No | 116541 | |
著者(漢字) | 肖,月華 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ショウ,ゲッカ | |
標題(和) | セルロース資源からの高性能吸水材の開発 | |
標題(洋) | Development of Super Water Absorbent from Cellulosic Materials | |
報告番号 | 116541 | |
報告番号 | 甲16541 | |
学位授与日 | 2001.05.14 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(農学) | |
学位記番号 | 博農第2332号 | |
研究科 | ||
専攻 | ||
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1.序論 近年、高性能吸水材に対する社会的ニーズは、医薬用品、生活用品、土木用品、農業用品等の広い方面で非常に大きなものがある。特に、乾燥地における農業生産あるいは造林には、安価で高性能の吸水材の開発が待たれているといえる。このような社会的情勢を踏まえ、セルロース系高性能吸水材を木材パルプを出発物質として開発するとともに、最終的には低質古紙を出発物質として調製するための基礎的知見を得ることを本研究の目的とした。既存の高性能吸水材は主として合成高分子物質を用いて製造されており、その吸水性能は1g当たり数百g乃至千gの水を保持するのに対し、セルロース系吸水材は1g当たり数十乃至100gの水を保持することが出来るに過ぎない。したがって、両者の吸水性能を相違がどのような理由によるのかを理解することが研究計画を確定する上で必要であるとの理解から、各種吸水材の構造と吸水機構、性能と用途等に関する既往の研究を調査した。 2.晒広葉樹クラフトパルプからの一段法による吸水材の調製 広葉樹晒クラフトパルプをカルボキシメチル化(CM化)の後、反応系に直接架橋剤としてポリエチレングリコール・ジ・グリシジルエーテル(PEGDGE)を添加して架橋反応を行う、一段法による吸水材の調製について検討した。カルボキシメチル基の導入量を一定とした場合には、架橋剤添加量、架橋反応の温度および時間とともにカルボキシメチル化パルプ(CM-LBKP)の水溶性は低下し、吸水材として検討の対象となる水不溶区分は増加するが、同時に吸水性能も著しく低下した。このことから高性能吸水材の調製には架橋反応条件の最適化が極めて重要であるといえる。PEGDGEのポリエチレングリコール鎖の鎖長と吸水材としての性能との関係について、エチレングリコールの重合度n=1,2,4,9のものについて検討したところ、n=1の場合に保水値で示した吸水性能が30(g/g)程度であった架橋反応条件で、n=2では50(g/g)、n=4で310(g/g)、n=9では440(g/g)にも達した。このことから鎖長の大きな架橋剤が高性能吸水材の調製には極めて有利であることがわかる。この原因としては、長鎖架橋剤の使用により、フレキシブルで大孔径のポアの形成が考えられる。 3.晒クラフトパルプからの二段法による吸水材の調製 広葉樹晒クラフトパルプをCM化の後、生成物を一旦単離、洗浄したのち、架橋剤およびアルカリ触媒を添加して架橋反応を行う二段法について検討した。この方法では架橋反応時のアルカリ存在量を厳密に規定することができる。過大および過少のアルカリ添加量ではいずれも満足な吸水材を得ることはできず、アルカリ添加量を0.027-0.108(g・NaOH/g・pulp)の範囲に保つことが重要である。この場合のセルロースの水酸基当たりのアルカリ添加量は0.07-0.27molNaOH/molOH基程度と低いレベルであり、緩やかな架橋反応の重要性を裏付けている。過大なアルカリの添加による架橋反応の過度の進行や、架橋剤の自己分解を避け、緩やかにかつ均一に架橋反応を進行させることが必要であると結論される。CM化物のカルボキシメチル基の置換度と、吸水材としての性状との関係を、D.S.=0.47から2.62の範囲の5種類のCM化度について検討し、D.S.