学位論文要旨



No 119424
著者(漢字) 松浦,憲
著者(英字)
著者(カナ) マツウラ,ケン
標題(和) 低分子量Gタンパク質Rap特異的GTPアーゼ活性化タンパク質SPALの高次脳機能における機能解析
標題(洋)
報告番号 119424
報告番号 甲19424
学位授与日 2004.03.25
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第1085号
研究科 薬学系研究科
専攻 機能薬学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 桐野,豊
 東京大学 教授 堅田,利明
 東京大学 教授 岩坪,威
 東京大学 助教授 川原,茂敬
 東京大学 助教授 西山,信好
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はじめに

近年ポストシナプスにおける機能分子が次々と同定され、グルタミン酸受容体と結合する巨大なシグナル伝達複合体の理解が進んできた。しかしその全貌はまだ明らかではなく、記憶と学習の基盤と考えられているシナプス可塑性における細胞内シグナル伝達の分子機構もまだ良くわかっていない。

SPA-1 like(SPAL)はPSD95/SAP90 ファミリーとの結合タンパク質として同定された、GTPase activatingprotein(GAP)ドメイン、ACT(ActinRegulatory)ドメイン、PDZ ドメイン、coiled-coilドメインを持つ全長1804 アミノ酸のタンパク質である。SPAL は相対的に脳で大量に発現しており、ラット海馬の分画実験では細胞質画分およびpostsynaptic density(PSD)画分に分画される。ラット脳lysate の免疫沈降法や神経初代培養の免疫染色から、in vivo でSPAL はPSD-95、NMDA 受容体と複合体をつくっている事がわかっている。またSPAL は低分子量G タンパク質Ras ファミリーの一員であるRap1 およびRap2 特異的GAP であることが示されている。さらにSPAL はACT ドメインを介してアクチンと相互作用し、アクチン細胞骨格系を再構成する機能を持ち、また海馬神経初代培養でのSPAL の過剰発現実験ではスパイン(ポストシナプスの構造体)の形態を変化させ、GAP 活性依存的に増大させる事が示された。

これらの知見から、SPAL がNMDA-R 活性化に伴うシナプス可塑性やシグナル伝達に関与している可能性が考えられた。本研究ではSPAL の個体レベルでの機能解析を目的としてノックアウトマウスを作製、その表現型を解析し、記憶・学習実験などを行なった。またSPAL の新規ファミリー分子を2 種類クローニングし、機能解析を行なった。

方法と結果

新規SPAL ファミリー分子、SPAL2、SPAL3 の全長クローニング

データベース上でのSPAL 遺伝子のホモログ検索により、SPAL 遺伝子と非常にホモロジーの高い二種類の部分配列を見い出した。これらファミリー分子の発現分布や機能の解析はSPAL ノックアウトマウスの表現型の予測や解釈に有効であると考えられた。そこでゲノム構造からの遺伝子(エクソン)予測などの手法により開始コドンを推測し、RT-PCR で欠損部分を補い、全長をクローニングした。結果、予測通りの産物を得た。ホモロジーの高い方からそれぞれSPAL2、SPAL3 と名付けた。クローニングされたSPAL2 とSPAL3は、SPAL との相同性が非常に高く、また大きさも近い(Fig.1)。この事からSPAL、SPAL2、SPAL3 はSPA-1 ファミリーの中でもSPA-1 とは別に、独自のサブファミリーを形成していると考えられた。ノザン解析ではSPAL 程豊富ではないものの、いずれも脳で発現していた。In vitro GST pulldown assay によりSPAL2、SPAL3 もPSD-95 と相互作用することを示した。しかしその相互作用の機構は異なっていた。またCoiled-coil ドメインに着目しSPAL ファミリー間の相互作用も検討した。

