学位論文要旨



No 122047
著者(漢字) 松村,和典
著者(英字)
著者(カナ) マツムラ,カズノリ
標題(和) 1細胞培養法による単細胞緑藻類クラミドモナスに共存する独立した細胞周期制御機構の解析
標題(洋) Analysis of distinct cell cycle control mechanisms in Chlamydomonas reinhardtii using single-cell cultivation assay
報告番号 122047
報告番号 甲22047
学位授与日 2007.03.22
学位種別 課程博士
学位種類 博士(学術)
学位記番号 博総合第724号
研究科 総合文化研究科
専攻 広域科学専攻
論文審査委員 主査: 東京大学 助教授 栗栖,源嗣
 東京大学 教授 村田,昌之
 東京大学 助教授 箸本,春樹
 東京大学 教授 渡辺,雄一郎
 東京医科歯科大学 教授 安田,賢二
内容要旨 要旨を表示する

1.背景

 細胞の示す最も重要な生命現象の一つは、細胞周期である。大半の細胞は、細胞分裂完了後、次の分裂までに質量を2倍にすることで、増殖する際、大きさを一定に保っている。このような成長と分裂の調和は、個体の発生過程において、組織や器官が適切な大きさと細胞密度で形成されることを保障する。細胞のほとんどは、細胞周期のうち、G1期のある点において、細胞の成長と分裂の調和を制御している。酵母では、「START」、哺乳類細胞では、「制限点」と呼ばれている。これらの点を通過すると、栄養や増殖因子が無くても分裂を完遂する。ところが、これまでの研究では、細胞周囲の環境を厳密に制御する方法がなかったため、成長と分裂の関係が明確ではなかった。

 そこで、厳密に制御可能な栄養源として光に着目し、光合成によりエネルギーを得る、単細胞緑藻類クラミドモナスをモデル生物とした。クラミドモナスの成長と分裂の関係については、大きさを感知して細胞周期を制御するサイザーと、時間を計測して細胞周期を制御するタイマーという2つの機構の共存が提唱されていたが、それぞれの役割について研究グループ間で一致した見解がなかった。また、これまで用いられてきた培養法では、細胞の位置による受容光強度の変化、直接的細胞間相互作用の存在、増殖に伴う栄養源の減少といった欠点があった。さらに、明暗周期により細胞周期を同調させていたが、同調したとは、言い難い結果であった。

 そこで、本研究は、照射条件を厳密に制御した光環境下における、単細胞緑藻類クラミドモナスの細胞周期制御機構の役割を、1細胞培養計測系を用いて、明らかにすることを目的とする。

2.クラミドモナス用1細胞培養計測系の開発

 細胞間相互作用を排除し、光以外の栄養条件を一定に保つため、所属する研究室で開発されていた「オンチップ1細胞培養系」を、クラミドモナス用に改良した(図1a)。微細加工技術を用いて、スライドグラス上にマイクロサイズの囲い(マイクロチャンバ,図1b)を作成し、その中に細胞を配置した。マイクロチャンバ内の細胞が分裂したら、任意の1つの細胞のみを残して、光ピンセットでマイクロチャンバ外へ移動した(図1c)。これで、細胞間の直接相互作用を排除し、常に1つの細胞を観察する系を実現した。

さらに、マイクロチャンバを覆うガラス製の箱を配置して、空気ポンプによりCO2濃度を一定にした最小培地を0.1ml/分の速さで灌流し、液性因子による間接相互作用の可能性も排除した。また、光源として顕微鏡の観察光を用いることにより、光源からの距離を常に一定に保ち、強度も減光フィルターで厳密に調整した。細胞の動態は、タイムラプス計測で記録し、画像解析を駆使して体積測定を行い、定量的経時変化を捉えた。野生株は、鞭毛で泳いで逃げるため、鞭毛運動能欠失変異株(pf18+)を用いた。

