学位論文要旨



No 115614
著者(漢字) 神津,直
著者(英字)
著者(カナ) コウズ,ナオシ
標題(和) エネルギー物質の高圧高温下での挙動に関する研究
標題(洋)
報告番号 115614
報告番号 甲15614
学位授与日 2000.09.21
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4751号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 田村,昌三
 東京大学 教授 幸田,清一郎
 東京大学 教授 越,光男
 東京大学 助教授 新井,充
 東京大学 助教授 茂木,源人
内容要旨 要旨を表示する

 エネルギー物質は,単位体積内に多大な化学エネルギーを含有しており,外部からの熱や衝撃によって分解,爆発を起こす。このため,安全かつ有効に利用するためには,その特性を適切に把握することが不可欠であり,多くの研究がなされているが,詳細は未だに解明されていない。安全性の評価としては,様々な種類の定性的な測定法から多くの知見を得て,総合的な判断がなされている。しかし,エネルギー物質の反応には限界薬量が存在するなど,量による効果が無視できない。扱う量が大きい場合など,定量的な安全性を把握する必要があるが,大量のエネルギー物質の反応を測定することは,設備的にも技術的にも困難である。そのため,少量の試料で定量的な評価を与える試験法や適切なモデル化によるシミュレーションの開発が望まれる。

 爆発反応をモデル化するためには,圧力に対する反応挙動の解明が不可欠である。爆発反応のうち特に爆轟反応においては,衝撃波による圧縮過程での挙動がその反応特性の重要な因子となる。これまで衝撃起爆反応の研究においては,衝撃波の発生に爆薬や衝撃銃が多く用いられているが,反応機構を分子レベルで研究するためには,分光学的な手法や生成物分析を行う必要があり,これらの手法では現象が単発であることから解析可能なスペクトルを得ることは難しい。Wineyら1,2)は,衝撃銃を利用してニトロメタンの衝撃圧縮下での分光測定を行っている。彼らの実験は,反射衝撃波を利用した他段階圧縮であり,圧縮時間が長く,温度上昇も抑えられた現象になる。衝撃波の不連続かつ急激な圧力及び温度の上昇が反応に与える影響を研究するためには,一般的な一段階の衝撃圧縮下での反応を研究しなければならない。

 本研究では,従来の手法では行うことのできなかった衝撃起爆反応の分光学的研究を可能にする衝撃波発生システムとして,パルスレーザーの集光により発生する衝撃波を利用した研究装置を開発した。エネルギー物質のモデル物質としてニトロベンゼンを用いた。ニトロベンゼンは,代表的なエネルギー物質グループである芳香族ニトロ化合物の基本構造を持つ物質である。

 第2章では,爆薬を用いた実験によるニトロベンゼンの衝撃圧縮曲線測定に関して論じる。エネルギー物質の衝撃圧縮下での挙動を研究する際に,衝撃圧縮曲線(Hugoniot)は最も基本的な圧縮状態のパラメータである,圧力や比体積を与える。したがって,分子レベルでの研究を行うためにも,圧縮状態の把握のためにHugoniot測定は不可欠である。

 本研究では,レーザーによる衝撃圧縮を利用した研究手法を開発し,同条件でのHugoniot測定も行うが,測定データの精度を評価するため従来一般的に行われている爆薬レンズ3)による衝撃圧縮下でのHugoniot測定を行った。

 ニトロベンゼンのHugoniotは,Yakyshevら4)が測定しており,13GPa以上で分解反応が起きると報告している。今回,われわれがニトロベンゼンの衝撃圧縮曲線を測定したところ,Yakyshevらの結果と異なり,衝撃圧約15GPaで状態の変化があり,爆轟特性値計算(CHEETAH5))との比較から,高圧側では爆轟反応を起こしている可能性のある結果を得た。また,HugoniotとC.J点の関係は他の爆薬の場合と似ているが,ZNDモデルを考えた場合にノイマンスパイクを超えているとみられる衝撃下で,未反応状態の衝撃圧縮曲線上の測定点が存在する。このことから,ニトロベンゼンの反応性が低いことが予想される。

