No | 120709 | |
著者(漢字) | 劉,栄豊 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | リュウ,ロンフェン | |
標題(和) | き裂エネルギー密度概念に基づく圧電材料の非線形破壊力学に関する研究 | |
標題(洋) | Study on Nonlinear Fracture Mechanics Based on Crack Energy Density Concept for Piezoelectric Materials | |
報告番号 | 120709 | |
報告番号 | 甲20709 | |
学位授与日 | 2005.09.30 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6129号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 機械工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 近年,電気−力学的連成関係の代表的な材料としての圧電材料はその特有の圧電,誘電及び焦電性能のため,様々な電気部品に応用されている.すなわち,力を加えたときに,変形に加えて一定量の電荷と電圧が材料に生じる直接圧電効果,また,電荷と電圧を加えたときには,機械的応力と変形が生じる逆圧電効果のゆえ,センサーおよびアクチュエーター用材料として広く利用され,強度的信頼性への要求から,破壊過程の理解,破壊強度の評価が必要となり,電気−力学的破壊力学の開発・確立が望まれている.こうしたことから,この十数年,圧電材料の破壊力学につき,多くの研究者により様々な挑戦がなされてきたが,今日に至るまで基本的な方向は示されておらず,ある種の混乱状態にある.同材料の今後のさらなる応用範囲の広がり,また,同材料への期待を考えるとき,早急に解決されるべき問題である. 圧電材料は力学的にはぜい性材料であるが,電気的には降伏や,さらにはドメインスイッチングと呼ばれる分極方向の変化にともなう複雑な非線形挙動を示し,このような非線形性が破壊特性にも影響するだろうと考えられてきたが,ひとつには,そのような状況でも明確な物理的意味を持つき裂パラメーターが与えられていなかったこともあって,それらの現象も取り込んで,問題を具体的かつ定量的に扱った研究はなかった.すなわち,主に電界の存在が破壊に与える影響について数多くの研究が行われているにもかかわらず,破壊パラメーターとして何を用いるのが妥当であるかの最も基本的な問題についても解決されていない状況にあったといえる. このような背景の下,本研究は,通常材料において,構成則に制約なく統一的き裂パラメーターとなることが示されているき裂エネルギー密度CED(Crack Energy Density)理論に基づいて,圧電材料の,非線形挙動も考慮に入れた,破壊挙動評価法の開発を目指し,それによる実際の破壊現象のより良い理解を試みたものである. 第1章は「序論」であり,上のような背景を述べるとともに,構成則の如何にかかわらず一貫したエネルギー面積密度の意味を持つCEDを圧電材料の破壊特性を表すパラメーターとして採用すること,CEDによれば,圧電体の非線形挙動も考慮に入れた破壊パラメーターとなり得るのではないかとの見通しのもとに行うことを述べた.また,圧電体の非線形破壊挙動は電気的荷重条件にも大きく影響を受けるものとなる可能性についてふれ,破壊実験においてはこのような点に十分注意する必要があること等についても言及した. 第2章,「線形圧電材料におけるCED」では,圧電材料の非線形挙動を考慮した上でのCEDを考えるための準備として,Nam(2004)による圧電材料の線形CED理論についてまとめるとともにその再検討を行った.このため,線形有限要素解析プログラムを開発し,その妥当性・有効性を応力および電気変位について理論値と比較することにより確認した.それを踏まえ,エネルギー解放率,ParkとSun(1995)によって提案された力学的エネルギー解放率,Nam(2004)によって提案された力学的CED に与える電界の影響を有限要素解析によって評価し,PZT-4を対象としたCT実験結果と比較して,エネルギー解放率は不適であるが,力学的エネルギー解放率と力学的CEDは,PZT-4材料の破壊挙動を定性的に説明できる可能性があることを確認した. 第3章,「圧電材料に対する非連続モデルとそのCED評価への適用性」では,線形理論では実験結果を十分説明できない部分の解決を目指し,電気的降伏を第1近似的に評価できる圧電材料に対する非連続モデルの開発を行った.まずは, 通常材料に対するDugdale(1960)モデルを一般化した非連続モデルを圧電材料に対するものに拡張し,圧電材料の電気的降伏問題に適用できるようにした.具体的には,圧電材料のき裂を含む面に非連続面を想定し,特性長さの概念を導入して,非連続面上下の相対変位,電気ポテンシャル差からひずみ相当量,電界相当量を定義し,連続体として扱う場合と類似な扱いが可能となる電気的降伏を考慮した非連続面の構成則を導いた.