学位論文要旨



No 120745
著者(漢字) 南,陣佑
著者(英字)
著者(カナ) ナム,ジヌ
標題(和) コンクリート層を有する木質浮床の居住性能に関する静的および動的挙動
標題(洋) Static and Dynamic Performances of Concrete Floated Wooden Floors for Serviceability Criterion
報告番号 120745
報告番号 甲20745
学位授与日 2005.09.30
学位種別 課程博士
学位種類 博士(農学)
学位記番号 博農第2925号
研究科 農学生命科学研究科
専攻 生物材料科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 安藤,直人
 東京大学 教授 太田,正光
 東京大学 助教授 稲山,正弘
 東京大学 助教授 信田,聡
 東京大学 助教授 井上,雅文
内容要旨 要旨を表示する

木質構造物は壁、屋根、床が組み合わされて建てられるが、その中で床だけが、人体に触れ、直接的に人間の感覚に対して影響を与える。近年、快適な住居環境に対する関心が高まるにつれて、床衝撃音及び歩行による床振動に対しても居住者の要求が強まっている。そして、新しい構造材料の開発と、より快適で開放感がある空間に対する要求から、構造躯体のスパンが長くなっている。スパンが長くなると、その床の振動周期が増加し、即ち固有振動数が低減し、減衰能が減って振動持続時間が長くなるなどの振動特性が変化する。さらに、面密度が高くて、床衝撃音に対する性能改善は概ね認定されているコンクリート層によって更に床の振動特性は大きく変化する。 各国の使用性基準に関する構造設計基準は、人間の感覚尺度による主観的評価方法に基付いた評価結果と大きな違いを見せている。

相対的に比重の高いコンクリート層だけでなく、更に密度によって動的剛性等の振動に関する特性が変わるグラスウールの追加によって、床振動特性は木造床の振動性状とも大きく変化し、全く新しい性状を見せる。しかしコンクリート層を載せている木質床の振動性能に関する解析手法や評価手法は未だに存在しない。そこで本研究では 居住性能評価に係わる人間感覚による主観的評価方法として広く用いられているヒールドラップ衝撃による床構造の自由振動と、多様な衝撃姿勢によるコンクリート浮床の振動性状と、使用性基準の測定基準として認められている1kNに対する床中央部の静的たわみを測定した。それを通じて、衝撃源及び衝撃位置による浮床構造の振動挙動性状と振動性能を評価し、振動特性を調査することを目的とした。実際、 密度の異なるグラスウールを使った浮床の衝撃源と衝撃場所による固有振動数の変化は図1の様であった。

密度64 kg/m3のグラスウールを使った浮床の場合は、グラスウール層が衝撃を完全に吸収して、衝撃場所にはあまり関係なく同じ衝撃源に対しては同じ固有振動数であった。しかし、その時にも、衝撃源別の固有振動数の差が観察される。一方、密度64 kg/m3のグラスウールを使った浮床の場合は、グラスウール層が衝撃を完全に吸収せずにコンクリート層の振動を木質床に伝えてしまい、中央根太の固有振動数が96 kg/m3のグラスウールを使った浮床と比較して0.3 Hzから1.9 Hzまで減少され、更に中央根太の固有振動数の場合、左右根太の衝撃時の人間のみかけ重さの差以上に固有振動数が減少し、振動特性が悪化した。これからグラスウールが衝撃を吸収出来ないためにコンクリート層の振動モードの影響が大きくなり振動特性が悪化する可能性があることが示唆された。両方の結果から固有振動数はみかけ重さに大きく影響されることが明らかになった。

