No | 120665 | |
著者(漢字) | 飯沼,卓史 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | イイヌマ,タクシ | |
標題(和) | 応力及び構成則逆解析手法の日本列島への適用 | |
標題(洋) | Application of the Inversion Methods of Stress and Constitutive Relation to the Japanese Islands | |
報告番号 | 120665 | |
報告番号 | 甲20665 | |
学位授与日 | 2005.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(理学) | |
学位記番号 | 博理第4741号 | |
研究科 | 理学系研究科 | |
専攻 | 地球惑星科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 最終的な目標である地震・地殻変動の予測のため、応力逆解析手法を日本列島に適用し、応力変化をモニタリングする事を目指して研究を行った。日本列島では観測点数が1000を超える高密度GPS連続観測網「GEONET」が稼働しており、速度場を日々得ることができる。一方、地震・地殻変動の予測に関していえば、応力の状態及び変化を知ることがその第一歩となりうるが、地殻の不均質性、非弾性、非線型性などのために、歪み速度から単純に線形等方弾性体として応力変化を求めることは適切でない。そこで、本研究ではHori and Kameda(2001)の応力逆解析手法を日本列島に適用し、応力変化を推定することを目的とした。その際、境界でのトラクションを見積もるために、構成則逆解析手法を用いた(図1)。また、これらの手法について、適用に関する諸問題について検証、評価を行った。 応力逆解析手法の特長は 1.歪みと応力間の構成則が完全にわかっていなくても解析できる 2.Airyの応力関数を用いることで観測量の高階微分を使わなくてすむので精度がよい という二点があげられる。二次元平面応力状態を仮定し、Airyの応力関数を(a,11,a,22,a,12)=(σ22,σ11,-σ12)という関係を満たすものとして定義すると、自動的に応力テンソルが釣り合いの式を満たすようになる。あと一つ応力と歪みの間の関係式を与えれば一つの未知数に対し一つの方程式があることになり、解きうることになる。本研究では、日本列島の非弾性変形は主として断層運動によっており、これは剪断変形しか生み出さない、すなわち、歪みの面積成分に非弾性成分は無い、ということを仮定して、 という支配方程式を得た。ここでkは二次元の面積弾性率であり、 obsは歪みが観測量である事を示す。また、境界では応力とトラクションが釣り合うことより、トラクション(t)からresultantforce(r)をrj=fxtjdlと定義すると というNeumann型の境界条件が導出される。この境界値問題を有限要素法で解く。その際必要となるのは係数kと、境界でのトラクション、そして入力としての観測された変位場のデータである。 応力逆解析で必要となるトラクションを見積もるためにHori(2004)による構成則逆解析手法を適用する。対象となる物体Bは平面応力状態にある不均質な線形等方弾性体とする。その中に小ブロック、を重なり合うように多数定義し、Ω毎にポアソン比νを解き、重ね合わせることでB全体のポアソン比分布を表現する。各ブロックでの釣り合い式は、小領域であることから変位をテイラー展開することで、 となる。ここで、〓であり、〓である。これがブロック内の変位が観測されるN点のノードで成り立つことより連立方程式としてνについて解くことができる。係数列aiPは、各ノードでの変位と座標がテイラー展開により と表せるので、行列fに関する特異値分解を用いて求める。 二次元平面応力状態並びに〓という仮定、また構成則逆解析の結果から求めたトラクションを応力逆解析に使用する事について、検証・評価を行った。二つの仮定に関してはCMTカタログを用いて軸の方向、地震性の非弾性歪みについての評価を行い、適用可能性が十分な地域がどこかを判定した。この結果が良好であった中国地方に関して、実際に適用を行うものとした。トラクションに関しては応力逆解析の結果への誤差伝搬について評価したところ、トラクションの見積り誤差の1/4程度が応力逆解析の結果に伝わる事がわかった。 また、二次元平面応力が成り立たないような地域へ、手法を拡大して適用する事とした。鉛直方向の圧縮伸張の応力を0とし、他の応力成分については鉛直方向の変化が水平方向の変化に比べて十分小さいという環境にある薄板について、σ13,σ23を推定する手法を考えた。各地点での応力の主軸が、広域応力の主軸に近い方向を向くものとし、釣り合い式と境界条件にこの拘束条件を加えて応力を求める。解析に際しては、(b,1,b,2)=(σ23,-σ13)となるような関数bを用いることで釣り合い式を自動的に満たすようにした。また、境界条件はresultant forceを用いてb=-r3と書ける。 中国地方へ応力逆解析及び構成則逆解析手法を適用した。2000年の鳥取県西部地震に関連して、この地震の前後で期間を分けて解析を行った。議論の結果、 1.鳥取県西部地震以前、その震源付近では、歪み速度は小さいものの応力蓄積速度は高かった(図2) 2.同地震を期に応力蓄積速度が歪み速度に比して大きく変化していることから、非弾性歪み速度や構成物質の非線形・非等方性が変化した可能性があるということがわかった。こうした変化は歪み速度の分布ではなく応力逆解析によって求まった応力蓄積率に着目することで初めて明らかになったものであり、歪み速度や変位の分布からはわかりにくい変化・検出できない変化が、応力蓄積率の変化を観察することで明らかになることが示された。 図1:Flowchart of the inversion methods. 図2:Maximum shear strain rate(upper and stress rate(lower)for the pre-Tottori Earthquake period. | |
