学位論文要旨



No 116629
著者(漢字) ムガール,ハビブ,ウルラッハマン
著者(英字) MUGHAL,HABIB-UR-REHMAN
著者(カナ) ムガール,ハビブ,ウルラッハマン
標題(和) 地域スケールの土壌浸食と土砂輸送モデル
標題(洋) REGIONAL SCALE SOIL EROSION AND SEDIMENT TRANSPORT MODELLING
報告番号 116629
報告番号 甲16629
学位授与日 2001.09.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5041号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 虫明,功臣
 東京大学 教授 玉井,信行
 東京大学 教授 柴崎,亮介
 東京大学 助教授 HERATH,A.Srikantha
 東京大学 助教授 沖,大幹
内容要旨 要旨を表示する

 過去半世紀前から、USLEやRUSLEのような経験モデルや、WEPP、EUROSEM、SHETRANのような多くの物理過程に基づく土壌浸食、土砂輸送モデルが数多く作られてきた。しかし、これらのモデルの地域スケールへの適用は困難である。経験モデルの適用には長期間の降雨データが必要であり、平均値に基づき年単位の土壌浸食を推定するので、降雨イベントごとの土壌浸食は推定できない。すなわち、その大きさの程度は予測されない。さらにモデルの検証には、年単位で観測値を平均するために、長期間の土壌浸食と流送土砂量の観測データがなければならない。また、堆積作用はUSLEやRUSLEでは推定されない。河川における浸食と堆積作用の強さは、流域のそれぞれの斜面を関連なしに扱うRUSLEでは推定されない。

 対照的に、物理モデルは時間・空間スケールにおいて詳細な入力データが必要であることや、計算時間、地域スケールでの詳細なデータセットがないために地域スケールでの土壌浸食評価において適用例が未だ少ない。これまで、ほとんどの浸食モデルは、基本的な時間単位のイベント、空間単位(小区画地、斜面、田畑、小流域)で、非常に詳細な物理過程に基づく細かいスケールのプロセスに注目してきた。しかしながら、土壌浸食・土砂流出に関係した、より大きなスケールのモデルへの関心が高まりつつある。SHETRANは物理モデルのなかで最も進んだモデルの例であると思われる。しかし、このモデルはサブグリッドの不均一性を考慮することなしにグリッド全体に方程式系を適用している。CREAMSとWEPPは1つ1つの降雨イベントに対して適用することができる。しかし計算できるのは、降雨イベントに対する総土壌損失量のみである。ピーク土砂流量を計算できないし、土砂流出の時間変化も表現することができない。

 地域スケールでの土壌浸食・土砂流出の応答特性を研究するために、チャオプラヤ川流域の14の支流域において流送土砂量の解析を行った。主要な結果は、数少ない降水イベントが数週間で、支流域から年間土砂量のうち、相当な量の土砂流出を引き起こしており、それはおもに地表流によるものであるということであった。送流土砂量の90%を引き起こす降水イベントの平均数は、貯水池がない流域においては2〜5であり、貯水池のある流域では1〜2であった。このことは、土壌流出は短期的な時間スケールにより大きく変動するプロセスであるということを示している。また、大まかに推定すると、チャオプラヤ川流域の貯水池は土砂を約70%の割合で貯留していることが分かった。

 土砂浸食の割合と、流域におけるその空間分布を推定し、地域スケールにおける土壌浸食過程のモデリングの戦略を立てるためのより深い理解を得るために、Universal Soil Loss Equation (USLE)をタイ国Mae Taeng流域に適用した。土壌浸食は空間スケールにおいて大きく変動するプロセスであることが示唆された。