木質床において転び止め釘接合部は、構造体の一部分としてモーメント抵抗によって荷重を分散させstiffened ribbed plateの役割を果たす。 同時に、衝撃荷重に対しては減衰係数と固有振動数の増加及びモーダルセパレーションを良くするなど、振動性能も向上させる。しかし現実にはこのようなブロッキングのモーメント抵抗成分を考慮した設計規定が曖昧で構造設計においては無視されている。ブロッキング釘接合部の力学的挙動には釘と木口面方向の木材間の摩擦力、釘頭のめり込み、釘胴体の変形、釘胴体のめり込み、釘頭の回転等が影響する。その中で、重要な影響因子は釘と木材間の摩擦力と釘頭のめり込みである。本研究ではこのような212材転び止め(ブロッキング)釘接合部のモーメント抵抗性能の予測を目的として、種々の因子中で木口面方向木材の釘引き抜き抵抗実験と、CN90釘を用いた212SPFブロッキングと接合部の釘位置による回転抵抗実験を行った。釘1本を用いたブロッキング釘接合部の実験結果から得られた回帰式から、実際に施工される釘2本、3本で留められた接合部の回転抵抗性能の予測可能性を確かめ、釘と木材の引き抜き抵抗及び釘頭のめり込みの影響を確認した。

図2はブロッキングと釘1本で留められた接合部の接合位置毎の最大モーメントと釘の接合位置別最大モーメントの関係である。Table1は釘2本あるいは3本を接合した場合と、釘頭のめり込みの影響を確認するため釘頭に座金を設置した時の最大モーメントの計算値と実験値である。相当な正確度で回転抵抗性能の予測が可能なことが確かめられた。また釘頭の回転とめり込みの影響を確かめるために、釘頭に座金を設けて実験した結果、釘頭のめり込み及び回転防止により、座金がない場合に比べて初期剛性は21%程度増加するが、最大モーメントはむしろ減少した。この結果から0.00058ラジアン以上の回転変形では釘頭のめり込み及び回転を通じてモーメントが吸収されることが類推される。

図2の結果からブロッキング釘接合部は回転中心から160mmまでは釘軸部のせん断変形に支配される領域で、160mmから288mmまでは釘とブロッキング材間の摩擦力と釘頭のめり込みに支配されることが確認された。そして、 釘1本で作られたブロッキング釘接合部の実験から得られた回帰式の有効性が確認され(図3)、ブロッキング釘接合部の最大モーメント抵抗が高い精度で釘の打ち込む場所だけで予測出来た。そして 釘接合部の最大モーメント抵抗に対するブロッキングの密度の影響は無視出来ることが確認された。

図1.FNF deviation by different human induced impact source and impact position. (a)(c) is the specimen which was established the 64 kg/m3 glass wool, (b)(d) is the specimen which was established the 96 kg/m3 glass wool. Where, (a) and (b) are the case that impact position was changed by perpendicular to the joist direction, and (b) and (d) are the case that impact position was changed by parallel to the joist direction.

Table 1. Comparison the Calculated Maximum Moments from regression Equation and Experimental Results.

図2.Maximum moment resistance of CN90 and 2x12 SPF nailed blocking joint by nailing position.

図3.Confirmation of maximum moment of multiple nailed joint of blocking between calculated by regression curve and experimental results.

審査要旨 要旨を表示する

木質構造物は壁、屋根、床が組み合わされて建てられるが、人は床上に直接接するためにその床の振動性能は居住性の評価に対して大きな影響を与えるものである。近年、快適な住居環境に対する関心が高まるにつれて、床衝撃音及び歩行による床振動に対しても居住者の要求は高まっており、さらに、新しい構造材料の開発と、より快適で開放感がある空間に対する要求から、構造躯体のスパンが長くなる傾向にある。本研究では木質床およびコンクリート層を有する木質床の構造解析の為に解析モデルを提案し、モデルの有効性を実験結果と比べ確認した。そして、重・軽量衝撃音と使用性に基づいた自由振動に対する性状を実験的に確認した。床衝撃音に対する性能改善効果が認められているコンクリート層とグラスウールの浮床層で構成される床の振動特性は木質床とは大きく異なるが、本仕様は温水式床暖房型式であるオンドル床を前提にしている。

