学位論文要旨



No 115682
著者(漢字)
著者(英字) VOLPONI, FRANCESCO
著者(カナ) ボルポー二,フランチェスコ
標題(和) シャー流をもつ系の非エルミート性
標題(洋) Non-hermitian Properties of Shear-flow Systems
報告番号 115682
報告番号 甲15682
学位授与日 2000.09.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第4798号
研究科 工学系研究科
専攻 システム量子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 吉田,善章
 東京大学 教授 中澤,正治
 東京大学 教授 小川,雄一
 東京大学 助教授 比村,治彦
 東京大学 助教授 門,信一郎
 東京大学 講師 小西,芳雄
内容要旨 要旨を表示する

 様々な物理系においてシヤーのある流れが重要な役割を担う。シヤー流れの影響によって物理系の時間発展は極めて複雑になる。例えば安定な系がシヤーによって不安定になったり、また逆に不安定な系が安定になったりする。その重要性にもかかわらず、シヤー流れの数学的に厳密な取り扱いは不充分である。それはシヤー流れに関する微分作用素は非エルミートとなり、直交固有関数によって展開することが一般にできないからである。いわゆるケルビンの方法によりシヤー流れに関する現象について大きな発達があった。ケルビンの方法は偏微分方程式に応用されている二つの基本的な方法、すなわち特性曲線方法とフーリエモード展開の組み合せであるといえる。

 本研究では、まずケルビンの方法によって得た解が一般的な解であることを証明した。次に、ケルビンの方法を用いてプラズマ及び流体のシヤー流れに関連した不安定性や過渡現象について理論解析を行った。具体的には、空間的に非一様なガリレイ変換のケルビンによる表現法を用いて、電流駆動型の不安定性(キンク不安定性)に対する、シヤー流れの安定化効果について検証した。ケルビンの方法は、時間的に変形するモードを用いた直交分解であるといえる。各モードの運動は、それぞれ独立な常微分方程式によって記述される。キンクモードに対しては、(ψ:磁束関数のモード、T:規格化された時間)

ここでμ(T)は摩擦係数、Ω2は振動定数を表し、シヤー流れが0の場合μ=0となってΩ2>0のとき振動(アルフベン波)あるいはΩ2<0のとき不安定性(キンクモード)が与えられる。シヤー流れがあると、T→〓で必ずμ>0となり減衰が起こる。すなわち、速度のシヤーのミキシングの効果が、系の長時間の振舞いに打ち勝ち、非常に強い減衰を起こすことが示された。

 シヤー流れの存在は、複雑な過渡現象を引き起こす。非線形システムと同様に非エルミート性は作用素の固有モードの連結を起こす。このような系の摂動解析においては、共鳴的な相互作用によって時間に関する代数的発散すなわちsecularityの問題が発生する。本研究では、流体のケルビン-ヘルムホルツ不安定性(あるいは非中性プラズマのダイオコトロン不安定性)を記述する、レイリー(Rayleigh)方程式の摂動解析を行った。単純な摂動展開の1次の項は発散する。この発散は繰り込み群とStrained Parametersの二通りの方法によって繰り込むことができることを示した。上の二通りの方法により導かれた表現は同一である。しかし繰り込みされた展開が予想された不安定な振舞いと一致しない。この不一致は繰り込み方法によるものではなく、摂動解析の限界を示すものである。

審査要旨 要旨を表示する

核融合炉心プラズマや天体・宇宙プラズマにおいて、電磁場とプラズマ流との相互作用によって引き起こされる、さまざまな過渡現象が重要な研究課題となっている。特に、プラズマ中に励起される電磁場の揺らぎが、プラズマ流によって変形されることによって安定化される効果や、逆に流れの非一様性によって引き起こされる不安定性の存在などは、核融合プラズマの閉じ込め特性や天体・宇宙プラズマの構造形成などを理解するために重要な鍵となる。しかし、非一様な流れ(シヤー流)をもつプラズマの揺らぎを解析することは、非エルミート性という数学的困難があって、厳密な理論は非開拓の領域にあるといわざるをえない。本研究は、最近の実験研究において注目されている現象を取り上げ、これを厳密に解析して理論的基礎を築いており、非エルミート系の解析に新たな展開を与えるものである。

