No | 117961 | |
著者(漢字) | 張,蕾 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | チョウ,レイ | |
標題(和) | 人工面のプール沸騰における気泡核干渉 | |
標題(洋) | Nucleation Site Interaction in Pool Boiling on Artificial Surfaces | |
報告番号 | 117961 | |
報告番号 | 甲17961 | |
学位授与日 | 2003.03.28 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第5419号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 機械工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 沸騰現象は,高い熱伝達効率が達成できるなどため各種工業用プラントや熱交換器に多く応用されているが,伝熱面上の熱拡散,流体運動,界面の気泡挙動などを含む複雑な現象である.沸騰熱伝達研究の工学的な最終目標は,各沸騰領域および特性点の熱伝達機構の解明とそれによる沸騰曲線の予測・制御手法の確立にある.これまでの多くのプール沸騰熱伝達の研究を概観すると,伝統的な沸騰応用に向け,様々な核沸騰熱伝達の整理式が提案されている.しかし,近年,電子デバイスの沸騰冷却を始めとした新たな応用が生れているが,この新しい応用のためには,伝統的な沸騰成果のみでは十分でないことが顕在化している.すなわち,核沸騰の熱伝達機構を徹底的に解明するのが急迫になってきているが,気泡核干渉がこの機構解明のキーポイントである.しかし,実際の沸騰面の表面性状の複雑性は気泡核干渉の研究をより難しいものとしている.一方,最近,MEMS技術の発達により,人工的にキャビティを設けることで表面構造を単純化し,任意の位置で発泡させることが可能になった.本研究では,人工沸騰面を用いて,核沸騰の気泡核干渉の影響要素を把握し,それぞれの要素と気泡挙動の相互関係,気泡核干渉の基本機構と干渉領域を理解,解明することを目的として行ったものである. 結論から記すと,プール沸騰の気泡核干渉機構に関して,以下の事が明らかになった. (1)影響要素として:1)気泡間の流動干渉(要素'H');2)気泡核間の熱干渉(要素'T');3)気泡合体(要素'C')が重要である. (2)基本の干渉機構は要素'H','T'と'C'の強度,競合,支配関係で現れる。 (3)干渉領域は,1)'I'領域:S/D0>3; 2)'H'領域:2.4<S/D0≦3; 3)'H+T'領域:1.5<S/D0≦2.4; 4)'H+T+C'領域:S/D0≦1.5の4領域に分けられる. (4)'H+T+C'領域の限界は無次元間隔S/D0のみから決定され,'H+T'領域の限界が加熱面物性に依存している.'H'領域の限界は液体流動と関係する. 上記の気泡核干渉を解明するため,次のような系統的な実験研究を行った. ・実験1:キャビティ寸法の影響(単一キャビティ) ・実験2:キャビティ間隔の影響・気泡核干渉(対キャビティ) ・実験3:伝熱面物性の影響(単一・対キャビティ) 以下,上記結果を導くに至った本研究における実験及び考察に関し記述する. Fig.1に実験装置概略図を示す.シングルもしくはツインキャビティの設計された人工面を加熱面として採用し,下よりレーザーで加熱して蒸留水を沸騰させた.キャビティからの発泡による加熱面裏面の温度変動を放射温度計で測定し,同時に高速度ビデオカメラで発泡の様子を記録した. 気泡核干渉の実験を行う前に,まず,シングルキャビティを用いて気泡挙動と加熱面の温度変動の安定性について,予備実験(実験1)を行った.人工キャビティ形状の影響を研究した関連実験(高木,1999)で円筒形のキャビティの発泡安定性が良い結論が得られている.この結論に基づいて,円筒形キャビティのサイズ(直径と深さ)の影響を調べた.人工面は厚さ0.2mmのシリコン面であるキャビティ直径5,10,20,50,100μm(深さは一様に80μm)について気泡挙動と加熱面の温度変動の安定性を比較し,直径差による影響が顕著ではないことが分かった.キャビティ深さの影響を調べるため,深さ20,40,80μmのキャビティ(直径は一様にlOμm)からの気泡挙動と加熱面の温度変動の安定性を比べた.緒論として,キャビティ深さが深いほど安定な気泡が生成できることが判明した.