学位論文要旨



No 117031
著者(漢字) 安光,亮一郎
著者(英字)
著者(カナ) ヤスミツ,リョウイチロウ
標題(和) 一次元弾性連続体の動的解析に関する研究
標題(洋)
報告番号 117031
報告番号 甲17031
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5172号
研究科 工学系研究科
専攻 航空宇宙工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 名取,通弘
 東京大学 教授 小野田,淳次郎
 東京大学 教授 武田,展雄
 東京大学 助教授 青木,隆平
 東京大学 助教授 藤本,浩司
内容要旨 要旨を表示する

 本研究では,一次元弾性連続体の動的解析について考察した.特に,曲げやねじりの幾何学的非線形性を含む現象を対象として,梁理論とソリトン理論との統合的な解析法の有効性を示した.ねじり振動の伝播や,柔軟梁のらせん運動などの解析例により,この統合的解析法が高速で安定した数値解析をはじめて可能にすることを示した.また,一定長の一次元弾性連続体の曲げねじり振動問題と,巻き取りのように長さが変化する一次元弾性連続体の振動応答について数値解析及び実験を行い,数値解析と実験とがよく一致することを示した.すなわち,統合的解析法がそれらの問題において十分有効であることを示した.

 本研究の意義は,本研究で有効性を実証した統合的解析法が,いまだ解決されない一次元弾性連続体の工学上の諸問題に適切なアプローチを可能にするところにある.例えば,本研究における統合的解析法により得られた微分方程式系の一般外力項に,コリオリ力や遠心力,地球の磁場といった項を導入すれば宇宙工学におけるテザーシステムのより現実的な解析が可能であるし,海水の抵抗や潮流を考慮すれば海底ケーブル敷設に伴うキンク現象の動的解析も可能となると思われる.

 以下に得られた具体的な成果について記述する.

(1)一次元弾性連続体の理論的考察について

一次元弾性連続体は,場の概念に従い,その中立軸の位置ベクトルと断面を表す正規直交基底(ディレクター)により表現することができる.そのような一次元弾性連続体の扱いがコッセラ梁理論である.コッセラ梁理論では積層梁などにおける任意の断面変形の厳密な扱いが可能である.さらに,一般コッセラ梁,ティモシェンコ梁及びベルヌーイ−オイラー梁の各梁理論の差違を説明している.

(2)梁理論とソリトン理論の統合的解析法について

近年の研究によれば,曲線論がソリトン理論と密接な関わりがあることが証明され,さらに弾性理論と曲線論を結びつける成果が得られている.すなわち,ソリトン理論を用いて弾性論の微分方程式系を導出できることがわかっている.この方程式系に基づく解析法を統合的解析法と呼ぶ.本研究では,それらの知識に基づいて,任意の断面形状を持つ柔軟梁の動的解析に関する微分方程式系を具体的に導出した.得られた方程式系は,従来のバネーマス離散モデルよりも,時間微分項と項数の点で利点のある計算スキームとなっている.

(3)統合的解析法による数値解析について

統合的解析法により導出された方程式系は,陽解法によって高速に解ける系である.解析精度を検討するために,解析解の得られている例題について,解析解と一致することを示した.例題には,片持ち梁の先端自由端にせん断力を受ける場合の大撓み変形の解析例,また両端支持梁の中央点にインパルス入力を加えた場合の微小振動について基準モード数を100まで考慮した解析例,さらに剛体振り子の解析例を用いた.一方,解析速度を検討するために,従来の研究や市販の有限要素法ソフトウェアを用いて本研究の計算スキームと比較した.その結果,従来の手法に比べると格段に速い解析速度(3桁程度も高速)を確認できた.また,従来の解析手法では容易に解決されなかった,ひもの幾つかの運動解析を行って,それらの動的挙動を明らかにした.すなわち,太いひもがねじり運動をする場合,ひもの一端が水平に運動したり,円運動をしたりする場合について,それらの大変形挙動を明らかにした.図1にひもの先端が円運動をする場合の動的解析例を示す.

(4)大変形する一定長の一次元弾性連続体の動的解析について

片端を固定した柔軟梁の大変形振動現象を数値解析及び実験によって検討した.曲げとねじりに相関が無い状態においても,初期状態の曲率の違いにより様々な運動が励起され,それらの曲率に起因した幾何学的非線形性により曲げにねじりが加わった振動現象が生じることを具体的に提示した.図2に,直径0.3mmの燐青銅について片端固定で1/4円の形状に曲げた初期状態から,振動させた純曲げ振動の様子を示す.様々なモードを含んで振動していることがわかる.また,曲げにねじりを加えた場合の振動についても,片端固定の条件で検討した.さらに数値解析だけでなく実験によっても比較検討した.図3に曲げねじり振動について数値解析と実験を比較した結果を示す.統合的解析法による数値解析は,純曲げ振動と曲げねじり振動の両実験結果を十分説明できている.以上から,本研究で扱う統合的な解析法を用いると,様々なモードを含む幾何学的非線形現象を容易に解析できることがわかった.また,統合的解析法が,定性的及び定量的な傾向を十分に説明できることを示した.

(5)長さ変化する一次元弾性連続体の動的解析について

巻き取りを受ける一次元弾性連続体に関する従来の研究では地上重力環境下でかつ平板の二次元振動を扱った研究が多く,微小重力環境下における一次元弾性連続体の三次元振動を扱った研究は見られない.本研究では,一次元弾性連続体の三次元振動の数値解析及び実験を,地上重力環境下と微小重力環境下で行い,その動的挙動について検討した.数値解析では,工学的な第一次解析モデルにより数値計算を行った.実験は,北海道上砂川町にある地上無重力実験センタの施設を用いた.統合的解析法が,長さ変化する一次元弾性連続体の三次元振動解析に適用可能であることが示された.また,重力が振動波形に大きな影響を及ぼすことが示された.両実験とも円錐振り子のように旋回しながら収納されていく現象が見られた.実験では,巻き取りに従い振れ角が増加するスパゲティ現象が計測された.得られた振れ角の時間履歴に対して,ウェーブレット解析を用いて周波数解析を行い,巻き取られ時間が経過するに連れて,高周波成分が励起されることを明らかにした.