第3章では衝撃音に対する実験を行い、木質床とコンクリート層を有する木質床共に重量衝撃音に対しては200Hz以下で、軽量衝撃音に対しては500から1600Hz程度の周波数で最大音圧を観察し、衝撃条件と力学的性能が衝撃音に対する重要因子であることを確認している。38mmのコンクリート層は遮音性が高く、衝撃音の低減性能が大きいが、共振周波数の低下が認められている。なお、床に組み合わされる天井部も音圧レベルを10から25dB減少させるが、100Hz付近の共振周波数で注意を払う必要性が確認された。

第4章では枠組壁工法仕様の木質床について、その振動性状を明らかにした。

第5章ではスパン直交方向に挿入される転び止めの釘接合部のモーメント抵抗によって、衝撃荷重に対して減衰係数と固有振動数の増加及びモーダルセパレーションが改良されることから、その影響因子として釘と木口面方向の木材間の摩擦力、釘頭のめり込みや回転、釘胴部の変形やめり込み等を検討している。その結果、釘と木材間の摩擦力と釘頭のめり込みが重要な影響因子であることを明らかにした。釘1本を用いたブロッキング釘接合部の実験結果から得られた回帰式から、実際の仕様である複数釘で留められた接合部の回転抵抗性能の予測し、回帰式に基づいて構造計算に使われる回転剛性を得ている。また、釘頭に座金を加えた試験結果から、座金による釘頭のめり込み及び回転防止によって、座金がない場合に比べて初期剛性は21%程度増加するが、最大モーメントはむしろ減少することを明らかにした。ブロッキング釘接合部は回転中心から160mmまでは釘軸部のせん断変形に支配される領域で、160mmから288mmまでは釘とブロッキング材間の摩擦力と釘頭のめり込みに支配されることも確認された。また、釘接合部の最大モーメント抵抗に対するブロッキング材の比重の影響は無視出来ることが確認された。そして、コンクリート層の影響、転び止めの回転剛性が反映された解析モデルにより、最大たわみや固有振動数を予測した結果は高い精度で実験値と一致した。

第6章では異なる密度のグラスウールで作った浮床の衝撃源と衝撃場所による固有振動数の変化を確認し、密度64kg/m3のグラスウールを用いた浮床の場合は、グラスウール層が衝撃を完全に吸収して、衝撃源別の固有振動数の差は認められるものの、衝撃箇所にはあまり関係なく同じ衝撃源に対しては同一の固有振動数であった。一方、密度96kg/m3のグラスウールを使った浮床の場合は、グラスウール層が衝撃を完全に吸収せずにコンクリート層の振動を木質床に伝えてしまい、中央根太の固有振動数は64 kg/m3のグラスウールを使った浮床と比較して0.3Hzから1.9Hz低下し、これからグラスウールが衝撃を吸収出来ないためにコンクリート層の振動モードの影響が大きくなり振動特性が悪化する可能性があることが示唆された。以上の結果から固有振動数はみかけ重さに大きく影響されることが明らかになり、人の重さに対しても、姿勢に依って固有振動数が0.1から1.6Hzまで変化し、さらに同じ姿勢に対しても衝撃場所に依って固有振動数ことが確認された。

第7章では居住性能の指標に対する木質床とコンクリート層を有する浮床の性能値をプロットし、コンクリート浮床の遮音性に対する優位性が確認されたが、振動性状としてはコンクリート層を支える木質床の基本性能が重要であることが確認された。

第8章では枠組壁工法の実大床によって実際の仕様と振動性状についてさらに細かく検討を加え、予測式の有用性を確認した。

以上本論文は、木質構造における床の静的荷重と動的荷重に対する挙動を実験的に観察し、その影響因子である転び止めの効果と、さらに遮音性能向上と温水式床暖房の施工のために加わるコンクリート層の影響を検討したものであり、そこから導かれた固有振動数の予測式は精度が高いことが認められ、学術上、応用上貢献するところが少なくない。よって、審査員一同は本論文が博士(農学)の学位論文として価値あるものと認めた。

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