=2.62の場合を除き、架橋反応の比較的初期段階で極大の吸水性能を与えることを見出している。また、その値はD.S.=1.42の場合に最大で、500(g/g)にも達した。さらに興味深い点としては、純水中で650(g/g)程度の吸水性能を示す市販吸水材が、0.9%食塩水中では25(g/g)程度の吸水性能を示すに過ぎないのに対し、本研究で調製した架橋CM化LBKPは60-65(g/g)という高い値を示した(表1)。これは実用上極めて興味深い事実であるが、現在のところその理由は不明である。 4.晒クラフトパルプ由来の吸水材の化学構造 架橋反応生成物の吸水材としての性能を、CM化反応および架橋反応の進行の程度との関連で理解するためには、生成物中のCM基および結合架橋剤量を正確に求めることが必要である。前者については未架橋物について1H-NMR法により求めた。後者については各種の方法を比較検討した結果、1H-NMR法と原子吸光分析法との併用法の再現性が十分に高いことを見出した。架橋剤の結合形態として架橋とグラフト化の両者を区別するには至っていないが、セルロースのグルコース単位当たりの架橋剤結合分子数を指標として、架橋反応の追跡を試みた。架橋材がn=1の場合には架橋反応時間とともに結合架橋剤の分子数が0.05程度から0.31まで増加するとともに、吸水性能も低下した。一方、n=4およびn=9の結合架橋剤分子数は最終的に0.06以下に留まった。しかし、この場合に同一結合分子数でありながら吸水性能自身は架橋反応時間とともに700(g/g)から200(g/g)まで急速に低下したことは、大孔径の多孔構造の形成を示している。これらの結果はグラフト化された架橋材が引き続いて架橋反応に入っていることを示しているとともに、高性能吸水材の開発にとって長鎖架橋剤のもつ利点を示している。 5.晒クラフトパルプ由来の吸水材の多孔構造 水膨潤状態での架橋反応生成物の多孔構造を溶質排除法によって検討した。架橋剤PEGDGEのn=1のものを使用し、十分に架橋反応を進行させた段階では、孔径100A以下の細孔の容積が全孔容積の80%を占めているのに対して、架橋反応の初期段階では、孔径100A以下の孔容積は全体の20%以下であり、孔径560A以下でも30%を占めるに過ぎない。このことは架橋反応の初期段階では大孔径の構造が主要な部分を占めていることが高吸水性能発現に有効であることを裏付けている。 架橋反応後の水可溶区分に対して再度の架橋反応を行い、得られた水不溶性区分の吸水性能について検討したところ、特に大きな吸水性を示すとともに、孔径分布でも全孔容積の50%近くが560A以上であり、極めて大口径の構造に富むことが明らかとなった。このことは水可溶区分に対する再度の架橋反応の進行が均一であり、そのため架橋反応点の形成が比較的均一であることを示しているといえる。 Table 1 Water retention values of various cross-linked CM-LBKPs a : Samples of various cross-linked CM-LBKPs have different water retention values in deionized water same in Figure 3-4 b : Water retention value in deionized water c : Water retention value in 0.9% saline solution. | |
審査要旨 | 近年、高性能吸水材に対する社会的ニーズは、医薬用品、生活用品、土木用品、農業用品等の広い方面で非常に大きなものがある。特に、乾燥地における農業生産あるいは造林には、安価で高性能の吸水材の開発が待たれている。このような社会的情勢を踏まえ、従来の合成高分子由来の製品と代替可能なセルロース系高性能吸水材を、木材パルプを出発物質として開発するとともに、最終的には低質古紙を出発物質として調製するための基礎的知見を得ることを本研究の目的とした。 第1章において吸水材の調製方法、構造と吸水機構、性能と用途等に関連する既往の研究について概観している。合成高分子由来の既存の高性能吸水材が1g当たり数百gの水を保持するのに対し、既存のセルロース系吸水材は1g当たり100gないし150gの水を保持することが出来るに過ぎない。