学位論文要旨



No 120410
著者(漢字) 熊谷,直哉
著者(英字)
著者(カナ) クマガイ,ナオヤ
標題(和) 効率的炭素炭素結合形成反応に関する研究
標題(洋) Research Towards Efficient C-C Bond-Forming Process
報告番号 120410
報告番号 甲20410
学位授与日 2005.03.24
学位種別 課程博士
学位種類 博士(薬学)
学位記番号 博薬第1109号
研究科 薬学系研究科
専攻 分子薬学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 柴崎,正勝
 東京大学 教授 小林,修
 東京大学 教授 福山,透
 東京大学 助教授 金井,求
 東京大学 助教授 菅,敏幸
内容要旨 要旨を表示する

 有機分子は、自然選択された原子部品である炭素の炭素炭素結合の適度なエンタルピー的安定性、4つの原子価により多種多様な3次元構造を呈する、自然界における分子輪廻の中心にある一大分子群であり、その論理的創造の方法論を提示するのが有機合成化学の使命である。炭素炭素結合の形成と同時にキラリティーを含む立体化学制御を行う、触媒的不斉炭素炭素結合形成反応は、有機分子の炭素フレームワークを構築する上で、最も単純かつ強力な方法となる。一般に、高いエナンチオ選択性を発現する触媒的不斉 C-C 結合形成反応は、反応を官能基選択的かつエナンチオ選択的に進行させるために、あらかじめ活性化した反応剤を用いる例が多く、そのために安価に手に入る原料を当量以上の試薬を用いてあらかじめ活性化する必要があり、必然的に廃棄物を生み、プロセスの効率性の観点から不満が残る。そこで私は、特異的活性可能をもつ触媒系を構築し、安定で安価に手に入る原料を直接に反応系中で活性化し、官能基選択的かつエナンチオ選択的に進行させる反応に注目し、研究を展開してきた。

 私は本学修士課程において、このような反応形式に対応する反応として、ここに示す Zn/linked-BINOL 2 錯体を触媒として用いて、求電子剤としてアルデヒドもしくはエノン、求核剤としてケトンを直接に用いる触媒的不斉ダイレクトアルドール反応、マイケル反応の研究を行ってきた。本反応はわずかな触媒量できわめて立体選択的に進行し、高い収率で生成物を与える。これらの反応の研究において、本触媒系はヒドロキシケトンの選択的活性化および Si 面の遮蔽効果に非常に有効な触媒であることがわかった。そこで、更なる展開として、本触媒系を求電子剤としてジフェニルフォスフィノイルイミン、DPPイミン3を用いる触媒的不斉ダイレクトマンニッヒ型反応に適用した。Scheme 1 に示すように、わずか0.02から1 mol %の触媒量で反応は円滑に進行し、芳香族イミンではほぼ完全な立体選択性でアンチ選択的に生成物4を与えた。4はサイクリックカーボネートに変換、DPP 基の酸加水分解後、バイヤービリガー反応で、有用なキラルビルディングブロックになりうる、β-アミノ-α-ヒドロキシカルボン酸誘導体5に収率よく変換できた。しかしながら本反応形式は確かにケトンを活性化せずに直接に触媒的不斉反応に用いることができるが、得られた生成物を合成化学的に有用な化合物に変換するのにオルトメトキシフェノールが不要な廃棄物としてついて回り、生成物の有効利用まで視野を広げると効率が良いとは必ずしも言えなくなる。

 そこで私は、生成物の有効利用も鑑みて、単純アルキルニトリルをそのまま求核剤として触媒的不斉反応に適用することに着目した(Scheme 2)。アルキルニトリルは簡単に手に入る安定で取り扱いやすい化合物であり、生成物であるβ-ヒドロキシニトリル6のニトリル基は廃棄物を出すことなく容易に対応するカルボン酸、エステル、アルデヒド、アミド、アミンへと変換可能で、有用な不斉2炭素増炭反応となり得る。

