学位論文要旨



No 117736
著者(漢字) 鈴木,宏明
著者(英字)
著者(カナ) スズキ,ヒロアキ
標題(和) 磁性粒子を利用したカオス的マイクロ混合器の開発研究
標題(洋) Development of Chaotic Micro-Mixer Using Magnetic Beads
報告番号 117736
報告番号 甲17736
学位授与日 2003.03.12
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5369号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 笠木,伸英
 東京大学 教授 庄司,正弘
 東京大学 教授 下山,勲
 東京大学 助教授 鈴木,雄二
 東京大学 助教授 鹿園,直毅
内容要旨 要旨を表示する

1.背景

 分子生物学の分野では,生体分子混合溶液の中から特定の細胞やDNAを分離・抽出する目的で,磁性粒子(Magnetic Beads)が利用されている[1].これは,通常,直径数ミクロン程度のポリマー製の球形粒子で,酸化鉄などの強磁性の微粉末が配合されている.これらの粒子表面に,特定の生体分子をターゲットとした抗体をコーティングすると,抗原・抗体反応により目的の分子のみを粒子表面に付着させることが可能となる.付着した分子は,永久磁石を用いて混合溶液中から分離される.

 この生体分子分離システムをLab-on-a-Chipやμ-TASのチップ上に集積化する場合,磁性粒子の混合(攪拌)が重要な問題となる.マイクロスケールの流れ場は超低レイノルズ数(Re<<1)であるため,マクロスケールにおける混合促進機構である乱流やはく離が発生しない[2].特に,磁性粒子や生体分子などの巨大分子(直径1〜10μm程度)では,ブラウン運動による分子拡散の効果が極端に小さくなるため,効率的に混合を促進する新しい手法が必要となる.

 本研究では,マイクロマシン技術を応用し,磁力を利用したカオス的マイクロ混合器の開発を行った[3].すなわち,シリコン基板上に,マイクロ電極およびマイクロ流路を集積化したデバイスを作製し,制御信号により変動磁場を与えることで,流路中に混入した磁性粒子を効率よく攪拌する手法を開発した.より効率のよい攪拌を実現するために,カオス理論を用い,数値シミュレーションから混合器のデザインおよび入力信号を決定した.これにより,磁性粒子の生体分子への付着確率が大幅に改善されることが期待される.

2.基本デザイン

 本研究で開発したマイクロ混合器は,シリコン基板に埋め込まれた導線と,基板上に形成された流路から成る(図1a).流路の入口は二つあり,片方からは磁性粒子を含む溶液が,もう一方からは純水(最終的には生体分子を含むバッファ)が導入され,混合部手前で合流する.外部擾乱がなければ,磁性粒子は殆ど拡散しないため,粒子を含まない液層側には移動せず下流に流される.しかし,混合部に設置したマイクロ電極群に制御信号を与えることにより局所的な変動磁場を発生させ,磁性粒子を攪拌し,粒子の混合を促進する.図1(b)に磁場発生の基本原理を示す.基板に埋め込まれた,平行する2本の導線にそれぞれ対向する方向に電流を与えると,ビオ・サバールの法則に従って図中のベクトル場に示されるような磁場が形成される.このとき,流路中に含まれる磁性粒子は,平行する導線の内側エッジに引き寄せられる.混合器の設計に先立って,このデザインにおいて発生される電磁力および磁性粒子の終端速度を計算し,十分な力及び速度が得られるかを検証した.計算から,断面が40μm2の埋め込み電極に0.5Aの電流を与えたとき,40ガウス程度の磁場が発生し,そのとき磁性粒子に10〜50μm/s程度の速度が誘起されることが確かめられた.