SPAL ノックアウトマウスの作製

SPAL ノックアウトマウスの作製にはTT2ES 細胞株を用い、SPAL 遺伝子の開始コドンから核移行シグナル付きのLacZ 遺伝子を挿入する形のターゲティングベクターと相同組換えを起こさせ、凝集法によりキメラマウスを作製した。F1 SPAL+/-の交配により得られたF2 世代はメンデルの法則に従って正常に出生、発育し(〜300 匹、+/+25%、+/-50%、-/-25%)、本研究の実験は全てF2 世代で行なわれた。SPAL タンパク質の完全な欠損はウエスタンブロッティングにより確認された。SPAL-/-は見た目上明瞭な表現型はなく、脳の切片を用いたNissl 染色、シナプスマーカーのsynaptophysin、樹状突起マーカーのMAP2 による免疫染色から脳の基本構成、構造には異常がないことが示された。さらにシナプス領域の電子顕微鏡撮影でもシナプスの基本構造に異常は見られなかった。また全身の組織学的な検査によっても特に異常は見られなかった。

SPAL、Rap1、Rap2 の脳内発現部位の同定

SPAL の脳における発現部位の同定はX-Gal 染色、および免疫染色により行なった。その結果、X-Gal 染色では海馬の錐体細胞層や顆粒細胞層等の神経細胞が主に染まっていた。免疫染色では海馬全体、中でも特に上昇層や放射状層等の樹状突起が伸びている領域(Fig.2)、嗅球、および扁桃体の中心核領域が非常に強く染まった。次に強く染まるのは大脳皮質領域、線条体、扁桃体の中心核以外の領域で、その他間脳、中脳、小脳、橋、延髄などは弱く染まった。X-Gal 染色と免疫染色の結果は良く対応していた。これらの結果は、SPAL が海馬や扁桃体、大脳皮質等の高次の記憶と学習を司る領域の神経細胞で盛んに発現し、働いていることを示唆している。一方より基本的な生命活動の維持に関わる脳幹部での発現は低い傾向が見てとれた。SPAL-/-では免疫染色は一切染まらず、免疫染色がSPAL タンパク質特異的であることを示した。更にSPAL のターゲットであるRap1 およびRap2 の発現を免疫染色で調べた。その結果Rap1、Rap2 とも脳全般で発現しているが、中でも海馬は比較的強く染色された。Rap1 は細胞体のみが染まるのに対し、Rap2 は逆に細胞体は染まらず樹状突起や軸索の層のみ染まった。よってPSDにおけるSPAL の主要なターゲットはRap 2 であると推測できる。しかしSPAL は細胞体でも発現しているので細胞体におけるRap1 の制御にも働いていると考えられる。

SPAL ノックアウトマウスの海馬におけるRap1、Rap2 の活性化状態の解析

低分子量G タンパク質は活性型のGTP 型と不活性型のGDP型の間を移り変わる事によりシグナル伝達の制御を行なっている。その変化を制御・促進しているのがGTPase Activating Protein(GAP)とGDP-GTPExchangingFactor(GEF)である。SPAL はRap に対するGAP なのでSPAL ノックアウトマウス(-/-)ではRap の過剰な、あるいは恒常的な活性化が起きている可能性があった。そこでRap1、2 のGTP 型特異的に結合するRalGDS のRap-binding domain(RBD)とGST の融合タンパク質を用いて、マウスの海馬lysate からGSTpulldown を行なった。その結果、SPAL-/-ではRap1のGTP 型が著しく増加している事が明らかになった。一方、Rap2 は+/+と-/-で明確な差は見られなかった(Fig.3)。また脳切片の免疫染色においてはSPAL+/+、-/-との間にRap1、2 の発現分布や染色強度に変化はなかった。以上の結果は少なくともSPAL が海馬におけるRap1 の制御に重要な役割を果している事を示している。一方、海馬におけるSPAL とRap2 の発現分布から、シナプスにおいてSPAL がRap2 の制御に関与していないということはやや考えにくく、むしろRap2 は局所的に刺激依存的なシグナル伝達に働いている可能性が高いため、全体としてみた時には差が見にくい可能性が考えられる。

