学位論文要旨



No 115666
著者(漢字)
著者(英字) Dhakal,Shobhakar
著者(カナ) ダカール,ソバカル
標題(和) 排熱管理による都市熱環境の改善
標題(洋) Improvement of urban thermal environment by managing heat discharge
報告番号 115666
報告番号 甲15666
学位授与日 2000.09.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4782号
研究科 工学系研究科
専攻 都市工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 花木,啓祐
 東京大学 教授 玉井,信行
 東京大学 教授 山本,和夫
 東京大学 助教授 貞広,幸雄
 東京大学 講師 荒巻,俊也
内容要旨 要旨を表示する

 この学位論文では、都市の熱環境への排熱の影響を東京をケーススタディとして研究している。焦点は改善対策である。この学位論文の主な目的は、建物の全体的な熱バランスのメカニズムを研究すること、また建物と道路からのマイクロスケールの排熱影響をメソスケールの気候シミュレーションへ組み込むことである。まず第一に、東京での既存の土地利用を地理情報システム(GIS)を利用して調査する。建物使用、高さ、サイズによって床面積配分を、東京について各カテゴリーごとの代表的な建物を見いだすという観点から分析する。マイクロスケールの建物エネルギーシミュレーションモデルであるDOE-2(2.1E版)を用いて、各カテゴリーの建物の全体的な熱バランスメカニズムを調べ、それらの代表的な建物から外部環境に排出される潜熱と顕熱とを推定する。この研究では建物カテゴリーから1キロメッシュに排出される潜熱と顕熱を総計するために、GISを基礎とする集中定数モデルが発展させてある。そして潜熱と顕熱の排出は東京全体で鉛直方向だけでなく水平方向にも推定される。コロラド州立大学のメソスケールモデル((CSUMM-NIES)を用い、メソスケールでの気候の中に潜熱と顕熱の排出影響をシミュレーションできるように境界条件を修正してある。都市熱環境への排熱の役割は地表面近くの気温における日変動や空間変動という観点から研究されている。すなわちエネルギーや地表面変形に関連し、種々のシナリオが定式化され、熱環境へのシナリオの影響が評価される。

個別空調方式を用いる小規模事務所ビルの場合、1平方床面積当たりのピーク排熱は107のw/m2で、午後5時に見られる。空調設備が稼動しておらず、太陽放射がすべて建物構造に吸収されるとき、正味の熱バランスは午前6-7時を除き常に正(熱が大気中に発せられる)であることがわかる。排熱が夜と早朝はわずか(20W/m2以下)であることがわかる。昼下がりには20-70W/m2、午後2-6時には80W/m2よりもっと大きな値をとる。吸収式冷凍機を用いる大規模事務所ビルでは、ピークの排熱は約180W/m2で、小規模事務所ビルと類似したパターンが見られる。個別空調方式を用いる商業施設、標準的な小規模百貨店は午後8時に385W/m2のピーク排熱値をもっていることがわかる。小さい負の排熱が深夜と早朝に観察される。吸収式冷凍機を用いる商業施設では、午後8時におよそ700W/m2のピーク排熱が推測される。戸建住宅は、建物構造が太陽放射を吸収する午前6時から午後4時までは排熱は大きく負の値をとる結果となった。戸建住宅は、午後4時の後のみ外気に熱を排出し、午後7時の150W/m2のピーク値に向けて次第に増加していく。アパートの場合には、午後7時に80W/m2のピーク排熱が見られ、午前6時から午後2時まえは負の排熱である。

空調設備の位置は建物の高さに沿ってそれぞれの階レベルでの熱バランスにおいて意味深い影響をもつと考えられる。

東京の全排熱はは3つのキーとなる場所、丸の内、新宿と池袋に集中している。午後6時に新宿を含む1キロのメッシュで全排熱のピーク値は677W/m2と推定される。このとき大手町と池袋を含むメッシュはそれぞれ608W/m2と496W/m2てある。事務所ビルが午後5時におよそ550W/m2のピーク排熱を持つ一方住宅の排熱は午後7時に100W/m2のピーク値を持つ。

