No | 117638 | |
著者(漢字) | ティー ティー ネー | |
著者(英字) | Thi Thi Nge | |
著者(カナ) | ティーティーネー | |
標題(和) | キチン・キトサンを用いた複合高分子の合成とキャラクタリゼーション | |
標題(洋) | Synthesis and Characterization of Polymer Composite from Chitin and Chitosan | |
報告番号 | 117638 | |
報告番号 | 甲17638 | |
学位授与日 | 2002.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(農学) | |
学位記番号 | 博農第2475号 | |
研究科 | 農学生命科学研究科 | |
専攻 | 生物材料科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | キチンは、エビ、カニ、昆虫など節足動物の体表面をおおい、いろいろの無脊椎動物の支持物質として動物界に広く分布し、セルロースについで地球上に最も多く存在する天然高分子であるが、その利用研究の遅れのためほとんどが廃棄され続けている極めて低利用度のバイオマス資源である。これは、キチンが極めて溶けにくい物質で、DMAc/LiCl系のようなごく一部のセルロース溶媒を除いて、溶解性のほとんどないことが最大の原因である。本論文では、このような未利用バイオマスであるキチン、および、キチンを脱アセチル化したキトサンをポリマーアロイの技術を用いて、高吸水性ポリマーあるいは光学異方性を有するフィルムを合成し、それらの化学構造、物性をキャラクタライズすることにより、未利用バイオマスであるキチン・キトサンの有効利用の一助とすることを目的とした。 キトサンはキチンとは異なり希酸に溶解する。アクリル酸は水溶性のモノマーでこの水溶液もキトサンを溶解する。そこで、キトサンおよびラジカル開始剤をアクリル酸水溶液に溶解させ、紫外線照射によって複合高分子を合成する世界的にも初めての手法を考案した。 本法により、硬いものから、柔らかくてタッキーな物まで様々な物性を有するコンポジットを合成することが出来た。合成の条件により化学構造が異なる事が分かったため、詳細に研究した。 Figure1にキトサン/ポリアクリル酸複合体のラマンスペクトルを示す。キトサンとポリアクリル酸の固形重量は同じで、合成時の水の濃度(CPA24>CPA4)だけが異なる。合成時の水の量が増えるに従って1691cm-1のカルボニルのピークは低波数側にシフトしている。これは合成時の水の量が増えるに従ってアミドがより多く生成されていることを示している。 Figure2に膨潤状態でのラマンスペクトルを示す。カルボニルは乾燥時に比べて高波数側にシフトしており、ピークの幅がシャープになっている。これは乾燥時と比べて膨潤時では水素結合がなくなっていることを示している。また、合成時の水が多いとアミドがより多く生成されるのが、ショルダーとして、ここでも観察される。 膨潤度を見ると、合成時に水が多い方が膨潤度は低い、つまりよりアミドが多いため、架橋密度が高くなっているというFigure2のデータと一致する。 一方、動的粘弾性を検討すると、ガラス転移点は合成時の水が増えるに従って高温側にシフトし、アミドが増えるために系全体の相溶性が向上していることを示している。しかし、ゴム状平坦部は合成時の水が少なくなるほど高弾性率になり、みかけの架橋構造が多くなることを示している。この結果は今まで得たラマン、膨潤度のデータと相反している。これは乾燥状態と膨潤状態では、フィルムの化学構造が異なることに起因する。すなわち、合成時の水が多い系では、乾燥状態におけるフィルム中の水素結合がより多く、ゴム状平坦部から算出される架橋密度を引き上げる。一方、膨潤状態ではこの水素結合は切れるため、架橋構造はアミド結合のみによるものとなり、合成時に水が多い系の架橋密度が高くなる。このように、合成時の水の分量を変化させることにより、水素結合、アミド結合を自由にコントロールし、フィルムの化学構造を制御できると考えられる。 また、この系にはキトサンとアソシエートしていないフリーのポリアクリル酸が存在しているが、これらをソックスレーでメタノール抽出することにより、キトサン/ポリアタリル酸複合体だけを取り出した。この系の動的粘弾性はフリーのポリアクリル酸が存在する系よりガラス転移点のシフトが顕著に現れ、この傾向はアミド結合の多少と一致した。さらに、この系を水に膨潤させた場合、自重の800倍近い水を吸収する複合体も調製できることが分かり、生分解性高吸水マテリアルヘの応用の道が開かれた。 キチンを塩酸で緩やかに加水分解することで、キチンの表面にNH3+の電荷を有するミクロクリスタリンキチンを合成できることが報告されている。