 第3章では,ニトロベンゼンの静的高圧下での挙動を研究した。衝撃下で物質は,数GPaから数十GPa程度の超高圧状態に不連続的に圧縮される。爆轟状態では,そのような高圧高温状態に圧縮された後,反応が開始するといわれている。ここでは,同程度の高圧状態を等温で静的な圧縮により達成し,圧力による状態の変化を調べ,また等温圧縮曲線(isomer)を測定した。この結果を衝撃圧縮実験の結果と比較することにより,衝撃下の状態に関する知見を深めることができると考えられる。高圧力の発生には,ダイヤモンド・アンビル・セルを用いた。ダイヤモンド・アンビル・セルは,エネルギー物質の研究に適した特性を持つことから,本論文第4章以下で論じるレーザー衝撃圧縮装置と同様に,エネルギー物質の高圧高温下での挙動を分子レベルで研究する上で重要な装置であると考えられる。

 本研究では,ダイヤモンド・アンビル・セル内のニトロベンゼンに対しX線回折,Raman散乱およびIR吸収を測定した。X線回折から,7GPaまで相変化がないことが明らかになった。7GPa付近から反応を起こし,X線回折およびRamanスペクトルが取得できなくなる。この生成物のIRスペクトルに,ベンゼンの30GPaでの高圧重合生成物の根拠とされるスペクトル(2910cm-1:CH2 or saturated CH stretching vibrations)6)が現れていることから,ニトロベンゼンが重合を起こしていると考えられる。

 衝撃圧縮曲線と等温圧縮曲線を比較すると,それぞれ状態の異なるものであることがわかり,衝撃圧縮下で液相であることが予想される。

 第4章以下では,レーザーにより発生する衝撃波を利用したエネルギー物質の研究に関して論じる。レーザーによって衝撃波を発生させる研究は,1980年代より数多く行われており,主に大出力レーザーの利用による未踏達圧力領域の発生技術として注目されてきた。しかし,この技術をエネルギー物質の衝撃圧縮下での反応挙動を研究するために利用した例は少ない。エネルギー物質の研究に必要な衝撃圧力は,一般的なテーブルトップのパルスレーザーで十分発生することが可能である。10Hz程度で安定した出力が得られることから,同一条件での繰り返し衝撃圧縮が可能になり,分光分析を行う上で微弱なスペクトルも,積算することにより容易に解析可能なスペクトルを得ることができる。また,エネルギーの印加が目的試料に限定され,試料として用いるエネルギー物質も少量になるため,試料ホルダー全体の破壊が回避され,生成物の回収も容易になる。

 しかし,このようなレーザー衝撃波を利用する上では,解決すべき問題も多い。まず,衝撃圧縮下での状態方程式測定や分光測定に十分な,空間・時間プロファイルを持つ衝撃波の発生手法が確立していない。さらに,発生する衝撃波は持続時間が数十nsと短く,それにともない試料の厚さも数十μmとなるため,従来の方法に比較して測定や試料作成など,さまざまな技術的課題が発生する。

 第4章では,Nd:YAGレーザー(出力1J,パルス巾10ns)を利用し,研究に利用可能な衝撃波を発生させる手法に関する研究を行った。パルスレーザーを集光することによって生じるエネルギーにより衝撃波を発生させ,衝撃圧縮状態の研究へと利用するためには,まず研究に必要な空間・時間プロファイルを持つ衝撃波を発生させる手法を確立する必要がある。本研究では,直接法と飛翔体加速法と呼ばれる二つの手法に関して,光学的速度干渉系を用いた実験と一次元流体力学シミュレーション(my1dl7))から検討,考察を行った。

 ガラス板にAl箔を接着したものをターゲットとし,Al箔や接着層の厚さによる加速プロファイルの違いを測定した。測定にはVISARを用い,微小領域における高精度の時間分解能を達成した。また,一次元流体力学シミュレーションから加速過程の予測が可能であることを見いだした。直接法を用いる場合,金属箔内部で衝撃波が形成されるために十分な箔厚が必要になる。また,発生する衝撃波は矩形プロファイルを持たないため,圧力分布を考慮する必要があるが,シミュレーションにより予測可能であることがわかった。飛翔体加速法の場合,なだらかな加速を行うためには箔内部で急峻な圧力波が形成されないことが必要であり,自由表面からの反射波により圧力が緩和するよう,箔の厚さとパルス巾とを選択する必要がある。今回用いたパルス巾が10nsのレーザーの場合,Al箔の厚さが25μmの時になだらかな加速が実現された。

