No | 120595 | |
著者(漢字) | 甲斐,健也 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | カイ,タツヤ | |
標題(和) | アファイン拘束を受ける非線形システムの幾何学的構造と制御論的解析 | |
標題(洋) | Geometric Structure and Control Analysis of Nonlinear Systems with Affine Constrains | |
報告番号 | 120595 | |
報告番号 | 甲20595 | |
学位授与日 | 2005.06.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(科学) | |
学位記番号 | 博創域第139号 | |
研究科 | 新領域創成科学研究科 | |
専攻 | 複雑理工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 現在制御工学やロボット工学の分野において「非ホロノミックシステム」の研究が数多く行なわれている。この非ホロノミックシステムは「非可積分な拘束条件が存在して,その拘束条件によって振る舞いが支配されるシステム」と定義され,車・蛇ロボット・宇宙ロボット・転がるコインや球・劣駆動マニピュレータなど物理学や工学の分野においても数多くの例を見ることができる。非ホロノミックシステムに関してこれまで行われていた研究において,扱われている非ホロノミック拘束条件のクラスのほとんどは「線形拘束」と呼ばれる速度に関して線形なものである。その線形拘束の可積分性・非可積分性は,Frobeniusの定理や分布のインボリューティブ性などを用いて判定できることが一般的に知られている。 一方、速度に関してアファインであるような「アファイン拘束」と呼ばれる拘束条件も存在し,図1にあるような初期角運動量を持つ宇宙ロボット・回転盤上のコインや球・空気の入ったタイヤ・劣駆動マニピュレータ・水中移動体などのシステムにおける拘束条件はその典型的な例である。多様体Q上の点をq,速度ベクトルをq∈TqQとすると,アファイン拘束はn-m個(ただしn>mとする)の拘束条件の組でA(q)+B(q)q=0のように記述される。ここでA(q)はn-m次元列ベクトル,B(q)は(n-m)×n型行列である。アファイン拘束は線形拘束を含む,さらに広いクラスの拘束条件であるといえる。しかし,そのようなアファイン拘束の可積分性・非可積分性を判定するための多様体上のベクトル場に関する条件は,一般的に今まで知られておらず,微分幾何学や解析力学でもこの分野の研究はほとんど行われていなかった。そのため,アファイン拘束を受ける運動学システム・動力学システムの非線形制御論的解析も,現在まで全く行われていなかった。 そこで本論文では,このアファイン拘束を微分幾何学・非線形制御論の両方から解析することを目的としている。本論文の流れを図に示すと図2のようになる。本論文は大きく,(1)・(2)から成る「微分幾何学的解析」のパートと,(3)・(4)・(5)から成る「非線形制御理論的解析」のパートに分けることができる。さらに後者は(3)・(4)の「運動学システム」と(5)の「動力学システム」に分けることができる。以下,それぞれのパートに関して具体的な説明を行う。 アファイン拘束の定義と諸性質 本パートでは,本論文を通して扱う「アファイン拘束」とそれに関連した諸性質について説明しており,本論文の最も基本的に部分に位置している。まず,本論文を通して我々が扱うアファイン拘束とそれに関係した概念について定義を与える。つぎに,我々が新しく提案した「アファイン指数」を用いてアファイン拘束を「完全線形拘束」・「部分アファイン拘束」・「完全アファイン拘束」の3種類に分類する方法を示す。そして,アファイン拘束を解析するのに重要な役割を果たす幾何学的表現を説明し,さらに,その幾何学的表現が満たすいくつかの性質を導いている。最後に,実際の物理・工学システムにおいて,アファイン拘束を受けるような例をいくつか示しており,これらは後の章でも具体例として用いられる。 アファイン拘束の可積分性・非可積分性 本パートでは,アファイン拘束が可積分・非可積分となるための条件を導出する。まず,時間空間Rと多様体Qの積多様体RxQにおける微分幾何を考え,その積多様体上においてもFrobeniusの定理が成立することを証明している。つぎに,アファイン拘束が「完全可積分」・「部分非可積分」・「完全非可積分」のそれぞれとなるために必要十分条件を導いている。特に,ある分布を計算することによって,与えられたアファイン拘束がどの場合となるかが判定できることを示す。さらに,完全可積分・部分非可積分の場合には可積分なアファイン拘束が存在するが,実際にその第1積分を求めるためのフローを用いたアルゴリズムを提案している。そして,上記3つの場合において,多様体においてどのような葉層構造が形成されるかを解析している。