No | 123721 | |
著者(漢字) | 大木,隆正 | |
著者(英字) | ||
著者(カナ) | オオキ,タカマサ | |
標題(和) | 肥満がC型慢性肝炎患者の発癌に与える影響 | |
標題(洋) | ||
報告番号 | 123721 | |
報告番号 | 甲23721 | |
学位授与日 | 2008.03.24 | |
学位種別 | 課程博士 | |
学位種類 | 博士(医学) | |
学位記番号 | 博医第3060号 | |
研究科 | 医学系研究科 | |
専攻 | 内科学専攻 | |
論文審査委員 | ||
内容要旨 | [研究の背景および目的] 近年、C型慢性肝炎患者において、様々な疫学的調査が行われ、HCC発生の危険因子として、性別、年齢、人種差、肝障害の程度、線維化の進行度が報告されている。それに加え、非アルコール性脂肪性肝障害(NAFLD)という新しい概念が提唱され、HCCの新たな危険因子として、糖尿病、肥満係数(BMI)値で代表される肥満や高インスリン血症が注目されている。しかしながら、これらの報告は、HCV罹患患者に限定したものでは無い。今回我々は、慢性C型肝炎患者を経時的な観察対象として、肥満がHCC発生に与える影響について後ろ向きコホート研究を行った。 [方法] 1994年1月1日から2004年12月31日までの間に、HCCの治療歴のある患者を除いた1954人のHCV-RNA陽性患者が、東京大学医学部附属病院消化器内科の外来を受診した。その中で、B型肝炎ウイルス表面抗原(HBs-Ag)陽性の87人、セカンドオピニオン目的で受診された423人、体重に影響を及ぼすような顕性腹水のある13人の患者を除き、最終的に1431人を本研究の対象患者とした。これらの対象患者は、WHOの肥満分類に従い以下の4群に分けた:低体重群(< 18.5 kg/m2、N = 112); 正常体重群(18.5 =< BMI < 25 kg/m2、N = 1023); 過体重群(25 =< BMI < 30 kg/m2、N = 265); 肥満群(BMI =>30 kg/m2、N = 31)。経過観察期間中、各群とも外来で等しく3から6ヶ月おきに腫瘍マーカー検査を含めた血液検査、超音波検査を行いフォローした。HCCの診断は、造影X線断層写真(CT)検査において造影早期相での濃染像、造影後期相での造影欠損像をもって判定した。超音波検査で検出された占拠性病変が造影CTの早期相で濃染を認めない場合、3カ月おきに腫瘍径を測定し、明らかな腫瘍の増大を認めるか、腫瘍径が2cmを超過した場合、超音波ガイド下の腫瘍生検を行いHCCの診断を行った。病理学的悪性度はEdmondson分類に従って診断した。全症例の観察期間は2006年6月30日までとした。HCCの発生率は、Kaplan-Meier法を用いて算定した。HCCの危険因子の解析については、年齢、性、BMI値、アルコールの多飲歴、糖尿病の有無、血清アルブミン値、総ビリルビン値、alanine aminotransferase (ALT)値、プロトロンビン活性、血小板数、alpha-fetoprotein(AFP)値をパラメーターとし、Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析で検証した。数値表示ができないパラメーターについては、対応するダミーの代表値を設定し数値化して解析を行った。データの解析には、解析ソフトS-PLUS 2000 (MathSoft Inc., Seattle, WA)を使用した。 [結果] 経過観察中、合計340人の患者にHCC発生を認めた(1人年あたり3.9%)。Kaplan-Meier法を用いて、全体のHCC発生率を求めると、3年で10.5%、5年で19.7%、10年で36.8%であった。それぞれの群におけるHCC発生率は、低体重群において3年で3.8%、5年で10.4%、10年で29.6%(1人年あたり3.0%)、正常群において3年で10.5%、5年で19.6%、10年で36.0%(1人年あたり5.1%)、過体重群において3年で13.8%、5年で23.0%、10年で42.7%(1人年あたり5.8%)、肥満群において3年で6.7%、5年で29.2%、10年で41.2%(1人年あたり7.2%)であった。HCCの発生率はBMI値が増えるに従い増加し、各群で有意な差を認めた(P = 0.007 log-rank検定)。単変量解析では、正常群、過体重群、肥満群は、低体重群に比べて有意にHCCの発生率が高かった。その他の有意な因子として、高齢、男性、糖尿病の存在、アルコールの多飲、血清アルブミン値の低値、1.0 mg/dlを超える総ビリルビン値、40 IU/ml を超えるALT値、プロトロンビン活性時間の低値、そして20 ng/mlを超えるAFP値が挙げられた。