 時空間スケール両方における土壌浸食・土砂流出のダイナミックな応答過程は、地表流によるものであり、地中流や地下水に比べずっと大きな寄与をする。このことから、地表部分にのみ着目した土壌浸食、土砂輸送の物理モデル構築することを考えた。これらのことを考慮し、流域スケールにおける土壌浸食、堆積作用、土砂輸送を推定するために物理過程に基づいたモデリング方針を構築した。流域の空間的変動は直交グリッドを用い、樹冠遮断、浸透、貯留、最も急な下り斜面方向への地表流のキネマテックウェーブでモデル化した。開発した地表流モデルは1次元、2次元の地表面という異なる条件下でテストした。計算結果は非常に良い再現性を示した。面状浸食あるいは、リル間浸食は樹幹通過降雨と葉から流れ落ちる水滴の衝撃による浸食と、地表流による浸食をモデル化した。雨滴と地表流による浸食の両者とも、グリッド表面全体で均一であると仮定した。リル浸食は考慮しなかった。浸食された土砂は、上流から来る土砂堆積量と、流れの輸送容量によって次のグリッドへ流送される。

 圃場と流域スケールで発表されたデータを用いて、開発した土壌浸食・土砂輸送モデルを検証した。結果は、圃場スケールでも小流域スケールでも、土砂流出をよく再現することができた。

 地域スケールにおける開発したモデルの適応のために、多くのプロセス研究を行った。新しく開発した土壌浸食・土砂輸送モデルの空間スケールに対する感度分析は、DEMのグリッドサイズが大きくなるにつれ、流域の平均勾配、雨滴衝撃による浸食、地表流による浸食、土壌浸食、土砂輸送が減少することを示した。

 土壌浸食・土砂輸送モデリングにおける勾配の平均化と、土地利用の平均化の効果を調べるために、異なるグリッド解像度で物理モデルを用いた数値計算を行った。勾配の平均化は土地利用の平均化に比べてずっと大きな効果があることが示された。それゆえ、粗いスケールよって失われた地形の不均一性を再生することが当然考慮されるべきである。

 ある1つのグリッドまたは、複数のまとまったグリッドにおけるサブグリッドの不均一な土地利用の土壌浸食、土砂輸送モデリングに対する効果を調べるために、1kmの粗いグリッドにある一定の不均一な土地利用を仮定したパッチシュミレーションを行った。そして粗いグリッドは5mの細かいグリッドと8方向の土砂輸送でシュミレーションされた。同様のことを、4つ、16のグリッドのクラスターでも行った。土地利用の不均一性が極端な場合でさえ、パッチシュミレーションの結果は、クラスターグリッドは単一のグリッドの場合に比較してサブグリッドの不均一な土地利用に対する感度が小さいことが示された。言い換えると、クラスター(より広い領域)でのモデルの精度は、独立のセルの場合よりもずっと高いといえる。

 より大きなスケールで土壌浸食を推定する必要があるが、地域、大陸スケールにおいては、粗い解像度のデータのみしか利用できない。土地利用の平均化に比べて、勾配平均化の効果の方がずっと強いので、勾配についてより細かなスケールでパラメータを求めることが重要である。そこで、Zhang et al.により提案されたフラクタルを勾配のダウンスケーリングを用い、高解像度(50m)のDEMが利用可能である日本の一の宮支流域で検討した。結果は、ダウンスケールした勾配は、勾配が大きい部分に対してやや過小評価であり、この傾向はダウンスケールしたグリッドサイズが粗くなるにつれ顕著になる。モデルはまず異なるグリッドサイズの実際の斜面で走らせ、次にダウンスケールした斜面で走らせた。この手法を用いたことによって、空間スケールに対するモデルの感度がかなりの程度減少させることが出来ることが分かった。結果は、地域的な地形にフラクタルを用いることによって改善された。縦横方向における9つのピクセルを用いて決定された標高の標準偏差は、3×3のピクセルを用いた場合に比べいい結果をもたらした。この方法は、地域スケールの土壌浸食や土砂輸送モデルを空間スケールによって大きく変化しないように使える。

