No | 123416 | |
著者(漢字) | 王,文軍 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | ワン,ウェンジュン | |
標題(和) | アクティブ制御と独立回転車輪を用いる走行装置開発による鉄道車両の曲線通過性能向上に関する研究 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 123416 | |
報告番号 | 甲23416 | |
学位授与日 | 2008.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(工学) | |
学位記番号 | 博工第6732号 | |
研究科 | 工学系研究科 | |
専攻 | 産業機械工学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | 1.緒言 鉄道車両の曲線通過性能は,高速走行安定性と相反する関係があり,両立のための研究開発が行われてきた.従来の一体輪軸では,急曲線旋回性能の限界があり,地下鉄やLRT(Light Rail Transit)などの都市交通システムへの一層の取り組みが必要である.また,従来の曲線通過性能の研究では,左右方向のダイナミクスが主体であり,前後方向の運動,すなわち駆動・制動力や,上下方向における輪重の変動の考慮はあまり行われていない,本研究は,駆動・制動力を考慮した新方式独立回転車輪を用いる走行装置の開発研究,アクティブ制御により車体傾斜および輪重アンバランスを抑制することにより,鉄道車両の曲線通過性能を向上することを試みたものである. まず,提案されている自己操舵性独立回転車輪を用いる走行装置に駆動力を加える場合の課題を解明し,駆動・制動力を考慮した新方式独立回転車輪を用いる自己操舵性走行装置を提案する. 続いて,交差点通過時などの曲線半径10mという超急曲線を旋回可能なLRV(Light Rail Vbhicle)を実現させるため,逆勾配踏面形状の車輪を用いる新方式独立回転車輪走行装置を提案する. さらに,構造簡単かつフェイルセイフ性の高い新方式空気ばね制御装置による車体傾斜制御システムを提案し,都市鉄道などの曲線通過時の乗り心地を向上させる. 最後に,提案する空気ばね制御装置を活用し,低速で出口緩和曲線通過時の輪重抜けを抑制し,急曲線通過安全性を向上する. 以上のアクティブ制御と独立回転車輪を用いる走行装置開発により,鉄道車両の曲線通過性能を向上する方策を考案し,特に地下鉄やLRTなどの都市鉄道交通システムのさらなる可能性を提供する. 2.駆動躯動・制動力を考慮した 独立回転車輪を用いる走行装置 図1に示す従来提案されている自己操舵性独立回転車輪を用いる走行装置[1]は,駆動・制動力を加えると,駆動力から生じる逆操舵モーメントが支配的になり,図1に示す重力復元力による自己操舵能力ななくなり,偏り走行に至る. そこで,図2に示す駆動・制動力を考慮した独立回転車輪を用いる走行装置を提案する[2]. 提案する台車では,中間位置に台車枠を設け,その台車枠に独立回転車輪を設置する.台車枠の両端にジョイントを介し,それぞれ操舵輪ペアーを取り付ける.両側の操舵輪はリンク機構により連結され,台車枠取り付けジョイント回りの操舵角を付けるようになる.駆動・制動力は,台車枠に取り付けされる駆動輪に加え,両端に取り付けられる操舵輪ペアーにより操舵機能を図る.操舵輪には駆動・制動力を加えないため,重力復元力による操舵機能が駆動・制動力からの影響を受け,自己操舵機能が損なわれることが回避できる. 理論モデルによる安定解析を行い,図3に示す操舵角連動リンク機構により,安定する走行を実現し,スケールモデルの試作車両による走行実験にて駆動と操舵の両立を確認した. 3.新方式独立回転車輪を用いる 自己操舵性走行装置 図1に示す走行装置では,ヨー方向回転中心を車輪・レール接触点の外側へ移すことにより,独立回転車輪に自己操舵能力を与えている方法に対し,図5(b)に示すように逆勾配踏面形状の車輪を用い,重力復元力の方向を外側向きに変えることにより,独立回転車輪の自己操舵能力を実現する新方式走行装置を提案する. 