メソスケール気候シミュレーションを晴天日の東京において実行する。シミュレーションにより12時正午において海面温度でのピークと表面温度の差異が5.3℃であることが示された。ヒートアイランドが午後6時をすぎた後、午前9時に丸の内の周りに観察される。東京の板橋地区(中央の業務地区から)との比較で、丸の内におけるヒートアイランド強度は午後6時に0.9℃、午後7時に2.3℃となり、そして午後8時に1.4℃に減少している。新宿と池袋地区におけるヒートアイランド強度は、大規模商業施設床面積のために午後7時から10時までもっと強くなる。努力が排熱の影響の評価ためになされる。排熱により丸の内の深夜の気温が3.4℃ほども増加する。影響は、午後6時を過ぎると3℃を超えるが、昼間(午前9時から午後4時)に大きくても1℃であり、より少ない。シミュレーション結果によると、空調設備を一階において下から排熱すると、ACシステムを1階の上に置くことによって、新宿、丸の内、池袋での地表面温度を午後には0.2-0.4℃上げる。増加のピーク値は新宿付近で午後6時で0.6℃になる。温度増加はおよそ0.3度によって午後9-10までで激しく、約0.3℃である。同様に、建物の屋上に空調設備を置くことにより地表面近くの気温を減少させることは午後5時を過ぎた後では丸の内、新宿地区では非常に重要である。午後は、0・2度の減少が見られる。午後9時には0.75℃、それ以降は夜の安定層形成のため午前4時まで平均0・55℃の減少が観察される。

空調方式タイプと冷却効果を調査する。冷凍機を使っている建物を(10,000平方メートル以上)冷却塔にかえて排熱することで、最大減少値が丸の内地区で0.5℃午後6時に得られる。このような対策の効果は、午前9時(およそO.45℃)いっそう顕著で、日中はおよそ0.35℃、午後6-7時に最大で深夜と早朝には効果はない。。他方、相対湿度が潜熱のために日中1-2%増加することかわかる。さらに完全に空調方式のタイプをかえる影響をみるために調査を行う。東京で電気消費するすべての建物を個別方式の空調設備にかえることは、丸の内で午後6時に最大0.3℃の温度減少があることがわかる。しかし、冷却塔を用いた吸収冷凍機にかえることは、相対湿度を3%あげる一方午後6時に最大0.7℃の温度を下げるかもしれない。冷却塔をつけた吸収冷凍機は丸の内のようなオフィス街周辺で午後、0.4℃以上の温度減少させられることがわかる。莫大な熱が排出される場所を除き、すべての熱を地面へ排出することは、大抵の場所で表面温度を下げることが出来ることがわかる。他のメッシュにでは午前3時に1.7℃のピークがあり、0.4-0.8℃の減少が夜にみられる一方、ある少しのメッシュでは0-0.28℃の上昇がみられる。

エネルギー関連のシナリオと比較すると、表面変形関連のシナリオはより広いエリアで温度を減らすことがわかる。効果は東京23区の北西と南西でより大きく、中央業務地区においてより小さいことがわかる。基本的に建物屋根と道路で、表面アルベドの緩やかな増加により東京23区で0.25℃以上、、ある場所では最高0.4℃を減らすことができる。同様に、(屋根0.7と道路0.30のアルベドのように)建物アルベドを大きく変更することで、午後に0.7℃以上減らすことが出来る。正午では東京の北西のある場所では1.4℃のピーク減少がある。建物周りをすべて緑化すると東京23区の北西と南西においてもっと効率よく温度1℃以上度を減らすことがわかる。

結論として、異なった建物の全体の熱バランスがを推定する新しいアプローチがこの研究で提案される。そしてそれらのメソスケール気候への影響は都市熱環境改善の観点からの研究である。軽減対策のの有効性が計画に依存するとわかった。。もし計画が丸の内のような市街地においてヒートアイランド効果を減少させるなら、エネルギー関連のシナリオが重要な役割を果たすだろう。建物の屋上に排出設備をつけるか、あるいは方式をすべて個別にするような単純な対策が夜に(午後6時)温度を少なくとも0.3℃下げることができる。他方、潜熱で排出することは午後の温度を少なくとも(0.35℃下げる可能性を持っている。夜には少なくともO.6℃の減少させる可能性がある。相対湿度の増加はせいぜい3%である。実際的には疑問があるかも知れないが、地上表面にすべての排熱するような対策では、少なくとも0.4℃、日中温度を減らすことができる。ピークは夜に1.7℃である。表面変形関連の対策は、エネルギー関連のシナリオと比較して、午後により広いエリアで温度を減減少することができるだろう。図2によりこのような側面を比較する。都市の熱環境を改善するためのどんな計画法案でも、このような対策が1つあるいはさらに多く組合せてなされることが必要である。

Figure 2 Number of meshes where temperature is reduced by 0.2 degrees in total 1184 meshes renresenting 32x37 kilometers

