No | 120528 | |
著者(漢字) | 清,智也 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | セイ,トモナリ | |
標題(和) | 確率場に対する推定量および情報量規準の漸近的性質 | |
標題(洋) | Asymptotic properties of estimators and information criteria for random fields | |
報告番号 | 120528 | |
報告番号 | 甲20528 | |
学位授与日 | 2005.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(情報理工学) | |
学位記番号 | 博情第41号 | |
研究科 | 情報理工学系研究科 | |
専攻 | 数理情報学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 本論文では,確率場に対する推定量や情報量規準が持つ漸近的性質を調べた.主に扱われる確率過程は,ユークリッド空間内の有界領域を径数空間として持つような実数値確率過程である.通常の確率過程の漸近理論では,径数空間が無限に近づくときの漸近的性質を扱い,エルゴード性やミキシング性が本質的な役割を果たす.一方で,特に地球統計学からの要請により,径数空間が有界に固定されたまま,観測される点が密になる漸近理論を扱う必要が生じている.このような枠組みでの漸近理論は固定領域漸近理論(fixed domain asymptotics)と呼ばれ,一部の研究者により研究が進められている.本論文ではこの固定領域漸近理論に関連して,主として3つの結果を与えた.1つ目は,ガウス過程の標本経路が持つフラクタル次元の推定問題に対する結果であり,2つ目は,変換ガウスモデルの局所漸近混合正規性に関する結果,3つ目は,局所漸近混合正規モデルに対する情報量規準に関する結果である.本論文は全8章からなり,上で言及した3つの主要結果はそれぞれ5章から7章に対応する.また,1章と8章はそれぞれ概要と総括である.2章から4章は既存の結果をまとめたものであり,後の章のための準備の役割を果たす.以下,より具体的に各章の説明をする. 2章では,ガウス過程の標本経路が持つフラクタル次元を推定する問題が定式化され,固定領域漸近理論の下での既存の結果が紹介される.これまで提案されてきた手法は概ね,何らかの形で最小二乗法に基づいている.Kent & WoodとIstas & Langは独立に,一般化経験バリオグラムに基づく推定量を提案した.この推定量は既存の手法の中では最も有効であると考えられる.5章において,この推定量を優越する推定量の存在が示される. 3章では,漸近決定理論の枠組みが簡単にまとめられる.特に,統計的モデルの列に対する隣接性,局所漸近正規性,局所漸近混合正規性が定義され,推定量に関する漸近重畳定理,漸近ミニマックス定理が述べられる.また,予測問題のための漸近ミニマックス定理が新たに与えられる. 4章では,既存の情報量規準がいくつか紹介される.特に,決定論的な扱いを明確にするため,情報量規準のリスクおよびリグレットが導入される。また,3章からの類推として,漸近ミニマックス定理が示される. 5章では,2章で述べられたフラクタル次元の推定問題において,M. L. Steinにょり提案された推定量の漸近的性質が示される.この推定量は,「密な格子の上で観測される確率過程は,漸近的には離散径数定常確率過程と同一視できる」という事実を下に構成されている.この推定量の性質はこれまで数値的にしか知られていなかったが,本研究によりその漸近的性質が明らかにされた.具体的には,十分緩い正則条件の下で一致性が成り立つことが示され,少し正則条件を強めれば漸近正規性が成り立つことも示された.特に,漸近分散が既存の推定量より小さいことも確認される. 6章では,変換ガウスモデル(transformed Gaussian model)という統計モデルの局所漸近混合正規性が証明される.まず,変換ガウス過程とは,あるガウス過程の値を適当な未知関数で変換して得られる確率過程のことを意味し,変換ガウスモデルとは変換ガウス過程のパラメトリックな集合のことである.径数空間が1の場合は,より一般に拡散過程に対して同様な結果が既に得られていた.多次元径数に対する結果は本研究が最初である. 7章では,局所漸近混合正規性を持つ統計モデルに対する情報量規準Bayes-LAMN-ICが提案される.Bayes-LAMN-ICはベイズ予測に基づいて構成されている.これは,ベイズ予測がある意味で他の予測分布を優越する,という事実に基づいている.数値実験により,Bayes-LAMN-ICは既存の規準に比べ良い性能を持っていることが確認された. | |