 ほとんどすべての水文モデルや土壌浸食モデルはグリッド表面において均一な水深の流れを仮定している。それぞれのグリッドにおけるすべてのリルやガリーの積算幅を表す相当水路の概念を導入した。それぞれのグリッドの相当水路幅は流れの積算値、グリッドサイズ、土地利用タイプと関係している。地表流の幅をLeopold式によるものと比較し、ここに提案された相当水路幅積算値の方が、Leopold式による川幅推定値より比較的大きいということが分かった。この手法によって面状浸食あるいは、リル間浸食がグリッド表面においてモデル化され、相当水路幅内でリルやガリー浸食がおこるとした。グリッド表面全体で均一の流出高を仮定した場合と比べると、相当水路を導入した方が、土砂堆積の輸送性が増し、ハイドログラフ、堆砂グラフの形がよりシャープになった。

 チャオプラヤ川流域の土砂堆積解析、Mae Taeng流域へのUSLEの適用や、多くのプロセス研究の解析結果を文献から調べた。それらの研究は、地域的スケールの土壌浸食と土砂輸送モデルの構成要素として、樹冠遮断、浸透、貯留、相当水路のみにおけるキネマテック地表流、グリッド表面における雨滴の強さによる土壌浸食(樹幹通過降雨や葉から流れ落ちる水滴の衝撃による浸食)や、相当水路内のみでの地表流による浸食、下流のグリッドへの土砂輸送、特に勾配に関係するモデルの方程式が空間スケールに対して比較的普遍性をもつようにすること、を提案している。

 キャリブレーションパラメータに対する地域的スケールの土壌浸食、土砂輸送モデルの感度分析の結果、雨滴衝撃による浸食にとって最も感度が高いパラメータは、地表被覆であり、次に雨滴分離係数で、それから樹冠被覆で、最も感度が小さかったのは、樹高であった。地表流による浸食にもっとも重要なパラメータは、土壌粒径サイズの中央値であり、次は流出分離係数であった。土壌浸食と土砂流出において、重要なパラメータは類似しており、土壌粒径サイズの中央値、流出分離係数、雨滴分離係数、樹高、地表被覆、樹幹被覆の順で重要であった。

 地域スケールの土壌浸食、土砂輸送モデルを調整・検証し、異なる気候条件下の2つの大きな流域のさまざまな支流域に適用した。主な適用は、タイ国Chao Phraya川の7つの支流域と、パキスタン国インダス川流域の2つの支流域である。

 チャオプラヤ川流域において、モデルを3年間(1994-1996)のデータを用いてNan川流域(N.13A)で調整した。そして1997水年のNan川流域(N.13A)とYom川流域(Y.6)、Mae Taeng川流域で1992-1997年の6年間、最後に1997水年にNam Mae Klang川流域(P.24A)に適用、検証した。またモデルはYom川流域(Y.24、Y.1C)において土砂流出の検証をした。一般的にチャオプラヤ川流域における数値計算結果は、類似の土壌、土地利用における同じキャリブレーションパラメータを用いてよく再現されていた。違いが見られたのは、Man Mae Klang流域における流出分離係数(Kf)、Mae Taeng川流域における土壌の透水係数(Ks)であった。Mae Taeng川流域での6年間の数値計算結果にも観測値との違いが見られた。これらの違いは道路建設や、土砂観測所の上流にあるMae Taengダムからの放流といった人工的な影響があると考えられる。この流域で使われた透水係数は比較的高い。それはMae Taeng堰から灌漑水路へ分岐させた事による観測流量の減少によるものである。Nam Mae Klang流域においては、観測された土砂流出グラフと合うような流出分離係数は、同様の土壌に比べ比較的小さい。この違いは、流れを積算計算する始めの0番目と1番目のグリッドに同じ相当水路幅を割り当てたためであると考えられる。幾つかの数値計算結果の中で、河川部分からの土砂供給を示唆するピーク流出の過小評価が幾分かあるけれども、全体としては、河川における土砂生産、堆積過程を説明している。推定された極値と、それぞれの土地利用における文献値を比較するという方法と、同様の条件の土地利用と斜面の圃場における土砂流出を数値計算するという方法の、2つの方法でもモデルの土壌浸食の検証を行った。モデルは、チャオプラヤ流域C.2.地点までにおいて、2kmのグリッドサイズで貯水池による土砂貯留の有無を考え、検証した。堆積土砂の解析によって得られた、貯水池の土砂貯留効率70%を考慮すると、計算結果は再現性が良かった。