提案する新方式独立回転車輪を用いる走行装置は,図1に示す従来提案に必要する操舵リンクなどによる機構の複雑化を回避できる.また,提案する走行装置は,左右の車輪が回転軸を共有するため,従来提案する走行装置におけるリンク機構の操舵動作による車輪ペアーのバックゲージ縮小や,内外軌曲線半径差によるアタック角などの超急曲線旋回時の課題を解決できる.また,図5(c)に示す貫通軸なし形式により,低床車も対応できる. 図6に示すスケールモデルで提案する走行装置の自己操舵機能を確認した上,提案する走行装置に適応する車輪踏面形状設計理論を考案した.従来の一体輪軸における車輪踏面形状設計とは別に,重力復元力を注目し,厳密の接触幾何学的な計算を行い,提案する走行装置に確実の横方向復元力を発生できる非線形車輪踏面形状の設計指針を考案した. 図7に示すように左右変位が生じる際,車輪ペアーの重心位置は上昇することを確保すれば,重力による復元力が発揮できるため,重心軌跡を基づき,車輪・レールの接触点を探索し,車輪の踏面形状点を算出するアルゴリズムを開発した. 提案した独立回転車輪の踏面形状設計理論を用い,マルチボディダイナミクス解析コードSIMPACKTMを利用し,図8に示す一車両シミュレーションモデルを構築し,曲線半径10mである超急曲線旋回シミュレーションを行い,図9に示す究極の曲線旋回能力を確認した. 4.空気ばねによる都市鉄道の車体傾斜制御 都市鉄道には急曲線が数多く存在するため,車体傾斜制御を行い,カント不足による超過遠心加速度を打ち消し,曲線通過時の乗り心地を向上することができる.従来の車体傾斜システムの構造複雑化に対し,空気ばねの長さをアクティブ制御し,車体を傾斜させるコンセプトを提案する. また,フェイルセイフ性を考慮し,従来の機械的な空気ばね高さ自動調整弁(LV)を活用し,図10に示す新方式空気ばね制御装置を考案した. 車体・台車枠間に設けていた連結棒は,車体・台車枠の相対上下変位にともない,LVのレバーを回転し,空気ばねへ給排気して荷重変動によらず車体高さを一定に保つ役目を持つ.連結棒の役目により車体・台車の相対上下変位からLV本体とレバーとの相対回転角が生じるメカニズムにアクティブ制御を介入し,例えば図10に示すように,直動アクチュエータで連結棒を取替え,LVの給排気動作をアクティブ制御することにより,空気ばねの長さを制御し,車体を傾斜させるメカニズムとなる.アクチュエータがフェイルした際に戻しばねなどで連結棒の長さをパッシブ系と同じように戻し,従来の空気ばね系の性能を維持できる. 提案する車体傾斜制御システムの速答性を向上するため,LVによる給排気動作の空気流量を拡大したほうがいい.一方フェイルセイフ性を確保するため,パッシブ系の性能を従来どおり維持する必要がある.そこで,図11に示す2段空気流量特性を有するLVを提案する.大流量特性を通常走行時発生できないレバー角エリアだけに設け,フェイル時のパッシブ性能を維持しながら,アクチュエータで大レバー角を発生させ,アクティブ制御性能を向上する. 3章で提案する走行装置を用いる車両モデルに急曲線通過時の空気ばね方式車体傾斜制御を行い,図12に示す制御効果を確認した. また,バリアフリーの観点から提案する空気ばね制御装置を用い,停車時のニーリンク制御を行い,乗り降り利便性を向上することもできる. 5.輪重制御による曲練通過安全性向上 4章で提案する空気ばね制御装置を活用し,急曲線の出口緩和曲線を低速で走行する際の輪重抜けを抑制することにより,曲線通過安全性を向上するアクティブ制御を提案する[3]. 四点支持方式の空気ばね車両には,空気ばねが緩和曲線軌道のねじれにより強制変位を受けるにもかかわらず,各々のLVが独立に高さを一定に保とうとして給排気制御を継続するため,大きな内圧変動を生じやすい. 特に図13に示すように,出口緩和曲線では,輪重抜けの発生する第1台車外軌側で,空気ばねが伸ばされ,それゆえに排気を行なってさらに空気ばねが伸びるという悪循環が生じ,内圧が大きく減少して輪重抜けを助長してしまう. 