3.製作プロセス

 磁性粒子を操作するためには比較的大きな電流値(〜500mA)が必要であるため,電極の断面積を大きくとる必要がある.一方,電極上に流路を形成するためには,表面は平坦でなければならない.これらの要請を実現するため,筆者らは,マイクロ加工技術を用いて電極形状のパターンにエッチングされた溝の内部のみを選択的に銅の電気めっきを施し,基板内に埋め込まれた高アスペクト比の電極を製作する手法を開発した.その後,エポキシ系フォトレジストSU-8により流路を形成し,カバーガラスを接着して閉流路を完成した.予備テストにおいて,線幅20μm,深さ40μmの平行する2本の電極(電極間距離20μm)に0.5Aの電流を与えたところ,流路を流れる水に混入された磁性粒子が電極間にトラップされ,粒子を操作するのに十分な電磁力が得られることが実験的に確認された.

4.カオス混合の数値シミュレーション

 効率的な混合を実現するため,2次元の数値シミュレーションを行い,粒子の軌跡がカオス的挙動を示す流路形状,電極形状及び制御信号を決定した.層流粘性流れにおけるカオスとは,ラグランジュ的に流れ場を見たとき,初期に近傍に位置する二要素間の距離が,時間と共に指数的に増大する系として定義される(Lagrangian Chaos).二次元定常流はカオス的にはなりえないが,二次元周期または非定常流れ,三次元流れはカオス的になる可能性がある[3,4].

 粒子を操作する外力として,圧力変動や静電力,誘電力などを使用する場合は,引力および斥力の両方を発生することが可能となる.従って,サイドキャビティなどをもつ流路を作製し,(流体)粒子を,低速および高速領域間を往復させることにより,引き伸ばし・折り曲げを誘起させることができる[5,6].この効果は,パイこね変換または馬蹄写像ともよばれ,カオスの兆候である[7].しかし,電磁力を利用した場合,粒子に誘起される外力は引力のみであり,斥力は得られない.従って,低速領域に引き寄せられた粒子はそこに留まり,高速領域に戻すことができない.

 この問題を解決するため,本研究では,図2(a)に示される蛇行流路および平行配列の電極を考案した.図は流路の1ユニットを示し,数値計算中ではx方向に無限に反復する.ベクトルは蛇行流路中の定常速度場を,影の部分(1〜4)は電極を表す.ここで,流路幅は160μm,ユニット長さは320μm,入口平均流速は80μm/sとし,このとき流路幅で定義されるレイノルズ数は1.3×10-2である.

 図2(b)に,各電極に与える制御信号(Phase Shift Control)を表す.例えば,位相(iv)では,電極3および4に対向する電流が印加され,流路中に混入された磁性粒子はそれらの内側に引き寄せられる(図2a,矢印(1)).一方,位相(iii)では電極2および3に電流が印加され,低速領域に滞留している粒子が高速領域に戻される(矢印(2)).このように電流を与る電極のペアを順次シフトしていくことにより,擬似的な斥力を得る.

 計算はone-way couplingで行った.はじめに商用CFDコード(CFDRC)によりチャネル内の定常流れ場を解き,その流れ場中に投入された磁性粒子(流体からの粘性抗力と電磁力を受ける)の軌跡をラグランジュ的に追跡した.粒子の緩和時間はτp〜10-7であり,流れ場の時間スケール(〜1s)に対して非常に小さい.従って,粒子の軌跡は,粒子の存在位置における流体の局所的速度と,外力(磁力)によって誘起される定常速度のベクトル和を,4次のルンゲクッタ法で積分することによって得た.

 初期に流れ場中の小領域内に格子状に配置した7800個のトレーサを一定時間追跡すると,粒子に働く外力が流体の粘性抵抗のみ(磁力なし)のときは,粒子は流れ場の流線に完全追従し,拡散は起こらない(図3a,影の部分は初期条件).しかし,Phase Shift Controlを与えた場合(駆動周波数4Hz,対応するストローハル数8前後,磁力による最大誘起速度と流体の平均流速の比up,max/Vは0.5〜1.5のとき),粒子群の引き伸ばし・折り曲げが繰り返し発生し,数周期後にはカオス的なパターンを形成する(図3b).粒子間距離の指数的発散を表すリアプノフ指数を計算したところ,同様の周波数域で正の値をとり,定量的にもカオス的であることが示された.このような領域では,磁性粒子と磁性を持たない粒子(生体分子など)の付着確率が増加することを示した.

