学位論文要旨



No 117740
著者(漢字) 汪,双鳳
著者(英字)
著者(カナ) オウ,ソウホウ
標題(和) 垂直T字型分岐管における気液二相流の脈動特性
標題(洋) Fluctuation Characteristics of Gas-Liquid Two-Phase Flow Splitting at a Vertical T-Junction
報告番号 117740
報告番号 甲17740
学位授与日 2003.03.12
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5373号
研究科 工学系研究科
専攻 機械工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 庄司,正弘
 東京大学 教授 松本,洋一郎
 東京大学 教授 飛原,英治
 東京大学 助教授 丸山,茂夫
 東京大学 助教授 鈴木,雄二
内容要旨 要旨を表示する

はじめに

 T字型分岐管は原子力発電所や熱機関の冷却系機器,ランキンサイクルを利用した蒸気機関や冷凍サイクル,石油パイプラインや各種化学プラントの配管などに工業的に広く使われている.また,近年では蒸気圧縮式冷凍機の効率の向上やコンパクト化の手段として熱交換器の細管化や,電子機器の冷却,冷凍機,微小機械等に関係して,マイクロチューブ内の流動や伝熱なども研究されるようになってきた.しかし,従来の研究は平均値を考えているのが多く,偏流現象と圧力損失に集中している.また,水平な母管から同じく水平な枝管に分岐するT字分岐管を用いている研究が多い.そこで本研究は,時間を考え,垂直な母管から水平な枝管に分岐するT字分岐管を配置し,垂直なT字分岐管における気液二相流の脈動特性とその要因を解明することを目的とした.

 解析方法は古典統計量RMS(root mean square)で脈動の強さを示す.FFTで計算したPSDで脈動の周波数を表す.また,非線形カオス力学手法でシステムの複雑性を解明する.

実験装置及び実験方法

 実験装置の概略図をFig.1に示す.作動流体として空気および水を用いた.テストセクションは,アクリル板にT型に内径15mmの穴をあけたもので,これと気液混合部とは内径15mm,高さ1.5mのアクリル管により接続されている.二相流はT型管で二つの枝管に分けられ,一方の枝管で流量の行った.分岐出口に設けたバルブの開度を調節することによって各枝管での流量配分を変えた.空気流量は熱線流速計で,水の流量は天びんで量った.差圧計は母管分岐部や枝管で差圧の時系列を得た.また分岐部及び直管部での流動状態を観察するために,高速ビデオカメラによる撮影を行った.

実験結果及び考察

1.不安定脈動現象が起こる要因と起こる流量範囲

 水平の枝管から垂直の母管に逆流はしているかどうかによって,脈動現象は四つに分けられている(Table.1).タイプIIとタイプIIIは不安定なので,注目する.

Table1に示しているように,不安定な脈動をし始めるのは入り口の流動様式は気泡流からスラグヘの遷移領域である.終わるのは環状流である.気液二相流T字型管で分岐されるとき,空気は膨張するとともに,慣性力の違いにより枝管に入りやすい.水は速度を半分に落としたとき,重力で逆流する.この逆流と母管中の二相流の圧縮性交互作用で脈動を維持する.逆流が起こる流量範囲はFig.3で示す(影を掛けた領域).Mishima-ishiiの流動様式線図にプロットした結果と観察した結果に少しずれがあるのはT型と垂直管の違いと考えられる.

2.圧力損失

実験結果から分岐部の圧力損失は線形ではないことがわかった(Fig.4).非線形カオス力学手法によって,差圧時系列のアトラクター,相関次元,パワースペクトル,リアプノフ指数などを計算し,差圧変動特性にどのような非線形性が内在しているか,複雑性の程度が如何ほどかを明らかにした.Fig.5に示しているように,複雑性のランクは:入り口の流動様式は環状流の場合一番高い,次は気泡流,その次はチャーン流である.この結論は現象のモデル化の参考資料とられる.

3.抽出比(枝管と母管の流量比W3/W1)と脈動の関係

 T字管の最も重要な役割は流体を母管から枝管へ配ることである.その流量分配比は如何に脈動の強さと周波数に影響を及ぼしているか?入り口の流動様式を変えて,気泡流から環状流まで実験で調べた.Fig.6に示すのは,入り口がチャーン流の場合の,枝管の脈動強さと抽出比の関係である.(a)は空気流量固定、水の流量を変えた結果,(b)は水の流量を固定、空気流量を変えた結果である.普通は,流量増えると,脈動は強くなると考えられる.しかし,T字管で二相流が分岐される場合は,相偏離と流動様式が脈動に影響を与える.相偏離特性の実験結果によると,抽出比0.5の場合は相偏離起こらない,だから,curveは0.5のとき,深い谷が出ている,その谷を除いて,curveが単純に上昇していない要因は枝管の中での流動様式の影響である.