 本反応実現のためにはカルボニル化合物存在下アルキルニトリルのみを官能基選択的に、求核的に活性化する必要がある。これまでにニトリル類を求核剤として用いる触媒反応の例は、主にβ-シアノカルボニル化合物およびα-アリールニトリル類に限られていた。これはアルキルニトリルのα-水素の低い酸性度(pKa〜31.3)に由来しており、非常に強い塩基性条件が必要なである事に起因する。最近になって触媒的な反応が報告されるようになり、リンをベースとした強塩基触媒 (pKa〜34 in CH3CN) を 20 mol %用いるアセトニトリルのアルデヒドおよびケトンへの付加反応、および、リン配位子存在下 10 mol %のCuOtBu (pKa 〜32.2 in DMSO) を用いるアルキルニトリルのアルデヒドへの付加反応が知られていた。しかしながら、これらの反応条件は依然として非常に強い塩基性条件を用いており、一般性の高い反応条件とは言えず、基質適用範囲に大きな制限を与えていた。

 そこで私は、本反応を様々な求電子剤に適用できるよう、アミン塩基程度のマイルドな塩基性条件で進行する反応条件を開発することとした。ニトリルのソフトなルイス塩基性に着目し、ソフトなルイス酸を用いることで、カルボニル化合物存在下ニトリルのみを選択的に活性化し、α-水素の酸性度を低下させてアミン塩基程度の弱塩基で脱プロトン化を起こし、反応が触媒的に進行するという作業仮説のもと、研究を開始した。

 ベンズアルデヒドとアセトニトリルとの反応をモデル反応として、アミン塩基として DBU を2当量用い、種々のソフトなルイス酸を検討した。その結果、Table 1 に示すようにカチオニックなルイス酸存在下において、わずかながら反応が進行することを見いだし、中でも Cp ルテニウム錯体が23%収率で生成物を与えた。さらに、モノフォスフィン錯体8を用いることで収率は向上し、ルテニウムに関しては触媒的に反応が進行した。HMPA,MS4A を添加して、50℃ で反応を行うことでさらに収率は向上したが、DBU の量を5 mol%にまで低下させると、約 50% コンバージョンの所で反応の進行が停止する傾向を示した。さらに、entry 10 に示すように 10 mol %の NaPF6 を用いるとそれぞれ5 mol %の Ru 錯体、 DBU で反応が円滑に進行することを見いだし、93%収率で生成物が得られた。Entry11 12に示すように、本反応は Ru もしくは DBU 非存在下では全く進行せず、Ru,DBU,Na の三成分全てを必要とした。

 最適反応条件を種々のアルデヒドに適用した結果をここに示す。10 mol %の NaPF6存在下、2.5 から5 mol %の Ru 錯体及び2.5-10 mol %の DBU を用いることで、電子求引基、供与基をもつ芳香族アルデヒドおよび脂肪族アルデヒドへのアセトニトリルの触媒的付加反応は円滑に進行し、強塩基条件で危惧されるエステルの加水分解も全く進行しなかった。さらに、本反応系はイミンへの付加反応にも適用可能で、対応するβ-アミノニトリルを高い収率で与えた。