 図4に,引き伸ばし・折り畳み発生のメカニズムを示す.図4(1)では,電極1および2に電流が印加され,それらの方向に向かう電磁力が磁性粒子に誘起される.このとき,流路中心付近では流速が大きいため,粒子群は流され続ける(図4(2),矢印(2)).しかし,より流路壁に近い低速部分に位置する粒子群は,磁力が勝るため,障害物背面のコーナー付近に引き寄せられる(同図,矢印(1)).その結果,粒子群の折り曲げが起こる.電流が停止し,粒子群が下流に輸送されると,流れ場のせん断によって折り曲げられた部分が引き伸ばされる(図4(4)〜(5)).以上のプロセスが繰り返し行われることにより,粒子群は図3bにみられるようなカオス的パターンを示す.

5.蛇行流路を持つマイクロ混合器とその可視化実験

 上記の数値シミュレーションで予測されたカオス的混合過程を実証するために,マイクロ混合器を試作した(図5).本デバイスでは,図3に示されるユニットが流れ方向に4ユニット繰り返される.数値計算と同様,ユニット長さ320μm,流路深さ約35μm,電極幅と電極間距離はともに40μmである.同図中に見られるように,磁力を印加しない場合は,粒子拡散は全く起こらず,粒子群の境界面が下流に至るまではっきりと観察される.一方,位相シフト信号を与えると,流路下半分に投入された粒子群は,変動磁場によって攪拌される(図6a).このとき,混合部下流域では,磁性粒子が流路全体に広がり,スパン方向に一様に分散している様子が確認された(図6b).電極1及び2に電流が与えられたときに注目してみると,図4に示した数値計算と同様の引き伸ばし・折り畳みパターンが観察され(図7),流路中でも同様のカオス的な混合が実現されている可能性が示された.蛍光磁性粒子を用いた粒子運動の2次元PTV画像計測を行ったところ,磁場による粒子の誘起速度,カオス流れ場における粒子の平均速度分布,位相平均速度分布も数値シミュレーションとよい一致を示し,数値計算により検証したカオス的な粒子運動が,実際の混合器中でも再現されていることが確かめられた.

6.まとめ

 磁性粒子をマイクロ流路中で効率的に攪拌する目的で,MEMS技術を応用し,埋め込み型マイクロ電極及び流路を集積化した混合デバイスを開発した.数値シミュレーションにより,蛇行流路および平行配列の電極に位相シフト信号を与えた場合,磁性粒子群の引き伸ばし・折り畳み効果が生じ,カオス的粒子運動が誘起されることが示された.数値シミュレーション結果を基に設計した混合器を試作し,粒子運動の可視化および画像計測を行ったところ,数値シミュレーションと同様の混合パターンが観察され,粒子のカオス的混合過程が確認できた.

参考文献

[1]B.Sinclair,The Scientist 12(13),1998,pp.17.

[2]C.M.Ho,IEEE Proc.MEMS'01,pp,375-384.

[3]J.M.Ottino,Cambridge University Press,1989.

[4]J.M.Ottino,Ann.Rev.Fluid Mech.,1990,pp.207-53.

[5]Y.K.Lee et a1.,IEEE MEMS‘01,pp.483-486.

[6]J.Deval et al.,Proc.IEEE Proc.MEMS'02,pp.36-39.

[7]合原一幸,サイエンス社,1990.

Fig.1Schematic diagram of the magnetic micro-mixer.(a)Top view,(b)Cross sectional view and magnetic field.

Fig.2(a)A unit of 2-D serpentine channel and parallel electrode configuration.(b)Phase shift control signal.

Fig.3Deformation of a lump of magnetic beads.(a)No perturbation and(b)with phase shift control.

Fig.4Dominant mechanism to create stretching and folding.

Fig.5Fabricated magnetic micro-mixer with a serpentine shaped channel.

