学位論文要旨



No 121720
著者(漢字) 李,紅
著者(英字) LI,HONG
著者(カナ) リー,ホン
標題(和) 含窒素有機化合物の超臨界水酸化反応の速度論及び反応機構に関する研究
標題(洋) Study of Kinetics and Mechanisms in Supercritical Water Oxidation of Nitrogenous Organic Compounds
報告番号 121720
報告番号 甲21720
学位授与日 2006.06.15
学位種別 課程博士
学位種類 博士(工学)
学位記番号 博工第6325号
研究科 工学系研究科
専攻 化学システム工学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 教授 大島,義人
 東京大学 教授 越,光男
 東京大学 教授 土橋,律
 東京大学 助教授 戸野倉,賢一
 東京大学 教授 勝村,庸介
内容要旨 要旨を表示する

1. 緒言

 超臨界水酸化反応(SCWO)は、有機廃液処理に用いられる環境修復技術であり、超臨界水の特徴的な物性によって、廃液処理を行う上で好ましい化学的反応場を実現することができる。これまでの研究により、超臨界水酸化反応は非常に高速で進行し、含窒素有機化合物でも二酸化炭素と窒素まで完全酸化されることが知られている。また、同技術を工業廃水や化学兵器、製紙工場の余剰汚泥といった実際の廃棄物処理に適用した場合でも、99.99%を超える高い分解率で処理することができることが実証されている。

 過去の研究では、数多くの有機化合物について研究が進められており、超臨界水酸化反応による有機化合物の分解機構については多くの知見が得られている。研究対象も、比較的単純な炭化水素から芳香族炭化水素、プラスチックなどの固形有機物に至るまで、幅広い有機化合物について検討がなされている。また、水素やCO、メタン、メタノール、フェノール、ベンゼンなどの超臨界水酸化反応は、気相の燃焼反応をベースとした素反応モデリング(DCKM: detail chemical kinetics model)と呼ばれる手法によって解析が行われている。

 これらの有機化合物と比較して、含窒素化合物の超臨界水酸化反応に関する研究例はあまり多くなく、速度論的な検討を行った例は、DCKMを含めてごくわずかにとどまっている。分子内にC-N結合を含むメチルアミンやエチルアミンのような比較的単純な構造のアミン類は、より複雑な含窒素化合物の分解過程の中間体としても生成する。N-N結合を持っヒドラジン(N2H4)やそのメチル置換体であるジメチルヒドラジン(UDMH: unsymmetrical dimethyl hydrazine)は、化学工業プロセスでもしばしば用いられる。これらの含窒素化合物を高速かつ高効率で処理する技術は、廃棄物による環境汚染対策としても非常に重要である。

 本研究では、これらの背景をふまえ、メチルアミン類およびヒドラジン類をそれぞれC-N、N-N結合を有するモデル化合物とし、含窒素化合物の超臨界水酸化反応に関する速度論的知見を得ることを目的とする。具体的には、実験的手法によって各化合物の超臨界水酸化反応の速度を求める一方、DCKMを用いた解析によって、寄与の大きい反応を素反応レベルで特定するとともに、反応速度や機構について議論した。

2. 実験

 反応装置の図をFig.1に示す。反応器には通常の流通式管型反応器を用い、生成した気体成分はGC-TCD(オンライン分析)、液体成分はGC-FID、イオンクロマトグラフィー、全有機炭素計、CIE (Cyanide Ion Electrode)を用いて、それぞれ分析した。

3. 超臨界水中のヒドラジン類の熱分解と酸化分解

 実験は300-450℃、25MPa.反応物の初期濃度0.1-0.4%(常温常圧換算)の条件で行った。ヒドラジンの熱分解の場合、N2とNH3を生成する並列反応で進行し、その比は0.3:0.65(N原子比)であることが確認された。この結果は、以下の反応が量論的に進行すると考えることで説明できる。

3N2H4→4NH3+N2

 ヒドラジンの超臨界水酸化反応では、400℃において0.3秒以内に完全酸化されることが実験的に示され、反応速度が熱分解よりも圧倒的に大きいことが確認された。ヒドラジン中のN原子はほとんどがN2に酸化され、NH3を生成する割合は10%以下であった。生成物より、この酸化反応はヒドラジンからの逐次的脱水素によって進行すると考えられる。熱分解及び酸化反応の擬一次速度定数を求め、それぞれの温度依存性より、活性化エネルギーは各々15.9、24.7kcal/molであると計算された。