 インダス川流域においては、Dhok PathanにおけるSoan川流域で1年間のデータ(1996)を用いてモデルのキャリブレーションを行い、1997年にJhansi PostのBara川流域で検証した。土砂流出の数値計算結果は、雪解けや、河川からの土砂流出の寄与のために過小評価であった。もう1つは連続的に観測された日土砂流出量データがないことによるかもしれない。一年を通して土砂流出の観測があるところ(Baraで年間39 records、Soanで年間57records)はほとんどない。

 インダス川支流域の土砂流出量は、ローム質の土壌や農業的土地利用、氷河によって引き起こされる土砂によって、チャオプラヤ川流域の平均的土砂流出量と比較してずっと高かった。

 開発した地域スケールの土壌浸食・土砂輸送物理モデルは、地中流や、地下水部分を考慮せずに月単位の時間スケール(地域スケールで必要な土砂収支を満足するスケール)で土壌浸食と土砂流出をよく再現することができた。この結果は、地表部分での土壌浸食と土砂輸送のモデリングによって、流域における堆積土砂量特性を十分に説明できるという仮説を強化するものである。推定された年間の空間的な土壌浸食、堆積の分布から見て、数値計算の中で、勾配、土地利用、土壌タイプへの応答は非常によく再現された。

 日単位の時間スケールで土砂流出を捉えるには、土壌浸食に河川と、土砂輸送モデルを組み入れることが不可欠であり、また、地域スケールの土壌浸食と土砂輸送モデルを完全に物理過程に基づくものにする必要がある。モデルの結果を改善するために、融雪の効果、道路建設やダム放流などのような人工的土砂生産作用も当然考慮されなければならない。地域スケールの土壌浸食、土砂輸送モデルに、降雨によって引き起こされる地滑りをモデルの構成要素として構築し組み込むことも、地滑りが発生しやすい地域においてモデルを適用するために必要である。

審査要旨 要旨を表示する

 この半世紀のうちに、土壌浸食と下流域へのその輸送に関する様々なモデルが提案されているが、河川流域単位で侵食から輸送までの種々のプロセスを適切に表現するまでには至っていない。本研究では、種々の既往モデルの難点を改善して、地域あるいは河川流域スケールで物理的な根拠を持つ土壌浸食と土砂輸送に関するプロセス・モデルを構築することを目的としており、8章で構成されている。

 第1章では、土壌浸食/輸送モデルの必要性、侵食の支配要因、モデル開発の現状の要約が議論された後、研究の目的と論文の構成が示されている。

 第2章では、関連する既往の研究成果が極めて広範かつ詳細にレヴューされている。既往モデルについては、経験モデルとプロセス・モデルに分類し、それぞれのカテゴリーに分類された個々のモデルの特徴と問題点がよく整理され、本研究におけるモデル構築の方向性を決める基礎となっている。

 第3章では、タイ・チャオプラヤ川流域で実務的に流送土砂量が観測されている14観測点(流域内に貯水池が無いもの:9、有るもの:5)が解析の対象とされ、それぞれの流域について1kmGTOPO30・DEMによる流路網と地形勾配、土地利用と土壌タイプがGISとして整備されている。流域特性、降雨量、河川流量等との関係を調べた結果、主要な知見として、貯水池によって流送土砂の約70%がトラップされていること、年流送土砂量の90%が、貯水池の無い河川では2〜5の強雨イヴェントで発生し、それが有る河川では1〜2の強雨イヴェントで発生していること、を見出している。

 第4章では、既存のUSLE(Universal Soil Loss Equation)モデルをチャオプラヤ川支流メタン川流域に適用し、土壌侵食推定値と観測流送土砂量の関係、土壌侵食の空間分布と時間変動等が検討されている。主要な知見として、モデルによる侵食量の推定値は流域出口で観測される流送土砂量よりはるかに大きいこと、流域年侵食量の90%が、時間的には合計20日の強雨で、空間的には流域の約27%の侵食を受け易い土地利用区分(侵食発生源)で、それぞれ発生していること、を指摘している。3章で得られた知見も含め、本研究における新たなモデル構築の戦略として、次の3点が上げられている:(1)侵食発生源区域だけを土壌浸食モデルの対象とする。(2)侵食発生源区域に対しては空間的に高解像度で、その他の土地利用に対しては低解像度でモデル化する。(3)第一次近似として、地表流成分だけを土壌浸食モデルと土砂輸送モデル双方に適用する。

