学位論文要旨



No 118568
著者(漢字)
著者(英字) Suthiwarapirak,Peerapong
著者(カナ) スティワラピラク,ピーラポン
標題(和) 繊維補強セメント系材料による鉄筋コンクリート床版補修の破壊力学的疲労寿命解析
標題(洋) Fracture Mechanics Based Fatigue Life Analysis of RC Bridge Slab Repair by Fiber Cementitious Materials
報告番号 118568
報告番号 甲18568
学位授与日 2003.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5587号
研究科 工学系研究科
専攻 社会基盤工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 松本,高志
 東京大学 教授 堀井,秀之
 東京大学 教授 魚本,健人
 東京大学 助教授 阿部,雅人
 東京大学 助教授 古関,潤一
内容要旨 要旨を表示する

本研究では,鉄筋コンクリート床版の疲労特性を予測するための解析手法を破壊力学に基づいて構築することを目的とした。本研究で構築した解析手法では,構造物の疲労破壊が,コンクリートひび割れ面直交方向の架橋応力の疲労劣化,架橋応力劣化によるせん断ひび割れと曲げひび割れの進展,鉄筋コンクリート床版の最終破壊という3つの段階を経て起こると仮定している。さらに,提案した解析手法を用いて,様々な繊維補強セメント系材料に対して補修後の床版の疲労特性を予測している。

解析手法の構築は三段階に分かれている。(1)マイクロストラクチャーレベル,(2)メソストラクチャーレベル,(3)マクロストラクチャーレベルである。

まず,マイクロストラクチャーレベルでは,疲労による架橋応力劣化関係という構成則を提案し,セメント系材料の疲労特性を表現した。本研究では,Engineered Cementitious Composite (ECC)の架橋応力劣化関係を,マイクロメカニクスに基づいたモデル化を行うと同時に,実験においても計測した。マイクロメカニクスに基づいたモデルでは,疲労荷重下における繊維の破断を考慮した架橋応力劣化関係を提案した。実験では,新たに提案したECCの一軸引張疲労載荷実験を行い,複数ひび割れの架橋応力劣化関係に必要なパラメータを求めた。実験から求めた劣化関係と比較した結果,マイクロメカニクスに基づいた劣化関係は,ECCの疲労劣化特性をよく再現していることが確認できた。

架橋応力劣化による疲労ひび割れの進展メカニズムにより,マイクロストラクチャーレベルとメソストラクチャーレベルを関連させることができる。メソストラクチャーレベルでは,疲労ひび割れの進展メカニズムを組み込んだ解析手法を構築し,先に得られた架橋応力劣化関係を用いてECCの曲げ疲労特性を予測した。解析手法を用いて予測した疲労特性と比較するため,梁の4点曲げ実験を行い,解析の妥当性を確かめた。よって,この解析手法では,マイクロストラクチャーレベルで求めた架橋応力劣化関係を用いることにより,材料の曲げ疲労特性,例えばS-N曲線,繰り返し回数による中央たわみの変化等を予測することができることを示した。

一方,繊維補強セメント系材料の曲げ疲労特性を把握する為に,様々な材料,例えばボリマーセメントモルタルや繊維補強吹付けコンクリート等の梁の4点曲げ実験を行った。例えばECCは,他の材料と異なり複数ひび割れが生じるため,高レベル疲労荷重における疲労寿命が比較的長いといった特徴が把握された。この曲げ疲労特性の比較は,鉄筋コンクリート床版補修における最適な材料の選択の判断材料となるものである。

マクロストラクチャーレベルでは,メソストラクチャーレベルと同様の疲労ひび割れ進展メカニズムを基にして,疲労移動荷重下のRC床版の3次元有限要素解析手法を構築し,床版の破壊メカニズムの再現と床版の疲労特性,例えばS-N曲線,繰り返し回数による中央たわみの変化,ひび割れ状況等の予測を行った。有限要素解析では,分散ひび割れ要素によりコンクリートひび割れを表し,ロッド要素で鉄筋を表した。コンクリートのひび割れは主応力破壊基準に基づいて生じ,分布ひび割れ要素において多方向に発化するようモデル化された。ここで,各ひび割れ方向での,繰り返し荷重によるひび割れの開閉は独立としている。コンクリートの疲労では,疲労による架橋応力劣化関係に依存する履歴架橋応力関係を各ひび割れで考慮している。これにより,疲労移動荷重下におけるRC床版の疲労特性を,任意の寸法と境界条件から解析し予測することができる。解析では,実験で観察されたRC床版の押し抜きせん断破壊が再現された。さらに,異なる荷重条件では床版の疲労特性やひび割れ状況が異なることが再現された。つまり,疲労移動荷重によるRC床版の疲労寿命が,定点載荷疲労荷重による疲労寿命より明らかに短いことが再現された。

最後に,様々な補修法と繊維補強セメント系材料を用いて,補修床版の疲労解析を行った。補修法としては上面増厚補修,下面増厚補修,材料としては普通コンクリート,繊維補強コンクリート,ECCを用いて解析した。解析で各補修床版の寿命を予測し,疲労延命効果の比較を行い,得られた様々なケースの結果を用いて床版補修の設計検討を行った。例えば,異なる補修材料延命の効果の比較や、各補修材料の補修層厚さと延命効果の関係を用いて,それぞれのRC床版のケースにおける最適な補修法と補修材料の補修層厚さを提案した。

