に対してほぼ同じ程度の確率で起こると考えられる将来環境を想定し,それぞれの環境に応じた最適な戦略を考え総合的な意思決定を行うための参考とする,政府及び民間で広く用いられる手法である.本研究では戦略的エネルギー技術開発計画に影響する以下の10の要因を考慮した.それは,原油価格,UNFCCC,資源ナショナリズム,世界経済の動向,原子力政策,エネルギー多消費産業の動向,エネルギー関連技術の現状と展開,エネルギー需要,低炭素社会に対する志向,エネルギーセキュリティ,である.国家のエネルギーセキュリティと不確実性の度合いを考慮し,10の要因からシナリオプランニングのための二つの最重要独立変数を特定するため5段階評価によるTOPSIS (Technique for Order of Preference by Similarity to Ideal Solution) を実施した.この結果,原油価格と原子力政策が最も重要な独立変数とされたため,これらを変数とするシナリオを策定した.

第二ステップでは専門家による協議と公表された参考文献により基準と構造化された階層が構築された.技術的派生,経済的派生,UNFCCCの政策,研究開発予算,エネルギーセキュリティ上の技術開発の緊急性を重要基準として選出した.一対比較のピアレビュー調査を行い,デルファイ法により再調査することにより専門家の意見を確認した.ケーススタディとして,4つの各シナリオにおける15のグリーンエネルギー技術の相対的な重要度をAHP (Analytic hierarchy process),ファジーAHP,及びTOPSISにより評価し,シナリオ毎の比較検討を行った.また,原子力に対し肯定的なグループと否定的なグループ,キャリアの長さの長短などのグループ別にクラスタリングし,個人の選好や経験と重要度のランキングの関係を分析した.さらに,上位基準中の経済的派生の重要度を変数とし感度分析を行った.この結果,提案された二段階法による戦略的エネルギー技術開発計画策定のためのシステマティックな手順に対する様々な洞察が得られた.

以上に示すように本研究は,将来の不確実性を考慮した戦略的エネルギー技術開発計画を策定するための,シナリオプランニングと多基準意思決定手法を組み合わせた,システマティックな手順を提案するもので,エネルギー政策立案者及び意思決定者に対し,エネルギー政策及び戦略的エネルギー技術開発計画を策定するための,科学的かつ有効なガイドラインを示したところにその成果の最大の意義がある.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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