学位論文要旨



No 118420
著者(漢字) 加藤,周
著者(英字)
著者(カナ) カトウ,シュウ
標題(和) 簡約群のコンパクト化上の同変ベクトル束
標題(洋) Equivariant bundles on Group completions
報告番号 118420
報告番号 甲18420
学位授与日 2003.03.28
学位種別 課程博士
学位種類 博士(数理科学)
学位記番号 博数第220号
研究科 数理科学研究科
専攻 数理科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 松本,久義
 東京大学 教授 大島,利雄
 東京大学 教授 桂,利行
 東京大学 教授 川又,雄二郎
 東京大学 教授 宮岡,洋一
 東京大学 助教授 小木曽,啓示
内容要旨 要旨を表示する

1導入

 本論文では標数0の代数閉体上の簡約代数群GのG×G-同変コンパクト化Xであって境界が正規交叉因子となるもの上の同変なベクトル束の成す圏を線形代数のデータを用いて記述する。このような記述はKlyachko[1]によるトーリックの場合の記述の非可換群への拡張であるが、群が非可換で左右の作用が同一視できない事により新しい拘束条件が生じる。定理の応用として、特定の性質をもつような同変ベクトル束は存在しないというタイプの結果とまた逆にKostantにより存在が予想されていたある性質をもつ同変ベクトル束が存在するというタイプの結果の両方が得られる。

2設定

 論文本体の設定ではG×G-同変なベクトル束ではなく、そのある有限被覆に対して枠組みが定式化されているのであるが、簡略化のため要旨においては有限被覆は取らないことにする。

 TをGの極大トーラス、BをTを含むGのBorel部分群とする。X*(T)をTの指標群、X*(T)をTの余指標群とし、その間のpairingを<,>で表す。

 さて、Wを(G;T)のWeyl群とする。この時、〓へのW-作用の延長の基本領域(の閉包)をC+とおく。以上の設定の元で次の定理が成立する。

 定理2.1(宇沢[3]).Gの代数多様体としてのG×G-同変なコンパクト化Xであって平滑かつ境界が正規交叉因子となるものは〓の扇ΣであってSuppΣ=C+を満たすものと1対1に対応する。さらに、この時XのG×G-軌道の集合と扇Σの間に1対1対応が存在する。

 ここで扇とはトーリック多様体の理論の意味での扇(cf.小田[2])であり、特に錐の集合である。以下、Xと対応する扇Σを一つ固定する。さて、扇Σに対してその1次元の錐の集合をΣ(1)とおく。また、記号の乱用でσ∈Σによって、錐σとその面の成すΣの部分扇を表す。さらに、各1次元錐η∈Σ(1)と同じ記号でη∩X*(T)の最小の生成元も表すことにする。(つまりηはTの1助変数部分群とも見なせる。)そして、各η∈Σ(1)に対してGの放物型部分群Pηを次で定義する。

 EV(X)adでX上のG×G-同変ベクトル束を対象とし、同変な連接層としての射を射とする圏を表す。

 定義2.2.圏C(Σ)adを次で定義する.

 Object:G-加群VとそのΣ(1)によってインデックスされたZ-減少フィルターの族の組{Fη}η∈Σ(1)であって次の条件を満たすもの

 1.各η∈Σ(1)と各η∈Zに対してFη(n)はPη-加群。

 2.各η∈Σ1(1)と各η∈Z、そして<η,α><0を満たす任意のルートに対応するg(=LieG)のルートベクトルeαに対してeαFη(n)⊂Fη(n+<η,α>)。

 3.全てのσ∈Σに対してあるVの基底Bσが存在して、任意のη∈σ(1)と任意のn∈Zに対してFη(n)はBσの部分集合からなる基底を持つ。

 Morphism:(V1,{Fη}η∈Σ),(V2,{Gη}η∈Σ)∈C(Σ)adの間の射の集合をHomG(V1,V2)の部分集合として次のように定義する。

 Homc(Σ)((V{Fη}η∈Σ),(W,{Gη}η∈Σ)):={f:V1→V2;f(Fη(n))⊂Gη(n),∀n∈Z} さて、各G×G-同変ベクトル束εに対し、Gの原点に対応する点でのファイバーをB(ε)として、εの全空間をV(ε)とする。また各η∈Σ(1)に対して〓とおき、さらに〓とおく。

