学位論文要旨



No 120362
著者(漢字) 平田,康隆
著者(英字)
著者(カナ) ヒラタ,ヤスタカ
標題(和) 心筋梗塞に対する臍帯血CD34陽性細胞移植による血管新生と心機能回復の検討
標題(洋) Human umbilical cord derived CD34+cells enhance neovascularization and improve cardiac function after myocardial infarction
報告番号 120362
報告番号 甲20362
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(医学)
学位記番号 博医第2511号
研究科 医学系研究科
専攻 外科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 矢作,直樹
 東京大学 助教授 平田,恭信
 東京大学 助教授 村上,新
 東京大学 講師 賀藤,均
 東京大学 講師 折井,亮
内容要旨 要旨を表示する

要旨

研究の背景

臍帯血には多くの未熟・幼若細胞が含まれることが知られており、現在、骨髄移植の代替としての幹細胞移植などで利用されている。さらに、臍帯は、従来ならば廃棄されていたものであり、患者に苦痛を与えず採取できるという利点がある。

今回、我々は、ヒト臍帯血のCD34陽性細胞を心筋梗塞モデルのラットの心臓に筋注することで心機能改善効果が得られるかどうかを検討した。

方法

臍帯血の採取・CD34陽性細胞の分離:臍帯血は、母親から同意書を得た後東京都赤十字血液センター臍帯血バンクにおいて採取された研究用臍帯血用いた。一人由来の臍帯血から単核球を分離し、次いでCD34に対するモノクローナル抗体のついたマイクロビーズを用いて、CD34陽性細胞を分離した。

動物実験:実験にはウィスターラット(♂、270-320g)を用いた。免疫抑制としてFK506(tacrolimus) 0.3mg/kg/dayの腹腔内注射を手術前6時間、手術直後、その後毎日施行した。麻酔、人工呼吸下に左開胸を行い、左前下行枝を7-0silkにて結紮して心筋梗塞を作成した。30分後に2x105個のCD34陽性細胞を含む細胞浮遊液を虚血領域へ注入。コントロール群には、細胞を除いた培養液のみを注入した。

心機能の評価:心機能の評価法としては、1)心エコーによる評価、2)コンダクタンスカテーテルによるEmaxによる心機能評価を施行した。心エコーは術前、および4週間後、コンダクタンスカテーテルによる心機能評価は4週間後のエコー施行後におこなった。

組織学的検査:心機能評価後、致死量の麻酔の後ラットを偽性死させ、心臓を摘出。OCTコンパウンドに包埋し、凍結した。凍結切片をヒトCD34, CD45, PECAM-1に対する抗体を用いて免疫染色し、臍帯血由来細胞の存在を確認した。また、ラットCD31に対する抗体による免疫染色により、心筋虚血領域の毛細血管密度の測定を行った。

結果

心エコーによる左室駆出率は細胞注入群で有意に高く、(31±2% vs 24±2%, P<0.05)心拡大も抑制されていた(7.3±0.3 mm versus 8.5±0.4 mm, P<0.05)(Figure 1)。また、コンダクタンスカテーテルによる測定でも細胞注入群のEmaxは有意に高いことが示された(778±36 mmHg/ml vs 610±20 mmHg/ml, P<0.01)。

組織学的検査では、虚血領域において有意に細胞注入群の方が毛細血管密度が高かった(Figure2)。またヒトCD34, CD45, PECAM-1に対する抗体を用いて免疫染色では、臍帯血由来細胞が確認され、一部は血管組織にとりこまれていた。(Figure 3)。

細胞数の計測では、CD34陽性、CD45陽性、PECAM-1陽性細胞はそれぞれ当初注入した細胞と比較して220%、330%、140%存在した。ただし、このうち血管に取り込まれていると考えられるものは約1%であった(Table 1)。

考察と結語

我々は臍帯血由来のCD34陽性細胞移植によって心筋梗塞後の血管新生の増強と心機能の回復が認められることを示した。また、ヒト由来の臍帯血由来細胞がヌードラットではなく、正常ラットの免疫抑制モデルにおいても生存可能であるということが認められた。ヒト由来の細胞がラットの心筋内で生存できることの説明としては、二つの可能性が考えられる。まず、1)臍帯血由来細胞が未熟であるために、免疫反応における抗原抗体反応のターゲットになりにくいということ、そして、2)ドナー/ホストの細胞が混合された組織になっていることで、ホスト側からの免疫反応を逃れやすいということが考えられた。

注入した臍帯血細胞は、その99%が血管外に存在しており、ラットの血管と共存しているものは約1%であった。このことにより、臍帯血由来CD34陽性細胞は血管内皮前駆細胞というよりはむしろ造血幹細胞として働き血管増殖因子等を放出することで血管増生に寄与すると示唆された。

臍帯血CD34陽性細胞による血管新生は、いまだ倫理的問題を抱える胎児、新生児の心筋細胞移植、あるいはES細胞由来の心筋細胞移植と比べて臨床応用に優れている可能性がある。同種移植に伴う問題については、すでに骨髄移植に対して臍帯血バンクが確立されており、HLAマッチングによって解決がはかれるかもしれない。

これらの結果から、臍帯血CD34陽性細胞による細胞治療は、心筋梗塞に対して有用である可能性があると考えられた。

Figure 1

心エコーによる心筋梗塞後4週間における左室内径短縮率(%FS)と、左室拡張期内径(Dd)

Figure 2

心筋梗塞周囲の虚血領域における毛細血管密度の比較

Figure 3

ヒトCD34,CD45,PECAM-1抗体(緑)およびα-smooth muscle actin(赤)による免疫二重染色

Table 1

心筋内における注入された細胞の存在数

(上段:全細胞数、下段:血管内取り込みの認められたもの)

審査要旨 要旨を表示する

本研究は多くの未熟・幼若細胞が含まれることが知られているヒト臍帯血による再生医療を試みたものであり、ヒト臍帯血由来CD34陽性細胞注入による心筋梗塞後の心機能改善に関する検討を行い、下記の結果を得ている。

1. 心筋梗塞モデルラットにおいて、2x105個のヒト臍帯血由来CD34陽性細胞を含む細胞浮遊液を虚血領域へ注入。心エコーによる左室駆出率は細胞注入群で有意に高く、(31±2% vs 24±2%, P<0.05)心拡大も抑制されていた(7.3±0.3 mm versus 8.5±0.4 mm, P<0.05)。また、コンダクタンスカテーテルによる測定でも細胞注入群のEmaxは有意に高いことが示された(778±36 mmHg/ml vs 610±20 mmHg/ml, P<0.01)。

2. 組織学的検査では、虚血領域において有意に細胞注入群の方が毛細血管密度が高かった。またヒトCD34, CD45, PECAM-1に対する抗体を用いて免疫染色では、臍帯血由来細胞が確認され、一部は血管組織にとりこまれていた。

3. 細胞数の計測では、CD34陽性、CD45陽性、PECAM-1陽性細胞はそれぞれ当初注入した細胞と比較して220%、330%、140%存在した。ただし、このうち血管に取り込まれていると考えられるものは約1%であった。

以上、本論文はヒト臍帯血由来CD34陽性細胞の注入により心筋梗塞における心機能改善の効果が認められることを示した。本研究は、ヒト臍帯血由来細胞による再生医療の新しい応用範囲を示し、今後の循環器疾患の治療に重要な貢献をなすと考えられ、学位の授与に値するものと考えられる。

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