 ジメチルヒドラジン(UDMH)の400℃、25MPaにおける実験(400℃、25MPa)では、主な生成物は、気体成分としてN2やメタン、エタン、液体成分としてアンモニア、ジメチルアミン、モノメチルアミンであった。これらの生成物は、いずれも並列反応によって生成すると考えられる。また、formaldehyde dimethylhydrazone (FDMH)やmethylene methylamine (CH3N=CH2)3量体の生成も確認された。

 ジメチルヒドラジンの酸化反応では、湿式酸化法など他の処理方法で問題となる有害物質Nitrosodimethylamine (NDMA)の生成について、温度や反応物濃度、共存成分などの条件依存性を調べ、超臨界水酸化反応法ではその生成が有効に抑制できることを明らかにした。

4. モノメチルアミンの超臨界水酸化反応

 実験は、400-480℃、25MPa、完全酸化の量論に対して大過剰の酸素存在下で行った。反応率の条件依存性の結果から、メチルアミンの一次反応を仮定し、総括反応速度定数が

k[s(-1)]=10(12.3±1.0)exp(-(39.3±3.3)[kcal/mol]/RT)

と求められた。窒素原子を含む生成物は、アンモニアが主生成物であり、N2OやN2もわずかに観測された。炭素原子については、COが主生成物として観察されたが、炭素バランスよりホルムアルデヒドも中間体として生成している可能性が示唆された。

 このような実験結果について、DCKMによる解析を試みた。用いた反応モデルは、既に報告されているKantakらによる高温気相酸化反応のモデルと、Cullisらの低温気相酸化反応のモデルを組み合わせた上で、Kantakらのモデルに以下の修正を施したものである。

(1) 本反応系に関係のないC2とC3の炭化水素に関係する反応を取り除き、高温の燃焼で考慮すべきいくつかの素反応を加えた。

(2) NISTの最新データや、メタン、メタノール、CO、水素などの超臨界水酸化反応について報告されている論文のデータを用い、C1や無機ラジカルが関与する反応の速度パラメータを更新した。

 通常、超臨界水酸化反応は400-600℃といった温度領域で行われるため、中低温領域の気相燃焼反応で重要な反応となる酸素分子の不可反応(R+O2⇔RO2)について考慮しなければならない。この反応によって生成するNH2CH2O2、CH3CH(O2)NH2などのパーオキシラジカルは、Cullisらの脂肪族アミンの低温酸化モデルにも含まれている。熱力学データ等を用い、NH2CH2+O2⇔NH2CH2O2の天井温度を計算したところ、本反応系においても酸素付加反応によるパーオキシラジカルの生成を、モデル中に考慮しなければならないことが明らかになった。そこで、このパーオキシラジカルに関わる以下のような素反応をモデルに含めることとした。

各素反応の速度パラメータは、Bensonの加成則または類似する炭化水素の反応速度パラメータを参考に決定した。シミュレーション計算にはCHEMKIN 3.7を用いた。

 計算の結果は、Fig. 2に示すように、先の実験結果におけるメチルアミンの反応率やNH3選択率の温度依存性や酸素濃度依存性を良く再現した。感度解析によって本反応系に重要な素反応を調べたところ、CH2NH2への酸素付加反応がアンモニアの生成に大きく寄与していることが確認された。計算によって推定される本反応の機構をFig. 3に示す。

5. エチルアミンの超臨界水酸化反応

 エチルアミンの超臨界水酸化反応を、400-450℃、25MPaの条件で行った。反応率の温度依存性の傾向はメチルアミンの系と類似しており、温度の上昇にともなって見かけの誘導期が短くなった。生成物についても、メチルアミンの系と同様、NH3の生成が顕著であったが、COやmethanol、CO2、acetonitrileなどが二次的に生成することが確認された。また、微量のN2O、dimethylamineが観察された。炭素を含む生成物としては、アセトアルデヒドが中間体として生成することが明らかになった

 メチルアミンで行った素反応モデルシミュレーションを、エチルアミンの系に拡張して検討を行った。モデルには、メチルアミンの素反応モデルに加え、CH3CH (O2)NH2が関与する反応と、アセトアルデヒドの気相高圧酸化反応で報告されている反応を組み込んで、計算を行った。