3結果

 定理3.1(Theorem D).上記の状況において〓は圏同値〓へと延長される。

 上の定理の応用として、次の2つの結果が導かれる。定理3.2は同変なベクトル束はあまり存在しないといった方向の結果であり、定理3.3は逆に特定の性質を満たすものならば必ず存在するという方向の結果で、Kostantにより予想されていた結果の(G×G,G)という特別な対称対の場合である。

 定理3.2(Theorem G).Gを随伴型単純代数群、XをGの標準的コンパクト化とする。その時、X上のG×G-同変ベクトル束でランクがGのランクよりも低いものはG×G同変な直線東の直和に分裂する。

 定理33(Theorem F).Gを随伴型半単純代数群、XをGの標準的コンパクト化とする。VをGの既約表現とすると、次の3つの性質を持つX上のG×G-同変ベクトル束εvが同型を除いて一意的に定まる。

 1.〓

 2.全ての1助変数部分群η:Gm→Gと全ての〓に対して〓がγ(εv)内に存在する。

 3.上の1.と2.を満たす任意のG×G-同変ベクトル束εはεvにG×G同変に埋め込むことが出来る。

 Acknowledgements:指導教官の松本久義先生ならびに上述の研究をそれぞれいろいろな意味で助けて頂いた方々、特にMichel Brion, Bertram Kostant, Friedrich Knop,西山享、大島利雄,関口次郎,Tonny Albert SpringerとAlexis Tchoudjemの各氏に感謝します。

参考文献

[1]A. A. Klyachko, Equivariant vector bundles on toral varieties, Math. USSR Izvestiya35, No.2, (1990) 337-375.

[2]小田忠雄,凸体と代数幾何学,紀伊國屋数学叢書24,紀伊國屋書店1985.

[3]T. Uzawa, On equivariant completions of algebraic symmetric spaces. Algebraic and topological theories (Kinosaki,1984), 569-577, Kinokuniya, Tokyo 1986.

審査要旨 要旨を表示する

 対称空間の同変コンパクト化の概念は数え挙げ幾何学に関連して古くから研究されていたが、その表現論的な意義が注目されるなど近年は別の角度から研究が進んでいる。特に簡約群自身は対称空間とみなせるが、そのコンパクト化を考えるということは、群を無限方向込みで考えるという自然な操作であり、基本的な概念である。そのようなコンパクト化のなかでも、大島利雄、De Contini-Procecciらによって構成された、boundary divisorsがnormally crossingになっているようなものは重要な位置を占めている。

 一方では、多様体上のベクトル束と言う概念は非常に基本的な対象であるが、特に代数的なベクトル束はやさしいものではない。たとえばアファイン空間上の代数的ベクトル束は自明といったことでも、セール予想としてしばらくは有名な未解決問題であった。高次元の具体的な代数多様体でその上のベクトル束を組織的に記述できるような例はアファイン空間のような場合を除けばあまり知られていない。

 加藤氏は標数0の代数的閉体上の簡約群GのG×G-同変部分コンパクト化でboundary divisorsがnormally crossingになっているようなものの上のG×G-同変ベクトル束の作るカテゴリーと、線形代数的なデータのつくるカテゴリーとの同型を確立した。氏の結果はKlyachkoによるトーリック多様体の同変ベクトル束の分類の簡約群の場合への拡張とみなせるが、群が非可換になることからくる本質的な困難を克服する必要が生じる。実際トーリック多様体の場合には出て来なかった線形代数的なデータについての新しい条件を氏は見出しテンソル積カテゴリーの理論を使ってそれを示している。

 加藤氏の結果により、対称空間の同変ベクトル束のコンパクト化への拡張に関するKostantの問題について群多様体の場合には肯定的な回答が与えられた。Kostantの問題は簡約リー群の無限次元表現の行列要素の漸近挙動についての理解を深めることに関連して出て来た話であり、今後の発展への道を開くものである。

 別の応用として、ランクの低いG×G-同変ベクトル束は直線束の直和になるという興味ある結果が導かれる。また学位論文には含まれていないが、chern類の計算、higher cohomologyの消滅についての十分条件、同変K-群の計算などへも応用がある。

 この論文において加藤氏の卓越した、本質を見抜く洞察力、数学の広い分野に対して精通しそれを使いこなす能力、複雑な論証を明解な定式化と論理で整理する能力を随所に見て取れる。論文自体も良く整理されしっかりと書かれている。よって、論文提出者加藤周は、博士(数理科学)の学位を受けるにふさわしい充分な資格があると認める。

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