学位論文要旨



No 117058
著者(漢字) 朱,冰
著者(英字)
著者(カナ) ズウ,ビン
標題(和) 光波コヒーレンス関数の合成法による多点型光センサシステムとダイナミックグレーティングデバイスの研究
標題(洋) Multiplexed Sensor Systems and Dynamic Grating Devices Using Synthesis of Optical Coherence Function
報告番号 117058
報告番号 甲17058
学位授与日 2002.03.29
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5199号
研究科 工学系研究科
専攻 電子工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 保立,和夫
 東京大学 教授 菊池,和朗
 東京大学 教授 中野,義昭
 東京大学 助教授 廣瀬,明
 東京大学 助教授 高橋,琢二
 東京大学 助教授 山下,真司
内容要旨 要旨を表示する

 干渉計の光源として半導体レーザを用いた場合,その注入電流を変化させることにより,直接周波数変調特性によって発振光の周波数を変えることができる。この特性を活用して,時間平均的に見た光源のパワースペクトルの形状を変化させることにより,光波コヒーレンス関数が任意に合成できる。本論文では,この技術を基盤にして新しい光センサシステムと機能性デバイスとを提案、研究した。

 まず,光波コヒーレンス関数合成法と位相合成キャリヤ法を利用して新しい多点型光ファイバ干渉計センサシステムを提案し、実験によってその機能を検証する。図1が提案したシステム構成である。光路差のあるマイケルソン型の干渉計がセンサユニットであり,振動等による光波位相を測定する。ここで複数あるセンサユニットは互いに異なる光路差をある。図中に示した階段状の波形で光源周波数を変化させることにより,デルタ関数的な光波コヒーレンス関数を合成しており,光路差がある特別な値をとる干渉計出力のみを選択的に抽出できる。本提案システムでは,階段状波形に重畳させて周波数ωの正弦波も加える。これにより分光器出力中に生じるωと2ω成分はセンサ入力位相信号Φsnの正弦関数および余弦関数となり,簡単な計算からΦsnを求められる。

 また,干渉計を選択する光波コヒーレンス関数の合成用波形と,位相合成キャリヤ生成用の最適波形は常に一定振幅比となることを見い出した。図2(a),(b)は選択されたセンサ1からの出力であり,ωおよび2ω成分に,入力信号である400Hzが現れている。図2(c)(d)はセンサ2を選択した結果である。

 次に,エルビウムドープ光ファイバ中に形成されるダイナミックグレーティングを光波コヒーレンス関数の合成法によって制御することにより、反射、透過特性が可変な光フィルタが実現できることを提案し、解析、実験を行った。エルビウムドープ光ファイバ中を対向して伝搬する2光波による干渉で定在波が形成されると、その利得飽和現象により周期的な利得あるいは損失の減少が生じ,これが第3の光にとってダイナミックグレーティングとして作用する。一方で,レーザの周波数を適当な波形で変化させることにより、光波コヒーレンス関数の形状を任意に合成できる。この合成法により、干渉パターンを制御することができるので,ダイナミックグレーティングの特性も制御できて、たとえばその反射スペクトル形状やグレーティングの位置を任意に合成できる。

 図3が提案した可変光フィルタの構成概念図である。波長可変DFBレーザをダイナミックグレーティング形成用光源として用いる。偏波維持Erドープファイバを想定しており,ポンプ光源により励起されたEDFに縦偏波によるダイナミックグレーティングを形成する。本論文では,この書き込み光に光波コヒーレンス関数の合成技術を適用し,ダイナミックグレーティングの形状と位置を任意に合成、制御する手法を提案した。ダイナミックグレーティング特性の読み出しには横偏波を利用する別のLDを用いる。

 シミュレーションにより合成されるダイナミックグレーティングの反射特性を計算した。図4(a)は合成されるコヒーレンス関数,つまりダイナミックグレーティングのエンベロープの一例で長さを変えることでフィルタの反射帯域(図4(b))が変化できる。さらに,書き込み光の一方の位相も適当な波形で変化させることにより,光波コヒーレンス関数を任意の形状にし,ダイナミックグレーティングの位相も制御することができて,図5のように中央にディップのある反射スペクトルを有するダイナミックグレーティングの合成もできる。

 この原理に基づくダイナミックグレーティングを実際に合成、制御する,実験も行った。図6(a)の波形で書き込み光の周波数を変化させることにより正弦波状のグレーティングエンベロープを合成した(図6(b))。この結果,中央で"π"だけ位相が変化するグレーティングを形成でき,図6(d)のように中央にディップのある透過フィルタ特性を合成することに成功した。

Fig.1. Experimental setup of the sensor system.

Fig.2. Sensor output demultiplexed by synthesis of optical coherence function.

Fig.3. Principle configuration of controllable dynamic grating in Er doped fiber.

Fig.4. Reflective spectrum controlled by synthesis of optical coherence function.

Fig.5. Example of arbitrary shape filter: rectangle filter with notch.

