No | 116067 | |
著者(漢字) | 鈴木,文泰 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | スズキ,フミヤス | |
標題(和) | 状態オブザーバに基づいた高速・高精度サーボ制御系の設計および実現とそのモーションコントロールへの応用 | |
標題(洋) | Design and Realization of High Speed-High Precision Servo Control System Based on State Observer and Its Applications to Motion Control | |
報告番号 | 116067 | |
報告番号 | 甲16067 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4904号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 電気工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文では、メカニカルシステムの制御における高性能化を実現するための、高速、高精度サーボ制御系の設計および実現について述べる。ハードディスク装置のヘッド位置決め制御系や半導体露光装置などのように、制御対象を高速、かつ高精度に位置決め制御したいという要求は非常に多くある。このような要求に応えるため、本論文では、状態オブザーバに基づいた高速・高精度サーボ制御系の設計および実現とそのモーションコントロールへの応用について行った研究結果を報告する。 第1部(第1章〜第5章)では、高精度な位置決めを達成するサーボ系設計手法として、瞬時状態オブザーバによる状態推定に基づいた手法を提案する。ここでは、ディジタル制御系において制御対象の出力が比較的長いサンプリング周期でしか得られないのに対して、制御器はより短い周期で制御入力を出力できる制御系について検討する。このような制御対象の出力のサンプリング周期の制約は、磁気ディスク装置のヘッド位置決め制御系などにおいてはしばしば見られるものである。このような条件のもとで、提案手法を用いて制御対象の出力をより短い周期で推定することにより、制御器は短い周期で制御を行うことが可能となる。 第3章で、従来DCサーボモータで適用されてきた瞬時速度オブザーバの手法を述べ、これを一般化し磁気ディスク装置のヘッド位置決め制御系に適用可能な手法を開発した。 第4章では、この提案手法を磁気ディスク装置のヘッド位置決め制御系において検討した結果、以下のことを明らかにした。 1.提案手法により制御系の安定余有が改善されること(図1) 2.この改善効果を利用してフィードバック制御器をハイゲイン化することにより、制御系の広帯域化、位置決め精度の向上が達成されること(図2) シミュレーションおよび2.5インチ磁気ディスク装置への適用による実験により確認した結果、提案手法によるオーバサンプリングにより位置決め精度が15%程度向上する結果が得られた。 一方、第2部(第6章〜第12章)では、高速な位置決め性能を追求するための手法として左既約分解に基づくアンチワインドアップ制御系の設計手法を提案した。これは、制御系を構成するサーボモータなどのアクチュエータにおいてその出力が制限される場合に生ずるワインドアップ現象を回避し、アクチュエータの最大出力を有効に利用することにより高速な位置決めを実現する手法である。これまで、数多くのアンチワインドアップ制御器の構造を含んだGeneral Anti-Windup and Bumpless Transfer(AWBT)法という枠組が提案されているが、これに基づいたアンチワインドアップ制御系の一般的な設計法はそれほど多く提案されてはいない。本論文では、General AWBT法を簡略化し、制御器の左既約分解表現に基づいた新しい設計手法を提案した。それらの構造および特徴を検討した結果、制御器の左既約分解を適用することにより、以下のように見通しのよい構造を持ち、かつ高速な応答特性を実現する制御系が得られることが明らかになった。 第8章では、フィードバック制御器のみを用いた1自由度制御系のアンチワインドアップ化を提案した。これは、オブザーバと状態フィードバックを用いたフィードバック制御器の構造に注目した手法である。さらに、ユーラパラメトリゼーションによるフィードバック制御器の表現を用いることにより、目標値応答、外乱応答におけるワインドアップ現象を十分に抑圧することが可能となることを示した(図3)。 一方、モーションコントロールでは、フィードバック制御だけでなく、フィードフォワード制御をも用いた2自由度制御によるサーボ系の構成法が有効である。2自由度制御を用いることにより、外乱応答をフィードバック制御により設計し、目標値応答をフィードフォワード制御により設計するというように、両者を独立に設計できる点に特徴がある。これまで、2自由度制御系に対するアンチワインドアップ制御系設計手法に関する研究はそれほど多くない。主に2自由度制御系への入力である目標軌道を調整することにより操作量飽和を生じない応答とする手法が用いられてきたと考えられるが、このような手法では操作量飽和の変動などを考慮に入れて目標軌道をある程度保守的に設計せざるを得ないという問題がある。このような背景のもとに、第9章以降では2自由度制御系に対して目標値応答、外乱応答のワインドアップ現象を抑圧する手法を提案した。 