気泡核干渉の機構を解明するため,次の実験では安定性の良いキャビティ(深さ80μmと直径10μm)を選ぶこととした. 気泡核干渉の実験(実験2)では,キャビティ間距離SをパラメータとしてS=1,2,3,4,5,6,7,8mmの8種類のシリコン面(厚さ0.2mm)を用いて行った.毛管定数によって得られた平均離脱気泡直径D0は飽和沸騰水の場合約2.5mmであるので,干渉を示す際に用いられるパラメータである無次元間隔S/D0の値はそれぞれ0.4,0.8,1.2,1.6,2.0,2.4,2.8,3.2になる. 実験結果として,気泡離脱周波数fdは無次元間隔によって複雑な傾向を示した(Fig.2).S/D0>3では気泡離脱周波数は単一キャビティの場合と類似している.間隔が短くなるにつれ,気泡離脱周波数がまず高くなって,つぎに低くなり,また高くなるという傾向が見られた.この複雑な傾向は気泡核干渉と関係する.この傾向を説明するため,気泡核干渉の影響要素を求めた. 一般的にプール沸騰系の干渉はFig.3で表せる.しかし,気泡と流体間の干渉(干渉1),そして気泡核と加熱面間の干渉(干渉3)はその気泡の自己干渉と考えられるので,気泡と気泡核間の相互干渉研究に関しては,気泡間の流動干渉(干渉2)と気泡核間の熱干渉(干渉4)がより重視されるべきである.そして,気泡合体(干渉5),は気泡間の特別な干渉であり,気泡挙動に顕著な影響を与え,個別的に研究の必要があると思われる.したがって,気泡と気泡核の干渉について,三つの影響要素を求めた:(1)気泡間の流動干渉;(2)気泡核間の熱干渉;(3)気泡合体.本研究では,それぞれ要素'H',要素'T'と要素'C'と呼ぶ. 三つの影響要素と気泡離脱の関係,および評価方法について研究した.気泡間の流動干渉(要素'H')は基本的に気泡離脱を促進していると思われ,本実験では流体速度の測定を行っていないので,要素'H'の強度は対流熱伝達率hで表す(Eq.1). 気泡間の相互流動干渉は〓で評価した.ここでh0はシングルキャビティの場合での対流熱伝達率である.要素'H'の強度と無次元間隔の関係をFig.4.(a)に示す.S/D0>3の時に,要素'H'は単一キャビティの場合と類似している.間隔がS/D0≦3なると,気泡間の流動干渉が強くなるということが判った. 気泡核間の熱干渉(要素'T')加熱面を冷却するので,気泡離脱を抑制することが分かった.要素'T'の評価は放射温度計で得られたキャビティ周囲の加熱面温度変動の時系列に基づいて行った.まず,左右キャビティの温度変動と周囲点の温度変動との相互相関係数から,二つキャビティィの相互熱干渉の範囲(Xl-Xr)を決定し,この範囲の中での左右キャビティの温度変動と周囲点温度変動との相互相関関数の平均値をFig.2によって求めた. この平均値を用いて,二つキャビティ間の熱干渉の強度を表した.相互熱干渉の強度と無次元間隔の関係をFig.4(b)に示す.S/D0<2.4の時に,相互熱干渉は強くなっているということが判った.そして,気泡直径と合体の差異で,相互熱干渉は無次元間隔によって複雑的に変化している. 気泡合体(要素'C')は三種類(縦合体,横合体と斜合体)に分けた.三種類の合体は気泡離脱を促進している.横合体と糾合体は隣接の気泡間の特別な現象であるから,本研究ではこの二種類の気泡合体のみ評価した.無次元気泡合体周波数は気泡合体周波数fcを用いて,Eq.3によって計算した. 気泡合体周波数と無次元間隔の関係をFig.4(c)に示す.S/D0≦1.5の時に,気泡合体周波数は高くなるということが分かる. 気泡核干渉の三つ影響要素の解析結果をTable 1とFig.5にまとめた.気泡核干渉の基本機構は要素'H','T'と'C'の強度,競合,支配関係である.S/D0>3の時に,三つの要素が全て弱いため,気泡離脱周波数が単一キャビティの場合と類似している.したがって,'I'領域と呼ぶ.2.4<S/D0≦3('H'領域)の時に,要素'H'のみ強くなっているので,気泡離脱周波数は高くなっている.1.5<S/D0≦2.4の時に,要素'H'と要素'T'は両方強いので,競合関係が存在している.気泡離脱周波数の傾向から見て,要素'H'はより強いと思われる.抑制の影響に支配されて,この領域に気泡離脱周波数が低くなっており,'H+T'領域と呼ぶ.S/D0≦1.5の時に,要素'C'も強くなって,気泡離脱周波数は要素'H','T'と'C'の競合関係で決定される.これらの結果から見て,促進の影響要素がこの領域を支配していることが分かる.この領域を'H+T+C'領域と呼ぶ.