Fig.6(a)Mixing pattern when the phase shift signal is applied.(b)Particles spread all over the channel.

Fig.7Deformation of the particles installed in the lower half of the channel.(a)Folded pattern,which corresponds to Fig.4(2).(b)Stretching process by shear,which corresponds to Fig.4(5).

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は,"Development of Chaotic Micro-Mixer Using Magnetic Beads"(和訳「磁性粒子を利用したカオス的マイクロ混合器の開発研究」)と題し,6章より成っている.

 近年のマイクロ加工技術の急速な発展に伴い,従来の生化学分析プロセスをチップ上にマイクロ化・集積化する研究が注目を集めている.システム全体の微小化・自動化により,必要サンプル量の大幅削減,人的労力の削減,分析時間の大幅短縮,さらには,微細デバイスのみに可能な高付加価値(単一生体分子の操作,検出など)などの利点が期待されている.このようなシステムでは,主に媒体として液体(水)を扱うため,微小スケールでの液体の輸送・制御が非常に重要な課題となる.なかでも,微小スケールにおいてはレイノルズ数が非常に小さいため,流体や混入物質の混合が非効率的となる.本論文は,抗原抗体反応を基にした磁性粒子による細胞の選択分離プロセスをマイクロ化した際の,磁性粒子と標的細胞の混合促進手法に関する研究を行ったものである.デバイスの製作はマイクロ加工技術を利用し,また混合手法はカオス混合の概念を用いて,より高効率の混合を実現するマイクロデバイスの設計・試作・評価を行った.

 第一章は序論であり,近い将来,化学プロセスや医療研究・臨床診断に大きな変化を与えるであろうマイクロ生化学分析システムの利点を概観し,そのなかで抗原抗体反応を基にした磁性粒子による細胞分離プロセスについて述べている.分子生物学の分野では,生体分子混合溶液の中から特定の細胞等を分離・抽出する目的で,抗体タンパク質を塗布した磁性粒子が用いられる.抗原抗体反応により目的細胞のみをラベル付けし,磁石によってそれらを選択分離するという手法である.この分離システムを微小化する場合,マイクロスケールの流れ場は低レイノルズ数(Re<1)であるため,マクロスケールにおける混合促進機構である乱流やはく離が発生せず,磁性粒子と細胞の混合(攪拌)が重要な課題となると述べている.特に,磁性粒子や細胞などは直径が1〜10μm程度であるが,ブラウン運動による拡散係数は粒子直径に反比例するため,分子拡散の効果が極端に小さくなる.従って,より効率的に混合を促進する新しい手法が必要であると述べている.そこで,粘性流れにおけるカオス混合の概念を紹介し,マイクロスケールにおける混合手法として有効なツールとなり得ることを指摘している.

 第二章では,磁性粒子を利用したマイクロ混合器の基本設計について述べている.磁性粒子をマイクロ流路内で混合する目的で,シリコン基板上にマイクロ電極群を形成し,それらに制御信号に基づく電流を導くことにより,局所的変動磁場を発生させ粒子を攪拌する手法を提案している.そのためには,電極が発生する磁場が磁性粒子に十分な誘起速度を与える必要があるため,まず磁性粒子のヒステリシス曲線を測定し磁気的な物性値を求め,それに基づいてマイクロ電極により発生される磁場,そして磁性粒子にかかる磁力および誘起速度を理論式より求めている.その結果,数十ミクロン四方の断面を持つ電極に500mA程度の電流を与えた場合,磁性粒子に毎秒数十ミクロンの速度を誘起できることを明らかにしている.またスケール効果についても議論し,デバイスのサイズは小さい程,相対的に大きな誘起速度が得られることを示している.

