No | 119724 | |
著者(漢字) | ||
著者(英字) | Magdi El-Sayed Khalil Mohamed | |
著者(カナ) | マグディ エレサイド カリル モハメッド | |
標題(和) | ゼロフラックス面概念に基づく土壌中の塩分移動制御に関する研究 | |
標題(洋) | CONTROLLING SALT MOVEMENT THROUGH THE SOIL BASED ON ZERO FLUX PLANE CONCEPT | |
報告番号 | 119724 | |
報告番号 | 甲19724 | |
学位授与日 | 2004.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(農学) | |
学位記番号 | 博農第2808号 | |
研究科 | 農学生命科学研究科 | |
専攻 | 生物・環境工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 土壌、水分移動の解明の自然界および人間生活における重要性は、文明が生じてから人間活動の環境へ与える影響とともに認識されてきた(Hillel, 1971)。不飽和土壌中の水分・溶質移動は特に重要であり、水門学的サイクルや様々な環境因子に関連している。放射性物質の廃棄、殺虫剤、農薬などの汚染物質の移動や、土壌中の塩分移動は、世界中で深刻な問題を引き起こしている。化学汚染物質に関する研究は、世界的に最重要な課題である。本研究では、特に土壌の塩類化問題に着目した。土壌中の水分移動、そして特に溶質移動を解明し、現場の問題に適用する際に、近年有力視されている技術として、ゼロフラックス面法(ZFP法; Zero Flux Plane method)がある。 この研究の目的は、ZFPの概念を解析し、現在及び将来におけるこの技術の適用方法を検証および提案することである。そのために、実験および数値計算でZFPの挙動を詳細に観察および分析し、また周期的灌漑がZFPの挙動にああ得る影響を調べ、その結果をもとにZFPの概念を用いて塩類集積を制御する方法を提案した。 第1に、塩類化の種類について分析し、塩類化には乾燥地における塩類化、都市における塩類化、河川における塩類化、灌漑における塩類化、工業における塩類化があることを明らかにした。その上で、塩類化問題の水質、公共施設、都市住宅、農業、生物多様性に与える影響を議論した。そして、ZFP法に関する文献を詳細にレビューした。 第2に、ZFPの挙動を調べるためのカラム実験および数値計算を行った。実験は3種類行い、それぞれを数値計算でシミュレートした。実験1は、蒸発速度を決定するために行った。実験2は、塩類濃度が低いときの上方向水分移動について分析した。実験3では、塩類化が進行している土に塩分濃度が高い水を与えたときの現象を解明した。実験2と実験3は、フィールドにおける塩類化問題をシミュレートしたものである。 最後に、ZFP法による土壌中の塩分移動制御を行った。土壌表面における塩分集積を制御するためのモデル実験を何種類か行った。その結果を、ZFP法を用いて分析した。その結果、ZFP法により塩分集積を制御できることが示唆された。 | |
審査要旨 | 世界の乾燥地、半乾燥地における土壌では、塩類集積問題を解決することが重要であり、そのために土壌中の水分と塩分の移動を制御することは、特に強く求められている事項である。エジプトのナイル川中流域および下流域でも、地表面への塩類集積が広がっており、抜本的な解決が迫られている。本論文は、土壌表面近傍に分布する塩類が土壌水分の蒸発に伴って地表面に集積することを防ぐために、ゼロフラックス面制御法という世界で初めての手法を適用することを着想し、モデル実験とシミュレーションによってその可能性と効果、および限界などを明らかにすることを目的とした。 第1章の序論では、塩類集積問題が、農地だけでなく、道路などの構造物や、古代遺跡の劣化などにも共通の問題であることを述べた。 第2章の文献レビューでは、ゼロフラックス面の定義、特性、測定法、水収支や水文学的な計算への利活用法、などについて記述した全ての論文を包括的に分析し、今日までゼロフラックス面の挙動そのものを詳細に解析した研究例が存在しないこと、また、ゼロフラックス面移動の制御を試みた研究例も存在しないことを述べた。さらに、ゼロフラックス面の特性に鑑みて、その制御が土壌中の塩分移動や塩類集積の防止に寄与できる可能性が大きいことを示唆した。 第3章では、実験手法とシミュレーション手法を述べた。実験手法においては、鳥取砂丘砂と火山灰土とを用い、それぞれの保水性、透水性などの物性値を事前に求めたこと、ゼロフラックス面の測定のためにカラム実験を主体としたこと、などを述べた。シミュレーション手法においては、アメリカ農務省(USDA)のサリニティーラボで開発し、現在世界中で試験的に研究者が使用している、開発途上のソフトウエアーHYDRUS-2Dを適用したことを述べた。 第4章では、塩分の影響を受けない場合の水分移動に関する各実験結果と、それぞれに対応するシミュレーション結果とを述べた。前半で、カラム実験とシミュレーションが現有の測定方式とシミュレーション手法で十分に機能することを確かめ、後半では、乾燥地や半乾燥地の農業地帯で広く行われている間断潅漑を想定し、一定間隔で繰り返し表面からの水分供給を行った場合のゼロフラックス面を追究した。この中で、ゼロフラックス面は給水直後に地表面から下降し始め、約3日後には、深さ30cm付近で突然ゼロフラックス面が消滅するという特異な現象を発見した。 第5章では、蒸発条件下での水分移動と塩分移動について、実験的な確認を行った。すなわち、初期条件として、土壌中の塩分がカラム全層に分布する場合と下層土のみに集積している場合を設定し、境界条件として土壌下面からの地下水補給がある場合を設定した。この結果、地表面5cm以内に極めて高度に塩分が集積することを認め、従来からの知見を再確認した。 第6章では、地下水補給がなく、地表面からの灌漑水補給のみで生ずる塩類集積現象を、実験とシミュレーションで調べた。初期条件として、下層10cmにのみ塩分が集積する場合を設定し、「ゼロフラックス面が降下して塩分集積層に到達すると、本分の上昇移動によって表面塩類集積が進行する」という仮説を検証した。その結果、ゼロフラックス面が塩類集積層に到達する前にゼロフラックス面が消滅してしまえば塩類集積がほとんど起きないこと、また、ゼロフラックス面が塩類集積層に達する場合には、塩類が徐々に上昇することを認め、仮説の一部が検証された。 第7章では、土壌の種類が異なる場合についてのゼロフラックス面移動のシミュレーションを行った。選択した土壌は、砂、ローム質砂土、砂質ローム、砂質粘土の4種類である。それぞれ物性入力値を変えてシミュレーションを行った所、ゼロフラックス面が塩類集積層に到達して塩分を上昇させる危険について、砂質粘土において危険性が大きいこと、またそれを予測することによって、灌漑間隔を制御すれば塩類の上昇を防ぐことが可能であることなどを示唆した。 第8章は、以上を総括し、(1)本研究が世界で初めてゼロフラックス面の挙動を実験的に捉えることに成功したこと、(2)シミュレーションでゼロフラックス面の動きを解析し、予測することを可能にさせたこと、(3)ごの手法が乾燥地、半乾燥地の塩類集積制御に有用なだけでなく、塩類集積によって問題が起きている遺跡保存問題などにも応用可能であること、などの結論を得た。 以上、本論文はこれまで曖昧にしか把握されていなかった土壌中のゼロフラックス面について、明確な実態を捉え、詳細かつ多量の実験を行うと共に、それぞれに対応した数値シミュレーションを成功させたものであり、学術上、応用上貢献するところが少なくない。よって、審査委員一同は、本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。 | |
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