続いてこれを用いての非連続モデル解析のための有限要素プログラムを開発し,それにより,非連続モデルに対するものに拡張したCEDを評価し,非連続面における降伏域の理論解析値と有限要素法解析の結果を比較して,適切な特性長さを見出した.さらに,得られた力学的CED評価結果は,電気的降伏を考慮することにより,線形解析に比べ,実験結果をより説明する方向に改善されることを示した. 第4章,「圧電材料CEDに与える電気的降伏の効果」では,第3章ではモデル中の非連続面でのみ電気的降伏を考えるものであったが,そのような制約を取り除いた,一般的な電気的降伏を考える有限要素法解析の定式化を行い,プログラムの開発を行って,電気的降伏のCEDに与える影響を調べた.また,電気的降伏モデルのためのCEDとその諸量を定義し,通常の材料と同様に,圧電材料についてもJ積分の物理的意味と適用範囲がCED径路独立積分によって明らかとなることを示した.電気的降伏過程とき裂近傍の電気的降伏域についての基礎的な調査を行い,さらにCED評価結果と線形有限要素解析の結果を比較することによりCEDにおける電気的降伏の影響を検討した.き裂近傍の降伏域は電気的荷重の増加に従ってき裂面に沿って拡大することが分かった.この結果により一般化Dugdaleモデルにおいて非連続面のみで電気的に降伏するとした仮定が合理的であることが確認された.また,得られた力学的CED評価結果は,電気的降伏を考慮することにより,第3章における結果と同様,線形解析に比べ,実験結果をより説明する方向に改善されることを示した. 第5章,「ドメインスイッチングを考慮した圧電材料の非線形解析とCED評価」では,ドメインスイッチング現象も取り入れた有限要素解析のための定式化を行い,プログラム開発を行って,CED評価を行い,その破壊問題への適用性を検討した.ドメインスイッチングはバタフライ形の電界−ひずみ曲線をもたらす要因である.これをマクロ力学の視点から構成則に取り込むため,電界−電気変位の間の関係において,ドメインスイッチング条件を電気変位のみの関数と仮定した.180度のドメインスイッチングと残留分極のみを考慮し,90度のスイッチングと残留ひずみは無視した.スイッチングプロセスは極めて短時間のプロセスと仮定し,ドメインウォールの存在は無視した.スイッチした圧電力材料の構成則は新たな材料定数を採用することで得られる.この材料定数の中では圧電常数だけが変化する.ドメインスイッチングモデルに対応する有限要素プログラムの検証は一要素問題により行った.電気的および力学的負荷によるスイッチングと降伏域の挙動を調べた結果,それらはき裂面を沿って拡張することが分かった.き裂が分極方向と直交する場合と平行である場合の二条件についてCEDを評価した.前者の場合,破壊負荷のスイッチングモデルにより評価された力学的CEDによる予測は,PZT-4 のCT試験片とC2材料の3点曲げ試験片の実験結果にほぼ一致することが分かった.後者では,電界はCEDとその諸量に貢献しないということが分かった.すなわち,後者の場合,電界は破壊強度に影響しない.これらの結果はTobinとPark(1993)の実験結果と一致した. 第6章は「結論」であり,圧電材料の電気的非線形特性とそのCEDにおける影響を評価評価する方法を開発したこと,電気的非線形モデルは圧電材料の破壊を解釈する上での有効な手段となりうること,有限要素解析結果と実験結果の比較によって,ドメインスイッチングモデルは降伏モデルおよび線形モデルよりもより適切に圧電材料の破壊特性を説明可能なモデルとなること,CEDの概念を圧電材料の破壊力学へ導入することに成功し,力学的CEDが圧電セラミックスの破壊特性を支配する統一的な物理パラメーターとなることを示した等,本研究の成果をまとめた. | |
審査要旨 | 本論文は「Study on Nonlinear Fracture Mechanics Based on Crack Energy Density Concept for Piezoelectric Materials (き裂エネルギー密度概念に基づく圧電材料の非線形破壊力学に関する研究)」と題し、本文6章からなる。 圧電材料は、その特性である電気−力学連成挙動の故、センサやアクチュエータ等の材料として様々な分野で用いられ、その強度的信頼性への要求も高まっていることから、近年、破壊力学的立場からの強度評価研究も活発に行われて来ている。これまで通常材料を対象に成功した応力拡大係数やエネルギー解放率、J積分等のパラメータの圧電材料への拡張が試みられ、それらパラメータを用いて破壊現象を説明することが試みられて来たが、何れも実験事実としての圧電材料の電界強さ依存性を説明することができずにいた。このような状況にあって、最近、通常材料を対象に、き裂の挙動を材料の構成則に関係なく統一的に取り扱うことを可能にするパラメータとして提案されているき裂エネルギー密度CEDが圧電材料に導入され、線形的扱いの範囲で一部の圧電材料(例えばPZT-4)の破壊挙動はほぼ説明できることが示された。