学位論文要旨



No 115574
著者(漢字)
著者(英字) Allani,Chokri
著者(カナ) アフニ,ショクリ
標題(和) 情報技術の製品開発の動的分析 : 自動車技術との比較分析
標題(洋) Dynamic Analysis of the Environment of IT Product Development Process : Comparison with the Automobile Industry
報告番号 115574
報告番号 甲15574
学位授与日 2000.06.15
学位種別 課程博士
学位種類 博士(学術)
学位記番号 博工第4743号
研究科 工学系研究科
専攻 先端学際工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 児玉,文雄
 東京大学 教授 野口,悠紀雄
 東京大学 教授 馬場,靖憲
 東京大学 教授 廣松,毅
 東京大学 教授 橋本,毅彦
内容要旨 要旨を表示する

要約

企業の技術革新において製品開発過程は非常に重要なフェーズとなる。また、適切な経営戦略の策定にはそえれぞれの産業の特質についての深い理解が必要である。情報技術産業は他の産業に比べ非常に急速な技術革新の中で発展してきている。これまで研究者たちはその不確実性と複雑性の観点からハイテク産業について分析してきた。しかし、これらの要素のついて定量的に測定しその特性を明確にした研究は少ない。不確実性は技術革新サイクルと変動する市場シェアとの関係において定義されるものである。一方、複雑性は問題解決サイクルにおいて定義され、垂直ネットワークと水平ネットワークの対比によってそののレベルは決定される。個の二つの要素の定量的分析によって、情報技術産業は自動車産業に比べ高いレベルの複雑性と不確実性を有していることがわかった。このことから経営者や経営スタッフはこの変動の激しい情報技術産業で成功するためには新しい経営方針を採用する必要があることが示された。

1.序章

これ間での経営戦略に関する文献では情報技術産業における製品開発活動を取り巻く環境について、その特性を明らかにしてこなかった。この論文ではこの産業の特性を示す定量的比較研究によって、これまでの研究の不充分であった部分に取り組む。私たちは不確実性と複雑性を特定するために情報産業の自動車産業との比較研究を行った。

2.情報技術産業における不確実性の定量的検証

急進的な環境は確かに製品開発に影響を及ぼす。この急進的な環境は次の二つの原因によっている:1)技術革新のスピード 2)技術環境の安定性。

2.1.技術革新サイクル

技術革新のスピードを測定するため私たちは製品の主な技術的進歩の起こる間隔を使用した。情報技術産業に付いては主要なPCを取りあげCPUやOSなどの主要な技術の革新期間を測定した。測定した期間は1982年から1998年である。自動車産業については1980年から1997年までの期間で日本の主要な自動車メーカ5社の代表的自動車モデル32をとり、エンジンやボディ、アクセル等における新しい技術特性を備えた新製品が市場に導入される間隔を測定した。

これより情報技術産業の方が相対曲に主要な技術術革新のスピードが短いことがわかる。情報産業では比較的短い時間で新しい製品が開発され市場に導入されており、製品はより早く廃れてしまう。よって情報産業における企業は短い時間で新しい技術的ソリューションを開発しなければならなくなっている。

2.2.技術環境の安定性

安定性を測定するために私達はSpearman Rank相関係数を計算した。〓これは市場における代表的な企業のシェアの順位の変遷という観点から見た場合の技術環境の安定性である。

情報技術産業では不確実性が高く自動車産業のランクの相関係数の値は0.98であったのに対し0.71であった。

上記二つの結果から私達は情報技術産業の発展は相対的に変か激しい環境の中で行われていると結論づけた。

3.技術革新プロセスにおける複雑性の定量的検証

現在の学術的文献では情報技術産業は比較的複雑性の高い産業であるとしている。しかし、その複雑性の持つ意味とそのレベルについての定量的な研究は殆どなされてはいない。複雑性を測定するにあたって私達は製品に使われている部品の点数を数えるような古典的な方法は使用しない。

そうではなく私達はコンポーネントの「制御可能度」を使用する。言い換えるなら製品の設計、開発、生産過程のそれぞれにおいて製品メーカーがどれだけのコンポーネントを制御することができるかという指標である。もし制御可能度が高いなら企業はその製品の技術的問題について企業外部とのやり取りをする必要がなく、企業内部のネットワーク(下請企業、契約先で取り組むことができるということを示している。この指標を計算するために私達は20の企業に調査表を送り五つの自動車メーカーと五つのコンピュータメーカーから回答を得た。

