学位論文要旨



No 118261
著者(漢字) 川上,典子
著者(英字)
著者(カナ) カワカミ,フミコ
標題(和) マウス海馬苔状線維-CA3シナプスにおける短期シナプス可塑性の発達変化
標題(洋) The developmental change of short-term synaptic plasticity of the mossy fiber-ca3 synapse of mice hippocampus.
報告番号 118261
報告番号 甲18261
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2068号
研究科 医学系研究科
専攻 機能生物学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学医科学研究所 教授 真鍋,俊也
 東京大学医科学研究所 教授 御子柴,克彦
 東京大学 教授 廣川,信隆
 東京大学 教授 森,憲作
 東京大学 講師 森,寿
内容要旨 要旨を表示する

1. 海馬苔状線維(mossy fiber, MF)-CA3シナプスは中枢神経系において、もっともシナプス促通(synaptic facilitation)の大きいシナプスの一つと言われている。私はこのシナプスにおいてfacilitationの生後発達変化を生後3wから9wのネズミ(ICRマウス、オス)を用いて、細胞外記録、ホールセル記録によって測定した。MFからCA3への入力はgroup2/3代謝型グルタミン酸受容体(mGluR)アゴニストを用いて、シナプス応答が著明に減弱することをもって確かめた。

2. 生後3wから9wへの発達過程において、二発刺激によるfacilitation(paired pulse facilitation, PPF)あるいは頻回刺激によるfacilitation(frequency facilitation, FF)は著明に減少した。

3. このPPF比(PPR)は細胞外のCa2+/Mg2+比をあげることによって3w、9w伴に7割程度に減弱するが、その際興奮性シナプス後電流(EPSC)は約30倍程度と著明に増大する。その変化の程度は週齢で差は認められなかった。

4. またMFの単一線維を刺激することによって得られるEPSC(unitaryEPSCs)の平均値にも、発達による変化は見られなかった。

5. MFのシナプス前終末を細胞内透過型Ca2+指示薬のMag-Fura-5-AMを用いて計測した。Mag-Fura5-AMはなるべくMFのaxon及びpreterminalに特異的に入るように、ガラス電極を用い、MFのCA3よりの部分に負荷している。2発刺激において、Ca2+の上昇は、1.1倍程度のPPFを生じた。しかしその程度は3wと9wにおいて、差は見られなかった。

6. CaMKIIは、FFに影響を与えるという報告がguinea pigの海馬でされいることから(Salin et al.1994)、マウス海馬のFFおよびPPFの発達変化にCaMKIIがかかわっているかどうかを、H7およびKN62を用いて調べた。いずれのkinase inhibitorも海馬のFFおよびPPFには有意な影響を与えなかった。

7. カイニン酸受容体や、アデノシン受容体、代謝型グルタミン酸受容体などの、シナプス前終末にある受容体を阻害するあるいは、完全に活性化したが、3wと9wにおいて、PPRに対する効果に違いは見られなかった。

8. これらの結果からfacilitationの発達に伴う減少は、シナプス前終末へのCa2+流入の変化、シナプス前終末にある受容体を介するシナプス前終末の修飾により説明できない。また、伝達物質の放出確率の発達変化を支持する結果は認められなかった。

9. 膜透過性のCa2+キレート剤であるBAPTA-AMを灌流派に投与した。3w、9w両方でシナプス伝達を同程度抑えたところでPPRを比較するとPPRに対する効果は異なり、3wではPPRの著明な減少が認められたが、9wではその程度が小さかった。このことからMF-A3でのfacilitationの発達変化はCa2+流入以降のCa2+シグナリングの変化、例えばCa2+バッファー蛋白の量、種類の変化など、によると考えらる。

10. MF-CA3でのfacilitationは海馬での神経ネットワークにおいて、情報伝達に幅を与えるものであり、それが発達と伴に減少することは海馬サーキットにおいて伝達の幅の減少が起きると示唆される。

審査要旨 要旨を表示する

 本研究はマウス海馬苔状線維-CA3の発達に伴うシナプス促通の変化とそのメカニズムをあきらかにするために、別紙「論文内容の要旨」のような結果が得られた。

 その結果に対し、審査の結果以下の点の指摘があり修正を行った。

1.一般的なshort-term synaptic plasticityの生理的意義を追加した。

2.表現の間違い、spell間違い、引用論文の間違いを訂正した。

3.Minimal stimulationの方法の図を追加した。

4.Failure ratioの値を追加した。

5.BAPTAの結果の考察にbuffer以外の考察を加えた。

6.Discussionで、facilitationのネットワークにおける意味を考察した部分を書き直した。

7.Actinが伝達物質放出に寄与しfacilitationになんらかの影響を与える可能性を追加した。

 上記の訂正箇所を訂正し、本論文はマウス海馬のシナプス短期増強の発達変化について、電気生理的手法によりそのメカニズムを解明するのに貢献していると考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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