 第5章では,第4章で検討したレーザー衝撃波を利用して,Hugoniot測定を行う装置開発を行った。レーザー衝撃波を利用して衝撃圧縮研究を行う際に,実際に試料に加えられた衝撃圧等の衝撃パラメータを知ることは必要不可欠である。

 本研究では,line ORVISと呼ばれるVISARを用いた手法によりHugoniot測定を行う装置を開発した。一般的なVISARでは一点における速度履歴が得られるが,line ORVISでは,点ではなく線上の各点における速度履歴を同時に測定する。試料に段差をつけることにより衝撃波速度と粒子速度を同時に測定することや,標準物質とのインピーダンスミスマッチを利用した測定が可能になる。また,飛翔体加速過程に関してもその空間プロファイルの測定が可能になり,平面性や速度分布が明らかになる。

 まず,直接法と飛翔体加速法で,駆動板と試料の界面の速度履歴を測定した。直接法では,A150および100μmを用いたときに,約400μm径程度の領域で不連続的な速度の立ち上がりが得られた。飛翔体加速法では,飛翔体にAl25μm,駆動板にCu10μmを用いた。直接法よりも高い速度が得られるが,領域は100μm径と小さくなる。また,飛翔体と駆動板との間隙を再現性良く作成することが現状では困難なため,測定タイミングの制御がむずかしい。したがって,Hugoniot測定およびRaman分光分析には,直接法による衝撃圧縮法を用いる。

 駆動板と試料の界面の速度履歴と駆動板の自由表面速度を同時に記録し,それぞれから試料および駆動板の粒子速度を測定した。この測定結果から,インピーダンス・ミスマッチ法を用いて試料の衝撃パラメータが求められる。この手法では,駆動板から試料へと衝撃波が入射する瞬間のみの測定になるため,直接法を用いた場合のように衝撃波が矩形プロファイルを持たない状況でも精度の良い測定が可能である。ニトロベンゼンのHugoniot測定を行い,爆薬レンズを用いた実験で取得したHugoniotと一致することが確認された。

 第6章では,レーザー衝撃圧縮下でRaman分光を行う装置を開発した。レーザー衝撃波の特徴として,現象と測定の高精度のタイミング制御が可能であり,同一条件での繰り返し実験が容易になることがある。このような特徴から,従来の衝撃波発生手法では困難であった分光分析による分子レベルでの衝撃圧縮下の研究は,レーザー衝撃波を用いた繰り返し衝撃圧縮実験によるスペクトルの積算により,容易になると考えられる。現在用いているレーザーでは,ニトロベンゼンの反応を起こす圧力(15GPa)の発生は不可能であったが,単発現象下でのRamanスペクトルを取得する装置を開発した。衝撃波の発生には,Continuum社製Nd:YAGレーザーの基本波(波長1064nm,パルス幅10ns,出力500mJ)を用い,ラマン分光用のプローブ光には同レーザーをビームスプリッターで分岐させ,SHGによって発生させた第二高調波(波長532nm)を利用する。同一レーザーパルスを分割し,衝撃波の発生とラマンプローブ光を光路差によってタイミング制御するため,現象と測定の高精度な同期が可能になる。また,光路差を変化させることにより時間分解が可能である。

 駆動板にAl箔(50,100μm)を用いて,ニトロベンゼンの衝撃圧縮下のRamanスペクトルを測定した。衝撃波の発生には直接法を用いており,また試料(100μm)の後方に窓材としてガラス板を配しているため,試料内部の圧力履歴は衝撃波の減衰および反射波による増加を受けて複雑になる。このため,一次元流体力学シミュレーションによる予測とスペクトルの時間分解により解析する必要がある。現象に対するプローブ光の入射タイミングを10〜55nsまで変化させてスペクトルを取得した。ピーク位置が,圧力領域の推移に対応して変化している。この変化量が,小林ら8)の衝撃銃を利用した結果とほぼ同等になることを見いだした。また,ダイヤモンド・アンビル・セルを利用した静的高圧力下での変化量と比較して約半分程度となっており,衝撃圧縮下では状態が異なることを示す。