このミクロクリスタリンキチンは水分散系で、キラルネマチック液晶を示す事が知られている。このミクロクリスタリンキチンの表面のカチオンとアクリル酸モノマーがアソシエートすることが期待できるため、ミクロクリスタリンキチン、水、アクリル酸モノマーの3成分による相図を検討した。Figure3にその3成分の相図を示すが、完全な等方相、ゆらぎのある相(Birefrigenceを有する相)、二相、異方性相の4つの相が観察された。この異方性相はキラルネマチック構造を示しており、この3成分系でもライオトロピック液晶を形成することが分かった。この系でこのような詳細な相図が得られたのは初めてであり、この相図をもとにして配向性複合高分子材料を以下のように検討した。 前述のキトサンの系と同様に紫外線を照射することにより、この4つの相を有する3成分系から複合高分子を調製した。 異方性相およびゆらぎのある相から合成された複合高分子は、配向性が保持されているのがクロスニコルによって観察された。しかし、部分的には配向が保持されていない場所もあり、キャストしてから紫外線照射をしている間に配向が崩れていると考えられた。 そこで、キャストした後、溶液にせん断力を加えて、配向をより良くした後に紫外線照射したフィルムを調製した。その結果、異方性相およびゆらぎのある相から合成された複合高分子は、配向性が非常に良く保持されているのが分かった。 Figure4に偏光板を用いたFTIRスペクトルを示す。せん断力と90°の方向ではアミド、NHの吸収がより顕著であることが分かる。また、OHやエーテルはせん断力方向と平行に配向していることが分かった。従って、ミクロクリスタリンキチンそのものははせん断力と平行に配向し、アミド等の官能基は垂直に配向することが分かった。 Figure5に偏光の角度依存性を示す。これからも、はっきりとした配向性がフィルムに保持されている事が分かる。 Figure6,7にはミクロクリスタリンキチンの濃度を変えた場合の偏光FTIRスペクトルを示す。 すべての濃度で、90°の場合アミド、NHが配向しているのが分かる。4つの相からの違いははっきりとはしない。同じ異方性相からキャストした場合でも、キトサンの濃度によってより配向したり、しなかったりする。また等方性相からキャストした物が、以外に良く配向していることが分かった。 せん断力により配向することは分かったので、NMR程度の磁場の中で配向がどの様に起こるかを検討した。 Figure8にX線回折図を示す。二相からキャストして得たフィルムより異方性相からキャストして得られたフィルムの配向性がよりすぐれているのが分かる。 せん断力の場合と異なり、磁場の方向と垂直に配向しているのが分かった。 以上のように、ミクロクリスタリンキチンを用いて、光学異方性のあるフィルムを調製できる事が分かった。 Figure1 Raman Spectra of Dry Chitosan/poly (acrylic acid) Polyelectrolyte Complex (before swelling) Figure2 Raman Spectra of Wet Chitosan/poly (acrytic acid) Polyelectrolyte Complex Figure3 Ternary phase diagram for a chitin-water-acrylic acid monomer system The line on the left hand side represents the chitn:poly(AA)ratios in composites after photopolymerization based on data points of appropriate phase on the right hand side Figure4 Polarized and Unpolarized FT-IR Spectra of LC-CT/poly(AA)Composite-D [IR spactra were recorded with an incident IR beam polarized parallel(P0) and polarized perpendicular(P90)to the chain axis] Figure5 IR Absorbance vs、Polarizer Rotation Angle with Respect to Rubbing Direction for Sheat Induced LC-CT/poly(AA)Composite-D [Composite prepared from anisotropic phase of chitin water AA=10.7.80.4:8.9Chilin/poly(AA)ratio in developed composite=55:45(w/w%) Figure6 