これにより,気泡核干渉は四つの領域を分けられる:(1)I'領域:S/D0>3;(2)'H'領域:2.4<S/Do≦3;(3)'H+T'領域:1.5<S/D0≦2.4;(4)'H+T+C'領域:S/D0≦15. 上述の干渉機構を確かめるため,伝熱面物性の影響を実験3で調べた.厚さ0.2mmの銅面と厚さ2.0mmのシリコン面の上に,シングルもしくはツインキャビティを加工した.キャビティ間隔によって,気泡挙動または気泡核干渉の三つ影響要素を解析した.結論として,気泡離脱周波数も基本的に要素'H','T'と'C'の強度,競合,支配関係で決定されることがわかった.しかし,銅面で高熱流の場合は,'H+T'領域の限界は少し右に移動した.これは銅面の熱伝達率が高く,要素'T'の影響範囲が広くなったためである.厚いシリコンの実験で得られたデータは少なく,干渉鎮域の限界の変化は見つからなかった. 四つの干渉領域の限界の決定要素を調べた.'H+T+C'領域の限界はいつもS/D0≦1.5であることが判った.'H+T'領域の限界について,簡単な数値計算で加熱面物性の影響を調べた.結果としては,'H+T'領域の限界が加熱面の熱伝達率,または厚さと強く関係している.加熱面の熱伝達率が低くなる,あるいは加熱面が薄くなると,'H+T'領域の限界が左に移動する傾向がある.また,加熱面の熱伝達率が高くなる,あるいは加熱面が厚くなると,'H+T'領域の限界が右に移動する傾向がある.'H'領域の限界は,流体運動または気泡挙動と関係がある. Fig.1 Schematic of experimental apparatus Fig.2 Variation of bubble departure frequency fd with dimensionless cavity spacingS/D0 for different apparent laser heat flux q* ap Fig.3 Schematic diagram showing the effect factors of nucleation site interaction (1: Hydrodynamic interaction between bubble and liquid bulk. 2:Hydrodynamic interaction between bubbles. 3:Thermal interaction between nucleation site and heated surface. 4:Thermal interaction between nucleation sites. 5:Bubble coalescence.) Fig.4 Variation of factor 'H' factor 'T' factor 'C' With dimensionless cavity spacing S/D0 for different apparent laser heat flux q* ap Fig.5 Four regions of nucleation site interaction Table 1 Statement of essential mechanism of nucleation site interactions | |
審査要旨 | 本論文は,「Nucleation Site Interaction in Pool Boiling on Artificial Surfaccs(人工面のプール沸騰における気泡核干渉)」と題し,原子力,熱交換システム,電子部品の冷却等における核沸騰現象である気泡核干渉に関し実験的に研究し,特に,干渉の基本機構,干渉領域,加熱面の影響,伝熱特性等を明らかにしたものであり,論文の構成は全7章よりなっている. 第1章は「Introduction(序論)」であり,従来の沸騰研究を概観し,沸騰伝熱の素過程として気泡の生成(核生成),気泡の成長や離脱,気泡核の干渉が重要であるが大変複雑であること,特に気泡核干渉の問題が十分に解明されていないこと,これらの問題の解明が本研究の研究目的であるが,加熱面を単純化した人工沸騰面を採用するのが問題解明の一つの有効な方法であることから,本実験では人工沸騰面を採用すると述べている. 第2章は「Experimental Setup and Preliminary Experiments(実験装置及び予備実験)」であり,まず,プール核沸騰実験を行うための装置と実験方法について述べ,次に予備的に行った実験の結果について記している.すなわち,本実験は大気圧下の水のプール飽和沸騰実験であるが,沸騰面を下方からレーザ加熱すると共に,加熱面裏面の温度分布と変動を放射温度計で測定するシステムであり,この方式は従来にない新しいものである.