以下,今後の課題をまとめる.本研究で扱った一次元的な拡がりを持つ連続体に関する解析法は,従来の手法と比較して高速で安定した解析を可能にする.この解法を二次元的な拡がりを持つ連続体に拡張すれば,一般的な構造動解析に流用できる高速の計算スキームを提供できる.また,本研究では幾何学的非線形性について考察したが,さらに材料的非線形性も考慮すればキンキングなどの接触問題が,より精度良く解析できる.また,長さ変化する一次元弾性連続体の動的解析について,エネルギ収支を詳細に考察するためには,吸い込み口と弾性体の隙間の関係や反発係数などの境界条件についての考察が必要である.本研究の巻き取り実験では,微小重力環境実現の時間的制約から,余分なエネルギの増加を励起していた初期擾乱を,完全に排除することができなかった.より精度良い実験や,境界条件も考慮した実験を行うためには,新たな実験装置の考察が必要である.

図1 先端が円運動をする場合のひもの運動の動的解析例(先端については全時刻歴に渡る軌跡を予めプロットした)

図2 片端固定で振動する一次元弾性連続体の純曲げ振動の数値解析例(材質:燐青銅)

図3 曲げねじり振動の3軸成分に関する数値解析と実験結果の比較(材質:燐青銅)

審査要旨 要旨を表示する

 修士(工学)安光亮一郎提出の論文は「一次元弾性連続体の動的解析に関する研究」と題し、7章と3項目の補遺とから成っている。

 効率のよい宇宙構造物システムの構築には、ケーブルや膜面などの張力部材の利用が必須である。また太陽発電衛星などの超大型宇宙構造物システムでは、いかに剛な構造体を構築しようとしても、相対的に地上では考えられないほどの柔軟な構造体とならざるをえない。それらの柔軟構造物においては大変形が起きやすく、運動や構造応答には幾何学的な非線形性が強く影響する。有限要素法が非常に発達した今日においても、簡単に解決できないのが、それらの動的非線形問題である。

 本研究では、基本的な構造物システムの形態として一次元的な形態を取り上げ、それを一次元弾性連続体として扱って、その基本的な動的応答特性を明らかにするための解析方法を確立しようと試みている。柔軟な一次元連続弾性体においては、曲げ変形のみならず捩り変形の両者の考慮が大切で、本研究ではそれらを同時に扱っている。さらに梁理論とソリトン理論との統合的解析法を提示している。その手法により得られた方程式系は高速で扱いやすい計算スキームを提供する。それらにより、リボンの運動など今まで困難であった問題を容易にシミュレーションすることが可能になる。そのようなアプローチは固体力学の分野だけでなく、流体力学や高分子物理の分野などに応用が可能で、応用力学の分野にさまざまな貢献が期待できるものと思われる。

 第1章は序論であり、本研究の背景となった弾性理論の研究を概観し、本研究の目的を述べている。

 第2章では、中立軸の位置ベクトルとディレクターと呼ぶ断面を表す正規直交基底ベクトルによって一次元弾性連続体を表現するコッセラ梁理論を解説し、ディレクターの表示を用いて、一般的な梁理論と工学上有用なべルヌーイ・オイラー梁理論やティモシェンコ梁理論とを比較説明している。

 第3章では、一次元弾性連続体理論と曲線論とをディレクターの微分項を介して結びつけ、またその曲線論と密接な関わりにあるソリトン理論の解法を利用して一次元弾性連続体の微分方程式系を導出する過程を解説している。この微分方程式系は一種のソリトン方程式系であり、LAX対を用いて時間発展微分方程式の解を厳密に得ている。またバネーマスモデルにより空間的な離散化を行って、非線形性の強い柔軟梁についてソリトン理論と一次元弾性連続体理論とを統合した統合的解析法を導いている。

 第4章では、統合的解析法の解析精度および解析速度を検討している。解析解が明確に示されている例題などとの比較を行って、十分な解析精度を有していることを明らかにしている。また、陽解法によって高速に解ける系に基づいていることから解析速度が格段に優れていることを示している。さらに、従来の解析手法では容易に解けなかったリボンの運動解析を行って、それらの動的挙動を明らかにしている。

 第5章では、一端を固定した柔軟梁の大変形振動現象を統合的解析法による数値解析と実験によって検討している。初期状態の曲げや捩りの曲率の違いにより様々な運動が励起され、幾何学的非線形性により複雑な振動現象を生じることを具体的に示している。統合的解析法が十分に実験結果を説明していることを明らかにしている。

 第6章では、ワイヤーの巻き取りに従い振れ角が増加するいわゆるスパゲティ現象について、地上無重力実験センタの施設による微小重力実験と理論解析の結果とを述べている。統合的解析法が長さ変化する一次元弾性連続体の動的解析に十分有効であることを示している。

 第7章は結論であり、本研究の成果を要約している。

 以上要するに、本論文は、一次元弾性連続体としての梁の理論とソリトン理論との統合的解析法が幾何学的非線形性の強い動的問題に有効であることを明らかにしたものであり、航空宇宙工学、構造動力学および振動工学上貢献するところが大きい。

 よって、本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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