 第5章では、本研究で提案される土壌浸食/土砂輸送プロセス・モデルの構成とその妥当性の小区域における検証について述べられている。土壌浸食過程としては、樹幹通過雨滴と樹葉落下雨滴とによる土壌剥離ならびに地表流による剥離が取り上げられ、それぞれについて剥離を生じさせるエネルギーなどの物理量によって構成される既往のモデルが採用されている。

地表流と土砂輸送過程については、キネマティック・ウェーブ型のモデル化がなされており、土砂輸送については場の条件に応じた5種類のモデル式が用意されている。流域場は正方形グリッドで構成され、流れの方向はグリッドの最急降下方向に決められる。このモデルを英国の土壌浸食試験区画(22.5mX40m)および日本の穂高土砂流出観測所(流域面積:6.5km2)に適用し、観測降雨に対する計算流出土砂量と観測流出土砂量がかなり良い一致を示すことが確かめられている。

 第6章では、前章で構築されたモデルをよりスケールの大きい河川流域や地域レベルに適用するための課題が検討されている。一つの課題は、実際の山腹斜面等ではシート・エロージョンの形だけでなくリル侵食やガリー侵食が発達するが、これについては、既往のモデルにおいて考慮されていないことである。ここでは、グリッド当たりのリルとガリーが集積した流路を等価水路と定義して導入し、等価水路幅をそのグリッドへの流入水量、粗度係数およびグリッド・サイズの関数で与える。この等価水路の導入により、土砂の輸送効率が上がり、ハイドログラフ、土砂流出グラフとも波形がシャープになる。もう一つの大きな課題は、グリッド・スケールと平均化の問題である。グリッド・サイズの変化に伴う地形勾配と土地利用の平均化がモデル出力に与える影響が検討され、勾配の平均化が土壌浸食/土砂輸送に極めて大きな効果を与えることが明らかにされる。しかし、一般に広く利用可能なDEMは1km等とグリッド・サイズが大きいので、勾配が緩く計算されるために土壌浸食量、土砂輸送量とも低く見積もられる。この難点を解決するため、細密数値地形データが整備されている千葉県一の宮川流域において、勾配のダウン・スケーリングにフラクタル理論の適用の可能性が検討され、フラクタル・モデルに基づいてスケーリングされた勾配を使用することによってこの問題点がかなり改善されることを示している。

 第7章では、タイ・チャオプラヤ川流域の6河川およびパキスタン・インダス川流域の2河川(流域面積:500km2〜100,000km2オーダ)において、構築されたモデルの適用性が検討されている。チャオプラヤ、インダスいずれにおいても、一つの河川でモデル・パラメータの調整が行われ、他の河川流域にそのパラメータを適用して得られた計算値と観測流送土砂量あるいは試験区画における土壌浸食観測値とを比較しながら、モデルの妥当性の検討が河川流域毎に詳細になされている。チャオプラヤ支流域の一部では、調整されたパラメータの適用性が悪いことなどが指摘されているが、全体として、再現性が極めて高いことを示している。インダス川流域については、モデルで計算される流送土砂量が観測値より小さくなっている。これは、本モデルでは考慮されていない融雪や氷河等の効果であろうと推察されている。

 第8章には、本論文の結論とともに今後の研究の発展方向が議論されている。

 以上、本研究は、土壌浸食/土砂輸送現象の諸過程に対して可能な限り物理的なモデル化を図りながら、規模の大きな河川流域に適用できるプロセス・モデルを新たに構築した。この土壌浸食/土砂輸送モデルは、現時点では世界的にも最先端のモデルと評価でき、応用水文学、水資源工学の発展に資するところ大である。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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