第9章では、2自由度制御系の最も基本的な構造を用い、フィードバック、フィードフォワード制御器の内部に操作量飽和をモデル化することにより、ワインドアップ現象を抑圧する方法を提案した。提案手法では、操作量飽和が生じた場合にもフィードバック、フィードフォワード特性が独立となる構成を有している。また、提案手法を右既約分解に基づいたフィードフォワード制御器の設計法と比較することにより、非常に簡単な構造を持つことを明らかにした。提案手法をDCサーボモータの位置制御系に適用し、目標値応答、外乱応答におけるワインドアップ現象を十分に抑圧できることを、シミュレーションおよび実験から明らかにした(図4)。 第10章では、与えられた滑らかな目標軌道に制御量を追従させる追従制御系に対するアンチワインドアップ手法を検討した。まず、従来提案されている離散時間追従制御系の設計手法が第9章の設計手法を拡張したものになることを明らかにし、以下の4つの部分で構成できることを示した。 1.フィードバック制御器 2.右既約分解に基づくフィードフォワード制御器 3.プレフィルタ 4.目標関数発生器 次に、第9章の手法に基づき、これらの各部分をアンチワインドアップ化することにより、離散時間追従制御系のアンチワインドアップ手法を提案した。提案手法では、実際に操作量飽和が生じた場合に、それを上記の4つの部分に反映させることによりワインドアップ現象を回避している。特に、実際に生じた操作量飽和に基づいて目標関数発生器を調整することにより、操作量の上/下限を利用した高速な追従特性が得られることを明らかにした。 さらに、第11章では、第10章の追従制御系に対するアンチワインドアップ手法の多入出力系への適用例として、2軸マニピュレータの軌跡追従制御への適用を検討した。これは、2軸マニピュレータを駆動する各関節のジョイントアクチュエータで生じた操作量飽和を、第10章の手法で回避する手法である。特に、2つのジョイントアクチュエータのうち、片方のみで操作量飽和が生じた際には、それをもう一方のジョイントアクチュエータへ反映させ、2つのジョイントアクチュエータ間で調整を行うことが必要となることを示した。これらの効果は、シミュレーションおよび実験により確認された。 以上のように本論文では、高速/高精度サーボ系実現のため検討してきた手法を2部にわたって述べた。第1部では、瞬時状態オブザーバを用いた状態推定を用いて磁気ディスク装置のヘッド位置決め制御系のオーバサンプリングを達成する手法を提案し、提案手法による安定余有の改善、位置決め精度の向上効果を明らかにした。また、第2部では、アクチュエータの操作量飽和を考慮した各種のサーボ系設計法を提案し、提案するアンチワインドアップ手法により高速な位置決め応答、追従特性が得られることを明らかにした。 図1:瞬時状態オブザーバによる制御系の安定余有の改善:通常の場合(K=1)に比べて出力のサンプリング周期、制御入力の周期をともに短くした場合(破線)には安定余有が大きく改善される。制御入力の周期のみを短くした場合には数倍程度までで安定余有が大幅に改善される。 図2:提案手法による開ループ周波数特性(実験結果):提案手法を用いない場合(太線)と提案手法を用いた場合のオブザーバの極との関係を示している。オブザーバの極を遅く設定することによりゲイン特性が広帯域化され(図(a)(b))、位相余有も改善される(図(c)(d))。 図3:提案手法による1自由度制御系のワインドアップ抑圧効果(シミュレーション結果):操作量飽和が存在すると制御系が不安定化する(細線)のに対して、提案手法を適用すれば、目標値応答、外乱応答ともに安定化されオーバシュートを生じない良好な特性を得ることができる。 図4:提案手法による2自由度制御系のワインドアップ抑圧効果(シミュレーション結果):フィードフォワード制御器で操作量飽和を考慮する提案手法によりワインドアップを生じない目標値応答特性が得られる(図(a)一点鎖線)。同様にフィードバック制御器で操作量飽和を考慮することにより外乱応答が安定化されワインドアップ現象が抑えられている(図(b)一点鎖線)。 | |
審査要旨 | 本論文は、「状態オブザーバに基づいた高速・高精度サーボ制御系の設計および実現とそのモーションコントロールへの応用」と題し、高速・高精度サーボ制御系の設計法および実現法に関する多くの提案を行い、理論・シミュレーション・実験によってそれらを検証した結果を、第I部「瞬時状態オブザーバによる状態推定とその磁気ディスク装置の高精度位置決め制御への適用」、第II部「左既約分解に基づくアンチワインドアップ制御系の設計とそのモーションコントロールへの応用」の2部にまとめたものである。 第1部の第1章(緒言)では、本研究の背景や意義を述べている。磁気ディスク装置のヘッド位置決め制御系のように、制御対象の出力は比較的長いサンプリング周期でしか観測できないが、制御器はより短い周期で動作させることが可能な系に関する従来の研究は不十分であり、本論文で扱う問題を明確にしている。 第2章(磁気ディスク装置のヘッド位置決め制御系)では、ヘッド位置決め制御系の従来の設計手法を分析し、とくに,モード切り換え制御系やモデル追従制御による単一モード制御系に関して、高精度位置決めを達成する制御手法の特徴をまとめている。 第3章(瞬時状態オブザーバの提案)では,従来DCサーボモータで開発されてきた瞬時速度オブザーバの手法を一般化し、磁気ディスク装置のヘッド位置決め制御系に適用可能な手法を開発している。