4.相偏離特性

相偏離とは、分岐前後の二相流のqualityが一致しないことである.Fig.7(a)の中の,X1=X3は均等な分配ラインである.(a)と(b)は交互に換算できる.Fig.7(a)に見られるように,W3/W1=0.5の時のみ均等分配される.入り口が環状流の場合は,運動量の低い液膜はガスより先に曲がって,測定側(3側)に出る.チャーン流も同じ傾向が認められた.唯気泡流は相分離できなかった.

環状流について,実験データから半経験式を求めた:この式で予測した結果と実験結果はよく一致している(Fig.7(b)).

5.相分離と脈動の関係

Fig.8に示しているように,脈動曲線と相分配曲線とはよく似ている.これから,相分離は脈動に強い影響を及ぼしていることがわかった.一番注目されるのは,二つの曲線が同時に最大値となることである.つまり,同じ流量抽出比で,各自の最大値となる.それで,従来の相分配研究結果から,一番強い脈動が起こる流量比が得られる.アプリケーションにおいてはこの流量比が推しょうできる.

結論

(1)各流動様式による脈動の特徴を明らかにした.更に,不安定な脈動現象について起こる要因,起こる流量範囲を明らかにした.気液二相流はT字型管で分岐されるとき,空気流量が膨張するとともに,慣性の違い水より枝管に入りやすい.水は速度を落とすとともに,重力で逆流する.この逆流と母管の中の二相流圧縮性交互作用で脈動を維持する.

(2)システムのカオス的挙動,現象の複雑さを解明した.複雑性のランクは母管の流動様式は環状流のとき一番高く,次に気泡流,その次がチャーン流である.

(3)流量比と脈動の関係を明らかにした.流量比が増えても,脈動強さは単純に上昇しない.流動様式と相偏離の影響も脈動に効く.

(4)相分離特性:上流が環状流とチャーンの場合は,運動量が低い液膜はガスより先に曲がる.気泡流の場合は,相分離は出来なかった.

(5)相偏離と脈動の関係:偏流が強いとき,脈動も強い.同じ流量比で,両者は最大値を取る.従来の相分配モデルによって,その流量比が求まる.これを応用すれば最大脈動を避けることができる.

Fig.1schematic diagram of experimental apparatus

(1)Compressor(2)Air flowmeters(3)Filter(4)Water flowmeter(5)Mixingroom(6)T-junction(7)Differential pressure sensor(8)High speed video(9)CCD(10)Separator(11)Hot wire anemometer

Table.1Classification of the fluctuation

Fig.2Fluctuation characteristics:(a)intensity,(b)frequency("----"fluctuation transition zone;〓flow pattern transition zone;CH1:differential pressure at dividing area)

Fig.3Flow rate range for reversal flow occurring plotted in Mishima-ishii map

Fig.4Characteristic of the pressure drop(JL1=0.13m/s;(A)〜(C):data analyzed)

Fig.5Correlation dimensions with inletgas superficial velocity

Fig.6RMS of WG3 versus at W3/W1 for inlet churn flow:(a)superficial gas velocity kept constant;(b)superficial liquid velocity kept constant

Fig.7Characteristics of phase separation for inlet annular flow

Fig.8Effect of phase separation on fluctuation:(a)inlet annular flow;(b)inlet churn flow

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は,「Fluctuation Characteristics of Gas-liquid Two-Phase Flow Splitting at a Vertical T-Junction(垂直T字型分岐管における気液二相流の脈動特性)」と題し,各種熱機器の冷却系やプラントの配管などで工業的に広く用いられ,機器の効率向上やコンパクト化の手段としてマイクロチューブ内の流動や伝熱の問題などと関連して近年研究が盛んなT字型分岐管の気液二相流の流動挙動について実験的研究を行い,FFT(Fast Fourier Transform),PSD(Power Spectral Density)および非線形カオス力学などによる解析により脈動特性およびシステムの複雑性を調べたものであり,論文は全7章よりなっている.

 第1章は「Introduction(序論)」であり,従来の研究を概観し,本研究の目的について述べている.すなわち,従来の研究は平均な流れ挙動や偏流現象,圧力損失に興味が集中し,また,水平分岐系(水平母管から水平枝管へ分岐)に関する研究がほとんどであって垂直分岐系(垂直母管から水平枝管へ分岐)の研究がきわめて少ないこと,また系の安定性,安全性に関わる脈動特性の研究が皆無であることを指摘し,本研究は,垂直T字分岐系における気液二相流の脈動特性とその原因の解明を目的とすると記している.

