No | 116238 | |
著者(漢字) | 池田,敦 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イケダ,アツシ | |
標題(和) | アルギン酸の樹脂化に関する基礎的研究 | |
標題(洋) | Basic Study for Resinification of Alginic Acid | |
報告番号 | 116238 | |
報告番号 | 甲16238 | |
学位授与日 | 2001.03.29 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(農学) | |
学位記番号 | 博農第2268号 | |
研究科 | 農学生命科学研究科 | |
専攻 | 生物材料科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1. 緒言 セルロースに代表される陸上のバイオマス資源が様々な分野において利用されている一方で、地球上で陸地より大きな面積を占めている海洋のバイオマス資源は開発が遅れている。海洋生物の中で高い生産性を示す大型藻類は大部分が褐藻類に属しており、その褐藻類の構成成分の約30%を占めるアルギン酸は陸地植物のセルロースに対応する海洋植物の多糖類として有効利用が望まれている。アルギン酸は1881年に発見された天然高分子で、その全構成単糖がカルボキシ基を持つ特異な構造を持つ。また、その二種類の構成単糖がブロック構造を形成するなど他の天然高分子にない特性を持つ。多価カチオン存在下でゲル化する特性を持ち、その特性を生かして様々な分野で利用されている。近年は生体適合性をいかして体内で使用できる医療材料として注目されている。本研究はアルギン酸を用いた機能性材料、あるいは生分解性高分子材料を開発し、安定した供給が期待される天然資源であるアルギン酸の利用をさらに広げることを目的とする。 2. 酸加水分解による低分子量アルギン酸の調製 リン酸を用いた酸加水分解による低分子アルギン酸の調製及び分析を行った。Fig.2-1に示す手順により、Alg.A, Alg.B, Alg.C を得た。 13C-NMR、GPC、WAXSを用いて得られたアルギン酸フラクションのキャラクタリゼーションを行った。 Alg.AはMおよびGブロックに富んだ構造を持ち、DPnとDPw/DPnはそれぞれ、79、3.11であった。Alg.Bは主にMブロックからなり、DPnとDPw/DPnはそれぞれ、38、2.57であった。Alg.CはMG交互のシーケンスを多く含み、DPnとDPw/DPnはそれぞれ、35、2.11であった。この、リン酸を用いた酸加水分解により、水への溶解性と溶液の粘度を改善したアルギン酸オリゴマーが調製された。 3. 水溶性カルボジイミドを用いた新規アルギン酸誘導体の調製 水溶性カルボジイミドを用いた反応により新規なアルギン酸誘導体を調製した。アルギン酸とアクリルアミド、n-ブチルアミン、ヘキサメチレンジアミン(HMDA)、メラミンの反応をpH及び、WSCとエステル化試薬(NHS)の添加量を変えて検討した。 得られた反応生成物のFT-IR測定の結果、アクリルアミド、n-ブチルアミン、HMDA、メラミンのいずれとの反応においても、アミドの形成が確認できた。一例としてアルギンーブチルアミン誘導体のFT-IRスペクトルを図3-2に示す。ブチルアミン、HMDA、メラミン、アクリルアミドとの反応の最適pHはそれぞれ、6、8、7、6であった。また、全ての誘導体において、WSC、NHS、の添加量の増加にともないアミドの形成も増加する傾向がみられた。 元素分析の結果、WSC/COOH比1/1で調整瀬した誘導体において、メラミンの反応効率は低くカルボキシル基消費量は2.6%にすぎない。一方、アクリルアミドは高い反応効率を示し26.4%であった。WSC、NHS添加量を2倍にすると、ブチルアミン、メラミンと反応するカルボキシル量はそれぞれ1.59、3.22倍になった。これは、反応効率の増加がWSC、NHS添加量の増加と比例していないことを示している。本研究において、アクリルアミド誘導体のカルボキシル基消費量が最大で、75%に達した。 4. ポリマンヌロン酸とポリグルロン酸の反応性 アルギン酸中のポリマンヌロン酸領域とポリグルロン酸領域の反応性を検討するため、マンヌロン酸、グルロン酸それぞれに富むフラクション(PolyM、PolyG)を用いて、誘導体を調製した。PolyMとPolyGは3章と同様にWSC、NHSを用いて、アクリルアミド、n-ブチルアミン、HMDA、メラミンと反応させ、最適pHとWSC、NHS添加量の影響を調べた。 n-ブチルアミン、HMDA、メラミンとの反応ではpolyM とPolyGの最適pHに顕著な差は見られず、それぞれ、5、8、7であった。アクリルアミドとPolyM、PolyGの反応は異なる最適pHを示し、それぞれ7、6であった。全ての誘導体において、WSC、NHSの添加量の増加にともない、アミドの形成も増加する傾向を示した。 元素分析の結果をTable4-2に示す。PolyM、PolyGともに、メラミンとの反応性は低く、アクリルアミドとの反応性は高かった。これはアルギン酸についての結果と同様であった。ブチルアミン及びHMDAとの反応においては、PolyMとPolyGの反応性に違いが見られ、それぞれ、カルボキシル消費量が18.5%、8.3%PolyMの方が高かった。 5. 総括 ・穏やかな条件下における酸加水分解、及び分別沈殿により、分子量、構造のある程度揃ったアルギン酸オリゴマーが調製された。これらのオリゴマーは高溶解性、低粘度で取り扱いやすく、化学修飾、共有結合的架橋による新規な樹脂利用に用いる.ことが容易となった。 ・水溶性カルボジイミドを用いた反応により様々なアミノ化合物とアルギン酸の反応が可能であることが示された。用いるアミノ化合物により、反応の最適pHが異なる。