完全可積分・部分非可積分の場合には,多様体がそれよりも次元の低い葉層構造を形成し,アファイン正則点集合(A(q)≠0となる点の集合)では時変的な葉層構造を形成し,アファイン平衡点集合(A(q)=0となる点の集合)では時不変的な葉層構造を形成することを明らかにする。また,完全非可積分の場合にはすべての点はアファイン平衡点となり,多様体には葉層構造は形成されないことが分かった。それらをまとめると表1のようになる。 アファイン拘束を受ける運動学的非対称アファインシステムの可到達性 この(3)と次の(4)では,多様体を配位多様体に限定して,その多様体上での運動学モデルを考えている。本パートでは,アファイン拘束の可積分・非可積分性と運動学的非対称アファインシステムの可到達性の関連を調べている。まず,アファイン拘束とある仮定を満たす制御入力から一意に「運動学的非対称アフアインシステム」が得られることを示している。つぎに,アファイン拘束がそれぞれ完全可積分・部分非可積分・完全非可積分となる場合の葉層構造において,運動学的非対称アファインシステムの可到達集合がどのように分布しているかを調べた。その結果より,運動学的非対称アファインシステムが局所可到達・局所強可到達となるためのアファイン拘束に関する必要十分条件を導いている。 その結果,今まで知られていなかった以下の2つの重要な結果を得ている。(i)アファイン拘束の中に1つだけ可積分なものが存在していても運動学的非対称アファインシステムが局所可到達となる場合が存在する,(ii)アファイン拘束の完全可積分性と運動学的非対称アファインシステムの局所強可到達性が等価である。本パートでの結果をまとめると表1のようになる。 非ホロノミックアファイン拘束を受ける運動学的非対称アファインシステムの可制御性・可安定性 本パートでは,アファイン拘束を完全非可積分(非ホロノミック)であると仮定し,運動学的非対称アファインシステムの可制御性・可安定性について論じている。運動学的非対称アファインシステムの線形近似システムを考えることにより,局所可制御性となるための十分条件を導いている。そして,運動学的非対称アファインシステムが平衡点へ線形フィードバックによって局所漸近安定化できるための十分条件,ならびになめらかな非線形フィードバックによって局所漸近安定化できるための必要条件を導出している。 その結果,従来非ホロノミック運動学システムに関して一般的に知られていたような事実に反する「線形近似システムが可制御」や「なめらかな非線形フィードバックで安定化可能」といった性質を満たすクラスのアファイン拘束が存在することが示された。さらに線形フィードバックのような非常に簡単な制御則でも安定化できてしまうようなシステムも存在することが分かった。本パートでの結果をまとめると表2のようになる。 アファイン拘束を受ける非ホロノミック動力学システムの非線形制御論的解析 本パートでは,アファイン拘束を受ける非ホロノミック動力学システムの非線形制御論に基づく解析を行っている。まず,アファイン拘束を受ける非ホロノミック動力学システムを導出し,これに静的フィードバック変換則を施して「normal form」を求めている。そのnormal formのベクトル場の計算により,このシステムが任意の点において強可到達であることを示すことができる。つぎに,局所可制御性となるためのnormal formの線形近似システムを用いた十分条件,またSussmannの定理を応用した,アファイン拘束の幾何学的表現についてのベクトル場に関する十分条件を導いている。そして,normal formが平衡点へ線形フィードバックによって局所漸近安定化できるための十分条件,ならびになめらかな非線形フィードバックによって局所漸近安定化できるための必要条件を導出している。 その結果,(4)と同様に従来非ホロノミック動力学システムに関しても一般的に知られていたような事実に反する「線形近似システムが可制御」や「なめらかな非線形フィードバックで安定化可能」といった性質を満たすクラスのアファイン拘束が存在することが示された。さらに線形フィードバックのような非常に簡単な制御則でも安定化できてしまうようなシステムも存在することが分かった。それらをまとめると表3のようになり,(4)での解析結果の表2と非常に近い(それぞれの条件は多少異なる)ことが分かった。 本論文では,今までほとんど研究が行われていなかった「アファイン拘束」に関して,微分幾何学と非線形制御論という2つのアプローチによって解析を行っている。本論文で示された結果は,様々な分野においてアファイン拘束を扱うための数学的ツールを与え,特に非線形制御論においては,アファイン拘束という新しいクラスの制御問題を考えるための指針を与えることが期待される。本論文に関係する今後の課題としては,(i)劣駆動マニピュレータ・水中移動体などの2階拘束条件の完全可積分条件,(ii)なめらかな非線形フィードバックを用いて局所漸近安定化不可能である部分アファイン拘束を持つシステムに対する「拡張チェインドシステム」への変換や制御則の構築,(iii)アファイン拘束を考慮した「拡張サブリーマン多様体」の幾何学的解析,などが挙げられる。 図1:アファイン拘束を受けるシステムの物理的・工学的例 (a)初期角運動量を持つ宇宙ロボット(b)回転盤上の球(c)劣駆動マニピュレータ 図2:本論文の構成 表1:アファイン拘束の可積分・非可積分性と葉層構造,運動学的非対称アファインシステムの可到達性 表2:非ホロノミックアファイン拘束を受ける運動学的非対称アファインシステムの非線形制御論的特徴 表3:アファイン拘束を受ける非ホロノミック動力学システムの非線形制御論的特徴 | |