第2章においては広葉樹晒クラフトパルプをカルボキシメチル化(CM化)の後、反応系に直接架橋剤としてポリエチレングリコール・ジ・グリシジルエーテル(PEGDGE)を添加して架橋反応を行う一段法による吸水材の調製について述べている。カルボキシメチル基の導入量を一定とした場合には、架橋剤添加量、架橋反応の温度および時間とともにカルボキシメチル化パルプ(CM-LBKP)の水溶性は低下し、吸水材として検討の対象となる水不溶区分が増加するが、同時に吸水性能も著しく低下した。このことから高性能吸水材の調製には架橋反応条件の最適化が極めて重要であるといえる。PEGDGEのポリエチレングリコール鎖の鎖長と吸水性能との関係について、エチレングリコール部分の重合度n=1,2,4,9のものについて比較検討したところ、n=1の場合の保水値が30(g/g)程度であった架橋反応条件で、n=2では50(g/g)、n=4で310(g/g)、n=9では440(g/g)にも達した。このことから鎖長の大きな架橋剤が高性能吸水材の調製には極めて有利であることがわかる。これは長鎖架橋剤の使用により、フレキシブルで大きな孔径のポアが形成されることによると考えられる。第3章では、CM化後の生成物を一旦単離、洗浄したのち、架橋剤およびアルカリ触媒を添加して架橋反応を行う二段法について述べている。この方法では架橋反応時のアルカリ存在量を厳密に規定することができる。過大および過少のアルカリ添加量ではいずれも満足な吸水材を得ることはできず、アルカリ添加量を0.027-0.108(g・NaOH/g・pulp)の範囲に保つことが重要である。そして、過大なアルカリの添加による架橋反応の過度の進行や、架橋剤の自己分解を避け、緩やかにかつ均一に架橋反応を進行させることが必要であると結論している。CM化物のカルボキシメチル基の置換度と、その架橋によって得られる吸水材としての性状との関係を、D.S.=0.47から2.62の範囲の5種類のCM化度について検討し、D.S.=2.62の場合を除き、架橋反応の比較的初期段階で最大の保水値を与えることを見出している。また、その値はD.S.=1.42の場合に最大で、500(g/g)を与えた。さらに興味深い点としては、純水中で650(g/g)程度の保水値を示す市販吸水材が0.9%の食塩水中では25(g/g)程度の保水値を示すに過ぎないのに対し、本研究で調製した架橋CM化LBKPは60-65(g/g)いう高い値を示した。これは実用上極めて興味深い事実であるが、現在のところその理由は不明である。 第4章では、架橋反応生成物中の結合架橋剤量の測定法について各種の方法を比較検討し、1H-NMRと原子吸光分析法の再現性が十分に高いことを見出している。架橋剤の結合形態として架橋とグラフト化の両者を区別するには至っていないが、セルロースのグルコース単位当たりの架橋剤結合量を指標として、架橋反応の進行の追跡が可能であるとしている。また、第5章では水膨潤状態での架橋反応生成物の多孔構造を溶質排除法によって検討し、架橋剤PEGDGEのn=1のものを使用し、十分に架橋反応を進行させた段階では、孔径100A以下の細孔の容積が全孔容積の80%を占めているのに対して、架橋反応の初期段階では、孔径100A以下の孔容積は20%以下、孔径560A以下でも30%を占めるに過ぎない。このことは架橋反応の初期段階では大孔径の構造が主要な部分を占めていることが、高吸水性の発現に有効であることを裏付けている。なお、架橋反応後の水可溶区分の再架橋反応についても検討し、新たに得られた水不溶性区分が特に大きな保水値を示すこと、孔径分布でも全孔容積の50%近くが560A以上であり、極めて大口径の構造に富むことを見出している。 以上、本研究はセルロース系資源の有効利用法の開発に途を開くものであり、理論上、応用上貢献するところが少なくない。よって、審査委員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。 | |
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