審査要旨 | 空間統計学の分野においては,空間的なデータをd次元ユークリッド空間上の点を径数とする確率場のひとつの実現値ととらえてモデリングを行なう.とくに,確率過程モデルは1次元の径数をもつ確率場モデルとみなせる.確率場モデルの統計的推測に関しては,有限サンプルに基づく厳密な推測理論を扱うことは困難であり,漸近理論を考えることが必要である.従来広く研究されてきた漸近理論は,データが得られる空間的な領域が大きくなる極限を考えるものである.この設定においては,確率場のエルゴード性により近似的に独立同一分布のモデルに対する結果と類似した結果が得られることが多い.一方,もうひとつの漸近理論は,データの得られる空間的な領域を固定して,データの得られる点の密度が大きくなる極限を考えるものであり,固定領域漸近理論と呼ばれ最近注目を集めている.特に地球統計学においては,固定領域漸近理論の方が従来の漸近理論より現実的な設定であると考えられる例が多くあらわれることが知られている.この設定においては,確率場のエルゴード性が直接利用できないという点で,従来広く研究されてきた観測領域が大きくなる極限を扱う漸近理論とは本質的に異なる困難さがあり,未解決の問題が多く残されている.本論文は,確率場モデルを用いた統計的推測の固定領域漸近理論に関連する主に3つの問題に解決を与えるものであり,"Asymptotic Propcrtics of Estimators and Information Criteria for Random Fields"(「確率場に対する推定量および情報量規準の漸近的性質」)と題し,全8章からなる. 第1章"lntroduction"では,論文で扱う問題について簡潔に説明し,各章の論理的な関係を述べるとともに,記号の定義を与えている. 第2章"Statistical Inference of Spatial Data"では,空間統計学における今までの結果と問題点について概観している.特に確率場の統計的推測における固定領域漸近理論の設定と確率過程のフラクタル次元の推定問題について説明するとともに,本論文で用いられている確率過程のシミュレーションの手法について述べている. 第3章"Asymptotic Decision Theory"では,決定理論的漸近理論における重要な概念である,接触性,局所漸近正規性,局所漸近混合正規性について説明するとともに,予測問題における局所漸近ミニマックス定理について証明を与えている. 第4章"Information Criteria"では,いくつかの既存のモデル選択規準について説明するとともに,リスクおよびリグレットなどのモデル選択規準の性能を評価する基準について説明を与えている. 第5章"Estimation of the Fractal Index"では,M. L. Steinにより提案された確率過程のフラクタル指数の推定量について一致性・漸近正規性が成立することを証明し,さらに多くの既存の推定量のなかでもとくに漸近分散が小さく優れていることを示している.この推定量が良い性質をもつことは数値的には確認されていたが,本章の結果はその漸近的性質を理論的に明らかにするものである. 第6章"Transformed Gaussian Model"では,変換ガウスモデルと呼ばれる統計モデルが局所漸近混合正規性をもつことを証明している.径数空間が1次元の場合は,拡散過程に対して同様な結果が知られていたが,多次元径数の変換ガウスモデルの局所漸近混合正規性の証明は未解決の問題であった。 第7章"Information Criteria for LAMN Models"では,統計モデルが局所漸近混合正規性を満たすときに適用できる情報量規準を理論的に導出するとともに,その性能が既存のモデル選択規準に比べ優れていることを数値実験により示している.従来のモデル選択規準に関する漸近理論の結果はほぼすべて局所漸近正規性を仮定したものであり,本章の結果はより広いクラスのモデルに適用できるものとなっている. 第8章"Conclusion"では,以上の結果をまとめている. 以上を総合すると,本論文は,確率場の統計的推測における固定領域漸近理論に関連する重要な問題に理論的な解決を与えるものであり,数理情報学の分野の発展に大きく寄与するものである. よって本論文は,博士(情報理工学)の学位請求論文として合格と認められる. | |
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