3.連続照射条件下での細胞の成長と分裂の関係

 まず、光を連続照射する条件で培養した。10,20,40,100,200μmol・m(-2)・s(-1)と、さまざまな強度で培養すると、強度によらず、初期体積の約4倍に成長した時点で、分裂期に入り、2回分裂を行い、4つの娘細胞を生んだ。成長(分裂間)期において、細胞の体積が指数関数的な増加をみせたことから、それぞれの強度に対して、単位体積増加速度μを求め、分裂期に入った時刻Tとの積を計算したところ、光強度によらず、μT=1.40±0.23を満たしたところで、分裂期に入ることがわかった。

4.照射停止条件下での細胞の成長と分裂の関係

 次に、細胞が、μT=1.40を満たす前に、照射を停止した場合、分裂を開始するのかどうかを検討した。10,100,200μmol・m(-2)・s(-1)の各強度で培養した。いろいろなタイミングで、照射を停止したところ、照射停止時刻をTL、光照射時の体積増加速度をμL、分裂期に入った時刻をTLDとすると、細胞は、μLT(LD)=1.41±0.19を満たした時点で、分裂期に入った。ただし、照射停止時の細胞体積V(TL)が、V(TL)/V(0)>2.1を満たすときに限られていた。これを下回っていた場合、細胞は、2日以上経っても、分裂を開始しなかった。また、娘細胞の数は、分裂開始時の細胞体積比V(T(LD))/V(0)により決定し、1.8<V(T(LD))/V(0)<3.1の時は、1回分裂して2個の娘細胞、2.9<V(T(LD))/V(0)<4.1の場合は、2回分裂して4個の娘細胞になることが分かった。

5.照射停止再開条件下での細胞の成長と分裂の関係

 さらに、培養途中で照射を停止し、細胞が分裂を開始する前に照射を再開する条件を検討した。光強度200μmol・m(-2)・s(-1)での培養中に、さまざまなタイミングで照射を停止し、かつ、分裂開始前に照射を再開すると、光を照射した時間をTL、明期の成長速度をμL、分裂期に入った時刻をT(LDL)としたとき、μLT(LDL)=1.44±0.22を満たした時点で、収縮を開始することが分かった。また、照射停止時の体積比V(TL)/V(0)が、2.1を下回り、かつ、照射停止時間が極めて長い(9時間)場合、μLT(LDL)は、1.44を大幅に超える。ところが、照射停止時間を除いて計算する、すなわち、照射再開時間をT(LD')としたとき、μL(T(LDL)-T(LD')+TL)は、1.44に近い値となる。また、娘細胞の数は、分裂開始時の細胞体積比により決定することがわかり、V(T(LDL))/V(0)<3.2の時は、1回分裂して2個の娘細胞、2.9<V(T(LDL))/V(0)<4.1の場合は、2回分裂して4個の娘細胞になることが分かった。

6.照射強度を減弱させる条件下での細胞の成長と分裂の関係

 培養途中で、照射を停止する代わりに、減弱させる条件を検討した。光強度を減弱させると、細胞は、体積増加速度を、数十分のうちに変化した後の強度に相当する速度に落とした。光強度を減弱させた時刻をT(L1)、それまでの体積増加速度をμ(L1)、分裂期に入った時刻T(L1L2)をとしたとき、μ(L1)T(L1L2)=1.48±0.23を満たした時点で分裂期に入ることがわかった。強度減弱時の体積比V(TL)/V(0)が、2.1を下回り、かつ、強度を低下させた場合、μ(L1)T(L1L2)は、1.48を大幅に超える。この際に、強度減弱後の成長速度μ(L2)と減弱後から分裂期までの時間T(L2)に対して、μ(L1)T(L1)+μ(L2)T(L2) は、1.48に近い値となることがわかった。また、娘細胞の数は、分裂開始時の体積比により決定することがわかり、V(TL1L2)/V(0)<2.7の時は、1回分裂して2個の娘細胞、2.7<V((TL1L2))/V(0)の場合は、2回分裂して4個の娘細胞になることが分かった。