審査要旨 要旨を表示する

本論文は、鉄筋コンクリート床版の疲労特性を予測するための解析手法を破壊力学に基づいて構築することを目的としている。

本研究で構築した解析手法では,構造物の疲労破壊が、コンクリートひび割れ面直交方向の架橋応力の疲労劣化、架橋応力劣化によるせん断ひび割れと曲げひび割れの進展、鉄筋コンクリート床版の最終破壊という3つの段階を経て起こると仮定している。さらに、提案した解析手法を用いて、様々な繊維補強セメント系材料に対して補修後の床版の疲労特性を予測している。

解析手法の構築は三段階に分かれている。(1)マイクロストラクチャーレベル,(2)メソストラクチャーレベル,(3)マクロストラクチャーレベルである。

まず、マイクロストラクチャーレベルでは、疲労による架橋応力劣化関係という構成則を提案し、セメント系材料の疲労特性を表現した。本研究では、Engineered Cementitious Composite (ECC)の架橋応力劣化関係を、マイクロメカニクスに基づいたモデル化を行うと同時に、実験においても計測した.マイクロメカニクスに基づいたモデルでは、疲労荷重下における繊維の破断を考慮した架橋応力劣化関係を提案した。実験では、新たに提案したECCの一軸引張疲労載荷実験を行い、複数ひび割れの架橋応力劣化関係に必要なパラメータを求めた。実験から求めた劣化関係と比較した結果、マイクロメカニクスに基づいた劣化関係は、ECCの疲労劣化特性をよく再現していることが確認できた。

架橋応力劣化による疲労ひび割れの進展メカニズムにより,マイクロストラクチャーレベルとメソストラクチャーレベルを関連させることができる。メソストラクチャーレベルでは、疲労ひび割れの進展メカニズムを組み込んだ解析手法を構築し,先に得られた架橋応力劣化関係を用いてECCの曲げ疲労特性を予測した。解析手法を用いて予測した疲労特性と比較するため、梁の4点曲げ実験を行い,解析の妥当性を確かめた。よって,この解析手法では、マイクロストラクチャーレベルで求めた架橋応力劣化関係を用いることにより、材料の曲げ疲労特性、例えばS-N曲線、繰り返し回数による中央たわみの変化等を予測することができることを示した。

一方,繊維補強セメント系材料の曲げ疲労特性を把握する為に、様々な材料、例えばポリマーセメントモルタルや繊維補強吹付けコンクリート等の梁の4点曲げ実験を行った。例えばECCは、他の材料と異なり複数ひび割れが生じるため、高レベル疲労荷重における疲労寿命が比較的長いといった特徴が把握された。この曲げ疲労特性の比較は、鉄筋コンクリート床版補修における最適な材料の選択の判断材料となるものである。

マクロストラクチャーレベルでは、メソストラクチャーレベルと同様の疲労ひび割れ進展メカニズムを基にして、疲労移動荷重下のRC床版の3次元有限要素解析手法を構築し、床版の破壊メカニズムの再現と床版の疲労特性、例えばS-N曲線、繰り返し回数による中央たわみの変化、ひび割れ状況等の予測を行った。有限要素解析では、分散ひび割れ要素によりコンクリートひび割れを表し、ロッド要素で鉄筋を表した。コンクリートのひび割れは主応力破壊基準に基づいて生じ,分布ひび割れ要素において多方向に発生するようモデル化された。ここで,各ひび割れ方向での、繰り返し荷重によるひび割れの開閉は独立としている。コンクリートの疲労では、疲労による架橋応力劣化関係に依存する履歴架橋応力関係を各ひび割れで考慮している。これにより、疲労移動荷重下におけるRC床版の疲労特性を,任意の寸法と境界条件から解析し予測することができる。解析では、異なる荷重条件では床版の疲労特性が異なることが再現された。つまり,疲労移動荷重によるRC床版の疲労寿命が、定点載荷疲労荷重による疲労寿命より明らかに短いことが再現された。

最後に、様々な補修法と繊維補強セメント系材料を用いて、補修床版の疲労解析を行った。補修法としては上面増厚補修,下面増厚補修、材料としては普通コンクリート,ECCを用いて解析した。その解析結果を用いて補修床版の寿命を予測し、疲労寿命延命効果の比較を行った。

以上のように、本論文は、疲労劣化が問題となっている鉄筋コンクリート床版について,破壊力学に基づく解析手法を構築し,これを用いた床版の疲労寿命解析と床版補修の延命効果の解析を行ったものである.従来は,実大構造物の試験により疲労寿命の検証が行われていたが,本論文の解析手法により広範囲の設計・補修の検討が可能となっている.高度経済成長期に構築された社会基盤構造物の多くが老朽化していく状況に必要な解析手法の一つであり,社会的・工学的に重要な意義が認められる.

よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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