図14に示すように運行線路の軌道情報(曲線長,カントなど)を入力したコントローラが路面マーカー,エンコーダーなどから車両の地点情報と走行速度を得て,あらかじめ軌道条件や走行速度に応じて制御方法が一意に対応づけられているフィードフォワード制御を行い,アクチュエータの動作を決定することを想定し,一車両モデル試験機による走行模擬試験を行い,図15,図16に示す輪重抜け抑制制御効果を実証した[4]. 6.結論 本研究は,鉄道車両の急曲線通過性能を向上するため,アクティブ制御を独立回転車輪と用いる走行装置開発に関する研究を行い,以下の結論を得た. (1)駆動・制動力を考慮した新方式独立回転車輪を用いる走行装置を提案し,理論解析と模型実験を行い,駆動・操舵を両立できることを確認した. (2)逆勾配踏面形状車輪を用いる新方式独立回転車輪走行装置を提案し,スケール模型とマルチボディシミュレーションを行い,提案する走行装置の自己操舵性能を検証し,LRVの交差点通過などの超急曲線旋回性能をシミュレーションで確認した. (3)2段空気流量特性を有するLVによるアクティブ空気ばね制御装置とを考案し,構造簡単かつフェイルセイフ性のある空気ばね方式車体傾斜制御コンセプトを提案した. (4)アクティブ空気ばね制御装置を利用し,低速出口緩和曲線通過時の輪重抜け現象を抑制する制御則を考案し,実スケールのベンチ試験とフルビークルシミュレーションと両方で輪重抜け抑制制御効果を確認した. Fig.1 EEF Fig.2 Self-steering running gear with traction Fig.3 Steer angle interlock Fig.4 Scaled model vehicle Fig.5 New self-steering IRW running gear Fig.6 Scaled model of proposed running gear Fig.8 Super tight curve negotation Fig.9 steering angle Fig.10 AS control device Fig.11 2-step LV characteristic Fig.12 Tilting control by active AS Fig.13 Low speed exit transition curve negotiation Fig.14 Feed forward control method Fig.15 Experiment results Fig.16 Wheel load reduction preventing performance | |
審査要旨 | 本論文は、「アクティブ制御と独立回転車輪を用いる走行装置開発による鉄道車両の曲線通過性能向上に関する研究」と題し、6章よりなっている。 鉄道車両の曲線通過性能と高速走行安定性と相反する関係があり,従来から両立のための研究開発が行われてきた.一般的に用いられている一体輪軸では,急曲線旋回性能の限界があり,地下鉄やLRT(Light Rail Transit)などの急曲線を有する都市交通システムでは一層の取り組みが必要であった.また,従来の曲線通過性能の研究では,左右方向のダイナミクスが主体であり,前後方向の運動,すなわち駆動・制動力や,上下方向における輪重の変動の考慮はあまり行われていない.本研究は,駆動・制動力を考慮した新方式独立回転車輪を用いる走行装置を考案し,理論解析とともに模型実験車両により実証を行ったものである.さらに,アクティブ制御により車体傾斜および輪重アンバランスを抑制する手法についても研究を深め,シミュレーションとともに,実物大試験装置により実証試験を行い,提案手法の有用性を示したものである. 本論文の第1章は「序論」と題し、研究の背景および目的について述べている. 第2章は,「駆動・制動力を考慮した独立回転車輪を用いる走行装置」と題し,独立回転車輪を用いる新方式操舵車両における駆動・制動力特性について考察を行っている.まず,曲線旋回時の横圧を低減させるために,既に提案されている二輪一ユニット操舵性独立回転車輪を用いる走行装置では,駆動・制動力の作用により操舵性能が十分発揮できない現象があることを指摘している.