7.まとめ

 以上の知見を整理すると、単細胞緑藻類クラミドモナスの細胞周期制御機構には、3つの要素があることが分かった(図2)。

 1.閾値体積比による分裂可否を決定する機構の存在

 2.(単位体積増加速度)×(分裂間期時間)=一定 を満たす分裂間期を制御する機構の存在

 3.分裂期開始時体積比に応じて娘細胞数(分裂回数)の決定する機構の存在

 つまり、細胞は初期体積の2倍以上成長していれば、その後の光の強度・照射時間には影響を受けない。よって、閾値体積比は、閾値サイザー、分列数は、分裂サイザーが決定し、分裂開始のタイミングは、成長速度依存タイマーが決定することが示唆された。

<参考文献>K. Matsumura, T. Yagi and K. Yasuda. "Role of timer and sizer in regulation of Chlamydomonas cell cycle."Biochem. Biophys. Res.Comm. 306; 1064-1069. 2003K. Matsumura, T. Yagi and K. Yasuda. "Timer control of interdivision time and sizer control of division number in Chlamydomonas reinhardtii." Biochem. Biophys. Res.Comm. 投稿中

図1 オンチップ1細胞培養計測系の概要図 (a)システム構成 (b)マイクロチャンバ:の形状(c)細胞の孤立状態の維持

図2 細胞の体積と分裂開始の関係の概略図

単位体積増加速度μが、一定ならば、閾値体積比(=照射停止時の体積/初期体積)が、約2倍を越えている限り、同じ時間に収縮を開始し分裂する。約2倍に達していなければ、収縮が開始することはない。娘細胞数は、分裂を開始した時の体積に依存する。分裂開始時の体積が、分裂完了時の体積の約2倍から約3倍に達していれば、1回分裂して2個の娘細胞となる。約3倍から約4倍に達していれば、2回分裂して4個の娘細胞となる。

審査要旨 要旨を表示する

 本論文は、1細胞の状態変化を連続して世代間をまたがって計測することが可能な「1細胞培養計測」技術を用いて、クラミドモナスの細胞周期の制御メカニズムを明らかにすることを目指した研究であり、厳密な光照射環境の制御、細胞の成長速度の計測などを通して、細胞内のサイズ制御因子の存在、タイマー要素の特性などを明らかにした一連の研究成果を報告したものである。

 まず本論文の第1章では、本研究の背景および研究の目的が述べられている。まず、細胞の示す最も重要な生命現象の一つである細胞周期に着目した研究の背景として、さまざまな細胞の細胞周期制御機構についての説明がなされている。具体的には、大半の細胞は、細胞分裂完了後、次の分裂までに質量を2倍にすることで、増殖する際、大きさを一定に保っているが、このような成長と分裂の調和は、個体の発生過程において、組織や器官が適切な大きさと細胞密度で形成されることを保障し、細胞のほとんどは、細胞周期のうち、G1期のある点において、細胞の成長と分裂の調和を制御している。酵母では、「START」、哺乳類細胞では、「制限点」と呼ばれている。これらの点を通過すると、栄養や増殖因子が無くても分裂を完遂する。ところが、これまでの研究では、細胞周囲の環境を厳密に制御する方法がなかったため、成長と分裂の関係が明確ではなかった。そこで、厳密に制御可能な栄養源として光に着目し、光合成によりエネルギーを得る、単細胞緑藻類クラミドモナスをモデル生物としたことが述べられている。クラミドモナスの成長と分裂の関係については、大きさを感知して分裂を制御するサイザーと、時間を計測して分裂を制御するタイマーという2つの機構の共存が提唱されていたが、それぞれの役割や独立性は明確でなかったことから、光の強度と照射時間を制御することで、細胞の成長と分裂の関係について、詳細に検討することを本研究の主題とすることが述べられている。