 計算結果をFig. 4に示す。先の実験結果、特に高い反応率領域でのCO、メタノール、アンモニアの各生成挙動を精度良く再現しており、このモデルの妥当性が確認された。但し、アセトアルデヒドの生成については必ずしも良い一致が得られず、既報の気相反応の速度パラメータを超臨界水酸化反応条件に適用する際に検討を加える必要性が示唆された。

6. ジメチルアミン及びトリメチルアミンの超臨界水酸化反応

 メチルアミンの誘導体として、ジメチルアミン及びトリメチルアミンの超臨界水酸化反応を400℃-450℃、25MPa、酸素大過剰の条件で行った。反応率をもとに計算される擬一次反応速度より、各反応の活性化エネルギーは、10.3±2.4、17.6±3.7(kcal/mol)であると求められた。誘導期はFig.5に示されたようにジメチルアミンの系のみ観察され、トリメチルアミンの系では観察されなかった。

 ジメチルアミンの反応機構について、各生成物の生成挙動から、窒素については(CH3)2NH→CH3NH2→NH3、炭素については(CH3)2NH→HCHO→CO→CO2の経路をたどって完全酸化に至ると推測された。トリメチルアミンの超臨界水酸化反応においても、主生成物はモノメチルアミンであり、アンモニアやCOの生成はわずかであった。また、ジメチルアミンやHCHOが中間体として生成するほか、窒素収支、炭素収支とも1を下回っていることから、何らかの含窒素有機化合物(未同定)が生成しているのではないかと推測される。

 ジメチルアミンとトリメチルアミンの熱分解(或は加水分解)の実験を行った。酸素が存在しない場合、両者とも転化率が非常に低いことからジメチルアミン、トリメチルアミンの超臨界水酸化反応が酸素による水素抜き反応から始まると推測される。

 次にGaussian 03を使いab initio分子軌道理論計算により下記の反応の天井温度を計算した。

(CH3)2N+O2⇔(CH3)2NO2

CH3NHCH2+O2⇔CH3NHCH2O2

(CH3)2NCH2+O2⇔(CH3)2NCH2O2

 計算結果(Table 1)より、ジメチルアミンから生成したCH3NHCH2ラジカルと、トリメチルアミンから生成した(CH3)2NCH2ラジカルへの酸素付加反応が進行すると示唆された。

 更にCH3NHCH2、(CH3)2N、(CH3)2NCH2それぞれのβ-解裂と酸素による水素抜き反応について検討した。これらの実験データがないので報告された類似反応に基づいてCH3NHCH2、(CH3)2N、(CH3)2NCH2に関する反応について検討した。

 計算結果より、n-C3H7とiso-C3H7のβ-解裂反応がn-C3H7の酸素付加反応より遅い(K(O2 addtion)[O2]/K(β-scission)〓3.4×10(4) at 673K、O2=2 x 10(-3)mol/l)ことと、酸素によるiso-C3H7の水素抜き反応がそのβ-解裂反応より非常に速いこと(K(H-acstration by O2)[O2]/K(β-scission)=1.9×10(4) at 673K and O2=2 x 10(-3)mol/l)が分かった。これらの議論に基づき、ジメチルアミンの超臨界水酸化反応では、CH3NHCH2の酸素付加反応と酸素による(CH3)2Nの水素抜き反応が、それぞれのβ-解裂反応より進行すると推定した。

 一方iso-C4H9の酸素付加反応とそのβ-解裂反応の比率が温度に依存し、温度上昇と共にβ-解裂反応の方がより速く進行することが計算により示された。更にトリメチルアミンのC-N結合がiso-ブタンのC-C結合より弱いことから、トリチルアミンの超臨界水酸化反応では(CH3)2NCH2のβ-解裂反応の方が有利に進行し、そのため誘導期が観察されないと考えられる。

 超臨界状態にある水の生成熱とエントロピーが常温常圧水時と比べて大きく違い、CH3NH+H2O→CH3NH2+OH反応のエンタルピーが減少し、かつエントロピーが増加することから、この反応の平衡定数が非常に大きいことが分かった。よって、この反応は超臨界水中有利に進行すると推定した。