そのため,この独立回転車輪を用いながら駆動・制動力を付加できる新たな走行装置を提案している.提案する台車では,駆動・制動力を分担する新たな車輪ユニットを設け,両側に二輪一ユニット操舵方式車輪をリンク機構で結合する方式である.理論モデルによる安定解析を行い,スケールモデルの試作車両における走行実験にて駆動と操舵の両立を確認している. 第3章では,「新方式独立回転車輪を用いる自己操舵性走行装置」と題し,曲線半径10mという超急曲線を旋回可能なLRT車両を実現させるという目標を設定し,従来の鉄道車輪の常識を打ち破る逆勾配の車輪を用いる新方式独立回転車輪による走行装置を提案している.従来提案されているリンク機構を用いた二輪一ユニット独立回転車輪方式は,車輪踏面形状を工夫することにより重力復元力を内向きに作用させ,車輪の操舵のための回転中心をレール面の外側に設けることによって操舵モーメントを作用されていた.提案する方式は,車輪踏面の勾配を逆向きにすることにより,重力復元力を外向きに発生させ,代わりにリンク機構を用いず同一回転軸に左右車輪を配置しながら操舵モーメントを発生させる方式である.リンク機構が不要となり構造が簡便となる特徴を有している.提案方式の理論的な検証を行い,適合する車輪踏面形状設計法も構築している.さらに,スケール模型を構築し,新方式独立回転車輪の特性を実証するとともに,シミュレーションにより想定車両の運動特性を明らかにしている.また,上記の提案方式の実現性についても検討を加え,新たな車輪が通過可能な分岐装置など,軌道との連携についても考察している. 第4章は,「空気ばねによる都市鉄道の車体傾斜制御」と題し,都市鉄道における急曲線通過を想定した,車体傾斜制御を空気ばね制御で簡便に行う方法を提案している.従来から,カントが十分確保できない曲線区間を高速で走行するとき,車体を傾斜させることで超過遠心力を打ち消し,乗り心地を損なわずに高速化する車体傾斜方式が実用化されている.しかし、現在実用化されている方式では,高速車両を前提として機構が複雑であり,空気ばねを用いる方式でも,都市鉄道向けの方式とは言いがたい。本論文で提案している方式では,一般的な鉄道車両に既に備えている機械式空気ばね高さ調整装置(LV装置)を用いる方式であり,構造が簡単でフェイルセイフ性を有する方式である.すなわち,LV弁をアクティブに制御させることにより,車体傾斜の目標値を与える方式であり,既存車両の小改造で実現できる.さらに,アクティブ制御に適応する空気の流量特性を改善した2段式のLV装置も提案し,性能を向上させている.都市鉄道の超急曲線を想定したマルチボディシミュレーションを行い,提案する車体傾斜制御装置の効果を確認している. 第5章は,「輪重制御による曲線通過安全性向上」と題し,急曲線における緩和曲線出口を低速で走行する際の輪重抜け現象について,その特性を明らかにするとともに,第4章で考案した空気ばね制御装置による輪重制御手法と安全性向上方策について考察を加えている.実スケール車両によるベンチ試験とマルチボディダイナミクス・シミュレーションにより,LV弁の制御による空気ばね制御装置の有用性を検証し,新たに考案した2段式のLV装置により,空気ばねの内圧を制御して輪重抜け現象を抑制できることを示している. 第6章は「結論」と題し,以上の結果を要約し,本論文の結論を述べている. 以上、本論文は、急曲線を有する都市鉄道を対象として,アクティブ制御と独立回転車輪を用いる走行装置について検討を加え,曲線半径10mという超急曲線を,駆動・制動特性を考慮しつつ,安全にかつスムーズに通過可能な新方式の独立回転車輪方式を考案し,空気ばねのLV装置をアクティブに制御することにより車体傾斜と輪重抜け抑制制御を提案したものである.理論構築やマルチボディダイナミクス・シミュレーションとともに,スケールモデル車両による走行実験,実物大車両のベンチ試験により有用性を示したものであり,その内容は独創性に富み,学術的な価値も高く,鉄道工学および機械工学に寄与するところが大きい。よって本論文は博士(工学)の学位請求論文として合格と認められる。 | |
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