Polarized FT-IR Spectra of LC-CT/poly(AA) Composite-A and Composite-D of Different Chitin Concentration(solid-w/w%)at Different Phase(4000cm-1-2500cm-1) Figure7 Polarized FT-IR Spectra of LC-CT/poly(AA) Composite-A and Composite-D of Fifferent Chitin Concentration (solid-w/w%) at Different Phase(1900cm-1-1100cm-1) Composite-A----Chitin/poly (AA)=23:77 Composite-D----Chitin/poly (AA)=55:45 Figure8 X-ray Diffraction Pattern of Oriented LC-Chitin/poly(AA)Composite-D prepared from Different Chitin Concentration of Ternary Component [Orientation was induced by external magnetic field (5T) H represents the direction of the magnetic field] | |
審査要旨 | キチン・キトサンは大部分が廃棄されている未利用のバイオマスである。また近年、東南アジア等ではエビの養殖が盛んになっており、肉質を取り除いた後のエビの殻を有効利用できれば、地球環境の保全にも役立つものと考えられる。 本論文は、未利用バイオマスであるキチン・キトサンを有効利用する手段として、ビニルモノマーと何らかの相互作用を持たせた上で、重合することにより、高含水率ポリーマーおよび光学異方性フィルムの調製を行い、それらの物性、化学構造をキャラクタライズしたものである。 第1章において研究の背景と目的を述べた後、第2章ではキトサンとアクリル酸からなる複合高分子を調製した。この複合高分子は調製条件の違いにより、アミド結合のような共有結合と系内の水素結合の量をコントロールすることができ、乾燥状態と、ウエット状態で架橋密度の異なる(物性の異なる)複合高分子を調製することができることが分かった。また、アクリル酸ホモポリマーがこの複合高分子には含まれるが、これを抽出除去した複合高分子は600倍程度の高含水性能を有し、相溶性も大幅に向上した。また、この複合高分子をメタノール/水に膨潤させると、メタノール濃度が30〜70%の間で膨潤率がドラスチックに変化することより、水/メタノールの分離が出来る可能性があることが分かった。 第3章では、カイラルネマチック構造を有するミクロクリスタリンキチンはキチンを緩やかな条件で加水分解して得られるが、これとアクリル酸モノマー、水の3成分系の詳細な相図を得ることことが出来た。この相図では、完全な等方相、異方相(液晶を示すが、ある一定の期間後には2相に分離する)があるが、この間に安定な液晶相がある。また、偏光子を用いたFT-IRにより、この液晶はミクロクリスタリンキチンに由来するもので、フッ化カルシウムの基材に塗布し、スパーテルでせん断力を加えると、水酸基はその方向と平行に、アミン、アミドは垂直に配向していることが分かった。 第4章では第3章で得られた相図をもとに、この3成分に開始剤を加え、せん断力を与えた後、紫外線照射によりフィルムの調製を行った。1157cm-1のグルコース環の二色性はこの系の配向度について有用な情報を与えてくれることが分かった。アクリル酸の分率が減り、ミクロクリスタリンキチンの分率が増えると配向性は向上する。またキチン:ポリアクリル酸=55:45の時にもっとも良く配向することが分かった。また、この複合体は第3章で述べたミクロクリスタリンキチン縣濁液と同様に、高分子化した後でも、加えられたせん断力に対して平行に配向することが分かった。 第5章では、分子の配向をせん断力でなく、磁場中で行った。FT-IR、X線回折により、磁場の方向に対して垂直に配向することが明らかとなった。本章の結果はまだプリリミナリーな面があるが、磁場をうまく利用することにより、より配向性の高いフィルム、つまり光学異方性フィルムの調製が出来る可能性を示した。 第6章は上記結果の総括である。 以上のように本研究の結果は、未利用バイオマスであるキチン・キトサンを用いて、実用可能な複合高分子として利用するための基礎的、応用的な知見を与え、今後の生物資源の付加価値を伴った材料化のために大きく貢献することは明らかである。よって、審査員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。 | |
UTokyo Repositoryリンク |