 本反応系は、通常溶媒として用いられる程安定なアルキルニトリルのα-水素を触媒的かつ官能基選択的に求核的活性化することを可能とする。その特異な反応性のキーとなる Ru 錯体、DBU,Na の catalytic triad の役割を明らかにすべく、詳細なメカニズム解析を行い Scheme 3 に示すようなメカニズムが提起された。この Ru 錯体8は DBU 錯体14とは平衡にあるが、アセトニトリル中では、元の Ru 錯体8の方に平衡は偏っている。まず Ru に配位しているアセトニトリルの活性化されたα-水素が DBU によって脱プロトン化されて、求核的に活性化されたアセトニトリルをもつ Ru 錯体11を生じる。NMR 実験より、アルデヒドは Ru に配位しないと考えられるので、配位圏外から接近してきたアルデヒドに対して付加反応を起こし、Ru アルコキシド12を生じる。本反応を重アセトニトリル中で行ったときの速度同位体効果が5.6であり、かつ、本反応はアルデヒド濃度に対して0次の依存性を示すことから、脱プロトン化過程が律速段階だと考えられる。ここで、NaPF6 非存在下においては、DBUH・PF6 塩とプロトン交換を起こし、このとき Ru-DBU 錯体14が生成する[ii]。このルートがあるため、Na 塩非存在下においては DBU 錯体14の割合が増加し、また、この DBU 錯体14は若干不安定であり、フォスフィンオキシドを生成しながら分解していくのが観測されるため、反応の後半において著しい反応速度の低下を起こすと考えられる。一方、Na 塩存在下においては、hard-hard 相互作用により Ru アルコキシド12がナトリウムアルコキシド13に速やかに変換され[i]、もとの Ru アセトニトリル錯体8に戻り、生じた Na アルコキシド13は DBUH・PF6塩とプロトン交換を経て生成物を与えつつ DBU が再生される。この反応機構において、Ru によるニトリルの選択的活性化、DBU による選択的脱プロトン化、Na によるカチオン交換がタイムリーに働き、不安定な Ru-DBU 錯体の生成が効果的に抑制されて触媒量の Ru,DBUで円滑に反応が進行していると考えられる。次に、本反応系を容易にエノール化、自己縮合してしまうアルデヒドに適用した。まず、ヘプタナールを同様の溶媒系、温度においてDBUのみの反応条件に附すと、全く自己縮合が起こらないことから、DBU そのものの塩基性は問題がないことがわかる。しかしながら、実際の反応条件を適用すると、生成物が33%収率で得られるものの、自己縮合が進行し反応系は非常に複雑になった。これは、RuアルコキシドからのNaによるカチオン交換の際に Na アルコキシドが生成し、これが非選択的な脱プロトン化を促進して自己縮合の原因になっていると予想した。Table 4に反応を Na 塩非存在下で行った結果を示す。Na によるカチオン交換機構がないので触媒量は多くなるが、エノール化しやすいこれらのアルデヒドとの反応において、ジフォスフィン錯体15を用いて、ニトリルのみを官能基選択的に求核的に活性化して、目的生成物を中程度の収率で得ることに成功した。今後、塩基性の低いアルコキシドを生成するカチオンとのカチオン交換により、触媒量の低減化が可能になると予測できる。

 さらに私は、これまでのニトリルの反応開発の際に検討していたキラルな DBU 誘導体の合成研究において、不斉官能某化2環性アミジン類の新規合成反応を見いだした。不斉化されたグアニジン類の合成及び不斉反応への利用は数多く報告されているにも関わらず、不斉2環性アミジンに関する報告は非常に限られたものだった。2環性アミジンはグアニジンに並ぶ有機強塩基触媒であり、そのリジッドな骨格、グアニジンにはあまりみられない求核触媒的性質等、不斉触媒としてのポテンシャルを多いに秘めた化合物で、その不斉化及び官能基化した誘導体の一般的合成法の確率は非常に意味のあるものである。

 今まで、2環性アミジン類の合成は主にこのようなアジドアルキルまたはシアノアルキル基を持つラクタム類を出発原料とし、水素化、続くルイス酸存在化の高温での縮合反応のような、非常に過酷な反応条件を必要とするもの、もしくは、水素化の後にアミノ基を Boc 基で保護し、アミドをチオアミドとしてヨードメタンによりイミノチオエーテルへと誘導し、酸性条件下で Boc 基の除去と環化を行う、マイルドではありますが多くの工程数を必要とするものが報告されていた(Scheme 4)。そこで私は、この共通出発原料であるアジドラクタムを用いて、アジドの求核性を利用して温和な条件化わずか1工程で2環性アミジン類を与える反応条件を見いだした。すなわちアミドを求電子的に活性化する反応条件を検討した所、アジドラクタム 16a に塩化メチレン中(COCl2)2を用いることで、81%で二環性アミジン 17a が得られた。さらに、(COBr2)2を用いることで、反応時間は4時間に短縮され、92%収率で生成物が得られた(Table 5)。

 この反応条件を様々なアジドラクタム類に適用した。DBN,DBU をはじめ、Figure 1 に示すような不斉官能基化された2環性及び多環性のキラルアミジン類が収率よく合成できた。また、キラル多環性アミジン17eはすでに同一の出発原料からここに示すような上述のチオラクタム経由で4工程かけて 43% 収率で合成されているが、今回見いだした反応条件を適用するとわずか1工程で88%収率にて合成できる。