そして,気泡の挙動は高速度カメラで観察している.次に,沸騰面に付与する人工キャビティに関しては,キャビティの形状の影響について研究した高木(1999)らの研究から,円筒形のキャビティが発泡安定性,製作経費の廉さから最適であるとして,円筒形キャビティの口径と深さをさまざまに変えた実験を行ってキャビティサイズの影響について調べている.そしてその実験から,キャビティ口径は気泡挙動や加熱面の温度変動にあまり顕著な影響をもたないこと,しかしキャビティ深さは大きな影響をもち,深さが深いほど気泡挙動が安定で規則的であることを見出し,これらの予備的実験によって,本研究の主題である気泡核干渉に関する実験では,口径が10μm,深さが80μmの円筒キャビティを採用するとしている. 第3章は「Study on thc Mechanisms of Nucleation Site Interactions(気泡核干渉の機構)」であり,2個の対キャビティを設けたシリコン面(厚さ0.2mm)を用いて,キャビティ間隔を1mmから8mmまで種々変化させて沸騰実験を行い,気泡の合体,離脱などの挙動および加熱面の温度変動を詳細に調べ,気泡核の干渉に影響する主たる要素と干渉の機構および干渉領域などについて考察した結果について調べている.その結果,気泡核の干渉に影響する因子として(1)気泡間の流動干渉,(2)気泡核間の熱干渉,(3)気泡の合体が考えられること,本研究ではそれらを影響因子'H',影響因子'T',影響因子'C'と名づけている.実験によれば,気泡の離脱周期はキャビティ間隔によって複雑,特徴的に変化する.そこで,キャビティ間隔を気泡の基準離脱直径で無次元表示し,この無次元キャビティ間隔による気泡核干渉の違いについて種々考察しているが,その結果として,気泡核干渉の基本機構は前記3つの影響因子の競合と支配関係によって4つの領域に区分できることを明らかにしている. 第4章は「Effects of Heated Wall Properties on Nucleation Site Interactions(加熱面特性の影響)」であり,加熱面の熱伝導性や熱容量(加熱面厚さ)の気泡核干渉に及ぼす影響について研究した実験の結果について記している.すなわち,まず,材質による違い(影響)を調べるため,加熱面を銅製として実験を行っている.次に,加熱面厚さの影響を調べるため,厚さ2.0mmのシリコン面を用いて実験し,第3章の結果(厚さが0.2mmのシリコン面の実験)を検証しているが,銅面の高熱流の場合は干渉領域の値は変化するものの,気泡核干渉の基本機構に変化はなく,結論としては第3章の結果に一般性のあることを確認している. 第5章は「Discussion about the Mechanisms of Nuclcation Site Interactions(気泡核干渉の機構に関する討論)」であり,気泡核干渉の機構に関連した諸問題について考察した結果について記している.すなわち,無次元気泡核間隔の定義の妥当性と普遍性,熱流束の気泡核干渉に及ぼす影響を,数値的なモデル計算などを援用して論じている.とくにここでは,加熱面の物性と熱流束の気泡核干渉領域に及ぼす影響について具体的,定量的に考察している.その結果,影響因子の'H'と'T'が同時に支配的となる領域の境界値は,加熱面熱流束が小さいほど,また加熱面の熱伝達率が高いほど,加熱面の厚さが薄いほどキャビティ間隔(無次元キャビティ間隔)が小さい側に移動することを明らかにしている. 第6章は「Heat Transfer Characteristics on the Artificial Boiling Surfaces (人工沸騰面の伝熱特性)」であり,人工キャビティ面の伝熱特性について,実験から得られた幾つかの情報について記しているが,本研究で一部行ったマルチキャビティ人工面の実験結果などを参考に,応用上重要な機能性沸騰面の創製について建議している. 第7章は「Conclusions(結論)」であり,上記の研究を総括し,得られた主要な結果について纏めている. 以上要するに,本論文は,学術的のみならず実用的にも重要なプール沸騰の気泡核干渉の機構について,一連の実験的研究を行い,工学的に有用な成果を得たものであり,熱工学の,特に沸騰伝熱研究の発展に寄与するところ大である.よって,本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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