SPAL ノックアウトマウスの記憶・学習に関する行動実験

SPAL の脳における発現パターンやin vitroの機能解析の知見から、SPAL-/-にはシナプス可塑性、特に海馬や扁桃体の機能に障害が出る可能性が考えられた。そこでまずMorris Water Maze 実験を行なった。初めに海馬非依存的なコントロール課題であるvisible platform 課題を行なったが、+/+と-/-に差は見られず、視覚、運動能力、モチベーションなどに異常はないことが示された。次に海馬依存的な空間学習課題であるhidden platform 課題を行ない、9 日目の最後にplatform を除いてprobe test を行なった。その結果-/-はwild type に比べ全く空間学習をしないかあるいは学習が遅く、海馬の機能に障害があることが示唆された(Fig.4)。さらにCued and Contextual FearConditioning を行なった。Cued Fear Conditioning は扁桃体依存的、Contextual Fear Conditioning は扁桃体および海馬依存的学習課題である。まず一日目にある環境で2 分間慣らした後、30 秒間条件刺激(CS)としてtone を、CS の最後2 秒に無条件刺激(US)として電気ショックを与え、30 秒後回収。24 時間後に同じ環境に5 分間置き、恐怖の指標であるFreezing の割合を測定(Contextual)。さらに2 時間後環境を変化させ2 分間慣らした後3 分間CS を与え続けFreezing の割合を解析した(Cued)。その結果、SPAL-/-全8 匹中5 匹はCued Fear Conditioning においてほとんどFreezing せず(A 群とする)、他の3 匹はwildtype と同等以上のFreezing を示した(B 群とする)。A 群はContextualFearConditioning でもほとんどFreezing せず、B 群もwildtypeと比べFreezingの割合が著しく減少した(Fig.5)。これらの結果はA 群が扁桃体の機能に障害があることを、B 群は扁桃体の機能には大きな異常はないかも知れないが、海馬の機能に障害があることを示唆している。MorrisWater Maze の結果と合わせて考えると、SPAL ノックアウトマウスは海馬の機能に障害があり、一部はさらに扁桃体の機能にも障害があることが推測される。Fear Conditioning の結果のばらつきは、発生あるいは発育上ある確率で起きるばらつきか、バッククロスを進めてないことによる遺伝的背景の多少の違いによって生じるものかも知れない。

まとめ

本研究において私はSPAL と独自のサブファミリーを形成すると考えられる、新規遺伝子SPAL2 とSPAL3 の全長クローニングに成功した。またSPAL、Rap1 およびRap2 の脳内における詳細な発現分布を初めて明らかにした。更にSPAL ノックアウトマウスを作製し、SPAL ノックアウトマウスが正常に出生、発育し、組織学的には異常がない事を示した。しかしながらSPAL ノックアウトマウスはMorrisWaterMaze やContextual Fear Conditioning などの海馬依存的な課題の学習に著しい障害があり、SPAL が海馬依存的な学習において重要な役割を担っている事を初めて個体レベルで明らかにした。更にSPAL ノックアウトマウスの一部は扁桃体依存的な課題のCued Fear Conditioning においても障害があり、SPAL が扁桃体依存的な学習においても重要な役割を担っている事を示唆した。またSPAL ノックアウトマウスは海馬でRap1 のGTP 型が増加しており、SPAL がin vivo でRap1 の制御に重要な役割を果している事を示した。

今後は更にSPAL ノックアウトマウスを用いた電気生理学的実験や刺激依存的なRap シグナル伝達経路とシナプス可塑性との相関関係を明らかにしていく事により、シナプス可塑性、ひいては記憶と学習の分子機構の一端が明らかにされる事が期待される。

SPALファミリーのドメイン構造 とホモロジーSPALはSPAL2、SPAL3に対し、SPA-1に対するよりも高いホモロジーを示している。

海馬におけるSPAL の発現領域

(A)X-Gal染色: spal gene プロモーター依存的に発現するnls-βガラクトシダーゼの染色。アンモン角の錐体細胞層、歯状回の顆粒細胞層が良く染まる。(B)免疫染色:樹状突起層、特にCA1領域の上昇層と放射状層が強く染まる。