 ReactIR を用いたメカニズム解析より次のような反応機構が考えられる。まずオキサリルブロマイドによりプロモイミニウム中間体 16B が生成する。ここで、多環性の基質においても反応は進行するので、Bredt 則を適用すると 16E のようなエナミンは反応中間体にはなり得ない。このブロモイミニウムに対してアジドが分子内で求核的に1,2-付加して続いて非常に脱離能の高いN2+がブロモ基の 1,2-転位により脱離することで、17a の臭素塩を与える。あるいは、アジドがプロモイミニウムに対して[3+2]環化付加反応を起こし続いて retro-[3+2]反応を起こすことにより同様の 17a の臭素塩を与える経路も考えられる。得られた酸化力を持つ 17a の臭素塩は反応終了後に anisole を添加することにより4-bromoanisole の生成とともに 17a のHBr 塩へと変換される。得られた塩は塩酸で逆抽出し、塩化メチレンで洗浄することでアニソール類を含む脂溶性不純物を除去し、塩酸を減圧留去して、強塩基性レジンカラムに通すことによりフリーの2環性アミジンが容易に得られる。

 以上私は、ダイレクトアルドール、マイケル、マンニッヒ型反応の研究を通して生成物の有効利用も鑑みた、環境調和型触媒的不斉炭素炭素結合形成反応の開発の重要性を痛感し、単純アルキルニトリルの触媒的不斉付加反応を提案し、アミン塩基程度の温和な条件下で、単純アルキルニトリルの官能基選択的な、求核的触媒的活性化を可能とする反応系の構築に成功した。さらに本反応系にも適用可能な不斉官能基化された2環性アミジン類の簡便合成法の確立にも成功した。今後、このキラルアミジンの利用も含めた単純アルキルニトリルの付加反応の不斉化が重要課題となる。

Scheme 1. Direct Catalytic Asymmetric Mannich-type Reaction of N-Dpp-imine 3 Promoted by Et2Zn/(S,S)-linked-BINOL 2 Complex.

Scheme 2. General Scheme for in-situ Activation of Simple Alkylnitrile and Further Elaboration of the Product.

Table 1. Direct Addition of Acetonitrile with Soft Lewis Acids and DBU.

aReaction was run in the dark. bHMPA was used as co-solvent.

Table 2. Direct Addition of Acetonitrile to Aldehydes Catalyzed by CpRu(PPh3)(CH3CN)2PF6 (8), DBU and NaPF6.

Table 3. Direct Addition of Acetnitrile to lmines Catalyzed by CpRu(PPh3)(CH3CN)2PF6 (8), DBU and NaPF6.

a 10 mol % of DBU was used.

Scheme 3. Proposed Catalytic Cycle.

Table 4. Direst Addition of Acetnitrile to Enolizable Aldehydes Catalyzed by CpRu Complex, DBU

a Aldehyde was added via syringe drive over 7 h unless otherwise noted.

b Aldehyde was added via syringe drive over 12 h.

Scheme 4. Strategy for Bicyclic Amidine Formation: Direct Use of an Azide as the Nucleophilic Counterpart.

Table 5. Bicyclic Amidine Forming Reaction of Azido Lactam 16a.

a Reagent was added at 0 ℃ and stirred at the same temperature for the first 1 hour.

Figure 1. Synthesis of functionalized and chiral bicyclic amidines- a selected example.

Scheme 5. Plausible Reaction Mechanism.

審査要旨 要旨を表示する

 触媒的不斉炭素炭素結合形成反応は、有機分子の炭素骨格構築において最も単純かつ強力な方法である。一般に、高いエナンチオ選択性を発現する触媒的不斉 C-C 結合形成反応は、反応を官能基選択的かつエナンチオ選択的に進行させるために、あらかじめ活性化した反応剤を用いる例が多い。そのために安価に手に入る原料を当量以上の試薬を用いてあらかじめ活性化する必要があり、必然的に廃棄物を生み、プロセスの効率性の観点から不満が残る。熊谷直哉は、特異的活性化能をもつ触媒系を構築し、安定で安価に手に入る原料を直接に反応系中で活性化することで官能基選択的かつエナンチオ選択的に反応を進行させる研究を行った。