 エネルギー物質の衝撃圧縮下での挙動を分子レベルで解明するため,衝撃波の発生にパルスレーザーを用いたシステムを開発し,ニトロベンゼンのHugoniot測定,Raman分光分析に応用した。従来の衝撃圧縮技術と異なり,このシステムでは同一条件の繰り返し実験が可能であることから,衝撃起爆反応を分子レベルで解明することが可能になると考えられる。ニトロベンゼンの衝撃圧縮下の挙動を解明するための第一段階,およびレーザー衝撃圧縮技術の比較対称として,爆薬レンズを利用した実験によるHugoniot測定とダイヤモンド・アンビル・セルを用いた静的高圧実験を行った。この結果,ニトロベンゼンが15GPaを超える衝撃圧力下で爆轟を起こすと見られること,衝撃圧縮下では液相であることが明らかになつた。また静的高圧下では0.2-0.3GPaで固化した後,7GPaまで相変化を起こさず,7GPa以上では重合と見られる反応を起こすことがわかった。

参考文献

[1] J. M. Winey and Y. M. Gupta, J. Phys. Chem. A, 101, 1544 (1997)

[2] J. M. Winey and Y. M. Gupta, J. Phys. Chem. B, 101, 10733 (1997)

[3] K. Tanaka, S. Fujiwara, M. Kusakabe and M. Yoshida, in Shock Waves in Condensed Matter, ed. by Y. M. Gupta, Plenum Press, New York, 1986, p.929

[4] V. V. Yakyshev, A. N. Dremin, S. S. Nabatov and V. M. Shunin, Comb. Expl. and Shock Waves, 15, 226(1979)

[5] L. E. Fried, “CHEETAH 1.39 User's Manual”, Lawrence Livermore National Laboratory, UCRL-MA-117541 Rev.3 (1996)

[6] Ph. Pruzan, J. C. Chervin, M. M. Thiery, J. P. Itie, J. M. Besson, J. P. Forgerit and M. Revault, J. Chem. Phys., 92, 6910 (1990)

[7] M. Yoshida, “Program MY1DL One Dimensional Lagrangian Hydrodynamic Code,” CETR Report C-06-86, Center of Explosives Technology Research(1986)

[8]小林敬道,関根利守,「衝撃圧縮下における芳香化合物のラマンスペクトル」,第40回高圧討論会,講演要旨集 p.256

Fig1: Hugoniot of nitrobenzene compared with CHEETAH code on Us-up plane. Filled-circles and solid-lines are our experimental data and linear fits. The Hugoniot of detonation products and C-J point calculated by CHEETAH code are expressed by dashed-line and pen-square, respec-tively.

Fig2: Hugoniot and isotherm of nitrobenzene on P-v plane. Solid-lines and Filled-circles are Hugoniot and data. Dashed-line and Filled-squares are the isotherm and experimental data

Fig 3: Schematic diagram of Hugoniot measurements. Line ORVIS is used to measure the velocities of the free-surface of driver and the interface of driver and sample, simultaneously.

Fig 4: Hugoniot of nitrobenzene on P-up, plane. Filled-circle is obtained by laser shock system. Filled-squares and solid-line are our Hugoniot and experimental data, and open-triangles are by Yakyshev et al.4)

Fig 5: Schematic diagram of Raman spectroscopy under shock compression. A pulse of YAG laser is divided, and one is used for shock wave generation and the oter for Raman probe. The delay time of the Raman probe is varied by distance of the pass.