 第三章では,混合デバイスの製作プロセスについて述べている.フォトリソグラフィを基本としたマイクロ加工技術を用いた,マイクロ電極群及びマイクロ流路を集積化したデバイスの製作手法を詳細に述べている.製作行程における技術的課題として,二つの新たな方法を確立している.ひとつは,基板に埋め込まれた高アスペクト比のマイクロ電極の製作法であり,磁性粒子の操作に十分な磁界を得るために必要な電流を与えることを可能にしている.もうひとつは,SU-8フォトレジストを用いたボンディング手法である.通常の接着剤等を用いた場合はマイクロ流路を詰まらせる可能性があるが,感光性の材料を接着剤として用いることにより,はみ出た不用部分を除去できる手法を開発している.予備テストとして,試作した直線流路のデバイスに電流を与えたところ,流路を流れる水に混入された磁性粒子が電極間にトラップされ,粒子を操作するのに十分な電磁力が得られることを実験的に確認している.

 第四章では,数値シミュレーションを行い,磁性粒子を効率的に混合するための流路・電極形状および制御信号を提案している.効率的な混合を実現するため,カオス混合の概念を導入している.流れをラグランジュ的に観察した場合,系に引き伸ばし・折り畳みの機構が内在すればカオス的な混合状態が得られる.粒子の軌跡をカオス的にするためには,流れ場の流線を横切る方向に往復させることにより,速度勾配を利用して引き伸ばし・折り畳みを誘起できると述べている.しかし,磁力を利用する場合は,引力のみで斥力が得られない.そこで,二次元の蛇行形状流路を採用し,電流を与える電極を順次シフトすることにより擬似的な引力・斥力を発生させ,カオス的に攪拌する方法を提案している.二次元数値シミュレーションを用いて,流路中の磁性粒子の軌跡を計算し,最適な混合状態が得られる制御パラメータを検討している.粒子群の運動過程から,引き伸ばし・折り畳みの機構が得られ,最適な周波数では複雑な混合パターンが得られることを示している.また,カオス性の評価手法であるポアンカレマップとリアプノフ指数を用いて,定量的にも粒子運動がカオス的となることを確認している.このような制御信号の周波数領域では,磁性粒子と磁性を持たない粒子(生体分子など)の付着確率が増加することを明らかにしている.

 第五章では,数値シミュレーションで予測されたカオス的混合過程を実証するために,第四章で設計したマイクロ混合器を試作,評価している.まず,磁性粒子運動の可視化により,外部擾乱がない状態ではまったく粒子混合が得られないが,変動磁場を与えた場合,粒子群に複雑な運動が誘起され,下流域では良好な混合状態が得られることを示している.数値シミュレーションの結果と比較して,同様な引き伸ばし・折り畳みパターンが観察され,製作した流路中においてもカオス的な混合が実現されていることを示している.後段では,蛍光磁性粒子を用いた粒子運動の2次元PTV画像計測を行い,磁場による粒子の誘起速度を測定し,理論値と一致することを示している.また,混合場における粒子の平均速度分布,位相平均速度分布も数値シミュレーションとのよい一致を確認し,数値計算により検証したカオス的な粒子運動が,実際の混合器中でも再現されていることを明らかにしている.

 第六章は結論であり,本論文で得られた成果をまとめている

 以上,本論文では,マイクロ加工技術を利用し,マイクロ流路内において磁性粒子を攪拌・混合するデバイスの先導設計,試作およびその評価を行った.埋め込み型電極及びマイクロ流路を集積化したマイクロデバイスの製作手法を確立し,磁性粒子を操作できることを示した.数値シミュレーションにより磁性粒子のカオス的混合が得られる混合器のデザインを決定し,それに基づいて試作したデバイスにおいてもシミュレーションで予測された混合状態が得られることを確認した.本論文で製作したデバイスの基本デザインは,磁性を持つ粒子の操作や分離など,他の目的にも応用可能であることを指摘している.また,本論文において提案された蛇行流路と変動外力を組み合わせた新しい粒子の混合手法は,静電力や誘電力など他の制御外力を利用した場合にも応用可能であり,汎用性の高いものである.従って,本論文は,マイクロ生化学分析分野のみならず,微小スケールの熱流体制御手法についての新たな知見を加えるもので,熱流体工学をはじめ機械工学の上で寄与するところが大きい.

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

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