 第2章は「Experimental Apparatus and Measurement(実験装置と方法)」であり,本実験の装置とデータ測定法について述べている.すなわち,本実験は空気と水を用いた等温系であり,テスト部は気液混合部,T字分岐部,枝管出口の気液分離部を内径15mmのアクリルパイプで結ばれた構造となっており,分岐部はアクリル板に内径15mmの穴をT字形に開けて製作し,これと気液混合部とを長さ(高さ)1.5mのアクリル管(母管)で接続している.母管を上昇する気液二相流はT型管で二つの枝管に分流される.そして,2つの枝管の流量配分は,枝管出口に設けたバルブの開度を調節することによって調整できる.流量は枝管出口の気液分離部で測定しているが,空気流量は熱線流速計で,水の流量は天びんで計量している.脈動の特性は,母管の下流部,T字分岐部をはさむ母管と枝管の連結部および枝管部の3箇所に差圧計を設置し,それら差圧の時系列から調べている.また,分岐部及び直管部での流動状態を観察するために,高速ビデオカメラによる撮影を行っている.

 第3章は「Fluctuation Characteristics(脈動特性)」であり,実験で明らかとなった気液二相流の脈動特性について記している.すなわち,脈動の起こる原因は,気液二相流がT字管で分岐されるとき,空気は膨張し,水との慣性の違いで枝管を流れやすいのに対し,水は重力の作用のため落下,逆流する.そして,この逆流と母管中の二相流の圧縮性交互作用により脈動が維持されることを明らかにしている.また,脈動起こる流量の範囲,流動様式による振幅や周波数の違い,母管と枝管の脈動挙動の関係などについて詳細に調べている.

 第4章は「Nonlinear Analysis on the Differential Pressure(差圧の非線形解析)」であり,本系で観察された分岐現象の複雑性について非線形カオス解析を行った結果について記している.すなわち,差圧時系列からアトラクター,相関次元,パワースペクトル,リアプノフ指数などを計算し,差圧変動特性にどのような非線形性が内在しているか,複雑性の程度が如何ほどかを明らかにしている.その結果,複雑性の程度は,母管の流動様式が環状流であるときに一番大きく,次に気泡流,チャーン流がそれに続くことを明らかにしている.そして,特に相関次元は系の最小自由度を表すことなどから,ここでのデータ解析の結果は現象をモデル化するときに大変参考になると述べている.

 第5章は「Relationship between Extraction Ratio and Fluctuation(抽出率と脈動の関係)」であり,枝管と母管の流量比W3/W1)と脈動特性の関係を明らかにしている.T字管の最も重要な役割は,流体を母管から枝管へ分配することにあるが,その流量分配比W3/Wlが如何に脈動の強さや周波数に影響を及ぼしているかについて,入口の流動様式を気泡流から環状流まで変えて実験的に調べている.通常は流量増えると脈動は強くなると考えられるが,しかしT字管で二相流が分岐される場合は,相分離と流動様式が脈動に影響を与え,相分離特性について行った実験によると,抽出比0.5の場合は相の分離起こらない.そして,分配率と共に脈動の強さが単純に上昇するものの,均等分配のときは脈動が弱くなるのは,枝管における流動様式の影響であることを明らかにしている.また,各流動様式対応した分岐部と枝管部の脈動の強さを比較して,分岐部での脈動の強さはチャーン流の場合は一番大きく,気泡流では小さくて無視できこと,枝管の脈動は環状流の場合に一番強く,チャーン流の場合がそれに次ぎ,気泡流の場合は環状流の4%程度,チャーン流の1O%程度にしかならないことなどを明らかにしている.

 第6章は「Effect of Phase Separation on Fluctuation(脈動に及ぼす相分離の影響)」であり,実験で得られた相の分離と脈動の関係について記している.相分離とは,分岐部前後の二相流のクオリティが一致しないことであり,流量比W3/W1=0.5の時が均等分配であるが,入口が環状流の場合,運動量の低い液膜はT字分岐部でガスよりも曲がりやすく,このため相の分離が生じる.チャーン流の場合も同様の傾向が認められるが,気泡流では相分離は起りにくい.また,脈動曲線と相分配曲線とはよく似ており,相分離は脈動に強い影響を及ぼしている.注目すべきことに,それら2つの曲線は同一の分配率で最大値をとる.そして,この結果を用いると,相分配に関する結果から,脈動がもっとも強く起こる流量比が求まり,さらに相分配のモデルが知られているときは,そのモデルから脈動が最大となる流量比が求まることになり,応用上,有効な予測手段が得られることになる,と述べている.

 第7章は「Summaries and Conclusions(まとめと結論)」であり,上記の研究成果を総括し,得られた主要な結果をまとめている.

 以上要するに,本論文は,学術的のみならず実用的にも重要な気液二相流のT字分岐特性,特に脈動特性について詳細な実験的研究を行ない,有用な知見を得たものであり,熱流体工学,機械工学の発展に寄与するところ大である.よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる.

UTokyo Repositoryリンク