 シヤー流の影響によって、線形理論においても、系の時間発展は極めて複雑になる。揺らぎとシヤー流の相互作用をポテンシャル力の形式に書くことができず、系のエネルギーがうまく表現できなるからである。これが、すなわち非エルミート性の問題である。第1章では、非エルミート系の数学的な問題を、エルミート系に関する一般的理論(vonNewmannのスペクトル分解理論)との比較を行ないながら解説している。非エルミート生成作用素は、一般的には、直交固有関数によって展開することができない。このために、「モード」の間に複雑な相互作用が生じる。この困難な問題を解析的に解決するために、本研究では二つの数学的な方法を開発している。一つは、モードの概念を一般化し、時間的に変動するモードをうまく定義することによって、運動の表現を単純化しようとするものである。第2章では、この方法の数学的な特徴を論じ、「Kelvinの方法」として流体力学で使われてきた解析法の基礎付けと一般化を行なっている。第3章では、この方法をプラズマの問題に応用している。もう一つの方法は、摂動法に基づくものである。モード間の相互作用の中で共鳴的なものは永年摂動(secular perturbation)となる。第4章では、これを繰り込むこと(renormalization)によって、揺らぎの振る舞いを解析的に表現している。

 本論文で論じている物理的な主題は、シヤー流によって起こる揺らぎの変形が、長時間的な振る舞いとして、揺らぎを安定化するということである。これは、乱流理論などの半現象論的な理論モデルで広く採用されている基本的なモチーフであるが、厳密な証明はなかった。本論文の第3章では、空間的に非一様なGalilei変換を用いるKelvinの方法を一般化して応用し、流れをもつトカマクプラズマにおける電流駆動型の不安定性(キンク不安定性)に対する、シヤー流の安定化効果について検証している。シヤー流が座標の1次関数で表わされる場合、シヤー流によって変形するFourierモードを用いてプラズマの運動を表現すると、各モードの運動は、それぞれ独立な常微分方程式によって記述される。この常微分方程式は、摩擦力をもつNewtonの運動方程式の形に書け、その過渡的な運動の特徴・時間漸近挙動を厳密に解析できる。摩擦力は、シヤー流によるミキシング効果を表わすものであり、これがキンク不安定性の駆動力を卓越し、安定化することを示している。

 第4章では、摂動解析の方法によって、一般的な(第3章で扱ったような、座標の1次関数とは限らない)シヤー流が引き起こすモード間の相互作用を解析している。非線形システムと同様に非エルミート性は作用素の固有モードの連結を起こす。このような系の摂動解析においては・共鳴的な相互作用によって時間に関する代数的発散すなわちsecularityの問題が発生する。本章では、静電的な運動(流体のKelvin-Helmoholtz不安定性、あるいは非中性プラズマのダイオコトロン不安定性)を記述するRayleigh方程式について解析している。単純な摂動展開の1次の項は発散することが容易に示される。この発散は繰り込み群(renormalization roup)とstrained arametersの二つの方法によって繰り込むことができることを示した。この二通りの方法により導かれた表現は同一である。解析の結果、十分弱いシヤー流に対して、長時間的には指数関数的な減衰が起こることが示された。この結果は、静電モードなどの乱流理論に対して用いられているモデルの理論的な基礎を与えるものである。

 以上を要するに、本論文は流れをもつプラズマにおける揺らぎの過渡的変動および時間漸近挙動を理論的に研究し、シヤー流による揺らぎの変形が、揺らぎの安定化あるいは減衰を引き起こすことを厳密な解析によって示したものである。また、その珪論的手法は、非エルミート系の理論解析という困難な問題に一つの道を拓いたものといえる。本研究は、システム量子工学におけるプラズマ理工学の発展に貢献するところが大である。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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