調査結果

コンピュータと自動車産業の制御可能度

自動車産業 0.8

PC 0.3

4.結論

これらの定量的な結果によって、情報技術産業は相対的に不確実で複雑な環境の中で発展してきたといえる。この研究は経営者や政策策定者に技術経営(MO T)にふさわしい方法論を考えることの必要性をを示唆している。

Median Analysis of Major Technological Innovation Cycles

in the automobile and computer industries(1982-1998)

Major Technological Innovation Cycles

審査要旨 要旨を表示する

 既存の戦略経営の研究では、情報産業(IT産業)における製品開発の特徴を明示的に言及したものは少ない。そこで、本論文は、情報産業の特徴を実証的に示すことを目的としている。情報産業を取り巻く環境は、全ての面において流動的である。従来の研究によれば、この流動性は高度の不確実性と複雑性に起因するとされている。そこで、この不確実性と複雑性の概念を定式化し、これらを計測する方法を考案した。この計測方法により、情報産業の典型的な製品であるパーソナル・コンピュータ(PC)についての計測を行い、この結果を乗用車の計測結果と比較している。

 不確実性を規定する要因として、技術革新の速度と技術開発環境の安定性を取り上げている。技術革新の速度を、主要な技術革新が製品に導入される場合のリード・タイムと定義し、これを技術革新サイクルと呼んでいる。PCについては、その主要構成要素(CPUとOS)の大幅な改良の時期を、1982-1998年間にわたって特定している。乗用車については、日本の乗用車メーカーの32個のモデルについて、1980-1997年間に起きたフルモデルチェンジの時期を特定している。このデータに基づき、技術革新サイクルの周期を2つの変更の間の期間の中央値で計測している。その結果、情報産業における技術革新の速度は、自動車産業に比べて、かなり短いことを明らかにしている(PCの技術革新サイクルは2年であるのに対し、乗用車のそれは5年であった)。

 技術開発環境の安定性を、競合企業のマーケットシェアの変化の大きさで計測している。各年度におけるマーケットシェアの大きさの順に、各社をランク付けする。当該年度のランクと前年度のランクとの間の相関係数(Spearmanのランク相関係数と呼ばれている)を計算し、この係数が高ければ安定性は高く、低ければ安定性が低いという形の計測を行っている。この計測をPCについては、1983-1997年のマーケットシェアのデータについて、乗用車については、1982-1997年のデータについて計算した結果、乗用車のランク相関係数の平均値は0.98(標準偏差値は0.03)であり、PCのそれは0.71(標準偏差値は0.41)であり、情報産業の技術開発環境は非常に不安定であることを明らかにしている。以上の計測結果を組み合わせて、情報産業は高度の不確実性により特性づけられると結論している。

 技術の複雑性についての従来の研究は、プロジェクトの範囲、ユーザーとのインターフェース、構成部品の数などを対象としたものであった。しかし、本論文では、問題解決の複雑性を指標にすることを提案している。そのために、ネットワークを分析の単位として採用している。乗用車の場合は、構成部品点数は多数にのぼるが、間題解決は完成車メーカーを頂点とする垂直的なネットワーク構造の中で行われる。これに対して、PCの開発は、特定の企業をリーダーとして行うという形を取っていない。すなわち、情報産業における開発は、水平的なネットワークの中で行われる。このことは、最終製品のメーカーの部品メーカーへのコントロールが弱いことを意味している。そこで、技術の複雑性を、部品メーカーへのコントロール可能性で計測することを提案し、企業の担当者へのアンケート調査で実際に計測している。20社へ質問票を送り、乗用車については5社からの回答が、PCについても5社からの回答が得られた。回答が得られた企業への追加インタビュー調査も行い、PCにおけるネットワークのコントロール度は、0.30であり、乗用車のそれは0.80という結果を得ている。すなわち、問題解決という観点からの複雑性では、情報産業の方が乗用車産業より複雑であると結論している。

 上記の計測方法の妥当性と計測結果の政策インプリケーションを検討するための分析を行っている。不確実性と安定性の計測方法の間の独立性を検証するために、テレビを事例として取り上げ、実際に計測し、その結果をPCと乗用車の計測結果と比較検討することにより、本論文で採用した計測方法の妥当性を確認している。政策インプリケーションについては、2つの産業の製品開発過程の違いが研究開発活動にどのような影響を与えているかについての分析をしている。具体的には、研究集約性と技術の陳腐化の速度にどのような影響をもたらすかを分析している。

 以上を要するに、本論文により、情報産業の製品開発における特徴を定量的に明らかにする方法が開発された。よって、本論文は博士(学術)の学位請求論文として合格と認められる。

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