 以上の議論より、ジメチルアミン、トリメチルアミンの超臨界水酸化反応に対してFig.6(c,b)のような反応機構を提案した。イミンの生成は本実験において確認されていないが、既往の研究によれば、水和反応でイミンからのモノメチルアミンの生成が報告されており、この機構によって、トリメチルアミンからジメチルアミンを経由せずにモノメチルアミンが生成する実験事実を定性的には矛盾なく説明することができる。

7. 結言

 メチルアミン類およびヒドラジン類をそれぞれC-N、N-N結合を有するモデル化合物とし、含窒素化合物の超臨界水酸化反応に関する速度論的知見を得た。

(1) ヒドラジン及びその誘導体であるUDMHの熱分解及び酸化分解を実験的に行い、超臨界水酸化反応によって、NDMAのような有害な中間体を生成することなく高効率で完全分解できることを確認した。

(2) メチルアミン、エチルアミンの超臨界水酸化反応において、分解速度や生成物分布の反応条件依存性を実験的に調べるとともに、実験結果を定量的に再現できる素反応モデルを構築した。超臨界水酸化反応の温度領域は、気相の燃焼反応に比べて低いため、反応基質から水素原子が引き抜かれて生成するラジカルへの酸素付加反応の寄与が大きく、このパーオキシラジカルからの分解が含窒素化合物の選択性に非常に大きく影響することを明らかにした。

(3) ジメチルアミン及びトリメチルアミンの超臨界水酸化反応で、それぞれの系における反応速度及び主たる分解経路を実験的に明らかにした。ジメチルアミンの超臨界水酸化反応ではCH3NHCH2の酸素付加反応と(CH3)2Nの酸素による水素抜き反応が有利に進行し、連鎖反応によってOHラジカルが生成されることから、短い誘導期が観察される。一方、トリメチルアミンの系では、β-解裂反応は有利に進行し、その結果、誘導期が観察されなかったと考えられる。

Fig.1 Experimental setup

Fig. 2 Comparison of predicted effect of temperature and O2 concentrations on the NH3 selectivity with our experimental results

Simulation: at 400℃, Q=2.5 (◇) and 1.2 (*), at 480℃, Q=2.5 (△), and 0.8 (○). Experiment: at 400 ℃, Q=2.5 and 1.2 (◆), at 480℃, Q=2.5 and 0.8 (▲). (Q: O2/CH3NH2 stoichiometric ratio)

Fig. 3 Major reaction pathways predicted by net reaction rate analysis in SCWO of methylamine

Fig. 4 Comparison of the conversion and the product yields between experimental results and the predicted values by DKCM at 400℃ and 25 MPa. Solid lines: predicted results; symbols: experimental data.

Fig. 5 (a, b) Pseudo-first order plot for the disappearance of dimethylamine and trimethylamine kinetics at 400-450℃ and 25 MPa (a): DMA, (●) 400℃, (◇) 420℃, (▲) 450℃; (b): TMA, (●) 400℃, (◇) 420℃, (▲) 450℃.

Table 1 Ceiling temperature of N-containing peroxide calculated with G3B3

[O2]: responding to the concentration of O2 at 400-450℃ in SCW. Unit: mol/1

Fig. 6 Proposed reaction mechanisms of SCWO of methylamines at 400-450℃ and 25 MPa (a): monomethylamine, (b): dimethylamine, (c): trimethylamine.

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、「Study of Kinetics and Mechanisms in Supercritical Water Oxidation of Nitrogenous Organic Compounds(含窒素有機化合物の超臨界水酸化反応の速度論及び反応機構に関する研究)」と題し、これまで研究例が少ない含窒素有機化合物の超臨界水酸化反応について、ヒドラジン類やアミン類をモデル物質として取り上げ、その酸化分解挙動を実験的に明らかにするとともに、素反応モデリングによる反応解析を行うことによって、同反応の速度論的、機構論的特徴を明らかにすることを目的とした研究であり、全7章からなる。

 第1章は緒言であり、研究の背景や目的が述べられている。まず、超臨界水酸化反応による廃棄物処理の一般的特徴について述べた上で、有機化合物に関する豊富な研究例に比べて、含窒素化合物の超臨界水酸化反応に関する研究例が少なく、その反応機構に関する知見が十分に得られていないことを紹介している。このような背景をふまえ、本研究では、C-N、N-N結合を分子内に有し、比較的簡単な構造であるヒドラジン類およびメチルアミン類をモデル物質として選択し、実験的手法及び素反応モデルに基づくシミュレーション計算によって、含窒素化合物の超臨界水酸化反応に関する速度論および反応機構に関する知見を得ることを目的とするとしている。