SPA KOマウスの海馬におけるRap1、Rap2の活性化状態

MorrisWaterMaze課題におけるSPALKOマウスの成績,*p<0.03,**p<5x10 -5

Cued and Contextual Fear Conditioning課題におけるSPALKOマウスの成績, (*p<0.005, **p<5x10- 4 )

審査要旨 要旨を表示する

低分子量Gタンパク質Rap特異的GTPアーゼ活性化タンパク質SPA-1-Like(SPAL)はSAP90/PSD95ファミリーとの結合タンパク質として同定された1804アミノ酸残基からなるタンパク質であり、GTPase activating protein(GAP)ドメイン、PDZドメイン、及びcoiled-coilドメインを有する。SPALは相対的に脳で大量に発現しており、ラット海馬の分画実験ではシナプトソーム画分に分画され、そのうち大部分はpostsynaptic density(PSD)画分に分画される。ラット脳lysateの免疫沈降法や神経初代培養の免疫染色から、in vivoでSPALはPSD-95、NMDA-Rと複合体をつくっている事がわかっている。またSPALはRasスーパーファミリーの一員であるRap1およびRap2特異的GAPであることが示されている。これらの知見から、SPALがNMDAレセプター活性化に伴うシナプス可塑性やシグナル伝達に関与している可能性が考えられた。そこで、松浦 憲は、SPALの個体レベルでの機能解析を目的として、ノックアウトマウスを作製し、その表現型を解析し、記憶・学習実験などを行なった。

ノックアウトマウスの作製

SPAL KOマウスの作製にはTT2 ES細胞株を用い、SPAL遺伝子の開始コドンから核移行シグナル付きのLacZ遺伝子で置き換える形で相同組換えを起こさせ、凝集法によりキメラマウスを作製した。F1 SPAL+/-の交配により得られたF2世代はメンデルの法則に従って正常に出生、発育し(〜300匹、+/+25%、+/-50%、-/-25%)、本研究の実験は全てF2世代で行なわれた。SPALタンパク質の完全な欠損はウエスタンブロッティングにより確認された。SPAL-/-は見た目上明瞭な表現型はなく、脳の切片を用いたNissl染色、シナプスマーカーのsynaptophysin、樹状突起マーカーのMAP2による免疫染色から脳の基本構成、構造には異常がないことが示された。また全身の組織学的な検査によっても特に異常は見られなかった。

SPAL、Rap1、Rap2の脳内発現部位の同定

SPALの脳における発現部位の同定はX-Gal染色、および免疫染色により行なった。その結果、海馬全体、中でも特に上昇層や放射状層等の神経線維が走っている領域、嗅球、および扁桃体の中心核領域が非常に強く染まった。次に強く染まるのは線状体、大脳皮質領域で、その他間脳、中脳、小脳、橋、延髄などは弱く染まる。小脳では小脳核、顆粒細胞層の小脳糸球体、分子層の神経線維領域が染まった。SPAL-/-では免疫染色は一切染まらなかった。またSPALのターゲットであるRap1およびRap2の発現を免疫染色で調べた。その結果Rap1、2とも脳全般で発現しているが、中でも海馬が比較的強く染色される。Rap1は細胞体のみが染まるのに対し、Rap 2は逆に細胞体は染まらず神経線維層のみ染まる。よってPSDにおけるSPALの主要なターゲットはRap 2であると推測できる。SPALは細胞体でも発現しているので細胞体におけるRap1の制御にも働いていると考えられる。

記憶・学習に関する行動実験

SPALの脳における発現パターンやin vitroの機能解析の知見から、SPAL-/-にはシナプスの可塑性、特に海馬や扁桃体の機能に障害が出る可能性が考えられた。そこでまず海馬依存的な空間学習課題であるMorris Water Maze実験を行なった。初めに海馬非依存的なコントロール課題であるvisible platform課題を行なったが、+/+と-/-に差は見られず、視覚、運動能力、モチベーションなどに異常はないことが示された。次にhidden platform課題を行ない、9日目の最後にplatformを除いてprobe testを行なった。その結果-/-はwild typeに比べ全く空間学習をしないかあるいは学習が遅く、海馬の機能の障害が示唆された。

