No | 116104 | |
著者(漢字) | 小西,克巳 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | コニシ,カツミ | |
標題(和) | 半正定値計画緩和による制御系設計法 | |
標題(洋) | Semidefinite Programming Relaxation for Control System Design | |
報告番号 | 116104 | |
報告番号 | 甲16104 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第4941号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 計数工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 現在,制御系設計において,制御系仕様が複雑化し,全ての制御系設計仕様を満たす制御系を解析的に求めることが困難になってきている.そのため,制御系設計仕様を制約式で表し,その制約を満たすような数理計画問題へ定式化し,数値計算によって制御系を設計する方法が研究されている.そのなかでも,T. Iwasaki,R. E. Skeltonらによって確立された線形行列不等式系(Linear Matrix Inequalities, LMIs)による制御系設計が注目されている.H2ノルムやH∞ノルムに基づく制御系設計問題や,その他の制御系設計問題がLMIとして表現することができる.LMIを用いた制御系設計の利点は,LMIで表される領域が凸領域であるという点にある.そのため,制御系設計仕様がLMIで表現されれば,制御系設計問題は凸最適化問題として解くことができる.さらに,LMIを制約とする数理計画問題には,J. E. Nesterov, A. S. Nemirovskyらによって内点法に基づく多項式時間アルゴリズムが与えられており,実際にも短時間で解けるという利点もある. しかし,LMIは簡単に解けるという利点の反面に表現能力に劣るという欠点がある.多くの制御系設計仕様は双線形行列不等式(bilinear matrix inequality, BMI)や2次行列不等式(quadratic matrix inequality, QMI)で表現される. BMIは,その表現能力の高さに魅力があるが,BMIで表される領域は非凸領域であり,BMIを制約問題とする数理計画問題はO. Tokerらによって一般にはNP困難であることが示されており,解くのは難しい.BMIを制約とする最小化問題に対する解法としては,K. C. Goh, H. Fujioka, M. Kawanishi,高野, M. Fukudaらによって分枝限定法を用いた厳密解法が提案されている.QMIはBMIを含み,より一般的な行列不等式であるが,その性質はほとんど調べられておらず,解法も与えられていない.ただし,BMI問題に対する厳密解法の多くが適用可能である.本論文の目的は,制御系設計問題の性質を考慮したBMI問題およびQMI問題の分枝限定法に基づく厳密解法を与えることである. 分枝限定法に基づく厳密解法では,精度の良い下界を求めることが重要である.本論文では,精度の良い下界を与える方法として,SDP緩和問題(Semidefinite Programming緩和問題)を用いる方法を提案している.SDP緩和は非凸2次計画問題を解くために提案された手法で,M. Kojima, L.Tuncelらによって凸2次不等式を用いた緩和と同じ精度を持つことが示されている.また,SDP緩和問題は凸最適化問題として,内点法に基づくアルゴリズムで短い時間で解くことができるという利点がある.M. Kojimaらはconic inequalityという表現を用いて,SDP緩和を拡張し,QMIに適用できることを示している. 本論文では,QMI問題へSDP緩和を適用した場合の性質を導くために,以下のように表されるelemen-wise QMI problemを扱っている. ただし,Smは対称行列,Smは半負定行列を表し,c∈RnおよびPは与えられたものとする. 本論文は,QMI問題に対するSDP緩和問題,凸2次不等式を用いた緩和問題を導出し,この2つの緩和問題が等しいことを示している.また,内点許容解の存在を仮定すれば,QMI問題に対するLagrange双対緩和問題とSDP緩和問題が等しい下界値を与えることが示されている.これらの結果は,非凸2次計画問題に対するSDP緩和と同じ性質がQMI問題に対するSDP緩和でも成り立つことを示している. 次に本論文では,制御系設計のためのSDP緩和を提案している.制御系設計問題におけるQMI問題(BMI問題も含む)は,各変数は行列で表され,行列の積を含む行列不等式で与えられる.変数が全てスカラーで表現されているelemen-wise QMI problemは,制御系設計問題を表すには冗長である.このelemen-wise QMI problemを用いて制御系設計問題を記述し,SDP緩和をそのまま適用すると,SDP緩和問題の変数の数が膨大になり,計算コストも増大する.そのため,本論文では制御系設計問題を表すQMI問題として,以下のようなmatrix-based QMI problemを定義している. ただし,βMは変数行列Vの変域を表し,C∈Rm×mおよびPMは与えられたものとする. この問題は,行列不等式で表される制御系設計問題のほとんど全てを表すことができる.このように定義されたmatrix-based QMI problemの緩和問題として,以下のようなmatrix-based SDP緩和問題を提案している. 本論文では,matrix-based SDP緩和問題がelement-wise QMI problemに対するSDP緩和問題と等しいことを示している.matrix-based SDP緩和問題は従来のSDP緩和と同じ性能を持ちながら,下界値を求める際の変数の数を減らすことができるという特徴を持つ.例えば,m×m行列がn個で制約が表される問題では,従来のSDP緩和を用いるとm4(1+π)2個の変数が必要であるが,matrix-based SDP緩和を用いれば,変数の数はm2(1+n)2個ですむ.