Fig 6: Peak shift of Raman spectrum of nitroben-zene as a function of the delay time from shock wave arrival at the sample to the timing of Ra-man probe input. The peak shifts depend on the progress of the shock wave.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、「エネルギー物質の高圧高温下での挙動に関する研究」と題し、レーザーによる衝撃圧縮技術および高精度の計測技術を開発することにより、従来の手法では解明が困難であったエネルギー物質の衝撃圧縮下での分子レベルの反応挙動の解明手法に関する知見を得ることを目的として行った研究の成果をまとめたもので、7章から成る。

 第1章は序論であり、本論文の研究の背景および既往の研究を概説し、本論文の研究の目的と方針について述べている。

 第2章は、エネルギー物質のモデル物質として用いるニトロベンゼンに関し、レーザーを用いた新たな衝撃圧縮技術を利用する上で必要となる衝撃圧縮曲線を、一般的な衝撃圧縮手法である爆薬を用いた平面衝撃波発生装置を利用して測定した結果について論じている。ニトロベンゼンの衝撃圧縮曲線は、15GPa以上の衝撃圧縮下でニトロベンゼンの状態が変化することを示しており、爆轟特性値計算により予測される爆轟生成物の衝撃圧縮曲線とよく一致することから、この範囲で爆轟反応が起こる可能性を示している。

 第3章では、ダイヤモンド・アンビル・セルを用いたニトロベンゼンの静的圧縮実験を行い、その結果得られた固相の等温圧縮曲線と衝撃圧縮曲線の比較から、静的圧縮下と衝撃圧縮下では状態が異なり、ニトロベンゼンは衝撃圧縮下では液相である可能性を示している。また、ニトロベンゼンは静的圧縮により5-7GPa以上で重合反応を起こすことを示している。

 第4章は、パルスレーザーの集光により発生する飛翔体の加速履歴を、光学的速度干渉計VISAR(Velocity Interferometer System for Any Reflector)を用いた速度測定実験と一次元流体力学シミュレーションにより検討し、レーザー衝撃波の発生技術について論じている。レーザーのパルス巾と用いる金属箔の厚さにより、飛翔体の加速過程に差異が現れることを示しており、Nd:YAGレーザー(波長1064nm,パルス巾10ns,出力<400mJ)を厚さ25μmのアルミニウム箔に集光した場合、温度上昇の少ないなだらかな加速が得られることから、飛翔体が駆動板である金属箔に衝突した際に発生する衝撃波を利用する飛翔体加速法に有効であることを示している。また、同レーザーを厚さ50および,100岬のアルミニウム箔に集光した場合、箔内部で衝撃波が形成されることから、金属箔内部に発生する衝撃波を直接試料に導入する直接法として有効であることを示している。

 第5章は、第4章で検討したレーザー衝撃波により、エネルギー物質の衝撃圧縮下の状態式を測定する手法の開発について述べている。VISARに空間分解能を持たせた線上集光ORVIS(Optically Recording Velocity Interferometer System)を用いることにより、数%の精度で粒子速度の測定を可能にしている。駆動板の自由表面速度と駆動板と試料の界面の速度を同時に測定することによって、ニトロベンゼンの衝撃圧縮時の状態点を測定し、それが第2章で得た衝撃圧縮曲線と一致することを確認している。その結果、この装置により、エネルギー物質についてレーザーを用いて衝撃圧縮した際の圧縮状態を知ることができることを示している。

 第6章では、レーザー衝撃圧縮下の試料に対し、ラマン分光測定を行う装置の開発について論じている。Nd:YAGレーザーのパルスをハーフミラーにより分割し、一つを基本波のまま衝撃波の発生に、他を第二高調波としてラマン分光のプローブ光に用いている。この方法では光路差によりタイミングを同期するため、精度の良い時間分解を行うことが可能となっている。第5章で開発した線上集光ORVISおよび流体力学シミュレーションにより試料の圧縮状態を把握し、衝撃圧縮下のラマンスペクトルを取得している。また、分解能をさらにあげることにより、衝撃圧縮された試料の分子状態の詳細を把握することが可能となることを示している。このレーザー衝撃波を利用したシステムは、同一条件の衝撃圧縮を容易に行うことができ、これまで取得の困難であったエネルギー物質の衝撃圧縮下での反応時のスペクトルも積算により取得可能であり、衝撃起爆反応の解明に大きく貢献する可能性があることを示している。

 第7章は総括であり、本論文の研究の成果をまとめている。

以上要するに、本論文はエネルギー物質の高圧高温下での反応挙動を分子レベルで研究するためのレーザー衝撃波を用いた手法を確立したもので、エネルギー物質化学ならびに化学システム工学の発展に貢献するところが少なくない。

よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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