さらに扁桃体依存的なCued Fear Conditioning、及び海馬依存的なContextual Fear Conditioningを行なった。まず一日目にある環境(Context)で2分間慣らした後、30秒間条件刺激(CS)としてtone(Cue) を、CSの最後2秒で無条件刺激(US)として電気ショックを与え、30秒後に回収した。24時間後に同じContextに5分間.置き、恐怖の指標であるFreezingの割合を測定した。さらに2時間後環境を変化させ2分間慣らした後3分間CSを与え続けFreezingの割合を解析した。その結果、-/-全9匹中5匹はCued Fear ConditioningにおいてほとんどFreezingせず(A群とする)、他の4匹はwild typeと同等以上のFreezingを示した(B群とする)。A群はContextual Fear ConditioningでもほとんどFreezingせず、B群も多くはwild-typeと比べFreezingの割合は著しく減少した。これらの結果はA群が扁桃体の機能に障害があることを、B群は扁桃体の機能には大きな異常はないかも知れないが、海馬の機能に障害があることを示唆している。Morris Water Mazeの結果と合わせて考えると、-/-の多くは海馬の機能に障害があり、一部はさらに扁桃体の機能にも障害があることが推測される。Fear Conditioningの結果のばらつきは、発生あるいは発育上ある確率で起きるばらつきか、Backcross を進めてないことによるgenetic backgroundの多少の違いによって生じるものか、今後の検討を要する。

SPAL KOマウスにおけるRap1、Rap2の活性化状態の解析

低分子量Gタンパク質は活性型のGTP型と不活性型のGDP型の間を移り変わる事によりシグナル伝達の制御を行なっている。その変化を制御・促進しているのがGTPase Activating Protein(GAP)とGDP-GTP Exchanging Factor(GEF)である。SPALはRapに対するGAPなのでSPAL-/-ではRapの過剰な、あるいは恒常的な活性化が起きている可能性がある。そこでRap1、2のGTP型特異的に結合するRalGDSのRap-binding domain(RBD)とGSTの融合タンパク質を用いて、KOマウスの海馬lysateからGST pull-downを行なった。その結果、SPAL-/-ではRap1のGTP型が著しく増加している事が明らかになった。一方、Rap2は+/+と-/-で差は見られなかった。また脳切片の免疫染色においてはSPAL+/+、-/-との間にRap1、2の発現分布や染色強度に変化はなかった。以上の結果は少なくともSPALが海馬におけるRap1の制御に重要な役割を果している事を示している。一方、海馬におけるSPALとRap2の発現分布から、シナプスにおいてSPALがRap2の制御に関与していないということはやや考えにくく、むしろRap2は局所的に刺激依存的なシグナル伝達に働いている可能性が高いため、全体としてみた時には差が見えにくいものと考えられる。

本研究において、松浦 憲は、SPAL、Rap1およびRap2の脳内における詳細な発現分布を初めて明らかにした。更にSPAL KOマウスを作製し-/-が正常に出生、発育し、組織学的には異常がない事を示した。しかしながらSPAL-/-はMorris Water MazeやContextual Fear Conditioningなどの海馬依存的な課題の学習に著しい障害があり、SPALが海馬依存的な学習において重要な役割を担っている事を初めて個体レベルで明らかにした。更にSPAL-/-の一部は扁桃体依存的な課題のCued Fear Conditioningにおいても障害があり、SPALが扁桃体依存的な学習においても重要な役割を担っている事を示唆した。またSPAL-/-は海馬でRap1のGTP型が増加しており、SPALがin vivoでRap1の制御に重要な役割を果している事を明らかにした。

以上のように、本研究はSPALタンパク質の機能の一端を初めて解明し、グルタミン酸シナプスの可塑性の研究に重要な知見を加えたものであり、よって、博士(薬学)の学位に値するものであると判定した。

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