我々は、単変量解析で有意な因子であったこれらの項目について、さらに多変量解析を行った。過体重群と肥満群は、低体重群に比べ多変量解析においても、HCC発生のリスクが有意に高く、低体重群に対する相対危険度は、過体重群において1.88 (95% CI: 1.11 - 3.19, P = 0.02)、肥満群において3.19 (1.45 - 7.06, P = 0.004)であった。正常群も低体重群に対して、HCC発生のリスクは高かったが、単変量解析の結果と異なり、多変量解析では有意な因子として残らなかった(相対危険度 1.54、P = 0.084)。 [考察] C型慢性肝炎患者においてBMI値が増加すると、それに比例してHCCの発生率が上昇することがわかった。それは、多変量解析において、単変量解析で有意であった因子で補正してもなお、BMI値の上昇がHCC発生の独立した危険因子であることも示していた。どのようなメカニズムで、BMI値の増加がHCC発生を促進させるかは依然として明らかでないが、今後、肥満と関連している因子、特にインスリン抵抗性、肝脂肪蓄積について詳細に前向き研究で検討する必要があると考えられる。また、肥満を改善することが、肝発癌を抑制できるのかについても前向きに検討する必要がある。 | |
審査要旨 | 本研究は、慢性C型肝炎患者を経時的な観察対象として、肥満が肝細胞癌(HCC)発生に与える影響について検証するために行った後ろ向きコホート研究であり、下記の結果を得ている。 1.1431人のC型慢性肝炎患者を本研究の対象患者とし、これらの対象患者をWHOの肥満分類に従い以下の4群に分けた:低体重群(< 18.5 kg/m2、N = 112); 正常体重群(18.5 =< BMI < 25 kg/m2、N = 1023); 過体重群(25 =< BMI < 30 kg/m2、N = 265); 肥満群(BMI =>30 kg/m2、N = 31)。 2.平均観察期間6.1年の中で、1431人中340人にHCC発生を認めた(1人年あたり3.9%)。Kaplan-Meier法を用いて、全体のHCC発生率を求めると、3年で10.5%、5年で19.7%、10年で36.8%であった。それぞれの群におけるHCC発生率は、低体重群において3年で3.8%、5年で10.4%、10年で29.6%(1人年あたり3.0%)、正常群において3年で10.5%、5年で19.6%、10年で36.0%(1人年あたり5.1%)、過体重群において3年で13.8%、5年で23.0%、10年で42.7%(1人年あたり5.8%)、肥満群において3年で6.7%、5年で29.2%、10年で41.2%(1人年あたり7.2%)であった。HCCの発生率はBMI値が増えるに従い増加し、各群で有意な差を認めた(P = 0.007 log-rank検定)。 3.単変量解析では、正常群、過体重群、肥満群は、低体重群に比べて有意にHCCの発生率が高かった。その他の有意な因子として、高齢、男性、糖尿病の存在、アルコールの多飲、血清アルブミン値の低値、1.0 mg/dlを超える総ビリルビン値、40 IU/ml を超えるALT値、プロトロンビン活性時間の低値、そして20 ng/mlを超えるAFP値が挙げられた。 4.単変量解析で有意な因子であったこれらの項目について、さらに多変量解析を行ったところ、過体重群と肥満群は、低体重群に比べ多変量解析においても、HCC発生のリスクが有意に高く、低体重群に対する相対危険度は、過体重群において1.88 (95% CI: 1.11 - 3.19, P = 0.02)、肥満群において3.19 (1.45 - 7.06, P = 0.004)であった。正常群も低体重群に対して、HCC発生のリスクは高かったが、単変量解析の結果と異なり、多変量解析では有意な因子として残らなかった(相対危険度 1.54、P = 0.084)。 以上、本論文は、膨大な数のC型慢性肝炎患者を対象として、BMI値が増加すると、それに比例して肝発癌率が上昇することを示した。BMIの増加は多変量解析において、単変量解析で有意であった因子で補正してもなお、肝発癌の独立した危険因子であることを示していた。肥満がHCC発生の独立した危険因子であることは既に報告されているが、BMIが増加するに従って肝発癌のリスクが比例して上昇することを報告したのは、本研究が初めてであり、学位の授与に値するものと考えられる。 | |
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