Fig.6. Experimental results of Er doped fiber dynamic grating optical filter with notch.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、"Multiplexed Sensor Systems and Dynamic Grating Devices Using Synthesis of Optical Coherence Function(光波コヒーレンス関数の合成法による多点型光センサシステムとダイナミックグレーティングデバイスの研究)"と題し、8章よりなり、英文にて書かれている。

 第1章は序論であり、本論文を通して活用される技術である、光波コヒーレンス関数の合成法、およびこれを駆使して実現する多点型光ファイバセンサと光ファイバグレーティングデバイス関連の研究動向が概観される。光ファイバに沿って多くのセンサを配置した多点型構成は、ビル、橋等の構造体や河川等に沿った歪や温度情報を複数個所から得てその状態監視を行い、安全と安心とを確保するといった目的のための重要なハードウェアとして注目されている。また、光ファイバ中に形成できる回折格子は、光波長フィルタや等価器として重要となっている。本論文では、光源の干渉特性を任意に合成できる「光波コヒーレンス関数の合成法」により、これらセンシングシステムおよび光ファイバグレーティングデバイスに新たな機能を発現する研究を展開した。

 第2章では、光波コヒーレンス関数の合成法について述べている。干渉計の光源として半導体レーザを用いた場合,その注入電流を変化させることにより,直接周波数変調特性によって発振光の周波数を変えることができる。この特性を活用して、時間平均的に見た光源のパワースペクトル形状を変化させることにより、光波コヒーレンス関数が任意に合成できる。ここでは、本技術の基本が述べられている。

 第3章では、光波コヒーレンス関数の合成法と位相合成キャリヤ法を利用した、新しい多点型光フィバ干渉計センサシステムが提案される。光路差のあるマイケルソン型の干渉計がセンサユニットであり、振動等による光波位相を測定する。ここで、複数あるセンサユニットは互いに異なる光路差を有している。光波コヒーレンス関数の合成法により、階段状の波形で光源の周波数を変化させることによってデルタ関数的な光波コヒーレンス関数を合成すると、光路差が特別な値をとる2光波のみが干渉できる状態が実現でき、この光路差を有する干渉計出力のみが選択的に抽出できる。本提案システムではまた、階段状波形に重畳させて周波数ωの正弦波も加える。これにより受光器出力中に生じるωと2ω成分はセンサ入力位相信号の正弦関数および余弦関数となり,簡単な計算からこれを求めることができる。実験系を構成して、本提案の有効性が確認されている。

 第4章では、エルビウムドープ光ファイバ中に形成されるダイナミックグレーティングを光波コヒーレンス関数の合成法によって制御することにより、反射・透過特性が可変な光フィルタが実現できることを提案している。エルビウムドープ光ファイバ中を対向して伝搬する2光波による干渉で定在波が形成されると、その利得飽和現象により周期的な利得あるいは損失の減少が生じ,これが第3の光にとってダイナミックグレーティングとして作用する。一方で,この書き込みレーザの周波数を適当な波形で変化させることにより、光波コヒーレンス関数の形状を任意に合成できる。この合成法により、干渉パターンを制御することができるので、ダイナミックグレーティングの特性も制御できて、たとえばその反射スペクトル形状やグレーティングの位置を任意に合成できる。合成可能なグレーテリング特性を複数提示し、本提案の有用性を示している。

 第5章では、合成可能なダイナミックグレーティングの一例として、書き込み光源に雑音による周波数変調を施すことによって反射・透過帯域が可変なフィルタが実現できることを、シミュレーションにより示している。

 第6章では、反射および透過特性特性が矩形になるフィルタも合成可能であることを示す。シミュレーションによって、その帯域幅が任意に変えられること、また若干の雑音を書き込み用光源に加えることが矩形特性の合成にとって必要であることが示される。さらに、書き込み用光波の一方に、周波数変調と同期した位相変調を加えることで、より複雑な反射・透過特性の合成も可能となることが提案される。具体例として、上記矩形フィルタを合成する周波数変調波形に加えて位相変調を行うと、ダイナミックグレーティングの空間的な位相をその中央で180度変化させることが可能となる。このようなグレーティングは反射・透過スペクトルの中心にディップを有する。これらグレーティング特性の合成が可能なことが、シミュレーションにより示されている。

 第7章では、光波コヒーレンス関数の合成法によるダイナミックグレーティングの特性制御を実験的に検証している。まず、書き込み光に周波数変調を施さずにダイナミックグレーティングが作成できることを確認した。エルビウムドープ光ファイバは励起しておらず、したがって損失グレーティングが形成される。透過特性を測定して、所望のフィルタが得られていることが確認された。次に、グレーティング中央でその空間位相が180度変化するように書き込み光波の周波数を変化させた。透過特性には、中央にディップが観測され、目的通りのグレーティングが形成されていることが示された。

 第8章は結論であり、本論文で得られた成果を総括している。

 以上のように本論文は、光源の干渉特性を任意に合成する「光波コヒーレンス関数の合成」技術を活用することにより、ビル、橋、河川等の状態監視等を目的とした多点型光ファイバセンシングシステムの新しい実現法を提案・解析してその実験系を稼動させたのに続き、エルビウムドープ光ファイバの利得飽和特性を本合成法で制御することにより、光周波数フィルタとして任意かつ可変な反射・透過特性を有するダイナミックグレーティングが合成可能であることも提案して実験的にその動作を確認したものであって、電子工学分野へ貢献するところ少なくない。

 よって本論文は、博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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