 第2章では、本研究で用いた実験及び計算の手法について述べている。実験については、用いた反応装置や、反応条件および分析条件について詳しく説明している。計算については、気相燃焼反応の分野で蓄積された膨大な素反応研究の成果を活用し、関与することが予想される全ての素反応を網羅的に並べあげ、各速度パラメータを用いてシミュレーション計算を行う素反応モデリングの手法を用いて行ったことを述べている。また、第4章以降で反応機構を議論する際に必要となる、ラジカルへの酸素付加反応の天井温度の計算方法についても説明を加えている。

 第3章では、ヒドラジンおよびメチルヒドラジンの超臨界水中の熱分解および酸化分解について議論している。ヒドラジンの場合、熱分解では窒素とアンモニアを量論的に生成する反応が主であるのに対し、酸化反応では熱分解に比して速度が圧倒的に大きく、逐次的脱水素反応によって窒素が主生成物となることを実験的に明らかにしている。ジメチルヒドラジンの超臨界水酸化反応については、置換基であるメチル基の酸化反応が並列的に起こること以外は、基本的にヒドラジンと同様の分解機構を示し、湿式酸化法など他の処理方法で問題となる有害物質ニトロソジメチルアミンを生成することなく完全分解することが可能であることを示している。

 第4章では、モノメチルアミンの超臨界水酸化反応について検討している。分解率の条件依存性を調べた実験などから総括反応速度式を決定するとともに、反応基質であるメチルアミン中の炭素および窒素原子が、それぞれ一酸化炭素、アンモニアとして生成することを実験的に確認している。また、素反応モデルに基づくシミュレーション計算により、気相の燃焼反応では寄与が小さいとされるCH2NH2ラジカルへの酸素付加反応が、超臨界水中の酸化反応では重要な役割を果たしていること、実験における高いアンモニア収率は、溶媒である水が反応物としてNH2ラジカルに水素付加する素反応によって説明できること、などを明らかにしている。

 第5章は、モノメチルアミンの置換基をエチル基に変え、分子内にC-N結合とC-C結合を同時に有する場合の、反応速度や機構に対する影響について検討している。実験の結果、置換基の酸化反応が並列的に起こるものの、C-N結合の分解については置換基の影響は小さく、モノメチルアミンとほぼ同様の機構で説明できることを明らかにしている。また、前章で用いたモノメチルアミンのモデルを拡張し、これまでに報告例がないエチルアミンの素反応モデルを提案し、実験結果と比較することによってその妥当性を検証している。

 第6章では、ジメチルアミンおよびトリメチルアミンを反応基質とし、置換基であるメチル基の数の違いが及ぼす反応速度や機構への影響について議論している。ジメチルアミンの系では反応初期に誘導期が観測され、ラジカル連鎖反応として進行するのに対し、トリメチルアミンの場合には、見かけの誘導期は観察されず、モノメチル、ジメチル体とは異なる反応機構で進行する可能性が示唆されたとしている。また、天井温度や、酸素分子による水素引き抜き速度などの計算から、ジメチル体では、基質から水素原子が引き抜かれて生成するラジカルに酸素が付加する反応が主な経路であるのに対し、トリメチル体では、酸素付加よりも単分子的脱メチル(β解裂)の方が有利に進行するため、中間体としてイミンを生成し、結果として非連鎖的に分解が進む、といった両者の反応機構の違いを明らかにしている。

 第7章は結言であり、以上の結果を総括するとともに、廃棄物処理技術としての応用に関する本研究の工学的意義および今後の課題について言及している。

 以上要するに、本論文は、これまで研究例が少なかった含窒素化合物の超臨界水酸化反応について、モデル物質を用いた実験によって分解挙動を明らかにし、気相反応と対比しながら超臨界水中の反応速度や反応機構の特徴を体系的に整理するとともに、廃棄物処理技術としての応用に必要となる基礎的な工学的知見を与えるものであり、超臨界流体工学および化学システム工学の発展に大きく寄与するものである。

 よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。

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