 第2章では、本研究で用いた「クラミドモナス用1細胞培養計測系」についての詳細な説明と、解析方法についての説明が述べられている。本研究で用いた装置は、細胞間相互作用を排除し、光以外の栄養条件を一定に保つため、すでに開発されていた「オンチップ1細胞培養系」を、クラミドモナス用に改良したものであり、その構成が説明されている。つぎに、微細加工技術を用いて、スライドグラス上にマイクロサイズの囲いを作成し、その中に細胞を配置した細胞培養マイクロチャンバの製法および構成が述べられている。最後に、実験で用いたプロトコルを説明している。具体的には、マイクロチャンバ内の細胞が分裂したら、任意の1つの細胞のみを残して、光ピンセットでマイクロチャンバ外へ移動し、細胞間の直接相互作用を排除し、常に1つの細胞を観察する系を実現している。さらに、マイクロチャンバを覆うガラス製の箱を配置して、空気ポンプによりCO2濃度を一定にした最小培地を0.1ml/分の速さで灌流し、液性因子による間接相互作用の可能性も排除している。また、光源として顕微鏡の観察光を用いることにより、光源からの距離を常に一定に保ち、強度も減光フィルターで厳密に調整している。細胞の動態は、タイムラプス計測で記録し、画像解析を駆使して体積測定を行い、定量的な経時的変化を捉えた。野生株は、鞭毛で泳いで逃げるため、鞭毛運動能欠失変異株(pf18+)を用いたことが報告されている。

 第3章では、連続照射条件下での細胞の成長と分裂の関係についての報告が述べられている。ここでは、最初の実験として、まず、光を連続照射する条件で培養した結果について述べられている。10,20,40,100,200μmol・m(-2)・s(-1)と、さまざまな強度で培養すると、強度によらず、初期体積の約4倍に成長した時点で、分裂期に入り、2回分裂を行い、4つの娘細胞を生んだ。成長(分裂間)期において、細胞の体積が指数関数的な増加をみせたことから、それぞれの強度に対して、体積増加速度μを求め、分裂期に入った時刻Tとの積を計算したところ、光強度によらず、μT=1.40±0.23を満たしたところで、分裂期に入ることが説明されている。

 第4章では、照射停止条件下での細胞の成長と分裂の関係についての報告が述べられている。ここでは、細胞が、μT=1.40を満たす前に、照射を停止した場合、分裂を開始するのかどうかを検討し、10,100,200μmol・m(-2)・s(-1)の各強度で培養したあとで、いろいろなタイミングで照射を停止したところ、照射停止時刻をTL、光照射時の体積増加速度をμL、分裂期に入った時刻をT(LD)とすると、細胞は第3章と同様にμLT(LD)=1.41±0.19を満たした時点で、分裂期に入った。ただし、照射停止時の細胞体積V(TL)が、V(TL)/V(0)>2.1を満たすときに限られていた。これを下回っていた場合、細胞は、2日以上経っても、分裂を開始しなかった。また、娘細胞の数は、分裂開始時の細胞体積比V(TLD)/V(0)により決定し、1.8<V(T(LD))/V(0)<3.1の時は、1回分裂して2個の娘細胞、2.9<V(T(LD))/V(0)<4.1の場合は、2回分裂して4個の娘細胞になることが報告されている。

 第5章では、照射停止再開条件下での細胞の成長と分裂の関係を報告している。ここでは、第4章の実験に引き続き、さらに、培養途中で照射を停止し、細胞が分裂を開始する前に照射を再開する条件を検討した。光強度200μmol・m(-2)・s(-1)での培養中に、さまざまなタイミングで照射を停止し、かつ、分裂開始前に照射を再開すると、光を照射した時間をTL、明期の成長速度をμL、分裂期に入った時刻をT(LDL)としたとき、μLT(LDL)=1.44±0.22を満たした時点で、収縮を開始することが分かった。また、照射停止時の体積比V(TL)/V(0)が、2.1を下回り、かつ、照射停止時間が極めて長い(9時間)場合、μLT(LDL)は、1.44を大幅に超える。ところが、照射停止時間を除いて計算する、すなわち、照射再開時間をT(LD')としたとき、μL(T(LDL)-T(LD')+TL)は、1.44に近い値となる。また、娘細胞の数は、分裂開始時の細胞体積比により決定することがわかり、V(T(LDL))/V(0)<3.2の時は、1回分裂して2個の娘細胞、2.9<V(T(LDL)/V(0)<4.1の場合は、2回分裂して4個の娘細胞になることが分かったことが報告されている。

