学位論文要旨



No 119766
著者(漢字)
著者(英字) Moroni,Cesar Andres
著者(カナ) モローニ,セーサル アンドレース
標題(和) 東京の繁華街におけるファサードに関する形態学的研究
標題(洋) A Morphological Study on Street Facades in Shopping-Entertainment Districts of Tokyo
報告番号 119766
報告番号 甲19766
学位授与日 2004.12.17
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第5930号
研究科 工学系研究科
専攻 建築学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 岸田,省吾
 東京大学 教授 伊藤,毅
 東京大学 教授 大野,秀敏
 東京大学 助教授 千葉,学
 東京大学 助教授 曲渕,英邦
内容要旨 要旨を表示する

1.前置きと目的

この研究は現代建築における二次元的知覚作用に集中した、私の東京大学での修士論文「現代建築におけるサーフェスの役割に関する研究」に基づいています。どちらの研究も共通的に「建築覆い」に関心を向けています。この題材に東京を興味深い調査対象とする理由が複数あります:

a.我々は東京に特別な関心を持っています:多数の主要都市では消費者が郊外の大型ショッピングセンターへ流れるため商業地域が低迷化の被害を受けています。東京ではいくつかの商業地域を一種の屋外公共ショッピングセンターと考えることができ、駅の出入り口を「主要玄関」、建物の正面を「屋内」の仕切りと見立てることができる。こうすれば(少なくとも社会、経済的な面では)「アメリカ風」ショッピングセンターと比較することができる。ショッピングセンターが真に町の断片とされるように、ひとつの建築物としての概念に基づいていないにしても、商店の並ぶ街道を一つの建造物と見立てる。

b.我々は都市構造に挿入された、これだけ密集した「真」の商業重視建築物に特別な関心を持っています。場合によっては建物の正面、ほぼ全体が商業、公共目的で使用されている。この研究で紹介する主に不特定な建築物の多数には、「まとも」な建築物の特徴とされる、全体的な調和と想像力に欠けています。しかし、実際にこれらが完全に「本物」であるため、魅惑的に思える。形に偽りが無く、目に見えないところで複数の要素にあわせて設計された、必要性重視の解決策である。

.目的:

I.日本の主要都市にある街道の特性を定義する。「独特性」の判断に役立つ可変的共通性を見つける。

II.もっと広範囲の目的として、特定の方法を起用し、建築物と町の狭間にある研究対象を調査する。

.研究の実用性:

研究対象の特徴と独特性を判断することにより、この論文は日本の文化に携わる幅広い現象を理解することの一因となるのが目的です。

2.方法論

.この章では分析方法の採用へつながる手順を考慮し、分析方法自体を公開します。

.知覚一般論から応用された発想の使用を挙げる(形態心理学と現象学として)。

.分析方法の基本的発想は、分析を行いながら可変要素を定義する、一般的な根元から調査する誘起手順です。この手順では特定された見本の分析から一般的な発想の定義を行う。

.形態学的分析の後、基本的に外面要素の大きさ、形、色で正式な関連を判断する。図表を用い観察結果をグラフ形式で見せる。

.分析は3段階で行われる:

6章)個々の建築物正面の分析。

7章)グループの建築物正面の分析。

8章)街道全体の分析。

.研究は下記の経験と資料を使用します:

I.街道をじかに観察する。

II.いくつかの角度や距離から撮った複数の写真による街道の外面記録。

III.街道全体の立面図。

IV.文章内容を表す複数の図形の制作。

3.東京の概略。

日本と外国の主に名高い著者による、日本の都市、特に東京に関する研究や見解を紹介します:

I.簡単な江戸、東京の歴史上の進化を参照。

II.研究の最終対象となる日本の都市の街道を選ぶに当たって特別な場所、「盛り場」の発想を紹介。

III.日本の街の「地域」と「道」の発想の関係。

IV.都市の景観。

4.他国の主要都市の歓楽街にある街道の観察と分析。

この章では、東京の分析に用いられた定義の手順で他主要都市13箇所の街道を分析。分析は3段階に分けず、各街道の顕著な特性を総合的にまとめて一つの分析を行う。日本の場合はいくつかのパラメーターを定める。

5.東京の街道を選ぶ。

最初は基本的な基準に基づき、知名度のある場所で明らかな違いの有る街道を東京にある歓楽街18箇所に位置する27の街道を選ぶ。

もっと明確な基準に基づき五つの街道を選ぶ:調査の核である6章、7章、8章の分析はこの五つの街道を対象に行われる。

五つの街道を選ぶための特定基準は五つの可変要素で決まる:

ア.下町と山手地域。

イ.計画的に作られた街道と非計画的に作られた街道。

ウ.地元特産品店とブランド品店のある街道。

エ.「日本」と「西洋」のイメージ。

オ.街道上での位置(道幅と建物の正面の高さの関係)。

6.個々の正面の分析。

この時点では、五つの街道の正面を環境から切り離して分析します。

この時点での分析は建物の正面の設計や構造と似ているとも言える、基本的に外部との関わりが無い。個々の正面は写真から切り取られ、白い背景に置く。

部分的な結論として、主流の正面種類を選ぶ。

7.グループの正面の分析。

中級分析は主に建築物の小さなグループで示される。「個々段階」同様、正面の数は限られているため、この段階で可能な「グループ」の数は無限にある。分析は複数の正面が写っている写真で行われる。最初の段階では建築物を立てた論理を映し出し、次の段階は実際の見た目に近く、一見、建築物の境がはっきりしていない。

部分的な結論として、主流の正面グループの種類(個々の正面の関係)を選ぶ。

8.街道全体の分析。

この段階では7章同様、外面同士の関係を追及する。しかし、分析は街道全体を認識することで始まる。「個々の正面」段階の「一軒ずつ」とは正反対の取りかかりかたです。街道正面には立面図が用いられます。

9.段階の分析関係と他市の場合との比較。

この章は下記の組み合わせであるため、準結論の特徴があります:

.三つの段階(6章、7章、8章の)の部分的な結果の分析と4章。

.三つの段階(6章、7章、8章の)の分析の関係。

.東京の場合と他国都市の場合の関係(4章)

総合化の手順を用いて「世界」の街道の観察と分析のため、五つのグループを参考として定めた。

A.建築物正面の統一性の多さ。

B.個性と統一性。

C.個性的な建築物正面の多さ。

D.交差要素の多さ。

E.交差要素と隙間の多さ。

東京の場合へ帰り、他市を参考にすると、各分析レベルで見えてくることは:

.第一段階:

建物の正面はそれぞれの個性が強いために異なると言うより、根本的に構成が異なる。この様な異種建築物が街道沿いに配置されていることに計画性はまったく見られない。

.第二段階:

建造物の正面がどのように関わりあうかを数通り見ることができた:

ア.正面がいくつかの固体に分かれていた。

イ.複数の正面が見た目では一つの実体かグループに見える。

ウ.複数の部分か正面は一つの実体を作り上げる。

.(『世界の街道』には)上記にあるグループA、B、Cが結合したものがある。

.建築物正面のグループには一定の関係はない。常に複数のつながりや下位区分の関係ができている。

.第三段階:

東京の場合は二つのシステムが重なっている。

a)街道は地域に分かれて、長さが不特定である。

b)地域が重なる。

10.結論

我々は街道の垂直面を複数のつながりや下位区分によって偶然設定された配置と定義する。三つの段階の分析(6章、7章、8章)および、三つの段階と他市の場合を説明する9章で確認されている。

正面を建物全体に関わる面積と考えれば(色々な面で関わることができる)、この街道に面している建物には正面がないと言える。これは建物の正面に対して決まったつながりや正面が隣の建築物とつながった建物がないと想定してのことである。建物は可変に対して常に関わりを変えて行く垂直面で覆われている。

街道には複数の種類の正面がある。功利的論理に基づいて造られても、偶然でしかできないと見られる形を作り出す現象が起こる。我々が気付いた主要な結果は個々の正面が複合してもたらすことだった;この複合の結果で個々の正面の見た目が別のものに対して変化する。

分析の三段階に基付き、都市の建築物の知覚は三つに分かれていないことは明白だが、それを総合する目的で我々は下記の点を通し、歓楽街の特徴を注視する。

I.見た目では建造物の正面とその「裏の建物」には関連はない。

II.さまざまな大きさ。

III.交差要素と縦の要素の両方がある。

IV.視覚を迷わす。

V.構造感覚に欠けている。

VI.偽りの浸透性。

審査要旨 要旨を表示する

 この論文は、建築のデザイン要素としてのサーフェス-建築の外皮に着目し、東京の繁華街の街路を構成する建築と街路全体のデザインの特徴を解明しようとする研究である。

 論文は10の章から構成される。

 第1章では研究の概要と背景、目的、対象などを述べている。建築のサーフェスは、二次元的な現象を重視した日本の現代建築デザインを理解する上で重要な特徴であること、東京の繁華街の街路が建築の集合体として一つの公共的な商業施設的な場と化していることなどを述べた上で、本研究の目的として、1.日本の繁華街のデザインを規定する共通性と特異性を理解する、2.建築と都市の中間的な街路デザインの研究方法を提案すること、の二点をあげる。