審査要旨 要旨を表示する

 近年都市のヒートアイランドの問題が都市の環境管理の大きな課題となってきた。都市の気温の上昇は著しく、とりわけ夏期には、それが更なる空調用のエネルギー消費の増大を招き、また人間の居住環境を悪化させている。ところがこのヒートアイランド問題については、その解析、予測、あるいは対策の有効性についての研究がまだ十分な成果を挙げていない状況にある。

 本研究では、実際の東京を対象に取り上げ、それぞれの建物におけるエネルギー消費に起因する人工的な熱の排出と、建物表面の物理特性が東京における人為的な温度上昇に与える影響をシミュレーションにより明らかにし、ヒートアイランド対策の効果を評価することを目指している。この中で、建物による蓄熱効果を含んだ形で人工排熱の時間変化を表現していること、実際の東京の建物情報データを元にこれらの人工排熱の面的な分布を与えていることに特に新たな展開がある。

本論文は英文で「Improvement of unban thermal environment by managing heat discharge(排熱管理による都市熱環境の改善)」と題し、全9章からなる。

 第1章“Introduction”では、本研究の背景、目的、意義を述べている。とりわけ、この熱環境の問題が世界的にも重要であることを述べ、本研究の目的を明確化している。

 第2章“Literature review”では、都市の気温上昇の実態とそのメカニズム、提案されている緩和策についてレビューし、また熱環境に関するモデル研究の手法としての街区規模でのシミュレーションと、本研究で用いるメソスケールでのシミュレーションについてその研究の現況をレビューし、課題を明らかにしている。

 第3章は“Overall methodological framework”である。本論文においては、東京都の建物情報データの解析、建物単位での空調モデル、熱環境のメソスケールモデルを組み合わせて解析を進めているが、それらの解析手法をどのまうな手順・組み合わせで行うことによって研究の目的を達成しようとしているかを整理して示したのが本章である。

 第4章は“Land and building analysis”である。この章では、地理情報システム(GIS)を用いた解析を行っている。東京23区の全建物についてのポリゴンデータを元にして、23区内の用途別の建物床面積の面的な分布を明らかにすると共に、用途別の比率、建物の大きさの解析結果を元にして本研究で詳細に建物単位での空調エネルギー消費と人工排熱の解析を行うべき建物用途を抽出している。

 第5章は“Building heat discharge simulation”であり、既往の建物空調モデルを用いつつも、通常この種のモデルでは本研究に必要な人工排熱の排出量が出力として与えられないので、人工排熱を熱収支から与えるように新たな解析の展開を行っている。この解析方法を用いることによって、従来のように手ネルギー消費量で代用することなく人工排熱を表現することが可能になり、夜間の建物からの放熱など、建物の蓄熱による熱環境への影響を正しく把握することが可能になった。この点は既往の研究を大きく発展させたものとして評価できる。

 第6章は“Heat discharges in Tokyo”である。本章では、建物情報の解析結果と、建物モデルによる解析の結果を組み合わせることによって、東京における人工排熱の面的な分布の一日の間の変化を示すと共に、高さ毎の排熱量も表現してい私これらの結果は次の章の熱環境モデルへの入力条件になるだけでなく、それ自身が人間活動によるインパクトの分布を示すものとして有用である。

 第7章は“Meso-scale numerical simulations”で、メソスケールモデルによる解析の結果である。この章では用いたモデルと境界条件、初期条件を詳細に明らかにした上でシミュレーション結果を示している。夏期の静穏な気象条件の下での気温の分布と人工排熱の寄与分を定量的に表している。

 第8章は“Scenario analysis”で、熱環境対策として大きく二つの種類の対策を考えてその効果をシミュレーションで明らかにしている。第一は人工排熱対策で、排熱の排出位置を建物屋上、もしくは地上に集中する方式の効果、クーリングタワーを用いて潜熱として熱を排出する空調システムヘの変更である。これらの対策は都心部で有効で、0.6℃程度の温度低下を達成できることが予測された。もう一つの対策は建物や道路の素材を反射率の高いものに変更する対策で、この対策ではより広域の効果が日中に見込めることが明らかになった。

 第9章は“Conclusion”で、本研究で得られた成果をまとめている。

 本研究は、様々な要因が複合的に関与している都市の熱環境に対して、実際の都市の建物情報を組み合わせて人工排熱の寄与を明らかにすると共に対策効果を予測したものであり、その独創性、有用性、発展性、得られた成果には大きなものがある。本論文は環境工学の発展に大きく寄与するものであり、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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