審査要旨 | 近年、制御工学やロボット工学の分野において「非ホロノミックシステム」の研究が盛んに行なわれ、車・宇宙ロボット・劣駆動マニピュレータなど「線形拘束」と呼ばれる速度に関して線形な拘束条件をもつシステムを対象に多くの成果が得られてきた。一方、初期角運動量を持つ宇宙ロボットや回転盤上のコイン・球などに代表される「アファイン拘束」と呼ばれる速度に関してアファインなクラスの拘束条件も世の中には存在し、そのシステム制御論的検討が望まれている。しかし、アファイン拘束の可積分性・非可積分性に関する理論的な結果は得られておらず、そのためアファイン拘束を受ける運動学システムや動力学システムの非線形制御論的解析も、現在まで全く行われていなかった。 本論文は「Geometric Structure and Control Analysis of Nonlinear Systems with Affine Constraints(アファイン拘束を受ける非線形システムの幾何学的構造と制御論的解析)」と題し全7章からなり、多様体上で定義されるアファイン拘束の微分幾何学的解析および非線形制御論的解析を目的としている。 第1章「Introduction」では、本論文の背景と動機およびその目的について述べている。 第2章「AffineConstraints」では、本論文を通して扱うアファイン拘束を定義し、アファイン指数を用いたアファイン拘束の分類法およびアファイン拘束の幾何学的表現について述べるとともに、いくつかの物理的・工学的例を示している。 第3章「Integrabilisy and Nonintegrability of Affine Constraints」では、アファイン拘束の可積分性・非可積分性に対する必要十分条件を導出している。さらに、可積分の場合における第1積分を計算する求積アルゴリズムを提案し、多様体の葉層構造に関する解析などの微分幾何学的な新しい結果を得ている。 第4 「Accessibility of Kinematically Asymmetrically Affine Control Systems with Affine Constraints」では、運動学制御モデルである「アファイン拘束を受ける運動学的非対称アファインシステム(KAACS)」に関して、その可到達集合の分布の解析を行っている。その結果、KAACSの局所可到達性に関するアファイン拘束に関する必要十分条件を導出し、「可積分なアファイン拘束が存在していても局所可到達となる場合がある」、「完全非可積分性と局所強可到達性は等価」などの新しい結果を得ている。 第5章「Controllability and Stabilizability of Kinematically Asymmetrically Affine Control Systems with Nonholonomic Affine Constraints」では、KAACSの局所可制御性および線形状態フィードバック・なめらかな非線形状態フィードバックによるKAACSの平衡点への局所漸近可安定性について議論している。その結果、「線形近似システムが可制御」、「なめらかな非線形状態フィードバックで安定化の可能性がある」など、これまで線形拘束に対してのみ知られていた特性を超える結果を得ている。 第6章「Nonlinear Control Analysis on Nonholonomic Dynamic Systems with Affine Constraints」では、動力学制御モデルである「アファイン拘束を受ける非ホロノミック動力学システム(NDSAC)」に関して、NDSACの局所強可到達性・局所可制御性、そして線形状態フィードバック・なめらかな非線形状態フィードバックによるNDSACの平衡点への局所漸近可安定性について議論している。その結果、第5章の運動学モデルの結果と同様に、これまで線形拘束に対してのみ知られていた特性を超える結果を得ている。 第7章「Conclusion」では、本論文のまとめを行うとともに、今後の研究課題について述べている。 なお、本論文第2章と第4章は木村英紀氏との共同研究、また第3、第5,第6章は木村英紀氏および原辰次氏との共同研究であるが、論文提出者が主体となって解析及び理論展開を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。したがって、博士(科学)の学位を授与できると認める。 | |
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