 第6章では、照射強度を変化させる条件下での細胞の成長と分裂の関係を述べている。今回の実験では、第5章の実験の対照実験として、培養途中で、照射を停止する代わりに、変化させる条件を検討した。光強度を変化させると、細胞は、数十分のうちに変化した後の強度に相当する速度で体積を増加させた。光強度を変化させた時刻をT(L1)、それまでの体積増加速度をμ(L1)、分裂期に入った時刻T(L1L2)をとしたとき、μ(L1)T(L1L2)=1.48±0.23を満たした時点で分裂期に入ることがわかった。強度変化時の体積比V(TL)/V(0)が、2.1を下回り、かつ、強度を低下させた場合、μ(L1)T(L1L2)は、1.48を大幅に超える。この際に、強度変化後の成長速度μ(L2)と変化後から分裂期までの時間にT(L2)対して、μ(L1)T(L1)+μ(L2)T(L2)は、1.48に近い値となることがわかった。また、娘細胞の数は、分裂開始時の体積比により決定することがわかり、V(T(L1L2))/V(0)<2.7の時は、1回分裂して2個の娘細胞、2.7<V(T(L1L2))/V(0)の場合は、2回分裂して4個の娘細胞になることが分かったことが報告されている。

 第7章では、上記第3章から6章までの実験結果に基づいて、姉妹細胞間、子孫細胞間、任意選択細胞間の比較解析による成長と分裂を制御する機構のゆらぎの傾向とその原因についての総合討論がなされている。適応という観点からみると、同一の遺伝情報を有していても、細胞のふるまいにばらつぎが生じることは、重要なことといえる。よって、成長と分裂を制御する機構が、どの程度ゆらぐのか、また、そのゆらぎが何に由来するのかを検討するため、姉妹細胞間、子孫細胞間、そして、任意で選択した細胞間における体積増加速度差、体積増加速度と分裂期突入時刻の積の差、すなわち、μとμTの差を求め、分布を調べた。その結果、姉妹細胞間の差のばらつきが、他の二つの差のばらつきよりも少ないことが傾向として表れた。子孫細胞間の差と任意選択細胞間の差の違いは、実験数が少ないことから、結論を出すに至らなかった。しかし、姉妹細胞間の差が比較的少ないことから、細胞の振る舞いのばらつきの原因は、不等分配ではないことが示唆された。

 第8章では、本研究を総括して、まとめが述べられている。本研究をまとめると単細胞緑藻類クラミドモナスの成長と分裂の制御機構には、次に述べる3つの機構があることが分かったことが報告されている。

1.閾値体積比の存在

2.(体積増加速度)×(分裂完了から分裂開始までの時間)=一定

3.体積比による娘細胞数(分裂回数)の決定。

つまり、細胞は初期体積の2倍以上成長していれば、その後の光の強度・照射時間には影響を受けない。よって、閾値体積比は、閾値サイザー、分列数は、分裂サイザーが決定し、分裂開始のタイミングは、タイマーが決定すること、そして、それぞれが独立に機能している可能性が示唆された。また、機構のゆらぎに起因するばらつきは、姉妹間ではなく世代間で生じることが示唆された。

 この成果は、「細胞周期の制御機構」という課題を、微細加工技術を巧みに利用することで、1細胞を数日にわたって、世代を超えて連続計測することを可能にすることで初めて明らかにすることができたものである。このように、従来の互いに矛盾する複数の周期制御メカニズムでは予測されなかった詳細な分裂開始点の決定機構の発見は、今までの多くの矛盾する研究報告成果を包括して説明可能にするものであり、このこと自体が、その研究水準の高さを示すものと考えられる。今後は、この真核細胞の制御機構がどこまで一般の真核細胞で統一して議論できるかを明らかにすることが研究の課題となると考えられる。

 したがって本審査委員会は博士(学術)の学位を授与するにふさわしいものと認定する。

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