しかし、負電界の下であまり電界の影響が現れないタイプの圧電材料(例えばC2)についてはその破壊挙動は説明できていない。本研究はその主たる原因は圧電材料に現れる電気的降伏、ドメインスイッチングといった非線形特性が考慮されていないことにあるのではとの視点から、そのような非線形挙動を取り込み、線形的扱いも包含するCEDを中心とした圧電材料非線形破壊力学ともいうべきものの構築を目指し、その方法論を具体的に与えるとともに有効性を実証しようとしたものである。 第1章は「Current Work and Motivation」であり、本研究の背景、目的・意義、および本論文の構成について述べている。 第2章「On the Crack Energy Density for Linear Electro-elastic Piezoelectric Materials」では、これまでに線形の範囲で知られている圧電材料のCEDに関する知識をまとめるとともに、所要の有限要素法プログラムを新たに開発し、線形の範囲でほぼ破壊挙動が説明できるとされたPZT-4と特に負電界の下での挙動が説明できないとされたC2の破壊実験結果を改めて解析し、これまでに得られているように前者についてはほぼCEDの力学的寄与分(力学的CED)をパラメータとしたクライテリオンによりほぼ実験結果を説明できるが、C2についてはやはり負電界の下での挙動は説明できないことを確認している。 第3章「Discontinuous Model for Piezoelectric Material and its Applicability to CED Evaluation」は、圧電材料の電気的降伏の効果を評価する一つのモデルとして拡張Dugdaleモデルともいうべきものが提案されているが、これをさらに拡張し一般化した圧電材料の非連続モデルともいうべきものを提案し、このモデルの電気的降伏を考慮した上でのCED評価への有効性、力学的CEDをパラメータとした破壊クライテリオンの適用性を検討したものである。すなわち、拡張Dugdaleモデルはき裂の理論解が存在する場合にのみ適用できる性質のものであるが、これを理論解が存在しない一般的な問題でも有限要素法により拡張Dugdaleモデルの解に相当する解が得られるようにしたものであり、このモデルにおけるCEDおよびそれに関連する諸関係を導いた上で有限要素定式化を行い、PZT-4とC2の実験結果の解析を通じて、電気的降伏を考慮することによる破壊解析への影響を検討している。結果として線形解析に比べより実験結果を説明する改善効果が現れるが、C2についての負電界の挙動を説明できるものとはならないことを示している。 第4章「Electric Yielding Effect of Piezoelectric Materials on Crack Energy Density」では、前章は圧電材料の電気的降伏効果をき裂面での電位や変位の非連続性を想定した特殊な非連続モデルにより評価したものであるが、これを通常の連続体モデルで電気的降伏効果を評価できるように定式化し、電気的降伏のCEDに与える影響をより一般的な形で検討している。ここでもPZT-4とC2の実験結果に適用し、当然ではあるが前章の結果と同じく、力学的CEDによる破壊クライテリオンの下、より実験結果を、特に正電界の下での実験結果を説明する上での若干の改善が見られるが、C2についての負電界下の挙動を説明できるものとはならず、これを説明するためには電気的降伏を考慮するだけでは不充分であることを明らかにしている。 第5章は「Non-linear Analysis of Piezoelectric Solids Considering Polarization Switching and CED Evaluation」であり、ここでは電気的降伏に加え、圧電材料特有のドメインスイッチングと呼ばれる非線形挙動の効果も取り込める定式化を行いその影響を検討している。すなわち、ドメインスイッチングとは、ある条件が満たされるとその箇所における分極方向が変化するというものであるが、この効果も取り込んだ定式化に基づく有限要素プログラムを開発し、再びPZT-4とC2の実験結果に適用し、力学的CEDによる破壊クライテリオンにより実験結果が説明できるかを検討したもので、ここにおいてはじめて、C2についての負電界下の挙動も含め、両材料とも全体的にその破壊挙動が説明できるようになることを示している。 第6章は「Conclusions」であり、本論文の成果がまとめられている。 以上要するに本論文は、圧電材料の破壊力学的取り扱いに関連して、CEDを中心にすえて圧電材料の非線形挙動を考慮した新たな方法論を作り上げ、これにより圧電材料破壊力学の現状を打破し、さらなる展開への可能性を示したもので、今後益々適用範囲が広がると考えられる圧電材料の強度信頼性の向上に寄与するところが大きいものと考えられる。 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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