【触媒的不斉マンニッヒ型反応】

 Zn/linked-BINOL 2 錯体を触媒として用いて、求電子剤として DPP イミン 3 を用いる触媒的不斉マンニッヒ型反応の開発に成功した。Scheme 1 に示すように、わずか 0.02 から 1 mol %の触媒量で反応は円滑に進行し、芳香族イミンではほぼ完全な立体選択性でアンチ選択的に生成物 4 を与えた。4 は容易に有用なキラルビルディングブロックになりうる、β-アミノ-α-ヒドロキシカルボン酸誘導体 5 に収率よく変換できた。しかしながら、本反応形式では得られた生成物を合成化学的に有用な化合物に変換するのにオルトメトキシフェノールが不要な廃棄物として生じる。生成物の有効利用まで視野を広げると効率が良いとは必ずしも言えない。

【単純アルキルニトリルの求核的活性化法の開発】

 生成物の有効利用も考慮し、単純アルキルニトリルをそのまま求核剤として触媒的反応に適用することを次の課題とした。生成物であるβ-ヒドロキシニトリルのニトリル基は廃棄物を出すことなく容易に対応するカルボン酸、エステル、アルデヒド、アミド、アミンへと変換可能で、有用な2炭素増炭反応となり得る。本反応実現のためにはカルボニル化合物存在下、アルキルニトリルのみを官能基選択的、求核的に活性化する必要がある。これまでにニトリル類を求核剤として用いる触媒反応の例は、主にβ-シアノカルボニル化合物およびα-アリールニトリル類に限られていた。これはアルキルニトリルのα-水素の低い酸性度(pKa〜31.3) に由来しており、非常に強い塩基性条件が必要である事に起因する。本反応を様々な求電子剤に適用できるよう、アミン塩基程度の温和な塩基性条件で進行する反応条件を探索する必要があった。ニトリルのソフトなルイス塩基性に着目し、ソフトなルイス酸を用いることで、カルボニル化合物存在下ニトリルのみを選択的に活性化し、α-水素の酸性度を低下させてアミン塩基程度の弱塩基で脱プロトン化を起こし、反応が触媒的に進行するという作業仮説のもと、研究を行った。

 種々検討の結果 10 mol %の NaPF6 存在下、2.5 から 5 mol %の Ru 錯体 7 及び 2.5-10 mol %の DBU を用いることで、芳香族および脂肪族アルデヒドへのアセトニトリルの触媒的付加反応が円滑に進行することを見いだした(Scheme 2)。本反応系はイミンへの付加反応にも適用可能で、対応するβ-アミノニトリルを高い収率で与えた。また詳細なメカニズム解析の結果 Scheme 3 に示すような触媒サイクル、すなわち Ru によるニトリルの選択的活性化、DBU による選択的脱プロトン化、Na によるカチオン交換が重要であり、不安定な Ru-DBU 錯体の生成が効果的に抑制されて触媒量の Ru と DBU で円滑に反応が進行していることが明らかとなった。

【2環性アミジン類の新規合成反応の開発】

 熊谷直哉はニトリルの反応開発の際に検討していたキラルな DBU 誘導体の合成研究において、不斉官能基化2環性アミジン類の新規合成反応を見いだした。アジドラクタムを原料として用い、アジドの求核性を利用して温和な条件化わずか1工程で2環性アミジン類を与える反応条件を見いだした。すなわちアジドラクタム 8 に塩化メチレン中(COCl)2 あるいは(COBr)2 を作用させてアミドを求電子的に活性化し、続いてアジドが分子内環化することで、不斉官能基化された二環性及び多環性アミジン 9 が収率良く得られた。

 以上の結果は創薬プロセス化学研究に対し重要な貢献をすると考え、博士(薬学)に十分相当する研究成果と判断した。

Scheme 1. Direct Catalytic Asymmetric Mannich-type Reaction of N-Dpp-imine 3 Promoted by Et2Zn/(S,S)-linked-BINOL 2 Complex.

Scheme 2. Direct Addition of Acetonitrile to Aldehydes or Imines Catalyzed by CpRu(PPh3)(CH3CN)2PF6 (7), DBU and NaPF6.

Scheme 3. Proposed Catalytic Cycle.

Figure 1. Synthesis of functionalized and chiral bicyclic amidines―a selected example.

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