審査要旨 | 本論文は日本列島に展開されているGPS観測網(GEONET)のデータを用いた地殻応力場の推定手法および推定結果を論じたものであり、全5章からなる。第一章はイントロダクションであり、これまでの地殻応力研究の歴史やGEONETが簡潔に論じられ、本研究の目標,すなわち不均質地殻の変位速度場情報から地殻応力変化を推定する手法の構築、およびGEONETデータを用いた日本列島の応力場の推定が提示されている。 続いて第二章では、GPS解析に基づく変位速度場のデータに基づく応力変化の推定の手法が論じられている。地震・地殻変動など地殻活動の予測のためには、地殻内の応力状態及び変化を知ることが重要であるが、地殻の不均質性、非弾性、非線型性などのために、GPSからえられる歪み速度から単純に線形等方弾性体として応力変化を求めることは適切でない。そこで、本研究では日本列島を弾塑性の薄板とみなし、平面応力状態を仮定してAiryの応力関数を用いた応力逆解析手法を日本列島に適用し、応力変化を推定することとした。この応力変化の推定には外部境界条件としてトラクションを推定する必要があるが、このために、構成則逆解析という手法を用いて物性定数を求め、これとひずみ速度からトラクションを推定するという手法を導入した。このような手法を用いることによって、地殻の構成則が完全にはわかっていない場合についてもGPSに基づくひずみデータから応力が正確に求められることが期待される。本章ではさらに,この理論に基づく計算プログラムの構築を行うとともに、解析解が求められている場合を対象に実施した数値シミュレーション結果に基づく理論の検証と数値解析にともなう誤差等が考察されている。本章の理論的基礎は他の研究者によって開発されているものであるが、問題解決への道筋を自ら構築すると共に、数値シミュレーションに際して様々な工夫をするなどの独創性が見られる。 第三章においては、この手法を日本列島のGPSデータに適用し、その適用限界や適用可能性を様々な角度から検討している。まず、仮定として用いた2次元平面応力状態および非弾性変形に関する仮定が適切に成り立っているかを検討する目的で、地震のモーメントテンソルを用いたいわゆるKostrovの方法や体積変化成分とずり成分変化の比などを用いて検証し、分割した日本列島の領域のうちいくつかの地域ではその仮定が適切でないことを導きだしている。一方、例えば中国地方などでは仮定が十分に成り立つので理論の適用が可能であると結論づけている。次に、外部境界条件として推定したトラクションについての誤差評価を行っている。構成則逆解析によって求めたポアソン比の推定誤差による影響、仮定したヤング率の誤差、および線形等方弾性体仮定などについて詳細に議論を行っている。続いて、ここで用いた応力逆解析手法をより精度良く行うため、2次元平面応力問題の仮定から一歩進んで、物体に一定の厚みを想定したモデル(2.5次元)に拡張を試みている。本章では、既存の理論に準拠しながら実際への応用にあたって必要な様々な仮定の検証やその限界を乗り越えようとする意欲的な試みを行っており、様々な数値解析上の新しい工夫が数多く見られる。 続いて第四章において、ここまで開発してきた応力逆解析手法を、その誤差評価を念頭におきつつ中国地方のGPS観測データに適用している。この地域では2000年10月にM7クラスの鳥取県西部地震が発生しているため、この地震の前後で期間を分けて解析を行っている。議論の結果、鳥取県西部地震以前、その震源付近では、歪み速度は小さいものの応力蓄積速度は高く、同地震を境に応力蓄積速度が歪み速度に比して大きく変化していることから、非弾性歪み速度や構成物質の非線形・非等方性が変化した可能性がある、と指摘している。こうした変化は歪み速度の分布ではなく、応力逆解析によって求まった応力蓄積率に着目することで初めて明らかになったものであり、歪み速度や変位の分布からはわかりにくい変化が、応力蓄積率の変化を観察することで明らかになることが示されている。 最後に第五章は本論文全体のまとめと将来の地殻活動予測への展望を略述して締めくくられている。 以上、本論文は構成則逆解析理論等に基づいてその適用限界と可能性について詳細に検討を行い、実際のデータに適用して地殻応力変化について新たな知見と学問的展開の可能性を示したものであり、独創性が高く、提出者が博士の学位を持つものに十分値すると判断できる。 なお、本論文第二章、第三章の一部および第四章は堀宗朗、加藤照之との共同研究であるが、いずれも論文提出者が主体となって解析、検証等を行ったもので、論文提出者の寄与が十分であると判断する。 したがって、博士(理学)号の学位を授与できると認める。 | |
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