 第2章では、理論的な背景と分析方法を説明している。また、関連の深い都市景観や東京に都市的形態関する既往研究を紹介、本研究の位置付けを行っている。分析方法として、個別の建築のスケール、幾つかの建築が複合したスケール、街路全体のスケールの三段階で、街路面を作る建物の正面の形態分析を行ない、ダイアグラム形式で示すことなどが示される。注目する形態要素は、正面の輪郭の大きさ、形態、色彩、サインなど二次的な要素の形式などである。

 第3章では、東京の歴史的展開、「盛り場」の概念、街路と地域との関係などを概観する。

 第4章では、東京と比較するため、海外の大都市にある典型的な繁華街の13の事例をとりあげ、それぞれの形態的な特徴を分析する。分析の手順は、参考例として簡略化している。

 第5章では、分析対象を選択する。選択は二つの段階で行なう。第一段階では、相互に違いの顕著な東京の繁華街18箇所から27の街路を選択し、その中から第二段階として、実際の分析調査を行なう5つの街路を選択する。選択基準は、1.下町と山の手、2.街路の計画性と非計画性、3.地元商店街とブランド品店など商店特性、4.日本的と西欧的、5.街路幅と高さの関係の5項目である。

 第6章では、分析対象街路のそれぞれの建物について建築単体スケールでの分析を行なっている。結果として、建物のファサードには、1.下への方向性/上への方向性、2.垂直的な線の並び/水平的な線の並び、3.要素の配置が分散的/統合的、4.表面が視覚的に非浸透的/浸透的、5.ファサードに交差する面のはり出し/ファサードに平行な面の付着、という五つの対立的な特徴が混在していることが明らかにされる。

 第7章では、幾つかの建築が複合したスケールでの分析を行なう。結果として、複数のファサードが独立して見えるパターン、連続的なまとまりをつくるパターン、ファサードの形態を構成するより二次的な形態要素が独立的に散在するパターン、それらが建物を越えまとまりをつくるパターンが混在することが明らかにされる。

 第8章では、街路全体のスケールでの分析を行なう。結果として、東京の繁華街のファサードには、二つの対照的なパターン-幾つかの合い異なる区域の併置と重層-が混成されていることが明らかにされる。

 第9章では、4章で見た海外の繁華街の事例分析と比較し東京のそれが他に例を見ない形態的特質を備えていることを確認するとともに、上記3章で行なった分析結果に共通する特徴を考察している。具体的には、ファサードの特徴として、1.強い二次元性、2.平面の操作によるデザイン、3.ランダムネス、4.スケールの増大と反比例する秩序化のシステムの強度、の四点を抽出する。デザインの操作として、平面の分割、重層、切りかき、交差面の付加、複数面の併存などの特徴があることを明らかにする。

 第10章では、上記分析とまとめを踏まえ、東京の繁華街のファサードデザインの形態論的特徴として、次のような5点を示している。

1.ファサードと背後の建築の希薄な関係

2.多様なスケールの混在

3.街路を横断する方向の要素と街路の軸方向に伸びる要素の二重性

4.不明瞭な透視図的視覚

5.構築性の欠如

6.奥行き方向への視覚的浸透性

 以上のように、この論文は、東京の繁華街の街路を構成する建築のファサードにおいて、その立地特性の違いを越え共通するサフェースとしての形態的な特徴を明らかにし、それが海外の参考事例と比較し独自なものであることを実証した。また、建築的スケールで用いられてきた形態論的な分析手法が、より大きなスケールの公共的な場の形態的特性の把握にも利用可能であることを示した。

 このように、本論文は、日本の都市的な環境に見られる形態的特性を広い文脈の中で相対化し理解することを可能とし、建築・環境デザインの手法を豊富化するための基礎的知見を示すとともに、建築デザインの特徴を理解するための分析方法の適用可能性を拡大するものとして、建築設計学の展開に寄与した。

 よって本論文は博士(工学)の学位論文として合格と認められる。

UTokyo Repositoryリンク