ヘッド位置を示すサーボ信号がデータディスク上に離散的に書き込まれているため、ヘッド位置情報が得られないサンプル点間においてヘッド位置とモデル化した外乱の推定を行い、ヘッド位置がサンプルされる長い周期で状態オブザーバの修正則に基づいて推定値を更新する構造となっている。 第4章(磁気ディスク装置のヘッド位置決め制御系への適用と位置決め精度の評価)では、第3章で開発した手法を実際のヘッド位置決め制御系へ適用した実験結果をまとめている。提案手法は二つの周期を持つディジタル制御系となるが、これを長いサンプリング周期で定式化することにより、開・閉ループ特性を解析する手法を示している。 シミュレーションおよび2.5インチ磁気ディスク装置への適用実験によりその有効性を検証し、提案手法により制御系の安定余有が改善されること、この改善効果を利用してフィードバック制御器をハイゲイン化することにより、制御系の広帯域化や位置決め精度の向上が達成されること明らかにしている。さらに、磁気ディスク装置に作用する様々な外乱に対して位置決め精度の評価を行った結果、提案手法によるオーバサンプリングによって,位置決め精度が20%程度向上する結果が得られたことを述べている。 第5章(結言)では,第I部の成果と今後の課題をまとめている。 第II部の第6章(緒言)では,高速な位置決め性能を追求するために問題となるワインドアップ現象の具体例をあげ,本研究の背景と目的を述べている。数多くのアンチワインドアップ制御器の構造を統一的に説明しようとするGeneral Anti-Windup and Bumpless Transfer(AWBT)法の要点を述べ、これを簡略化し、制御器の左既約分解表現に基づいた新しい設計手法を提案することを述べている。 第7章(従来のアンチワインドアップ制御系に関する研究動向)では,操作量飽和により生ずるワインドアップ現象の原因を明らかにし,従来から提案されているアンチワインドアップ制御法を整理し、AWBT法によって、これら多くのアンチワインドアップ制御器の構造を包括的に説明できることなどを述べている。 第8章(1自由度制御系のアンチワインドアップ制御)では、フィードバック制御器をとりあげ、オブザーバと状態フィードバックを用いた制御器の構造に注目した手法を提案、さらに、ユーラパラメトリゼーションによる表現を用いた設計を行うことにより、目標値応答,外乱応答におけるワインドアップ現象をともに抑圧できることを示している。 第9章(2自由度制御系のアンチワインドアップ制御)では、モーションコントロールに最も基本的な構造としてよく用いられる2自由度制御系を考察し、フィードバック・フィードフォワード制御器双方の内部に操作量飽和のモデルを導入したアンチワインドアップ制御法を提案している。提案手法では、操作量飽和が生じた場合にもフィードバック特性とフィードフォワード特性が独立となる特長を有している。 また、提案手法を右既約分解に基づくフィードフォワード制御器の設計法と比較することにより、制御器は非常に簡単な構造を持つことを明らかにしている。さらに、提案手法をDCサーボモータの位置制御系に適用し、その有効性をシミュレーションおよび実機実験によって明らかにしている。 第10章(フィードフォワード制御器のアンチワインドアップ手法の追従制御系への応用)では、与えられた滑らかな目標軌道への追従制御系におけるアンチワインドアップ手法を検討している。まず、従来から提案されている離散時間追従制御系の設計手法が、第9章の設計手法を拡張したものになることを明らかにし、これが、フィードバック制御器、右既約分解に基づくフィードフォワード制御器、プレフィルタ,目標関数発生器、の4つの要素で構成できることを示している。 次に、生じた操作量飽和を上記の4部分に反映させることによって、4要素各々をアンチワインドアップ化する手法を提案している。とくに、操作量飽和に基づいて目標関数発生器を調整することにより、操作量の上限から下限までを有効に利用できる高速で効率のよい追従特性が得られることを明らかにしている。 第11章(マニピュレータの軌跡追従制御への適用)では、第10章の手法の多入出力系への適用例として、2軸マニピュレータの軌跡追従制御を行っている。すなわち、2軸マニピュレータ各関節のアクチュエータで生じた操作量飽和を、第10章の手法で回避する。とくに、片方の関節アクチュエータのみで操作量飽和が生じた際には、それをもう一方の関節アクチュエータへ反映させ二つのアクチュエータ間で調整を行う必要があることを示し、その効果をシミュレーションおよび実験により確認している。 以上これを要するに、本論文は,高速・高精度サーボ系を実現する手法として、第I部では、瞬時状態オブザーバによって位置決め制御系のオーバサンプリングを達成する手法を提案し、安定余有の改善、位置決め精度の向上に効果があることを明らかにし、また、第II部では、アクチュエータの操作量飽和を考慮したサーボ系設計をとりあげ、左既約分解に基づくアンチワインドアップ制御法を提案し、位置決め応答の高速化や良好な追従特性を実現する手法を開発した結果をまとめたもので、電気工学、制御工学上貢献するところが少なくない。よって、本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
UTokyo Repositoryリンク | http://hdl.handle.net/2261/1827 |