このように,本論文で提案するmatrix-based SDP緩和を用いることで,制御系設計におけるQMI問題(BMI問題)の計算コストを大幅に削減できる. 次に本論文では,matrix-based QM Iproblemに対する厳密解法として,matrix-based SDP緩和問題を用いた分枝限定法を提案している.提案する手法を用いることで,信頼度εでmatrix-based QMI problemの厳密解が得られる.本論文では,得られる解が真の解に漸近収束することを示し,matrix-based QMI problemの特別な場合であるmatrix-based QMI固有値最小化問題においては,有限時間で解が得られることを示している. 最後に数値例によって,本論文で提案する手法の有効性を示している.ランダムに生成されたQMI固有値最小化問題およびBMI固有値最小化問題に対し,matrix-based SDP緩和を用いた手法(m-SDP法)とFujioka,Hoshijimaが提案する手法(FH法)を,それぞれ適用した.QMI固有値最小化問題では,m-SDP法がFH法よりも短い時間で解けることが示され,BMI固有値最小化問題でも,行列の大きさが大きくなれば,m-SDP法が有効であることが示されている.また,図1に示すような系に対して,H∞ノルム制約下でH2ノルムを最小化する出力フィードバック行列を求めるMixedH2/H∞制御問題を扱っている.この問題はBMI問題となり,提案する手法により,図2のように上界値(upper bound)と下界値(lower bound)が更新され,CPU TIMEが18320.3[sec]でH2ノルムを最小値にする出力フィードバック行列が得られる. 本論文で提案するmatrix-based SDP緩和は,制御系設計におけるBMI問題およびQMI問題の性質を考慮したものであり,精度が良く,かつ,計算コストが少ない緩和問題を与えるものである.また,本論文で提案する厳密解法は,実際の制御系設計問題を解くことができる.本論文は,数値最適化による制御系設計法の研究という分野に貢献するものである. 図1: Two mass - one spring system. 図2: Progress of upper and lower bounds in the mixed H2/H∞ control problem. | |
審査要旨 | マイコンに代表されるコンピュータの発達を受けて,制御理論の産業応用が盛んになってきた.それに従い制御系設計への要求も高くなり,解決すべき設計問題が複雑になってきている.たとえば,制御問題はQMI(Quadratic Matrix Inequality),i3MI(Bilinear Matrix Inequality),ならびにLMI(Linear Matrix Inequality)と呼ばれる行列不等式で記述できることが知られている.この中でもBMIとQMIは非凸問題と呼ばれる解くことが難しい問題である.このため,BMIやQMIの効率が良い数値解法の必要性が高まっている. 「Semidefinite Programming Relaxation for Control System Design(半正定値計画緩和による制御系設計法)」と題する本論文は,制御問題に出てくる最適化問題の解法を研究したものであり,緩和問題の行列表現を軸に計算効率が高い数値計算方式を提案している. 第1章は「Introduction」であり,本研究の目的,手法などが簡潔に述べられている.その中には制御系設計と数値最適化の関係,BMIやQMIと制御系設計との関係,BMIおよびQMIの数値最適化の現況,半正定値計画問題の概要,ならびに論文の構成が述べられている. 第2章は「Preliminaries」である.ここでは,本論文で使う記号の説明から始まり,BMIおよびQMIの定義,SDP緩和の定義を説明している.そして,BMIやQMIにSDP緩和を施すことにより半正定値計画問題となることを示している.さらに,SDP緩和を軸にBMIおよびQMI問題における種々の緩和法の関係を論じている. 第3章は「SDP Relaxation for Control Design Problems」である.ここでは、制御系設計に絞ってQMI問題を具体的に論じている.特に,QMI問題の独自な記述法としてQMIの行列表現とそれを用いたSDP緩和を提案している.行列表現は制御問題の本質を残したままBMIやQMIの問題としで定式化できるため,従来から使われている要素別の表現より問題を簡潔に表現できる.それだけではなく,記述に必要となる変数の数を大幅に減らせることから,問題を解く手間が改善されることにつながることを示している. 第4章は「Branch and Bound Algorithm」である.ここでは,BMIやQMI問題の解法の一つとして分枝限定法を取り上げ,この解法の概要と解法における上界値,下界値の役割を説明している.そして,前章で提案した行列表現に基づくSDP緩和法を使った新たな下限値の計算法を提案し,それを用いたQMI問題の解法を提案している. 第5章は「Numerical Examples」である.ここでは,提案した行列表現に基づいたSDP緩和を基礎とした分枝限定法の有効性を数値実験を行って示している.BMI問題,QMI問題ともに,提案手法の方が効率的であることを実証している.それだけでなく,H2/H∞混合問題という代表的な制御問題を例にとった数値実験を行い,主題である制御系設計問題における提案解法の有効性を示している. 第6章は「Conclusion」である.ここまでの研究を総括するとともに,将来の研究課題をまとめている.課題の一つは,行列表現を用いた緩和の制御系設計における意味を明確にすることである. 以上,本論文は,制御系設計における半正定値緩和の重要性を強く認識し,行列表現形式に基づくBMIおよびQMI問題の定式化およびその定式化を用いた高効率の解法の提供と,制御工学の研究に貢献するところが大きい.よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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