学位論文要旨



No 119377
著者(漢字) 井筒,節
著者(英字)
著者(カナ) イヅツ,タカシ
標題(和) バングラデシュ・ダッカにおける青年の精神保健とQOL : 都市部スラムと住宅地域の比較
標題(洋) Mental Health and Quality of Life of Adolescents in Dhaka, Bangladesh : A Comparison between Urban Slums and Residential Areas
報告番号 119377
報告番号 甲19377
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(保健学)
学位記番号 博医第2351号
研究科 医学系研究科
専攻 健康科学・看護学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 若井,晋
 東京大学 教授 加藤,進昌
 東京大学 助教授 山崎,喜比古
 東京大学 助教授 上別府,圭子
 東京大学 助教授 錦戸,典子
内容要旨 要旨を表示する

目的

本研究は、(1) 国際的に使用され、多文化間で比較可能なQOLと精神保健に関する尺度のバングラデシュ語版を作成し、その信頼性・妥当性を確認し、(2) それらを用い、バングラデシュ・ダッカ市に暮らす青年のQOL・精神健康を、スラム地域と住宅地域の比較を中心に明らかにすると共に、(3) 彼らの精神健康に関連する要因を明らかにすることを目的とする。

方法

ダッカ市内のランダムに選ばれた地域に住む11歳から18歳の青年について、住宅地域に住む男子187人(平均年齢14.61歳、SD=2.10)、女子137人 (15.16、2.02)、スラム地域に住む男子157人 (13.76、2.07)、女子121人 (13.44、2.09)、更に臨床群として、精神科病院に入院もしくは通院中の男子27人 (17.00、1.36)、女子14人 (15.43、2.77) を対象に質問紙を用いたインタビュー調査を行った。質問紙は、The World Health Organization Quality of Life Assessment Instrument Bref (WHOQOL-BREF)、Self Reporting Questionnaire (SRQ)、Youth Self-Report (YSR) と人口統計学的データなどの質問からなり、2名の専門家によりそれぞれ英語からバングラデシュ語に翻訳され、更に別の専門家がバックトランスレーションを行い作成した。身長、体重も測定し、BMIが算出された。更に、再テスト信頼性の確認のために、ランダムに選択された38名が初回インタビューから1週間後に再度同様のインタビューを受けた。

結果

作成された尺度のバングラデシュ語版は、一定の信頼性・妥当性を有することが示された。人口統計学的データ、栄養状態を示す測定値 (Table 1)、更にはQOL得点 (Table 2) について、有意差がみられた項目すべてにおいて、住宅地域よりもスラム地域の青年の状態が悪かった。一方、精神健康に関する尺度については、差が見られた項目のうち、YSRの「行為障害」得点においてスラムの男子の状態が悪かった以外、すべての尺度において住宅地域の青年の得点が悪かった (Table 2)。重回帰分析の結果、精神健康に関する尺度得点は主に、女性であること、年齢が高いこと、社会的関係性に関するQOLが低いこと、環境に関するQOLが低いことと関連していた。

結論

スラムにおける物理的環境やQOLの厳しさと、精神保健における地域、性別ごとの特異なパターンが示された。特に、高年齢のスラムの男子における問題行動の増加や、住宅地に住む女子の不安・抑うつと同時に現れる攻撃性の存在などが明らかとなり、深刻な状況が推測された。これらは、早急な精神保健的対応の必要性と、その際に地域差への注目と性差に敏感な対応が必要であることを示唆した。

Demographic Data of Residential and Slum Group

Comparison between Residential and Slum Adolescents on WHOQOL-BREF, SRO, and YSR by ANCOVA with age as Covariate

審査要旨 要旨を表示する

本研究は、(1) 国際的に使用され、多文化間で比較可能なQOLと精神保健に関する尺度のバングラデシュ語版を作成し、その信頼性・妥当性を確認し、(2) それらを用い、バングラデシュ・ダッカ市に暮らす青年のQOL・精神健康を、スラム地域と住宅地域の比較を中心に明らかにすると共に、(3) 彼らの精神健康に関連する要因を明らかにすることを目的とした。方法としては、ダッカ市内のランダムに選ばれた地域に住む11歳から18歳の青年について、住宅地域に住む男子187人(平均年齢14.61歳、SD=2.10)、女子137人(15.16、2.02)、スラム地域に住む男子157人(13.76、2.07)、女子121人(13.44、2.09)、更に臨床群として、精神科病院に入院もしくは通院中の男子27人(17.00、1.36)、女子14人(15.43、2.77)を対象に質問紙を用いたインタビュー調査を行った。質問紙は、The World Health Organization Quality of Life Assessment Instrument Bref (WHOQOL-BREF)、Self Reporting Questionnaire (SRQ)、Youth Self-Report (YSR)と人口統計学的データなどの質問からなり、2名の専門家によりそれぞれ英語からバングラデシュ語に翻訳され、更に別の専門家がバックトランスレーションを行い作成した。身長、体重も測定し、BMIが算出された。更に、再テスト信頼性の確認のために、ランダムに選択された38名が初回インタビューから1週間後に再度同様のインタビューを受けた。これらについて、下記の結果を得ている。

作成された尺度のバングラデシュ語版は、一定の信頼性・妥当性を有することが示された。

人口統計学的データ、栄養状態を示す測定値、更にはQOL得点について、有意差がみられた項目すべてにおいて、住宅地域よりもスラム地域の青年の状態が悪かった。

一方、精神健康に関する尺度については、差が見られた項目のうち、YSRの「行為障害」得点においてスラムの男子の状態が悪かった以外、すべての尺度において住宅地域の青年の得点が悪かった。重回帰分析の結果、精神健康に関する尺度得点は主に、女性であること、年齢が高いこと、社会的関係性に関するQOLが低いこと、環境に関するQOLが低いことと関連していた。

以上、本論文は、バングラデシュ・ダッカに住む青年の精神保健を初めて明らかにし、スラムにおける物理的環境やQOLの厳しさと、精神保健における地域、性別ごとの特異なパターンを明らかにした。特に、高年齢のスラムの男子における問題行動の増加や、住宅地に住む女子の不安・抑うつと同時に現れる攻撃性の存在などが明らかとなり、深刻な状況が推測された。本研究は、これまで未知に等しかった、バングラデシュ・ダッカに住む青年の精神保健について、スラムに暮らす青年も含め検討し、彼らに対する早急な精神保健的対応の必要性と、その際に地域差への注目と性差に敏感な対応が必要であることを示したことで重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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