また、カルボジイミド、エステル化試薬の添加量を増やすと、アミノ化合物の結合量も増加する。 多官能性のアミノ化合物の添加量をコントロールすることで、共有結合的架橋による安定なゲルの調整が可能となる。また、アルギン酸がアクリルアミドと高い反応性を示したことから、アクリルアミド添加量、あるいはカルボジイミド添加量の制御により、アルギン酸に結合するアクリルアミド量を調整することができる。これにより様々な架橋密度を持つ樹脂の作成が光硬化等の手法により可能となる。 ・アルギン酸中のポリマンヌロン酸領域とポリグルロン酸領域で、反応性に違いがあることが示された。最適pHについてはアルギン酸についての検討と同様の結果で、PolyMとPolyGの間にも顕著な差は見られなかった。また、各誘導体についてのカルボキシル基消費量もアルギン酸と同様の傾向を示したが、全体にアルギン酸より高い消費量を示した。これは用いたフラクションがいくらか低分子量であることによると考えられる。一部のアミンとの反応においてPolyMの反応性がPolyGに比べ顕著に高く、両者に反応性の違いがあることがわかった。これは立体配座の違いに起因するものと考えられる。 Fig.2-1 Preparation scheme of alginic acid oligomer Fig.3-2 FT-IR specra of algin-butylamine derivatives prepared at different pH Table 4-2 Results of elemental analysis on derivatives and consumption of carboxyl group. | |
審査要旨 | 海洋生物中で高い生産性を示す大型藻類は大部分が褐藻類に属しており、その供給量は湿潤重量で8千万トン程度と見積もられている。褐藻類の構成成分の約30%を占めるアルギン酸は陸地植物のセルロースに対応する海洋植物の多糖類であり、現在世界で3.5万トン程度の需要を持つ。アルギン酸はその全構成単糖がカルボキシ基である特異な構造を持つ多糖類である。また、その構成単糖であるマンヌロン酸(M)、グルロン酸(G)がそれぞれのホモポリマー領域(Mブロック、Gブロック)と両者が交互に配列した領域(MGブロック)を形成するなど他の天然高分子にない構造的特徴を持つ。アルギン酸は多価カチオン存在下でゲル化する特性を持つため、その特性を生かして様々な分野で利用され、近年は生体適合性を活かして体内で使用できる医療材料として注目されている。しかし、上記のような固有の構造、特性からアルギン酸は塩として唯一水に数%溶解するのみであり、その粘度は非常に高い。これが化学修飾等の工程における取り扱を難しくしており、改質・機能性付与の妨げとなっている。本研究ではアルギン酸を用いた機能性材料あるいは生分解性高分子材料の開発の基礎的研究として、加水分解により工程上取り扱いやすいオリゴマーの調整および化学修飾のモデル的検討を行い、安定した供給が期待される天然資源であるアルギン酸の利用をさらに広げることを目的としている。本論文は五章より成る。 第一章において上記の研究背景及び目的を記述した後、第二章においてはリン酸を用いた酸加水分解による低分子アルギン酸の調製法および分析結果について論じている。市販アルギン酸を酸加水分解し分別沈殿により得た各画分の組成について検討し、MおよびGブロックに富んだ構造を持つもの、Mブロックのみからなる比較的低分子の画分、MG交互のシーケンスを多く含む比較的低分子の画分に分離できることを見出した。また、この酸加水分解法により分子量および組成がある程度均質で水に対する溶解性が改善された低分子アルギン酸が調製できることを明らかにしている。さらに、上記酸加水分解法をさらに改善してGブロックのみから成る低分子画分の調整法を確立している。 第三章においては、水溶性カルボジイミド(WSC)との反応による新規なアルギン酸誘導体の最適調製法を検討している。アミド化剤としてn-ブチルアミン、アクリルアミド、ヘキサメチレンジアミン、メラミンを選び、アルギン酸との反応を系中のpH依存性およびWSCとエステル化試薬(NHS)の添加量依存性について論じている。得られた反応生成物には、いずれの反応においてもアミドの形成を確認し、各反応の最適pHは用いるアミド化剤の種類により異なることを示した。また、全ての誘導体において、WSC、NHSの添加量の増加にともないアミド形成も増加する傾向を見出し、アクリルアミドでは非常に高い反応効率を示すことを明らかにするとともに用いたアルギン酸の構造とアミド化剤の立体因子との関連を議論している。 第四章では、第二章において調整したマンヌロン酸、グルロン酸それぞれに富むフラクション(PolyM、PolyG)を用いて第3章と同様のアミド化剤によりポリマンヌロン酸領域とポリグルロン酸領域の反応性の相違を検討している。そして、アクリルアミドとPolyM、PolyGとの反応は異なる最適pHを示すことを明らかにするとともに、ブチルアミンおよびヘキサメチレンジアミンとの反応においては、PolyMの方が反応性に富むことを明らかにしている。 これらの検討から、均質な低分子アルギン酸の調整法が確立された。これは、構造的に不均一な要素を持つアルギン酸の化学修飾等による改質の検討において有益である。また、アルギン酸に対する化学修飾の一つの手法として、水溶性カルボジイミドを用いた反応が有効であることが示され、この反応の効率的な条件、アルギン酸の単糖構成の影響についての知見を得ている。 以上、本研究は高い再生産性、豊富な潜在的資源量を持つアルギン酸の新規な利用を検討するうえで有意義なものであり、関連する学問分野の今後の進展に極めて大である。 よって、審査委員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。 | |
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